108.胆管がん(PDF)

各種がん
108
胆管がん
た
ん
か
ん
受診から診断、治療、経過観察への流れ
患 者 さ んとご 家 族 の 明 日 の た め に
がんの診療の流れ
この図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。
大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。
ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。
あなたらしく過ごすためにお役立てください。
がんの疑い
「体調がおかしいな」と思ったまま、
放っておかないで
ください。なるべく早く受診しましょう。
受 診
受診のきっかけや、
気になっていること、
症状など、
何
でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理
できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決
まります。
検査・診断
検査が続いたり、
結果が出るまで時間がかかることも
あります。担当医から検査結果や診断について説明
があります。検査や診断についてよく理解しておくこ
とは、
治療法を選択する際に大切です。理解できない
ことは、
繰り返し質問しましょう。
治療法の選択
がんや体の状態に合わせて、
担当医は治療方針を説明
します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方
と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を
見つけましょう。
治 療
治療が始まります。治療中、
困ったことやつらいこと、
小さなことでも構いませんので、
気が付いたことは担
当医や看護師、
薬剤師に話してください。よい解決方
法が見つかるかもしれません。
経過観察
治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを
確認するために、しばらくの間、通院します。検査を
行うこともあります。
目 次
がんの診療の流れ
1. がんと言われたあなたの心に起こること ............................ 1
2. 胆管がんとは .......................................................................... 3
3. 検査と診断 .............................................................................. 5
4. 病期(ステージ)
.................................................................... 10
5. 治療 ........................................................................................ 12
1 手術(外科治療) ........................................................... 13
2 化学療法(抗がん剤治療) ........................................... 15
3 放射線治療 ................................................................... 15
6. 経過観察 ................................................................................ 16
7. 転移 ........................................................................................ 17
