林 望 (作家・国文学者) 朗唱し、暗誦し、 血肉に │ 推薦のことば 壇へと歩みを進めて行ってくれるのを願うばかりである。 そら 好きな作家や作品に邂逅し、 之を朗唱し暗誦し、 さらにその詩人の詩集や周辺詩 あとは一人でも多くの、 特に若い読者が、 この詩の世界を縦横渉猟して、 自分の でたい。 に本書を撰った西原さんの読解鑑賞が、 冷静に醒めた意識で書かれているのもめ つく は、 按ずるに、 さぞ悩ましいことであったろうと想像されるのだが、 その苦辛の果て 言わねばならぬ。無数の名作詩の森に分け入って、 これらの詩を「選ぶ」という仕事 選び、 付するに注釈と読解鑑賞を以てしたのは、 まことに時宜に適ってめでたいと かな ここに 『 日本 名 詩 選 』 が、 まさにその通史としての意識を以て、 近現代の名詩を だろう。 現代の詩を縦覧し、 これを愛読できる簡要適切なテキストがなかったせいもある えなくなってしまったこともひとつの原因かもしれないが、 また通史的に日本の近 たのは、 一つに現代詩があまりに難解になりすぎて日々の言葉から乖離し、 心に訴 かい り 現代は、 詩にとって冬の時代で、 ことに若い人たちがあまり詩に熱中しなくなっ どその後の私の 「ことば」を豊かにしてくれたことであろう。 思えば、 若い時代に詩を愛し、 これを朗唱し、 やがて暗誦していたことが、 どれほ 来必ず詩人になろう と遠い空を見上げもした。その頃の日々を回想した自伝 … 的小説『 帰らぬ日遠い昔 』 は、 むろん三好達治の詩の題名を拝借したものである。 になったように思い、 さかんにその模倣式の詩を書き散らしては そ 俺は将 …うだ、 んすはあまりに遠し」と、 萩原朔太郎の調べを朗唱して、 自分も一個のヴァガボンド やがて、 高校も終わろうとするころには、「ふらんすへ行きたしと思へども、 ふら ど吐いたものであった。 つ まだ高校生だった頃、 私は、「まだあげ初めし前髪の 」と、 島崎藤村など諳ん … じては、 そのおずおずとした恋情を、 おのれの心と重ねあわせて、 ひそかに溜息な 泉大悟撮影 も く じ 日本名詩選1 ﹇明治・大正篇﹈ 矢田部良吉訳 グレー氏墳上感懐の詩『新体詩抄』 外山正一 抜刀隊『新体詩抄』 新声社訳 ミニヨンの歌「於母影」 花薔薇「於母影」 国木田独歩 山林に自由存す『抒情詩』 島崎藤村 潮音『若菜集』 初恋『若菜集』 土井晩翠 星落秋風五丈原『天地有情』 荒城月『中学唱歌』 与謝野鉄幹 人を恋ふる歌『鉄幹子』 島崎藤村 小諸なる古城のほとり『落梅集』 椰子の実『落梅集』 与謝野晶子 君死にたまふことなかれ『恋衣』 上田敏訳 落葉『海潮音』 わすれなぐさ『海潮音』 山のあなた『海潮音』 春の朝『海潮音』 薄田泣菫 ああ大和にしあらましかば『白羊宮』 森鷗外 扣鈕『うた日記』 蒲原有明 智慧の相者は我を見て『有明集』 茉莉花『有明集』 北原白秋 邪宗門秘曲『邪宗門』 空に真赤な『邪宗門』 意気なホテルの『思ひ出』 永井荷風訳 そぞろあるき『珊瑚集』 無題『珊瑚集』 石川啄木 はてしなき議論の後『啄木遺稿』 ココアのひと匙『啄木遺稿』 飛行機『啄木遺稿』 北原白秋 片恋『東京景物詩及其他』 あかい夕日に『東京景物詩及其他』 福士幸次郎 自分は太陽の子である『太陽の子』 高村光太郎 根付の国『道程』 冬が来た『道程』 道程『道程』 北原白秋 薔薇二曲『白金之独楽』 ビール樽『白金之独楽』 山村暮鳥 風景『聖三稜玻璃』 萩原朔太郎 竹『月に吠える』 蛙の死『月に吠える』 猫『月に吠える』 田舎を恐る『月に吠える』 千家元麿 雁『自分は見た』 室生犀星 小景異情『抒情小曲集』 寂しき春『抒情小曲集』 堀口大学 夕ぐれの時はよい時『月光とピエロ』 西條八十 かなりや『砂金』 佐藤春夫 水辺月夜の歌『殉情詩集』 海辺の恋『殉情詩集』 少年の日『殉情詩集』 秋刀魚の歌『我が一九二二年』 中原中也 サーカス『山羊の歌』 帰郷『山羊の歌』 妹よ『山羊の歌』 汚れつちまつた悲しみに …… 『山羊の歌』 生ひ立ちの歌Ⅰ『山羊の歌』 丸山薫 汽車にのつて『幼年』 伊東静雄 