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尖閣列島の植物相について
多和田, 眞淳
琉球大学農学部学術報告 = Science bulletin of the Faculty of
Agriculture, University of the Ryukyus(1): 75-89
1954-04
http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/123456789/21487
尖 閣列 島の植 物相 につ いて
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8 日にいた る調査 を基礎 にしてまとめ,上
司に提 出した 「
共閣列島調査報告」に よ D抜零 した ものである。本調査 は甫小島
(4
月1
0 日∼1
4 日)お よび魚釣島 (4月 1
4日∼1
9日), と くに後者 に滞在中の ものが
主体 となってお D, したがって本 線告 において も主 として魚釣島の植物相 を中心 に記
述 した。
本文を草するに当 9,本研発調査に多大の援助 と指導 を仰 げる本学農学部長島袋俊
一教程に対 し,衷心 よ9感謝の意 を表 する。
2
.植
物
景
観
尖閣列島は東 尾峡 を除 き, ほとん ど一様に第 3紀の徴粒質砂岩か らな D,地質上か
ら植物生態に差異 を生ぜ しむる要因はない と云って よV,
。 また 日照,気温,湿度等の
東泉上の要素 も取立てて間虜 にする必要 はない. ここの植物景親 を支配する因子は明
らかに風衝のみであると考えられ る。急傾斜 に沿 うて山頂 に向い,海岸か ら吹 きあげ
る絶 え間ない強風 こそまさにそれであるO斜面に成立する樹林 を表面か ら眺めると,
まるで毛髭 を敷 きつ めた ようになっている。即 ち,樹冠が相互 に入 D込み,枝 は押 し
つぶ され,遠望すると其上 をたやす く歩行出来 そ うな感 じがする。 この毛鮭か らやや
規則的に頭 をもたI
デ,髪 をふ D乱 しているのは,独 D抵抗 力の強V,ビロウのみである.
海岸か らつづ く瀬兼帯 を通 D抜 けるには, その交錯 した枝 を避 けるために四這いに
ならなければならぬ。 この植物帯 を過 ぎると樹木は高 さを増すが,頂上 に近づ くにつ
れて次第 に低 くな D確大林 と化する。
林相の内部 は常に湿度が高 く,樹皮 と云 わす岩石の上 と云 わずゼエゴケシダ (
沖縄,
台湾 における稀 晶)がやた らに着生 している。かか る景蔵 は沖縄 の何処におV,
て も見
られない.頂上附近の乾 生蘭類,地衣類の豊富 なことは驚 くぼか Dである。之 を要す
るに列島の主要なる植物群系は,亜熱帯降雨林 と照美喬大林に属せ しむることが出来
るQ群弟 をつ ぎの如 く大別 したい。
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a. イ ソフサ ギ群 叢
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岸
植
物
畦接 海 水 の か か る岩 石地 帯 に, さなが ら辞 苔類 の如 くイ ソ
ゆ科 ) が附 着 し,特 徴 の あ る群 落 を形 成 して Vlるo
b. ミズ ガ ン ピ群 叢
イ ソ フサ ギ群 叢 の上 位 に あ る。立 地 は隆起 珊 瑚 礁 の みか ら
な る平地 で,風 の 強 い 日は直接 波 に洗 われ る。 ミズ ガ ン ビを主 体 と した岩 の 割 Er
に,
テ ッポ ウユ リ, ナ ワカ / コ ソウ, シ ロバ ナ ノ ミヤ コグサ, ハ マ ア ズ キ, ハ マ ナ クマ メ
等 が あ る。
C・ クサ トベ ラ群 叢
ミズ ガ ン ピ群 叢 の上 位 に あ D,海 岸 の砂 磯 地 岩 石地 で直接
波 のか か らぬ と ころ に形 成 す る。 クサ トベ ラ, ア ダ ン, モ ンパ ノ千, キ ダチ ハ マ ダル
マ, ノ カ ラム シ等 が生 じて Vlる。
(2) 照
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糞
樹
林
リュウ キ ュウア カテ ツ群 叢
シ ャ リンバ イ,焚 生 の リュウキ
ュ ウア カテ ツ,倭 生 の シ ロガ ジマル, リュウ キ ュ ウガ 千 を主 体 と し, オ オハ マ ボ ウ,
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ヨウ ス スキ, ノボ タン, サ ク ラ ラン, ホ ソバ ワ ダ ン等 が生 じて い るO 林 木 と して価 値
の あ る もの はほ とん どな い。
b・ ビ ロウ,タ ブ 群 叢
この秤 量 は森 林 の 7
0% 以上 を 占めて い る。 ビ ワウ,