8. 再発 ........................................................................................ 17
診断や治療の方針に納得できましたか? ................................ 18
セカンドオピニオンとは? ....................................................... 18
メモ/受診の前後のチェックリスト ....................................... 19
がんの冊子 胆管がん
1. がんと言われたあなたの心に
起こること
がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひ
どくショックを受けて、
「何かの間違いではないか」「何で自分が」
などと考えるのは自然な感情です。
病気がどのくらい進んでいるのか、
果たして治るのか、
治療費
はどれくらいかかるのか、
家族に負担や心配をかけたくない…、
人
それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしまうのも当然
です。しかし、
あまり思いつめてしまっては、
心にも体にもよくあ
りません。
この一大事を乗りきるためには、
がんと向き合い、
現実的かつ
具体的に考えて行動していく必要があります。そこで、
まずは次
の2つを心がけてみませんか。
あなたに心がけてほしいこと
■情報を集めましょう
まず、自分の病気についてよく知ることです。担当医は最大の
情報源です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同
席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問
してください。また、あなたが集めた情報が正しいかどうかを、
あなたの担当医に確認することも大切です。他の病院でセカン
ドオピニオンを受けることも可能です(セカンドオピニオンに
ついては 18 ページをご覧ください)
。
「知識は力なり」
。正しい知
識は、あなたの考えをまとめるときに役に立ちます。
1
がんと言われたあなたの心に起こること
■ 病気に対する心構えを決めましょう
1
がんに対する心構えは、
積極的に治療に向き合う人、
治るとい
う固い信念をもって臨む人、なるようにしかならないと受け止
める人などいろいろです。どれがよいということはなく、
その人
なりの心構えでよいのです。そのためには、
あなたが自分の病気
のことをよく知っていることが大切です。病状や治療方針、
今後
の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、いつでも率
直に話し合い、
その都度十分に納得した上で、
病気に向き合うこ
とに尽きるでしょう。
情報不足は、
不安と悲観的な想像を生み出すばかりです。あな
たが自分の病状について理解した上で治療に取り組みたいと考
えていることを、
担当医や家族に伝えるようにしましょう。
お互いが率直に話し合うことが、お互いの信頼関係を強いも
のにし、
しっかりと支え合うことにつながります。
たんかん
では、これから胆管がんについて学ぶことにしましょう。
この冊子では、肝臓内にできる肝内胆管がん(胆管細胞がん)に
ついても書かれています。
2
がんの冊子 胆管がん
2. 胆管がんとは
胆管は、
肝臓から十二指腸までの胆汁(肝臓でつくられた消化
液)の通り道です。胆のうは胆のう管で胆管につながり、
胆汁を一
時的にためておくことができます。胆管は、
肝臓の中から木の枝
が幹に向かって集まるように、
徐々に合流して太くなっていき、
肝
臓の外で左と右の胆管が合流して1本となります。この合流する
部位を肝門部と呼び、
胆管では肝臓からの出口になります。また、
肝臓に流れる血管の門脈と肝動脈では、
肝門部は肝臓への入り口
になります。
肝臓の中を走る胆管は肝内胆管と呼び、
肝臓の外に出てから乳
頭部の手前までを肝外胆管と呼びます。肝外胆管は、
肝門部から
胆のう管の手前までの肝門部領域胆管と、
胆のう管がつながって
いるところから乳頭部の手前までの遠位胆管に分類されます。胆
