維持保全計画作成義務(合成スラブ床材)

維持保全計画作成義務(合成スラブ床材)
本件建築物は㈱博善社が斎場開業の為に設計者と協議の上に斎場設計図を作成し、㈲丸倉共立商事に斎場建設を提案し、駐車場
付建物賃貸借契約に至っている。
㈲丸倉共立商事は「駐車場付建物賃貸借契約第 20 条(維持・管理)(1)賃貸借物件の維持、管理、修繕及び取替えは、乙(㈱
博善社)の負担とし、甲(㈲丸倉共立商事)は第 19 条の保険(損害保険)による保証のみとする。」という約定が記載された駐車
場付建物賃貸借契約を㈱博善社と交わしている。
㈱博善社は駐車場付建物賃貸借契約約定第 20 条(維持・管理)により建物の維持管理業務の責任を担い、建物の維持保全計画書
の作成義務を負うことになる。
本件建築物 2 階床材は合成スラブ床材(QL デッキプレート)であり、打設コンクリートのひび割れ拡大を防止するためにひび
割れ拡大防止筋が入っている。しかし、ひび割れを防止することは困難で、設計者や施工者は合成スラブ打設コンクリートのひび
割れ発生の防止が困難であるという知識は常識として持っており、ひび割れ補修にはエポキシ樹脂等の注入による補修が行われる。
平成 13 年本件建物において、屋上を満水とし、オーバーフローによる漏水事故が発生している。しかし、㈱博善社から㈲丸倉共
立商事への報告はなく、被害状況を知り得る機会が無かった。
この漏水事故は 1 階の天井や床まで漏水被害が及んだ筈で、1 階天井点検口から天井裏の調査も行われている筈であり、2 階床
材の QL デッキプレートの状況の確認も行われていなければならない。
平成 16 年 12 月、屋上を満水とし、オーバーフローによる漏水事故が再び発生したが、報告はなく、㈲丸倉共立商事は漏水事故
被害の状況を確認することが出来なかった。
㈱博善社は平成 13 年の漏水事故と同様に 2 階床材の QL デッキプレートの状況を確認していなければならない。
平成 17 年 2 月、㈱博善社は漏水被害補修費を㈲丸倉共立商事が加入している損害保険で賄おうと、㈲丸倉共立商事に漏水事故
の発生を報告してきた。
㈲丸倉共立商事は漏水事故被害調査時に他にも㈱博善社が行うべき建物の維持管理業務において、賃貸借契約第 20 条(維持・管
理)の約定を履行していないことが判明し、「賃貸借契約第 22 条(善管注意義務)
(2)乙(㈱博善社)は、乙の従業員、その他乙が
管理、監督すべき関係人の責に帰すべき事由によって、賃貸借物件を滅失、毀損したときは、直ちにこれを修復するか、又は甲(㈲
丸倉共立商事)にその損害を賠償しなければならない。」をもって、損害保険による補修は困難である旨を㈱博善社に通知した。
本件建物は特殊建築物であり、建物の維持保全計画書の作成が義務付けられ、定期的な点検が求められており、調査項目には、
床材も点検対象となっており、特殊建築物点検資格者による点検が行われていなければならない。
本件建築物の 2 階床材は合成スラブ(QL デッキプレート)であり、大梁上の合成スラブ打設コンクリートにひび割れが発生しやす
い床材であり、特殊建築物点検資格者にとっては容易にひび割れ発生の確認と補修時期の判断が出来る床材である。
平成 22 年 12 月の㈱博善社の床のひび割れの危険性ついての報告は、RC 床という認識の下に危険性があるとした報告内容で、S
造に多く使用される合成スラブ床材について考えが及ばない者の判断であったとしか言いようがない。
維持保全計画作成に際し、委託を受けた特殊建築物点検資格者は図面による床材の確認を行い委託業務範囲の確認を行う。又、
天井点検口から 2 階床材の合成スラブ床材の状態を確認することが出来、大梁上の打設コンクリートのひび割れをもって合成スラ
ブの状態を確認することなく危険性を指摘する特殊建築物点検資格者はいない。ひび割れ報告において、何ら、合成スラブについ
ての言及はなかった。
S 造の床材の多くは合成スラブ床材が採用されており、ひび割れの危険性を指摘した者は、特殊建築物点検資格を有しない者か、
或いは、合成スラブ床材の知識を有しない者であったとしか言いようがない。