モ ク タチバ ナ を主 体 と し, ナ ン ゴ クモ クセ イ, セ ン カ ク ミカ ン (
新 称 ), イ リオ モチ
エ ゴ ノキ, オ キ ナ フ カ ク レ ミノ, ホ ウザ ン ツバ キ, コバ ンモ チ, イ リオ モテ ヒ メユ ズ
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イ ス ノキ, シ ログモ, バ リバ リノキ, ム ク イヌ ビワ等 が 混生 し, 有 用 樹 で あ る
イヌマ キ, シマ グワ等 が J
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在 す る。 諸 処 に カ ラスザ ン シ ョウ, リュ ウキ ュウエ ノキ,
ウ ラジ ロエ ノキ, シ ロガ ジマ ル, - マ イヌ ビワ等 の大 水 が あ るの は 山火事 か若 くは人
為 的 伐採跡 地 で あろ う。
着 生 羊 歯類 に ホ ウ ビク ヮン ジ ュ, リュ ウキ ュウマ メヅ タ, ノキ ンノ ブ等 が あ る。 ヨ
ウ ラク ラン, イ リオ モ チ ラン等 の着 生 蘭, ヨゴ レイ クチ ンダ, トガ リバ カナ ワ ラビ,
カ ツモ ウ イ ノデ等 の羊 歯類 , オ キ ナ ワテ ィ シ ョウ ゾウ, オ オ キバ ナ ム カ シ ヨモ ギ, タ
シ ロ スゲ, ア リザ ン ミズ, カ ゴ メ ラン, ツル ラン, ムサ シア ブ ミ等 の下 草類 , リュ ウ
キ ュ ウア オ キ, オ オバ ル リ ミノ千, イ ワ ガ ネ等 の東 木類 , ヒカゲ - ゴ,.オ - - ゴ等 の
来 生 羊 歯類 , それ に タ ロツ グ, シ ラクマ カ ズ ラ, ビナ ンカズ ラ, オ キナ ワテ イカ カ ズ
ラ, ア マ チ ャズル, カ ラスキパ サ ンキ ライ, サ ツマ サ ンキ ライ, トウズ ル モ ドキ等 の
蔓 性 植 物 が 繁 茂 し, ユ ウ レ イ ラ/の如 き無 葉 蘭 も虚 し, さなが ら熱 帯 の密 林 を坊 沸 さ
せ る原 生 林 で あ る。
(3) 頂 上 溢 木 帯
共 闘列 島 の植 守
勿相 に つ い て
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7
頂 上 は突 吃 と した岩石 で 占め縁 辺 は断 崖 をな し,風衛地 帯 とT
3
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つ て い るた め, トゲ
イヌ ツゲ, クス ノキ科 の 1種 , シ ャ リンバ イ, モ チ /千等 が生 じ,稀 に コシ ョウ ノ車
を生 ず る。 これ らの樹 枝 に は イ リオ モチ ラン, ヨウ ラク ラン, リュウキ ュウセ キ コ ク
が発 に着生 し, また粗度 や岩 石上 に は無数 の地 衣 が附 着 して奇鶴 を皇す るO
セ ン カクツツ ジ (
新称)
, ギ イマ, モ チ ノキに は ヒノキバ ヤ ドリギの寄生 を見 る。
樹 下 は腐 植 土 で被 われ泥炭状 とな D, セ ン カ クツツジの下枝 は下垂 して, しき Dに発
根 し特 色 の ある生態 を皇 す る。 なあ
と くに リュウキ ュウツル コウ ジ, ヒ 1
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マ キ クシノブの発育 が よい。断 唖 に は シ ャ リンバ イ, セ /カ クツ ツジが密 生 し, シ ャ
リンバ イの 白い花 とセ ンカ クツ ツジの赤 紫色 の花 が陽光 に照 D映 えて美 しい。
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生 植 物 の 日 銀
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〔
註〕 (
南)は南小島,(
共)は魚釣島 と南小島に共通,(
黄)は責尾喫,(
柿)は稀産。
9科
本 目録 に よっ て明か な よ うに,尖 閣 列島所 産 の羊 歯類 及 び種 子植 物 の総数 は 8
2
3
5種 で あるO これ らの うち, コシ ョウ ノキは伊 平屋 島 に産 し地 鳥 に は無 く, ノブ ド
ウは 日本 内地 の もの と型 が 同 じで地 鳥産 の と異 る。 トゲ イヌ ツゲは慶 良問, 石垣, 西
表 を除 く地 鳥 には産せ ず, トネ リコバ イチ ゴは与郷 国 を除 く地 鳥 にな く, コウ トウッ
ズ ラフジが 波照間 島 を除 く他 島 にないO また, コウ シ ュンウマ ノ スズ クサ は宮古 島 を
除 く地 鳥 に座 しない な ど極 めて地 理 的 分布上 , 興味 深 い問題 が残 され てい る。 本 列 島
の固有 種 と 思 われ る もの に, セ ンカ クアザ ミ, セ ンカ クツ ツジ, セ ン カ クホ ラゴケ
(以上新 称 )
, ク.