管、
胆のう、
乳頭部を合わせて胆道と呼びます。
図1.胆管とその周囲の臓器
肝臓
肝内胆管
肝門部
肝門部領域胆管
胆のう
肝外胆管
遠位胆管
胆のう管
乳頭部
すいぞう
膵臓
十二指腸
3
胆管がんとは
胆管がんは胆管の上皮(胆管内側の表面をおおう粘膜)から発
2
生する悪性腫瘍です。その発生した胆管の部位により、
肝外胆管
がんの肝門部領域胆管がんと遠位胆管がん、そして肝内胆管が
ん(胆管細胞がん)に分けられます。また胆管がん、
胆のうがん、
乳頭部がんを合わせて胆道がんと呼びます。なお、
『癌取扱い規
約』では肝内胆管がん(胆管細胞がん)は肝臓にできたがんとし
て、肝細胞がんと一緒に原発性肝がんとして取り扱われていま
す。
● 胆管がんの症状
がんができることによって胆管内が狭められ、
胆汁が流れにくくなりま
す。狭められた胆管より上流(肝臓側)の胆管は圧力がかかり拡張
し、
胆汁が胆管から逆流して血管の中に入るようになると、
血液の中
のビリルビン濃度が高くなり、
皮膚や目の白い部分が黄色くなります。
へいそくせいおうだん
胆汁が腸内に流れてこな
これを閉塞性黄疸といいます。黄疸が進み、
くなると、
便の色が白っぽいクリーム色になります。また胆汁が尿中に
はいせつ
尿の色が茶色っぽく、
濃くなります。血液中に
排泄されることにより、
胆汁中の胆汁酸という物質が流れると、
皮膚のかゆみがあらわれま
す。
けんたい
胆管がんに限った
その他、
体重減少、
発熱、
食欲不振、
全身倦怠感が、
症状ではありませんが、
がんの進行に伴い出てくる可能性が高くなり
ます。症状が長く続く場合は医師にご相談ください。
4
がんの冊子 胆管がん
3. 検査と診断
黄疸や右上腹部痛があらわれ、
胆管がんを疑う場合、
まず血液
検査と腹部超音波検査を行います。胆管の拡張などの胆道閉塞
がみられた場合、
CT検査やMRI検査などを行い、がんの存在や
広がりを調べます。さらに詳しい検査として、
胆管に直接造影剤
を注入してX線撮影する直接胆道造影や胆道鏡のほか、
内視鏡を
使う超音波内視鏡検査(EUS)や管腔内超音波検査(IDUS)があ
ります。また、
全身的な検査としてPET検査があります。
造影剤を使用する検査をする場合には、造影剤でアレルギー
反応などの副作用が起こることがありますので、アレルギーの
ある方は担当医に申し出てください。
1 血液検査
胆道閉塞が発生すると血液中のビリルビンが増加したり、胆
道系酵素のALP やγ-GTPの数値が上昇したりします。また胆
管がんに特異的な腫瘍マーカーはありませんが、診断の補助的
な役割をするマーカーとしてCA19-9 やCEAがあります。
2 腹部超音波(エコー)検査
体外から超音波の出るプローブ
をおなかにあてるだけで、外来で比
較的簡単に検査ができます。肝臓
しゅりゅう
の内部、周辺の腫 瘤、胆管の拡張な
どを調べるのに適しており、処置が
5
検査と診断
必要な閉塞があるかどうかの判断にとても有用です。
3
3 CT検査
体の周囲からX線をあてて、
体の断面図を撮影する検査です。
腫瘍の存在部位や広がりを捉えることができます。胆管の拡張
程度や部位も調べることができます。また造影剤を用いること
で、腫瘍部と非腫瘍部組織の血流の差を利用して腫瘍を浮かび
しんじゅん
上がらせることもでき、
腫瘍がどの程度、
周囲の血管に浸潤して
いるのか推測できます。最近では、
1回のスキャンで多数の画像
を撮ることができるマルチスライスCT(MDCT)が普及してい
ます。多方向からの観察が可能になり進展度診断に有効です。
3次元化した画像により血管浸潤の評価が詳細に可能になりま
す。
4 MRI検査
巨大な磁石の中に入って体のさまざまな部分を撮影する検査
です。CTと同様に胆管の拡張や病変の存在部位・広がりを診断
できますが、
CTと得られる情報が異なり、治療前の精密検査と
して行われることがあります。磁
気共鳴胆管膵管撮影(MRCP)は、
MRIを撮影して得られた情報を基
に、コンピューターを使って胆道、
膵管の画像を構築する検査手法で
す。造影剤や内視鏡を使わずに検
査することができるため、
痛みもあ
りません。
6
がんの冊子 胆管がん
5 直接胆道造影
