「伝え合う力」を育てる学習指導の研究 藏根 美智子 * 宮国 めぐみ ** 平成14年度から実施される新しい学習指導要領によって,小学校国語も大きく変わる。文学的な文章の詳細 な読解に偏りがちであった,これまでの指導の在り方を改めるとともに,自分の考えをもち,①論理的に意見 を述べる能力,②目的や場所などに応じて適切に表現する能力,③目的に応じて的確に読み取る能力や読書に 親しむ態度を育てることが重要であるとし,領域構成においても,現行の「A表現」「B理解」〔言語事項〕と いう2領域1事項から,「A話すこと・聞くこと」「B書くこと」「C読むこと」,そして〔言語事項〕という3 領域1事項に改められた。また,どのような国語の力を育成するのか,育成すべき資質や能力を明確にしてお くことの重要性から,国語科の目標の中に「伝え合う力」を高めることが位置づけられた。 「適切に表現する 能力」と「正確に理解する能力」との育成を基盤に,お互いの立場や考えを尊重しながら,言葉で伝え合う能 力の育成を重視したのである。では,「伝え合う力」とはどのような資質や能力を指すのか。また,どのよう にして「伝え合う力」を育成するのか。その考え方の背景を考慮しながら,三つの領域の中でどのように具体 化するかを実践事例を通して考察した。 1 テーマ設定理由 現する能力を高めようというのである。新たに目標 新しい国語科では,これまでの文学的な文章教材 として加えられた「伝え合う力」とは,正に,こう 中心の授業の在り方に対する反省から,領域構成の した話す・聞く能力,書く能力,読む能力を含む総 面で従来の「A表現 」 「B理解」及び〔言語事項〕 合的な言語能力といえる。 の2領域1事項から「A話すこと・聞くこと 」「B では,どのようにして「伝え合う力」を育てたら 書くこと 」 「C読むこと」及び〔言語事項〕の3領 よいのか。まず,文学的な文章教材中心の国語科か 域1事項に改められるとともに,新たに「伝え合う ら,言葉で伝え合う言語能力を重視する国語科への 力」が教科の目標として位置づけられた。 基調の転換という認識に立って,意図的に学習計画 教育課程審議会の「中間まとめ」によれば,子ど に位置づける必要がある 。そして ,子ども達自身に , も達は普段の学校生活の中で,おしゃべりや私語は 誰と誰が「伝え合う 」のか ,何のために「伝え合う 」 よくするが,改まった場面や学習場面において,自 のか,何をどのように「伝え合う」のか,などの言 分の考えをもって相手によく分かるように説明した 語意識をもたせることが大事である 。 「伝え合う力 」 り発表したりする能力が充分身に付いてない 。 また , を育てるという立場から,3つの領域をどう具体化 目的や意図に応じて要点や要旨を読み取る能力や読 するについては,各学校で独自に「音声言語のため 書の量が充分でないこと,さらに言葉の乱れも指摘 の教材」を開発したり,子どもの実態に応じた教育 されている。 内容や方法を開発することなどが求められている。 こうした実態を踏まえて , 読むことの学習の中で , こうした国語科に求められている新たな課題に対 話すこと・聞くこと・書くことの指導もするという し,どう対応するか,各学校の創意工夫が求められ 従来型の授業の在り方から脱却しようというのであ ているところであるが,ここでは,新たな目標とし る。つまり , 「読むこと」の中に埋没していた「話 て位置づけられた「伝え合う力」について,その力 すこと 」「 ・ 聞くこと 」「 ・ 書くこと 」 の学習を意図的 , とは何か,どう育てるかという視点で , 「伝え合う 計画的に取りあげ,子ども達が自分の考えをもち, 力」のもつ意味を子ども達の目線で捉え,三つの領 論理的に意見を述べる能力や場面に応じて適切に表 域の中でどう具体化するか,その試みとして本テー マを設定した。 *教育センター教科研修課 **宜野湾市立志真志小学校 - 11- 2 研究内容 (1) (2) 「伝え合う力」とはどのような資質や能力 「伝え合う力」をどのように育成するか 新学習指導要領では,各学年に示された言語活用 を指すか 例を通して,意図的・計画的に育成することを基本 人間は一人だけ孤立して存在しているのではな とし ,「伝え合う力」が,螺旋的に高められるよう く,人と人との交わり,つまり人間関係の中で,相 な年間計画を工夫することが必要であるとしてい 互に影響しあいながら生きている。