「防ぐ+捕獲」ではもったいない! 相乗効果を狙った「防除柵 捕獲」 「防いで、獲る」といっても、単に防除柵を設置する一方、防除柵と無関係な場所で個別に罠を仕掛けるこ とも考えられます。 しかし、防除と捕獲を別個に考えるのは、大変もったいない話です。 入りたい圃場に防除柵ができれば、動物たちは柵に沿って歩きまわるのはよく観察される行動です。 捕獲にこの習性を利用しない手はありません。 防除柵の中には動物が欲しいものがあって、動物はどこか入れるところがないだろうかと柵のまわりを歩い て探すのですから、罠単独で捕獲を目指すよりも捕獲ゲートを通過する可能性が高まります。 もっとも、柵の周囲というのは、メンテナンス作業用の通路でもありますから、くくり罠というのは好ましくない でしょう。 具体的には防除柵を利用して罠に誘導する「誘導型」(図①②)や、防除柵自体を捕獲罠の一部として利用 する「防除柵利用型」(図③)などのレイアウトが考えられます。 また、防除柵と独立した罠に、電気さくで誘導するという手法も有効です。(図④) ※ G は落とし扉等の捕獲用ゲート ※ 緑色部分がワナ内部 図① 図③ G G G 畑 畑 図② G 図④ 動物の動き 畑 動物が行きたい方向 電気さく 罠 ①②は柵内部に侵入したつもりが、そこは罠の中だった、というタイプ。 ③は、柵沿いに入り口を探しながら歩いているうちに、罠の中に入ってしまった、というタイプです。 ③のタイプは、防除柵と並行して2重にフェンスを張ることになります。 単に捕獲するならば、くくり罠やドロップネット等様々な方法が考えられますが、防除柵の設置と絡めてと いうことになれば、防除柵を利用した「囲い罠」か「大型の箱罠」という選択が自然です。 また、図③のようなレイアウトで罠の長さを大きくとるロングドロップネットも有効でしょう。 3 ■くくり罠 もっとも一般的な罠のひとつが、くくり罠です。 設置場所など、ある程度の熟練を要する部分もありますが、 広く利用されています。 キタハラで扱うくくり罠は、足首付近を締めるのではなく、跳ね 上がって締めるのが特徴です。 ■箱罠 キタハラオリジナルくくり罠 獲ルネード この罠も定番といえるでしょう。 猪用の箱罠は各地で工夫を凝らした色々なタイプが製作されており、北海道のキタハラがあえて取り 扱う意味は薄いと考え、ラインナップに入れていません。 その代り、キタハラでは中型哺乳類用の箱罠をご用意しました。 特に外来種であるアライグマ、ヌートリア、マングースなどの捕獲にご利用ください。 折りたたみ式の モデル Aタイプ 少し大き目のLT5型(折りたたみ不可) ■ドロップネット 近年注目を集めたドロップネットですが、1辺10数メートルの正方 形が定番のようです(左下図参照)。 3ページで触れた防除柵沿いに設置するロングドロップネットなら、 防除柵を有効に活用できます(右下図参照)。 ドロップネットは様々な面で柵沿いの細長いデザインの方が有効 ではないか、とも思われますが、実はこのタイプ、まだ実践で使わ れたことはありません。 近日試験設置をした結果をみて、成果をお知らせさせていただきます。 * 標準的なタイプ * ロングドロップネット 捕獲可能領域(黄色部分) 餌 高さを保つ支柱 ※実線部は側面網あり 畑 ↓ 防除柵 ↑ 罠用に設置 ・幅が狭いので、ネットの高さを保つ支柱が不要 ・柵沿いは通路になりやすく、誘引が楽 ・開放部分を先に塞ぐ(ネットが垂れる/立ち上がる)仕掛けを 併用すれば、捕獲可能領域はさらに広がる (標準型では開放部分が大きすぎて塞ぐのは困難) 5 ■落とし扉等の仕掛けをどのように作動させるか、最近は様々な方法があります。 ① 原始型 トリガーに接続されたロープ引っ張るなどして作動させる方法。 当然見張りが必要ですが、任意のタイミングで捕獲できます。 ② 動物依存型 動物が餌をとったり、板を踏んだり、罠の中で移動中に仕掛けのワイヤーを引っ掛ける ことなどをきっかけにして作動させる方法。くくり罠はほぼ必然的にこの型になります。 箱罠もこのタイプが主流でしょう。 見張りは不要ですが、動物の行動に依存するので作動しない場合があり、また複数頭 数の捕獲には向きません。 ③ 作動不要型 ワンウェイゲート等、「入ったら出られない」タイプです。 入り口が開放されていないのが一般的ですので、罠に入る確率が下がります。 ④ カウンター式 センサーで一定頭数をカウントしたら作動するタイプ。 センサーの誤カウントをいかに減らすか、が課題です。 ⑤ タイマー式 一定の時間に作動させるタイプ。 何時に落としたら効率が良いか観察が必要で、また動物が入らなくても設定時刻に作 動してしまいます。 ⑥ 遠隔操作 現地の映像・画像を確認して、遠隔操作で作動させます。 設備費も掛かるうえ、画像の通信費も掛かります。 (静止画の場合はコストはかなり押さえることが出来ます) ④⑤と違い、自宅で可能とはいえ、見張りが必要です・・・・・・が、 ⇒センサーを使って、告知も可能! 例えば・・・ 設定頭数を超えたらメールが来る、 仕掛けが作動したらメールが来る、等々 これらの組み合わせの中で、キタハラのおススメは次の3点です! A: センサー作動+メール告知 見張る必要はなく、獲れたらメールでお知らせ。 コストパフォーマンス最強はこのタイプではないでしょうか? 画像なしでの告知メールは、通信費も気になりません。 B: 静止画を確認して、遠隔操作 動物がいることを確認して作動させたい、でもコストはかけたくない、という方にお勧めです。 画像を取得するのに通信のタイムラグがありますが、このタイプで沢山捕獲している実績があり、心配 には及びません。 C: B+センサー+メール告知 Bタイプは見張りをする時間を自分で判断しなければなりません。 多少コストは上がりますが、センサー感知でメール告知されるようにすれば、無駄な見張り時間が無く なります。 6 Aタイプのイメージ センサーが感知した頭数が、設定の頭数 を超えると扉が落ちる仕掛けです。 例えば、3頭で落とし扉が落ちる設定に した場合、2頭までは扉は落ちません。 落とし扉→ ←発信装置 センサー& カウンター メール発信! 設定した頭数がいることを認識すると扉が落ちます。 扉が落ちると、お知らせメールが発信されます。 メールを受信したら、必要に応じて現場に駆け 付けます。 Cタイプのイメージ メール発信! 赤外線カメラ 設定頭数が罠に入ったいるとセンサーが感知すると お知らせメールが発信されます。 3頭感知 しました シャッター ON ! パソコン、スマホ等で メール受信 カメラ作動! メールの受信者はインターネットで カメラを作動させ 赤外線カメラの静止画像を確認します。 動物確認! 動物が確認出来たら、インターネットを 使った遠隔操作で扉を落とします。 トリガー 作動! ゲート落下! 画像は好きな時に、あるいは設定した定時 に撮影することもできます。 ゲートを落としたら、捕獲ができたかどうか、 もう一度写真を撮って確認できます。 7 動物によって対策が異なるのは当然ですが、同じ動物でも、ある地域で成功した対策が他の地域 では通用しな い、という事態も珍しいことではありません。 地形、使用する人、その他の様々な条件によって、ベストな対策は異なるものです。 ①対象となる野生動物を防除する柵の機能において重要な点は何か 動物の特性に応じた対策が必要なのは当然です。 ただ、自然を相手にする以上100パーセント満足な対策というのは困難です。 また現実には ②施工の容易さ・・・・どの程度の労務負担を予定しているか。 ③設置後の管理の容易さ・・・・・・どの程度の管理が可能か。 ④コスト ⑤耐用年数 などを考慮する必要もあります。 ②∼⑤などの求められる条件の中で、①を検討しなければなりません。 その際は ⑥地形他の特殊事情への対策 。 を考慮して検討すべきなのはもちろんです。 キタハラでは様々な条件に対応できるよう、性質の異なる豊富な資材を使い分けます。 。 一般に個人で設置する場合は、④②③などが重要な要素となり、公共事業等の場合は⑤が重要 になって来ます。 ①は いずれの場合にも最重要項目ですが、 特に公共事業の場合、仕様の合理性を説明できな ければなりません。 また、部材 強度や安定などの構造計算の裏付けが必要になってきます。 ★かつて大規模な獣害防除柵事業において、会計検査院によって過剰設計で数億円の無駄遣いを指摘される という 「事 件」がありました。 また、過小設計が論外なのは当然です。 キタハラでは、必要に応じて与えられた条件毎に構造計算による検証を行っており、適正な設計(部材 強度 ・ 根入れ長さ)であることを示します。 ◇防除柵の機能的な分類◇ 防除柵は、機能面に着目して、物理柵と心理柵、そしてこれらの併用柵にわけることがあります。 