胆管内へ細いチューブを挿入して造影剤を送り、
X 線撮影する
検査です。胆管がんの広がりを直接観察することができます。
取り出した胆汁中のがん細胞を調べること(細胞診検査)も可能
ですが、診断には限界があります。また、同時に黄疸の治療とし
て、下流に流れなくなった胆汁を体の外に導出する処置も行う
のが普通です。内視鏡的逆行性胆管造影(ERC)は、内視鏡を口
から十二指腸まで挿入し、胆管と膵管の出口である十二指腸乳
頭から細いチューブを入れ、造影剤を注入して胆管や膵管のか
たちを調べる方法です。経皮経肝胆道造影(PTC)は、腹部の皮
膚から肝臓を経由して胆管に直接針を刺し、その経路から
きょうさく
チューブを入れ、
造影剤を注入する方法です。胆管の狭窄や閉塞
の様子が詳しくわかり、腫瘍の存在部位や広がりの診断に有用
です。
6 胆道鏡
直接胆管の中に細いファイバースコープを通し、造影剤を直
接注入してX線撮影する検査です。胆管の粘膜内進展範囲の診
断に有用で、
粘膜から小さな組織片を採取し、
腫瘍の広がりをよ
り詳しく調べる方法(組織診検査)もあります。経口胆道鏡
(POCS)は、内視鏡を口から十二指腸まで挿入する内視鏡的逆
行性胆管造影(ERC)の経路を使用します。経皮経肝胆道鏡
(PTCS)は、皮膚からチューブを挿入する経皮経肝胆道造影
(PTC)の経路を使用します。
7
検査と診断
7 超音波内視鏡検査(EUS)、管腔内超音波検査(IDUS)
3
超音波内視鏡検査(EUS)は、内視鏡の先端に超音波検査装置
が付いています。がんの近くから観察することができ、
肝門部領
域胆管がんの血管浸潤や遠位胆管がんの壁内進展度診断に有用
です。管腔内超音波検査(IDUS)は、
十二指腸乳頭部から胆管に
超音波プローブを挿入し、
胆管内部を観察することができます。
IDUSの超音波プローブは細く、
EUS では入ることができない細
い胆管にも挿入することが可能です。胆管がんの深達度診断、
血
管浸潤の垂直方向浸潤の診断、および壁内進展の診断に優れて
います。
8 PET検査
PET 検査は、
放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射し、
そ
の取り込みの分布を撮影することで全身のがん細胞を検出する
検査です。最近ではCTを併用したPET-CT 検査が普及してい
ます。リンパ節転移や遠隔転移の診断に優れています。
8
がんの冊子 胆管がん
■ 黄疸に対する処置
胆管の造影検査に引き続き、胆管炎や胆管狭窄による肝機能
障害などを起こし、黄疸がひどくみられる場合に胆道ドレナー
ジによって処置をすることがあります。ドレナージとは「水な
どをある場所から導き出す」という意味です。
ドレナージには外ろうと内ろうがあります。外ろうとは、た
まってしまった胆汁を体外へ出す処置です。内ろうとは、
本来流
れていく十二指腸へ胆汁を通す処置です。
1)内視鏡的胆道ドレナージ
内視鏡的逆行性胆管造影(ERC)の検査で、
口から内視鏡を入
れて、
乳頭部から胆管内に挿入されたチューブを利用し、
胆汁の流
れを維持する、
内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)がありま
す。鼻から胆 汁を体 外へ出す内 視 鏡 的 経 鼻 胆 道ドレナージ
(ENBD)もあります。
2)経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)
経皮経肝胆道造影(PTC)の検査で、
皮膚から肝臓に挿入され
たチューブを利用し、
肝臓内で拡張している胆管から胆汁を体外
へ排出します。この経路を利用して胆道ステントを留置することも
可能です。
3)胆道ステント
狭まってしまった胆管にステントを通し、
胆汁の流れを確保しま
す。プラスチックステントと金属ステントがあります。金属ステント
はプラスチックステントに比べて、
詰まりにくいなど長期的にみると
よい報告がされています。
9
病期(ステージ)
4. 病期(ステージ)
4
病期とは、
がんの進行の程度を示す言葉で、
英語をそのまま用いてス
テージともいいます。医師による説明では「stage(ステージ)」という