人が考えるとい る。 う思考の働きはとても個性的で , 「十人十色」の言 指導に当たっては,誰と誰が「伝え合う」のかと 葉のように,姿形だけでなく考え方も多様で,同じ いう相手意識や,何のために「伝え合う」のかとい 立場にある者同士でも,微妙にその考え方は違うも う目的意識,どういう表現形式で示すかという方法 のである。こうした個と個,自己と他者との人間関 意識,それをどういう場面や状況で発信,交流する 係の中で,自分の考えや意見を論理的,且つ適切に のかという場面(条件)意識,さらにはそれが相手 表現し , 相手に正しく理解してもらうということは , によく分かるように表現されたかどうかを確かめる 相互の考えを深めるというばかりでなく,よりすぐ 評価意識も含めた五つの言語意識を子ども達一人一 れた思考を創り出す能力へと結びつくものである。 人にしっかりともたせることが大切なこととして求 こうした視点から,新学習指導要領に示された新し められている。 い国語科では,これからの情報化,国際化の社会で このように「伝え合う力」を高めるには,こうし 生きて働く国語の力として,新たに「伝え合う力」 た言語意識を通してまず伝えたい内容をもたせるこ を教科の目標として位置づけている。 とであり,それを伝える方法・技術を獲得させるこ では ,「伝え合う力」とは,どのような資質や能 とだということである。興味ある話題と出会う場, 力を指すのか。新教育課程審議会の「答申」では, 双方向の話す・聞くの課題を具体的にとらえさせる 「自分の考えをもち,論理的に意見を述べる能力, 場,学習内容や方法を知る場,評価を工夫する場な 目的や場面に応じて適切に表現する能力,目的に応 どを設定することによって,子ども達は伝えたい内 じて的確に読み取る能力や読書に親しむ態度」を包 容をもつとともに伝え合おうとする意欲が湧いて, 含するものとしてとらえている 。 「伝える力」では 相互に「伝え合う力 」が高まるものと考える 。まず , なく , 「伝え合う力」という表現からも,単に意見 相手意識と目的意識を明確にもたせることによっ を述べる力,表現する力のみを指すのではなく,聞 て,伝え合おうという意欲や伝え合う内容をしっか き取る力,読み取る力をも包含していることが分か りもたすことができるということで , このことが「伝 る 。つまり , 「伝え合う力 」とは ,話す・聞く能力 , え合う力」を育てる学習の出発点になければならな 書く能力,読む能力という三つの領域を含む総合的 いと考える。 な言語能力であり,一般的に音声言語中心に使用さ また,何のために,何を伝え合うのかといったと れるコミュニケーション能力より広い概念として捉 き,子ども達の記憶の中にある事柄や教科書にある えられている。 情報だけにとどまらないで,学習・情報センターと この「伝え合う力」を高めるには,まず,伝えた しての学校図書館やその他の情報を利用することに い内容をもたせることであり,それを伝える方法や よって教室の中だけの国語の授業から,学校全体の 技術を獲得させることである。その技術には発表の 機能,或いは地域の情報機能まで活用した空間的機 仕方や分かりやすい表現の仕方も含まれる。学習者 能的広がりをもたせた学習活動を目指したい。伝え 自らが本当に伝えたい情報を本気で伝えようとする 合おうという意欲や伝え合う内容をもつような学習 とき,最も効率的にそのための方法や技術が身につ の場をつくり,相互交流によって伝え合うための方 くと考えられる。また,自分のもっている思想や意 法や技術の向上を図っていくことによって , 「伝え 見・情報などをお互いに伝え合って共有するという 合う力」は高められ,内容を共有することで,また だけでなく,相手が伝えるものとつきあわせ,新し 新しい思考内容を創り出していく土壌ともなる。 い思考内容を創り出していくというものでありた 次に , 「A話すこと・聞くこと 」 「B書くこと 」 「C い。