わがひとに与ふる哀歌 『わがひとに与ふる哀歌』 井伏鱒二訳 田家春望『肩車』 秋夜寄丘二十二員外『肩車』 勧酒『肩車』 井伏鱒二 つくだ煮の小魚『厄除け詩集』 逸題『厄除け詩集』 立原道造 はじめてのものに『萱草に寄す』 のちのおもひに『萱草に寄す』 中原中也 湖上『在りし日の歌』 骨『在りし日の歌』 北の海『在りし日の歌』 頑是ない歌『在りし日の歌』 一つのメルヘン『在りし日の歌』 月夜の浜辺『在りし日の歌』 また来ん春 ………… 『在りし日の歌』 冬の長門峡『在りし日の歌』 正午『在りし日の歌』 三好達治 大阿蘇『春の岬』 村野四郎 鉄棒『体操詩集』 飛込『体操詩集』 金素雲訳 カフエー・フランス『乳色の雲』 ふるさとを恋ひて何せむ『乳色の雲』 青葡萄『乳色の雲』 猫『乳色の雲』 永瀬清子 諸国の天女『諸国の天女』 山之口貘 畳『山之口貘詩集』 結婚『山之口貘詩集』 丸山薫 学校遠望『物象詩集』 立原道造 夢みたものは ・・・・・・・・ 『立原道造全集』 高村光太郎 千鳥と遊ぶ智恵子『智恵子抄』 山麓の二人『智恵子抄』 レモン哀歌『智恵子抄』 荒涼たる帰宅『智恵子抄』 岡本潤 夜の機関車『夜の機関車』 草野心平 富士山 作品第肆『富士山』 金素雲訳 石ころ『朝鮮詩集 前期』 希望『朝鮮詩集 中期』 三好達治 かへる日もなき『花筐』 日本名詩選3 ﹇昭和戦後篇﹈ 栗原貞子 生ましめん哉『黒い卵』 三好達治 祖母『測量船(南北書園版)』 永瀬清子 だまして下さい言葉やさしく『大いなる樹木』 堀口大学 母の声『人間の歌』 伊東静雄 夏の終り『反響』 永瀬清子 美しい国『美しい国』 北の春『仙境』 丸山薫 壺井繁治 熊『壺井繁治詩集』 金子光晴 富士『蛾』 三好豊一郎 囚人『囚人』 高見順 天『樹木派』 原民喜 碑銘『原民喜詩集』 (現代詩作家) 推薦のことば 荒川洋治 詩を読む 「新しい」 世界 │ 『日本名詩選 』全三巻は、 明治から現代までの名詩の集成だ。近代詩・現代詩の アンソロジーは、 いま極端に少ない。あっても編者の個人的な意向を反映したもの で、 客観性に乏しい。詩を書く人は多いのに、 詩を読む人はいない。読むよろこびを 知る機会がない。アンソロジーの空白は、 そのような事態をもたらした。 本書は、 評価の定まった詩を中心にしたものだが、 重要な詩の存在にも目を向 けている。また、 解釈も精確で、 作品の背景、 時代の起伏を見渡すことができるよ う工夫されている。 詩を読んでいて思うことは、 どんなにいい詩にも、 知られている詩にも、 ときあか せない語句、 表現があることだ。それらについても編著者による適切な注記がある ので、 作品の世界をこころゆくまで楽しみ、 味わうことができる。詩が読まれる「世 界」をひろげたという意味で、 画期的なものだと思う。 詩は、 散文と定型詩の中間の位置にある。かたちも影もないところをさまよう。 社会的なもの、 習慣的なものにゆだねることはできない。かといって型にはまった世 界の住人ともなれない。どちらにも身を寄せ切れないのだ。それは、 人の心そのも のかもしれない。詩は、 そうした人の思いに終始、 寄り添ってきた。あるべき個人の 姿をめざして書かれてきた。個人というものの感触を濃厚に映し出してきた。 だから詩は、 人のもっとも近くにあるもの、 身近なものなのだ。散文に支配され た現代の日本で、 そのことを意識する人は少ない。また、 詩は、 詩を書いている人に も知られないものを秘めている。それを意識する機会でもある。 『日本名詩選 』 は、 読む人にも、 書く人にも大切なものである。 