言葉が使われることが多いかもしれません。病期にはローマ数字が使
われます。病期分類には 2 種類あり、
わが国の学会で主に行われてい
る臓器別がん登録の『癌取扱い規約』による病期分類と、
UICCと呼ば
れる国際分類があります。
病期は、
がんの大きさ、
周囲への広がり(浸潤)、
リンパ節や他の臓器
への転移があるかどうかによって決まります。全身の状態を調べたり、
病期を把握する検査を行ったりすることは、
治療の方針を決めるため
に、
とても重要です。
胆管がんについては、
肝門部領域胆管(表 1)、
遠位胆管(表 2)、
肝
内胆管(表 3)で病期がそれぞれ分類されています。
表 1. 肝門部領域胆管がんの病期
0期
上皮内がん
Ⅰ期
がんが胆管の中だけにとどまっている
Ⅱ期
ⅢA期
ⅢB期
胆管壁を越えるが他の臓器への浸潤はない。またはさらに
肝実質※の浸潤がある
がんのある胆管のそばの門脈または肝動脈に浸潤がある
がん領域リンパ節に転移があるが、遠隔転移はなく、
がんが浸潤している範囲は、IIIA期までと同様
領域リンパ節転移の有無に関わらず、遠隔転移がなく、
両側肝内胆管の二次分枝まで浸潤している、または門脈
ⅣA期
の本幹や左右分枝に浸潤がある、または総肝動脈、固有
肝動脈、左右肝動脈に浸潤がある、または片側肝内胆管
二次分枝まで浸潤があり、対側の門脈や肝動脈に浸潤が
ある
ⅣB期
がんの浸潤および領域リンパ節転移の有無に関わらず、
遠隔転移がある
※肝実質:肝臓の中で血管と胆管以外の部分。肝細胞。
日本肝胆膵外科学会編「臨床・病理 胆道癌取扱い規約2013年(第6版)」(金原出版)より作成
10
がんの冊子 胆管がん
表 2. 遠位胆管がんの病期
0期
上皮内がん
ⅠA期
がんが胆管の中だけにとどまっている
ⅠB期
胆管壁を越えるが他の臓器への浸潤はない
すいぞう
ⅡA期
胆のう、肝臓、膵臓、十二指腸、他の周辺臓器に浸潤が
ある。または門脈本幹、上腸間膜静脈、下大静脈などの
血管に浸潤がある
ⅡB期
Ⅲ期
Ⅳ期
領域リンパ節に転移があるが、遠隔転移はなく、がんが
浸潤している範囲は、IIA期までと同様
領域リンパ節転移の有無に関わらず、遠隔転移がなく、
総肝動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈に浸潤がある
がんの浸潤および領域リンパ節転移の有無に関わらず、
遠隔転移がある
日本肝胆膵外科学会編「臨床・病理 胆道癌取扱い規約2013年(第6版)」(金原出版)より作成
表 3. 肝内胆管がん(胆管細胞がん)の病期
しょうまく
Ⅰ期
腫瘍の数は1カ所で、大きさは2cm以下で血管や漿膜※に浸潤
はない
腫瘍の数が1カ所で、大きさが2cm以下または血管や漿膜
Ⅱ期
に浸潤がない
もしくは腫瘍の数は2カ所以上あり、大きさが2cm以下で
血管や漿膜に浸潤がない
腫瘍の数が1カ所で、大きさが2cmを超えて、血管や漿膜
に浸潤がある
Ⅲ期
もしくは腫瘍の数が2カ所以上あり、大きさは2cm以下で
血管や漿膜に浸潤がある
もしくは腫瘍の数が2カ所以上あり、大きさが2cmを超え
るが血管や漿膜に浸潤はない
ⅣA期
ⅣB期
腫瘍の数が2カ所以上あり、大きさは2cmを超えて、血管
や漿膜に浸潤がある
腫瘍の数と大きさに関わらず、リンパ節転移がある
もしくは遠隔転移がある
※漿膜:臓器表面を包む腹膜。
日本肝癌研究会編「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約2009年(第5版補訂版)」
(金原出版)より作成
11
治療
5. 治療
5
胆管がんの手術適応は非常に複雑で、
ある施設では手術可能な
場合が別の施設では手術の対象とならないとされることも珍しく
ありません。特に、
肝臓からの出口近く(肝門部)にできた胆管が
んは、
外科切除は技術的に非常に難しいため、
最初に診察した医
師の判断が重要になります。胆管がんと診断されたら、
手術の可
能性について専門の外科医に必ず相談するようにしてください。
図 2に、
胆管がんの臨床病期と大まかな治療の流れを示しまし
た。担当医と治療方針について話し合う参考にしてください。
図 2. 胆管がんの臨床病期と治療
臨床病期
Ⅰ期
Ⅱ期