したがって ,「伝え合う力」は,相互交流によ 読むこと」の3領域に配慮しながら,実践事例を通 って思考を創り出す能力として育成されることが重 して ,「伝え合う力」の育成をどう具体化するかを 要であると考える。 考えたい。 - 12- (3)三つの領域をどのように具体化するか この単元は,新学習指導要領が目標としてかかげ ①「A 話すこと・聞くこと」領域の具体化 る「伝え合う力」をブックトークを通して学ぼうと この領域は,文学的文章教材中心の国語科授業を いうものである。 改め,意図的・計画的に「伝え合う力」としての話 ブックトークとは,図書を媒体としたコミュニケ す力,聞く力を育成するために創設された。年間を ーション活動を通して,相互に学び合うという一つ 通して繰り返し学習することが求められ , 「伝え合 の教育活動である。教師や図書館の専門職員が,児 う力」が螺旋的に高まるようにとの配慮から,年間 童や生徒など,広く図書館の利用者を対象に,特定 の授業時数も示されている。この「 A 話すこと・聞 のテーマについての複数の図書を,解説などを加え くこと」の領域では,第1学年∼第4学年 30 単位 ながら紹介するという活動方法を子ども達の学習に 時間,第5学年∼第6学年 25 単位時間の授業時数 取り入れたものである。例えば,テーマに沿って4 が配当されている。なお,各学校においては,子ど 冊から5冊の優れた本を紹介し子ども達が読みたい もの実態に応じて教育内容や方法等を開発すること という本を見つけられるようにするという活動を通 が求められている。 して「話すこと・聞くこと」の力を身に付けさせよ この領域を中心とした授業の中で,簡単なスピー うというものである。 チをする,話し合いをするという言語活動を通して つまり , 聞き手にはっきり分かるように話したり , 具体化していくとき,まず,どのような国語の力を 想像を広げながら最後まで聞くというブックトーク 育成するのかという目標や育成すべき資質能力を明 の活動を通して,相互に「伝え合う力」を伸ばそう 確にすることが大切である。例えば ,「自分の大好 というものである。読みたい本を自由に読ませて, きな食べ物は何か」という題材でスピーチするとし 楽しかった本を紹介し合うのもよいが,ここでは, たとき,そのねらいは相手に分かるように伝え合う 子どもの興味関心のある,また,必然性のあるテー 言語能力を育成するということになる 。 したがって , マを決めて,そのテーマに沿った本の読書を通して そのために自分の疑問や課題,自分の話したい内容 ブックトークする中で,さらに読み深め,なかなか や材料,紹介したいことが相手に具体的に分かるよ 読みの進まない子や読みたい本の決まらない子にと うに資料を集めたり,学習・情報センターとしての っても,読み広げるよい機会となればと考えた。 学校図書館等を利用して資料を調べたり,スピーチ 自分が読んだ本の中から,伝えたいことを見いだ メモや発表メモをつくったりすることも,この領域 し,それを発表し合うというこの学習において,ま の中の大切な学習活動になるということである。 ず大事なことは発声練習である。つまり,朝の短い この領域の「話すこと・聞くこと」という表現か 時間や授業の導入時に , 発音・発声・詩の音読など , ら,ただ話したり,聞いたりするという言語活動が 声を出す練習をすることである。次に自分が読んだ 突出しがちだが,話したり聞いたりするためには周 本の中から,何を伝え語りたいか,その話す内容を 到な準備が必要で , いろいろな文献資料を集めたり , まとめて,話型など整えた発表メモをもたせること それをしっかり読み取ったり,必要なことを書き取 である。自分の考えをはっきりもつことで,それは って発表メモを準備するなど,読んだり書いたりす 自信につながり,こうした場を数多く設定し,発信 る学習活動を伴うもので,これを意図的に位置づけ ・発表を繰り返す中で,子ども達の話す力が確実に る工夫が求められている。また,自分の言葉の使い つくものと考える。また,発表の練習の時には,目 方を意図的・計画的,自覚的に高めるためにも,評 の前にある本を提示し相手に語りかけるように話す 価意識をもたせる「振り返る場面と時間」を学習指 ことをよく理解させ,友達の話に対して質問させた 導計画の中に位置づけることが必要とされている。 