佐藤春夫訳 つみ草『我が一九二二年』 高橋新吉 ﹇皿﹈『ダダイスト新吉の詩』 北原白秋 落葉松『水墨集』 露『水墨集』 知里幸恵訳 梟の神の自ら歌つた謡『アイヌ神謡集』 宮沢賢治 序『春と修羅』 永訣の朝『春と修羅』 鈴木信太郎訳 都に雨の降るごとく『近代仏蘭西象徴詩抄』 山村暮鳥 春の河『雲』 おなじく﹇雲﹈ 『雲』 北川冬彦 瞰下景『三半規管喪失』 八木重吉 草に すわる『秋の瞳』 萩原朔太郎 こころ『純情小曲集』 旅上『純情小曲集』 利根川のほとり『純情小曲集』 小出新道『純情小曲集』 堀口大学訳 ミラボオ橋『月下の一群』 地平線『月下の一群』 シヤボン玉『月下の一群』 耳『月下の一群』 佐藤春夫 海の若者『佐藤春夫詩集』 北川冬彦 椿『検温器と花』 平原『検温器と花』 ラツシユ・アワア『検温器と花』 吉田一穂 母『海の聖母』 日本名詩選2 ﹇昭和戦前篇﹈ 49 八木重吉 母をおもふ『貧しき信徒』 素朴な琴『貧しき信徒』 草野心平 秋の夜の会話『第百階級』 高村光太郎 樹下の二人『現代日本文学全集』 あどけない話『現代日本文学全集』 ぼろぼろな駝鳥『現代日本文学全集』 安西冬衛 春﹇てふてふが一匹﹈『軍艦茉莉』 春﹇鰊が地下鉄道を﹈『軍艦茉莉』 北原白秋 水上『海豹と雲』 佐藤春夫訳 恋愛天文学『車塵集』 金子みすゞ お魚『美しい町』 大漁『美しい町』 星とたんぽぽ『空のかあさま』 積つた雪『空のかあさま』 私と小鳥と鈴と『さみしい王女』 北川冬彦 馬『戦争』 田中冬二 青い夜道『青い夜道』 ふるさとにて『青い夜道』 三好達治 乳母車『測量船』 雪『測量船』 甃のうへ『測量船』 中野重治 歌『中野重治詩集』 あかるい娘ら『中野重治詩集』 宮沢賢治 雨ニモマケズ『雨ニモマケズ手帳』 河井酔茗 ゆづり葉『紫羅欄花』 岡本潤 罰当りは生きてゐる『罰当りは生きてゐる』 西脇順三郎 天気『 』 mbarvalia 雨『 』 mbarvalia 旅人『 』 mbarvalia 萩原朔太郎 帰郷『氷島』 原民喜 碑銘『原民喜詩集』 谷川俊太郎 かなしみ『二十億光年の孤独』 二十億光年の孤独『二十億光年の孤独』 飯島耕一 他人の空『他人の空』 黒田三郎 僕はまるでちがつて『ひとりの女に』 賭け『ひとりの女に』 そこにひとつの席が『ひとりの女に』 村野四郎 さんたんたる鮟鱇『抽象の城』 中村稔 凧『樹』 吉岡実 静物『静物』 鮎川信夫 死んだ男『鮎川信夫詩集』 会田綱雄 伝説『鹹湖』 高野喜久雄 独楽『独楽』 吉野弘 奈々子に『消息』 初めての児に『消息』 『消息』 I was born 茨木のり子 六月『見えない配達夫』 わたしが一番きれいだったとき 『見えない配達夫』 吉野弘 夕焼け『幻・方法』 村野四郎 鹿『亡羊記』 石垣りん 私の前にある鍋とお釜と燃える火と 『 私の前にある鍋とお釜と燃える火と』 黒田三郎 夕方の三十分『小さなユリと』 新美南吉 貝殻『新美南吉代表作集』 高田敏子 橋『月曜日の詩集』 関根弘 この部屋を出てゆく『約束したひと』 石原吉郎 位置『サンチョ・パンサの帰郷』 黒田三郎 紙風船『もつと高く』 高見順 青春の健在『死の淵より』 吉本隆明 佃渡しで『模写と鏡』 山之口貘 処女詩集『鮪に鰯』 三木卓 系図『東京午前三時』 高田敏子 布良海岸『藤』 谷川俊太郎 朝のリレー『谷川俊太郎詩集』 新川和江 わたしを束ねないで『比喩でなく』 ふゆのさくら『比喩でなく』 石垣りん シジミ『表札など』 表札『表札など』 くらし『表札など』 幻の花『表札など』 崖『表札など』 菅原克己 マクシム『遠くと近くで』 吉増剛造 燃える『黄金詩篇』 大木実 前へ『冬の仕度』 谷川俊太郎 生きる『うつむく青年』 かっぱ『ことばあそびうた』 いるか『ことばあそびうた』 吉野弘 虹の足『虹の足』 新川和江 歌『土へのオード 』 荒川洋治 見附のみどりに『水駅』 谷川俊太郎 芝生『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』 高田敏子 小さな靴『むらさきの花』 吉野弘 生命は『北入曽』 茨木のり子 自分の感受性くらい『自分の感受性くらい』 吉野弘 祝婚歌『風が吹くと』 石垣りん 空をかついで『略歴』 井坂洋子 朝礼『朝礼』 会社の人事『会社の人事』 中桐雅夫 崔華國 洛東江『驢馬の鼻唄』 入沢康夫 未確認飛行物体『春の散歩』 石垣りん 洗剤のある風景『やさしい言葉』 永瀬清子 あけがたにくる人よ『あけがたにくる人よ』 13 平原一良撮影
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