Ⅲ期
Ⅳ期
肝門部領域がん ⅣA 期
肝内胆管がん ⅣA 期
(胆管細胞がん)
切除可能
切除不可能
術前処置
・胆道ドレナージ
・門脈塞栓術
手術(外科治療)
・胆管切除+肝切除
・膵頭十二指腸切除
・肝外胆管切除
胆道ドレナージ
胆道ステント
化学療法
放射線治療
+胆のう切除
+リンパ節郭清
緩和ケア
治療
日本肝胆膵外科学会 胆道癌診療ガイドライン作成委員会編
「エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン 2014年(改訂第2版)」(医学図書出版)
より一部改変
12
がんの冊子 胆管がん
1 手術(外科治療)
胆管がんは手術が唯一治癒の期待ができる治療です。胆管が
んでは定型術式といったものはなく、
がんの広がりに応じた、
安全
でできるだけ根治的な術式が選択されます。手術規模がかなり大
きくなること、
肝臓や膵臓などの生命に極めて重要な臓器に直接
処置が加わることで、
胆管がんの手術は高リスクであるのが現状
です。また、
手術後の再発率も決して低くありません。手術を受け
る前にはその手術でどのようなメリットがあり、
どの程度の危険度
があるのかをよく理解しておく必要があります。
胆管がんでは、
がんが残っていると予後に大きく影響を及ぼす
ため、
胆管切離断端に対する術中迅速病理診断が勧められます。
1)肝門部領域胆管がん
肝門部から胆管、
門脈、
肝動脈が分岐していく複雑な構造の影
響で、
肝門部領域にできたがんの手術には高い技術が必要となり
ます。根治的手術のため、
周りの肝臓、
胆のう、
リンパ節はほぼ切
除され、
膵臓も合併切除することがあります。合併手術によって組
織や臓器が切り離された場合、
胆管や十二指腸を通っていた道を
つくるため、
縫い合わせる再建手術が行われます。広範囲に肝臓
を切除する場合には術前門脈塞栓術を行い、
残す肝臓を大きくし
て肝不全を防ぎます。
2)遠位胆管がん
遠位胆管にできたがんは、
胆管が膵臓を通っているため、
膵臓へ
広がりやすい性質をもっています。そのため膵頭十二指腸切除が
基本術式になります。切除後は再建手術で、
残った膵臓を小腸や
胃に縫い合わせ、
膵液が小腸や胃に流れるようにします。同様に、
胆管と小腸、
胃と小腸をつなぎ合わせます。
13
治療
3)肝内胆管がん(胆管細胞がん)
5
がんが肝臓の端にある場合には、
肝部分切除を行います。肝臓
の左葉(肝臓の左側およそ1/3)と右葉(肝臓の右側およそ2/3)
を越えてがんが広がっている場合や、
肝門に近い場合には、
大きく
切除する必要があり、
胆のう切除や周りのリンパ節郭清も行うこと
があります。広範囲に肝臓を切除する場合には術前門脈塞栓術を
行い、
残す肝臓を大きくして肝不全を防ぎます。
● 手術に伴う合併症
きず
手術後は、
創の痛みがしばらく続くことがあります。痛みを我慢するこ
とはストレスになり、
心身ともに疲れ、
回復の遅れにつながります。我
慢することなく、
担当医や看護師に伝えましょう。
切除部分から胆汁が漏れて腹膜炎を起こしたり、
膵液が漏れて出血
や感染を起こしやすくなったりする場合があります。そのため、
手術後
しばらくの間、
体内にたまった胆汁や膵液、
血液などを体外に出すため
の管(ドレーン)が数本、
おなかに留置されます。鼻から胆管や膵臓に
管を通すこともあります。管から出た液体をためておく容器を身に付
けておくことで、
体を動かしたり、
歩いたりすることができるようになり
ます。
また、
膵頭十二指腸切除術という手術を行った場合、
再建手術で縫い
合わせた部分が狭くなると、
食べ物の通りが悪くなって吐き気がした
り、
細菌が腸から胆管や膵臓に移って感染を起こしたり、
だるさや腹部
の不快感、
腹痛、
吐き気、
高熱などの症状があらわれることもありま
す。症状が改善されないときは、
内視鏡を使って狭くなったところを広
げる処置をするなど、
再度手術を行う場合があります。
14
がんの冊子 胆管がん
5
治療 2 化学療法(抗がん剤治療)
胆管がんに対する化学療法として、
ゲムシタビン+シスプラチン併
用療法が標準治療として確立しています。切除が不可能な胆管が
んの患者さんに広く行われている治療です。多くは外来で、