り, 質問されて言い足りないところに気づかせる等 , 三つの領域それぞれにおいて ,「振り返る場面と時 「話すこと・聞くこと」の基礎・基本が自然に身に 間」があってはじめて ,「伝え合う力」は言語能力 つくようにした。 として高められると考える。 <児童の感想> <授業実践例> ここで,単元名ブックトーク「こんなお話見つけ たよ 」 (第2学年授業者宮国めぐみ)の授業を通し て,この領域の具体化を考察したい。 - 13- ○私はブックトークをする時,緊張しました。でも 後から慣れてきて読めました。自信をもってやれば できるんだな,読めてよかったなと思います。 憶だけをもとに書くということより,必要な情報を ○はじめは声が出ませんでした。でも,頑張っ 活用しながら,自分で調べたり,選んだり,考えた て声を出していたSさんと M さんとAさんをみ りして書くことの方が内容は豊富で客観性があり, ていたら声が出てきました。ブックトークをし より説得力をもつといえる。書く目的が自分の気持 たら心がやさしくなったような気がしました。 ちを単に文章にするというだけでなくて,いろいろ みんなの前で言うのは緊張したけど,言うのが な情報を集めながら自分の考えを創りあげていく, できてうれしかったです。 練りあげていくというのである。また,国語科の進 ○勇気をもって,大きな声で言いました。ブッ む方向としても,これまでの作文の「気持ちを書く クトークがはじまる前は,とてもドキドキした こと」を中心としたものから,もっと目的的で機能 けど,終わったらほっとしました。 的なもの,論理的な表現力へと重点が移ってきた。 自分の気持ち,喜怒哀楽を自分の言葉で表現できる <授業考察> ことも大切な力であるが,目的に応じて相手に分か 朝の短時間や授業導入時に発音,発声,詩の音読 るように表現する力,つまり生きて働く力としての 等,声を出す練習をすることで声を出すことに慣れ 表現力を新しい国語科は目指している。 てきている。また,伝えたい内容をもち話型を整え <授業実践例> 練習させることで,感想にもみられるように自信を この「 B 書くこと」領域での実践事例として,中 もって発表している。このように話す内容をもち, 頭国語研究会での実践事例(単元名 話し方・聞き方の技術を学び,3∼4人程度のメン ついて考えよう「ウチナーグチと文化研究家になろ バーで話したり,全員の場で話したりするなど相互 う」第6学年授業者比嘉靖恵)をとりあげたい。 交流の場をいろいろ工夫する事も大切である。 言葉と文化に 生活に生きて役に立つ言葉の力を伸ばすには目的 のある場を作り,学習者が楽しく意欲をもって取り 組める学習活動を作り出す必要があるという立場か ら,この単元を設定している。 本単元では ,「ウチナーグチと文化の研究家」に なって「展示館」を開くことを原動力として学習の 必然性をつくり,一人一人が自分の興味・関心に基 づいて主体的に調べて表現できるようにする。 授業構想にあたっては,次の3つの言語意識をポ イントととする。 ○相手意識・・伝える相手はだれか 。 本単元では「総 合的な学習の時間」と関連させお世話になっている ②「B 書くこと」領域の具体化 地域の方々を対象とすることで相手意識を高める。 この「B 書くこと」領域は「伝え合う力」として ○目的意識・・何のために伝えるのか。自分が調べ の書く力を意図的・計画的に育成するために創設さ たことを他の人にも伝えたい,展示館を成功させた れた。この領域においても,年間通して繰り返し学 いという願いをもつ。 習することが求められており,その配慮から授業時 ○場面意識・・どのような場で表現するのか。展示 数として第1学年∼第2学年 90 単位時間,第3学 館に来てくれた方に見てもらい,聞いてもらうため 年∼第4学年 85 単位時間,第5学年∼第6学年 55 に,分かりやすく資料を使って効果的に話す必然性 単位時間配当している。 をもたせる。これまでに,幼稚園やネイティブアシ この領域においても,まず,相手意識,目的意識 スタント,地域青年会OBとの交流をしてきた。今回 を明確にすることが求められている。誰に読んでも は, 地域の婦人会や老人会との交流を図る場にする 。 