7ザ ンジマ (ツ ツジの 1種 ) な どが あ 9, 其種 数 は面積 の割合 に比較
的多 い と云 え よう。
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. 農林水産業上 よ りの価値
1・ 農 林 業 上 か ら。 イヌマキヤ シマグワ等沖縄 での貴重な樹木が在 るが,殆
ど盗伐 され幼齢林のみであるo適当の保護看視 をしなければ将来全滅の恐れがある.
然 しこれ は世人の公徳心に訴- る外 に処置 が なV,
。 タブ其他の有用樹木 も相 当量 あ
るが これは自然のまま放置 されている。経費の閲係でこれ を利用することは,今のと
ころ不可能に近 く,且つ盗伐のおそれ も少vl
o気象条件其他 を綜合 して考察するに,
伐採 した後の快復 は甚だ因果の ように思 われ るか ら,やは D尖閣列島の森林はそのま
ま放置 して専 ら魚付林 として利用 した方が賢明である。次ぎの理 由によ D
農業上か ら
は一顧の価値 もなV,
。即 ち,
a) 余 Dも遠 く離れて患 D,港 もな く,潮流 は早 く風波が荒い ことo
b) 耕地 に通する地域がほとん どなVI
o
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) 人命 を危 くする くらい蚊群が棲息する.
d) 海賊な どの外敵 を防備 しなければ人命が保証出来ぬ等 である0
2. 漁 業 上 か ら。
漁業上か らつ ぎの諸点 をあげることが できる。即 ち,
a) 島の周辺 を潮流が流れていて魚族が多Vl
o
b) 海鳥類が小島等 に多数棲息 しているため, その糞便が海-沈入 して プ ランク
トンの発生 を助長 しているo
c) 魚釣島の原生林が 自然の魚付林 をなしている.
d) 魚釣島には淡水が各処にあ D飲料水 に好適 で,薪炭 も多 く,適当な方法 を講
ずれば漁期の根拠地 として重要 な処 とh:D得 るように思 う。
・参 照 文 献
1・ 大井次三郎 (
1
9
5
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):
・日本植物話。
2・ SoNOHARA,
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3・ 高良鉄夫 (
1
9
5
4
): 共閣列島の動物相について (
本学術報告,5
7
-7
4
)
0
2
,3・の 2報文の参照文献に共通のものが多 く,これらはすべて省略 した。
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図 版 Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ説 明
第 1国
務 2図
風衡地帯の植物景観,手前は現生のビロウ (
魚釣島)
第 3国
ビpウ, タ ブ 群叢から頂上 (
療商 3
6
2m)附近の潅木帯を挑む (
魚釣島)
第 4
、囲
ミズガンピ群叢 (
魚釣島)
ビt
7ウ, タ ブ 群叢 (
魚釣島)
第 5図
魚釣島の樹林,手前は ク.
7ツ〆,後方はシロガジ・
7ルの気取
第 6図
セ ンカクアザ ミ (
新称)(
魚釣島東海岸)
第 7囲
セ ンカクツツジ (
新称)(
魚釣島)
第 8図
セ ンカクミカ ン (
新称)(
魚釣島)
弟 9図
イ リオモテラン (
魚釣島)