週1回
3時間程度かけて点滴し、
2週連続投与し、
3 週目は休薬します。こ
のように3週間を1コースとして治療を繰り返します。治療の適応
は患者さんの全身状態や症状などによって検討します。
● 化学療法(抗がん剤治療)の副作用について
ゲムシタビン+シスプラチン併用療法に伴う強い副作用は少ないの
ですが、よくみられる副作用として、吐き気、倦怠感、食欲不振、
骨髄抑制などがあげられます。また、長期間繰り返し投与すること
まっしょう
によってシスプラチンによる腎機能障害、難聴、末梢神経障害(指
先のしびれ)などが出てくることがあります。
3 放射線治療
手術が不可能で、
遠隔転移のない場合にがんの進行抑制を目的
として放射線治療を行う場合がありますが、
有効性については十分
な検討がされておらず、
標準治療ではありません。疼痛を緩和する
ために行うことがあります。
15
経過観察
6. 経過観察
6
外科切除により完全に腫瘍が取り除かれたと判断された後も、
再発の可能性は残ります。そのため、
回復の度合いや再発の有無
を確認するために、
定期的に検査を受ける必要があります。化学
療法の場合は定期的に外来で通院して治療を受けるのが一般的
です。
通院する頻度はがんの種類や進行度、
治療法などによって異な
ります。黄疸の有無や血糖、
肝機能、
腎機能、
骨髄機能、
炎症所見
などを調べるための血液検査、
腫瘍マーカー検査をします。さらに
必要に応じてX 線検査、
腹部超音波(エコー)検査、
CT 検査など
の画像診断が行われます。
体調の変化や後遺症についての問診に続き、
診察では黄疸や
おなかの痛み、
食欲の変化をみていきます。少しでも気になる症
状があるときは、
担当医に相談するようにしましょう。胆管炎など
で強い痛みや発熱がある場合には、
治療に入院が必要なこともあ
ります。早めに担当医に連絡しましょう。
16
がんの冊子 胆管がん
7
転移 8
再発
7. 転移
胆管がんでは胆管や胆のう、膵臓の周囲のリンパ節に広がっ
たり、
肝臓などの他の臓器に転移したりすることがあります。再
発や転移の状態に合わせて治療が行われますが、
多くの場合、
治
療は手術ではなく、
化学療法や放射線治療で、
それぞれの患者さ
んの状況によって治療や療養の方針が検討されます。
8. 再発
再発とは、
治療の効果により目に見える大きさのがんがなくな
った後、
再びがんが出現することをいいます。切除した部位(局
はしゅ
所再発)や腹膜(腹膜播種)
、
また他の臓器(転移)に起こります。
再発様式により症状もさまざまで、
治療もそれぞれの状態に合
わせて行われます。局所再発で技術的に切除が可能であり、
他に
がんが散らばっている可能性がほとんどないと判断される場合
は再切除も検討しますが、
それ以外の場合は通常外科切除の適応
にはなりません。腹膜播種や他の臓器に転移している場合は化
学療法を考慮することが一般的です。 17
診断や治療の方針に納得できましたか?/セカンドオピニオンとは?
診断や治療の方針に納得できましたか?
治療方法は、
すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。
一方、
自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという
患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではなく、
患
者さん自身が満足できる方法が一番です。
まずは、
病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、
担当
医に何でも質問してみましょう。診断を聞くときには、
病期(ステー
ジ)を確認しましょう。治療法は、
病期によって異なります。医療者と
うまくコミュニケーションをとりながら、
自分に合った治療法であるこ
とを確認してください。
診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。
最初にかかった担当医に何でも相談でき、
治療方針に納得できれ
ば言うことはありません。
セカンドオピニオンとは?