らうために書くのか,何のために書くのか,そして また , 「伝え合う」という視点から捉えた場合, それをどのように活用するのか,そのことを学習の 本単元の学習では次のような能力を培うことができる。 過程でしっかり位置づけることが大切である。何か ・調べたことを効果的に工夫して書く。 を書くという時,自分の頭の中にあるイメージや記 ・話の組み立てや言葉遣いが適切で効果的であるか - 14- を考て話す。 確にすることによって分かりやすく表現を工夫する ・どんな工夫をしているか,どのような言葉遣いに ことができたと考える。 配慮しているか , 話し手の考えや意図は何かなど , 観点をはっきりさせて聞く。 ・共通理解や問題解決に向けて互いの考えを出し合 い,新たな考えを生み出す。 上記のようなねらいを達成させるためには,聞きた い,話さずにはいられないような「実の場」を取り 入れた指導が必要である 。 「実の場」とは次のよう な場であると考える。 ・「∼したい 」 「∼しなければ」という実感に支えら れた,必要感のある場 ③「 C 読むこと」領域の具体化 ・目的をもった場であり,創造された場 この「 C 読むこと」領域は , 「伝え合う力」とし ・言語の理解や認識が深まる場 ての読む力や読書に親しむ態度を育成するために創 設されている。 <地域の老人会,婦人会へのお礼の手紙> ○先日はウチナーグチと文化展示館に来ていた 文章表現を正確に読むことの能力を育成するとと だきありがとうございました。最初 , 「ちゃんと もに,いわゆる文学的な文章の詳細な読解に偏りが いえるかな」とか「覚えているかな」とか , 「聞 ちであった指導の在り方を改め,本来の読むことの こえる声でいえるかな 。 」等,いろいろな不安も 目的である,目的に応じて的確に読み取ることに重 ありましたが,聞いている時,うなずいたりし 点がおかれている。詳細な読解をすべてしりぞける てくれたおかげでいくらか楽に発表することが というのではない。いつでも詳細な読解が必要とい できました。私は , 「沖縄のほこり」の世界遺産 うわけではないので,生活の中で最も身近な目的に について発表した者です。時々,言葉にひっか 応じて的確に読み取る能力や読書に親しむ態度を育 かったり,口ごもったりしましたが,なんとか てることをより大切にしたいというのである。 言い切ることができました。これも,静かに聞 一つの教材から出発して,主題関連・作者関連な いてくれたおじいさん,おばあさんのおかげです。 ど,いろいろな関連する作品へと広げ,また,これ ○私は,全体司会をしながら「沖縄のほこり」 らの関連する作品から再び教材へ戻って,学習内容 のコーナーを担当しました。発表の後,皆様が をより深く発展させるといった授業がこれからの主 昔の事をおっしゃって下さったことは,私の知 流になると考えられる。読むことの目的や課題とい らないことばかりでした。昔の様子を少しでも うことについても,必ずしも文学作品や文学の世界 知る事ができ沖縄の歴史をもっと知りたいと思 だけでなく説明的文章などさまざまな文献資料も読 いました。 みの対象となるわけで,精読より多読という視点か ら,子ども達にたくさんの本を読ませるためにも学 <授業考察> 地域の老人会や婦人会の方が 20 人 程度おみえになり , 「エイサーコーナー 」 「言葉のコ 校図書館の利用を広げる授業が望まれる。 <授業実践例> ーナー 」 「沖縄のほこりコーナー 」 「世界のウチナー 前任校(琉大附属小)での実践を取り上げる。必 ンチュ 」「沖縄の行事」等,それぞれのコーナーで 然性のある言語活動が生まれる単元構成の工夫とい 説明を聞き , さらに感想交流にも加わってもらった 。 う視点から ,「沖縄慰霊の日と関連させた『ちいち 子ども達の手紙からも分かるように発表することに ゃんのかげおくり 』 」を単元とした。 よって成就感や達成感を味わうことができたと考え これまでの学習では , とかく文章読みとりに偏り , る。この発表会に至るまでには , 「調べた事の中か 自分の考えを相手に分かるように説明できない,目 ら,伝えたいことをはっきりさせる 。 」 的に応じた手紙や文章が書けないなど,表現能力の 「何のために伝えるのかはっきりさせる 。」 「伝える 面での弱さが指摘された。では,子ども達の意欲を ための方法を工夫する 。」等,書くための技術指導 喚起し表現能力を伸ばすにはどうすればよいのか。 がなされた。このように,相手意識や目的意識を明 そこで,自分の言葉で思考し,豊かに表現する子ど - 15- もを育てるために必然性のある言語活動が生まれる にいるおじいちゃんへ送った。つまり,そのおばあ 単元構成の工夫を試みた。 ちゃんはその当時のちいちゃんのような立場の子で ○相手意識・目的意識をもたせる。 あったのである。地域行事「慰霊の日」と関連させ 自ら学習したことを後輩に語るという相手意識, たり,見学・語りべの体験学習の導入や二年生へ伝 目的意識をもたせた言語活動を仕組むことで,子ど えるという学習を通して,子ども達はより深く学ぶ も達は誰に話すか,何を話すかを明確にすることが ことができたと考える。 でき,その表現にも工夫が加えられることが期待できる。 ○「慰霊の日」と関連づける。 3 まとめ 沖縄戦を体験した本県では,6月 23 日を「慰霊 新しい国語科が領域構成を2領域1事項から3領 の日」さだめ毎年県主催の「前戦没者追悼式」がも 域1事項へ改め , 「伝え合う力」を前面に打ち出し たれると同時に,この日をはさんで各学校では「命 た背景には,情報化・国際化の時代に生きるこれか を尊ぶ」平和教育の特設授業を設定し,そのための らの子ども達に生きる力としての国語の力を身につ 教材が取り上げられている。こうした地域行事と関 けさせたいという大きなねらいのあることがうかが 連付けることで,教材をより身近に受け止めること える。文学的な文章教材の詳細な読解というこれま ができるであろう。 での授業の在り方をすべて否定しているのではな ○見学や語り部の体験学習を導入する。 く,現実に着目し,目的に応じて相手にわかるよう 戦争を扱った教材は,本教材が初めてなので戦争 の時代の悲惨な様子を子ども達に理解してもらうた に表現するという生きて働く国語の力がより強く求 められているのである。 めにも「平和の礎」や「県平和資料館」を見学した では,どのようにして「伝え合う力」を育成する り,沖縄戦を取り扱った絵本「つるちゃん」のモデ か。このことが最も重要な課題となるが,これまで ルである金城さんを教室にお招きし,その当時の様 の授業実践を振り返って,まず,子ども達に臨場感 子を語ってもらった。 のある「実の場」を導入し,そこから相手意識や目 的意識などの言語意識を自ら明確にもてるように方 向づけることがとても大切であることに気づいた。 そこから子ども達の学習は,主体的に資料を集める 事からはじめ,これに目を通し,要点をまとめてメ モをとるなど,学習は読むこと・書くことの領域へ と発展するのである。こうした学習を通して , 「伝 え合う力」は育てられていくものと考える。 学習指導要領は教材についての留意事項として, 教材は「話すことの能力 」 「書くことの能力 」 「読む ことの能力」を偏りなく養うこととしている。した (感想文) がって,教材を取り扱うに当たっては , 「A話すこ 私は,自分たちで作ったお話をしました。その と・聞くこと 」 「B書くこと 」 「C読むこと」それぞ 話は,ひかりさんのおばあちゃんがせんそうで体 れの領域について,いずれかに比重をおきながらも 験したことを文にし,劇化したものです。戦争が 偏りなくその能力が伸ばせるように意図的に配慮す こんなにもこわいということがやっとわかりまし ることの大切さを痛感した。 た。これからは平和のことを考え,みんなと仲良 くしたいと思います。 <参考文献> <授業考察> 小森 茂他 2001 小学校学習指導要領の展開 実践を通して感動した場面がいくつかあった 。 「ち いちゃんのかげおくり」の音読の練習で,自分のお 明治図書 小森 茂他 2001 ばあさんに聞かせたところ,おばあさんは感動し涙 を流した。その教材文のコピーを仏壇に供えて,ウ 国語科の授業をどう創るか 明治図書 安藤修平他 ートート(お祈り)をした後,お墓で焼香し,天国 - 16- 2001 ことばと出会い伝え合う教室 東洋館出版社
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