担当医以外の医師の意見を聞くこともできます。これを「セカン
ドオピニオンを聞く」といいます。セカンドオピニオンでは、
①診断
の確認、
②治療方針の確認、
③その他の治療方法の確認とその根拠
を聞くことができます。聞いてみたいと思ったら、
「セカンドオピニ
オンを聞きたいので、
紹介状やデータをお願いします」と担当医に
伝えましょう。
担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれません
が、
多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと
理解していますので、
快く資料をつくってくれるはずです。
18
がんの冊子 胆管がん
メモ/受診の前後のチェックリスト
メモ( 年 月 日)
●
がんの種類
[ ]
●
病期(ステージ)
[ ]
●
大きさ
[ ] cm 位
●
数
[ ] 個
●
広がり・深さ
[ ]まで
●
別の臓器への転移
[ あり ・ なし ]
受診の前後のチェックリスト
□ 後で読み返せるように、
医師に説明の内容を紙に書いてもらったり、
自分でメモをとったりするようにしましょう。
□ 説明はよくわかりますか。わからないときは正直にわからないと伝え
ましょう。
□ 自分に当てはまる治療の選択肢と、それぞれのよい点、悪い点につい
て、
聞いてみましょう。
□ 勧められた治療法が、
どのようによいのか理解できましたか。
□ 自分はどう思うのか、
どうしたいのかを伝えましょう。
□ 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう。
□ 症状によって、
相談や受診を急がなければならない場合があるかどう
か確認しておきましょう。
□ いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて、
わかるようにしてお
きましょう。
●
□ 説明を受けるときには家族や友人が一緒の方が、
理解できて安心だと
思うようであれば、
早めに頼んでおきましょう。
□ 診断や治療などについて、
担当医以外の医師に意見を聞いてみたい場
合は、
セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう。
参考文献:日本肝胆膵外科学会編:臨床・病理胆道癌取扱い規約 2013 年第 6 版;金原出版
日本肝癌研究会編:臨床・病理原発性肝癌取扱い規約 2009 年第 5 版補訂版;金原出版
日本肝胆膵外科学会 胆道癌診療ガイドライン作成委員会編:エビデンスに基づいた胆道癌診療ガ
イドライン 2014年改訂第 2版;医学図書出版
19
国立がん研究センターがん対策情報センター作成の冊子
がんの冊子
各種がんシリーズ
(36 種)
小児がんシリーズ
(11種)
がんと療養シリーズ
(7 種)
がんと心/がんの療養と緩和ケア/もしも、がんと言われたら/他4種
社会とがんシリーズ
(3 種)
がん相談支援センターにご相談ください/家族ががんになったとき/
身近な人ががんになったとき
がんを知るシリーズ
(1種)
科学的根拠に基づくがん予防
がんと仕事のQ&A
患者必携
がんになったら手にとるガイド 普及新版* 別冊『わたしの療養手帳』
もしも、がんが再発したら*
すべての冊子は、がん情報サービスのホームページで、実際のページを閲覧したり、印刷したりすること
ができます。また、全国の国指定のがん診療連携拠点病院などのがん相談支援センターでご覧いただ
けます。*の付いた冊子は、書店などで購入できます。その他の冊子は、がん相談支援センターで入手で
きます。詳しくはがん相談支援センターにお問い合わせください。
がんの情報を、インターネットで調べたいとき
近くのがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院、がん相談支援センターを探したいとき
◆◆◆がん情報サービス
http://ganjoho.jp
がん相談支援センターの紹介・患者必携についてのお問い合わせ
◆◆◆がん情報サービスサポートセンター
サ ポート
電話:0570-02-3410(ナビダイヤル)
平日
(土・日・祝日を除く)
10 時 ~15 時
※通信料は発信者のご負担です。また、一部の IP 電話からはご利用いただけません。
がんの冊子 各種がんシリーズ 胆管がん
編集・発行 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター
印刷・製本 図書印刷株式会社
2015 年 5 月 第 1 版第 1 刷 発行
協力者(五十音順)
:江崎 稔 (国立がん研究センター中央病院肝胆膵外科)
森実 千種(国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科)
国立がん研究センターがん対策情報センター 患者・市民パネル
あなたの地域のがん相談支援センター
各種がん
108
胆管がん
国立がん研究センター
がん対策情報センター
「がん相談支援センター」について
がん相談支援センターは、全国の国指定のがん診療連携
拠点病院などに設置されている「がんの相談窓口」です。
患者さんやご家族だけでなく、どなたでも無料でご利用い
ただけます。わからないことや困ったことがあればお気軽
にご相談ください。全国のがん相談支援センター
やがん診療連携拠点病院などの情報は「がん情報
サービス(http://ganjoho.jp)
」でご確認ください。
がん相談支援センターで相談された内容が、ご本
人の了解なしに、患者さんの担当医をはじめ、ほ
かの方に伝わることはありません。
どうぞ安心してご相談ください。
国立がん研究センター
がん対策情報センター
〒104 - 0045
東京都中央区築地 5 -1-1
より詳しい情報はホームページをご覧ください