物理柵は文字通り物理的に動物の侵入を防ごうとするもので、金網、樹脂網、トタン等が挙げられ、 金網もパネル状のものや、ロール状に巻いてあるタイプがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。 心理柵は電気さくがほとんどですが、この冊子でご紹介する「カラスハイレマ線」も心理柵の一種です。 忌避剤で防除を試みる例も見られまが、継続的に忌避効果が認められる忌避剤は今のところ存在し ないことは多くの研究者が表明するところです。音や光についても同様です。 もっとも、動物の侵入要求度がさほど高くない場所では、動物に反応して音や光を出す装置が機能 しているケースは存在します。 これらに比べ、電気さくは適切に使われていれば慣れることはなく、高い忌避効果が得られます。 この点は誤解も多いため、電気柵のページで詳しく解説したいと思います。 9 防除柵も捕獲罠同様、一概に何がベスト、とは言えません。 前ページにもありますが、効果・効果の継続・耐久性・価格・施工性・メンテナンス・景観等の要素に 優先順位をつけて、どのタイプがふさわしいか個別に検討することになります。 タイプ別に特徴を見ていきましょう。 1.金網柵(猪・鹿) 金網柵も、①ロール式(フェンス)②パネル式(溶接金網・ワイヤーメッシュ)に分類されます。 ロール式は、細いワイヤーを編んだもので、1巻10m∼100mのロール状に巻かれた金網です。 パネル式は、1枚幅2.5m前後のパネル状に溶接された金網で、1枚ずつ設置していきます。 ※この分類は、補助金の上限額に影響があります。 例えば鳥獣被害防止総合対策交付金では、ロール式の方が上限単価が高く設定されています。 ①ロール式は、効果・持続性・耐久性・メンテナンスの面での優位性が売りです。 金網が支柱を引っ張るので、コーナーや端末にはしっかりした杭が必要になります。 丈夫であることと引き換えに施工性は劣りますが、セパレート杭の採用等でその差は縮まりました。 また直線部の金網の設置では、むしろ長いロール式の方が施工が容易な面もあります。 更に凸凹の多い地盤へのなじみ、曲がりの多い設計での資材ロスの面でもロール式に分があります。 端末 直線部 コーナー 端末・コーナーに引張荷重が掛かる(イメージ:赤い矢印)ため、丈夫な杭、十分な根入れが必要。 必要に応じて控え柱も設置します。 「手間はかかっても、容易に壊れない」というタイプ。 ②パネル式は、構造によってその特徴は大きく異なりますので注意が必要です。 ①に比べてワイヤーが太いので、景観に配慮したい場合には使いにくい柵です。 (ⅰ) 典型的な構造は、軽量の溶接金網と杭を使ったもので、施工性が最大の売りです。 柵の構造自体で杭に負荷が掛からず、「細い杭で根入れが短くてもとりあえず自立する」というパネル 式のメリットを活かした構造といえます。 施工性の代償として、動物の衝突等の荷重に対しての強度は低くなります。 「とりあえず自立」 と書いたのは、外力が掛かった時には杭が折れたり、曲がったりしやすく、都度の補 修が前提になるからです。 構造計算など設計根拠が不要な環境で、施工性を最重視した場合に最適な柵といえます。 10 便宜上、パネル毎に色を変えてあります。金網引張がないため、根入れを短くして施工性を追求。 「施工性優先、強度は軽視して破損の都度補修して使う」というタイプ (ⅱ) ワイヤーや杭の強度を高めてこれらの弱点を克服したメッシュ柵もありますが、逆に施工性や価格 の優位性を失ってしまい、特徴はロール式の金網柵に近づいてきます。 このタイプは杭もしっかりしたものを使い、パネルもリブ加工等で強化されたもの等が使用されます。 パネル式なので金網の引張はなく、端末やコーナーでも控えを付けて強化する必要はありません。 リブ加工 リブで強化した金網を簡易な杭で設置することは可能ですが、せっかく丈夫な金網を使った意味がなくなってしまい ますので、しっかりした杭を使います。 1枚ずつ設置可能というパネルのメリットは残りますが、施工性が良いとは言えず、ロール式同様「手間はかかっても、 容易に壊れない」というタイプです。 2.樹脂ネット (鹿) 樹脂ネットも有力な防除柵ですが、ステンレス線入りのものでないと簡単に食い破られるので注意が 必要です。 施工性が良い半面、耐久性は金網より落ちます。 森林の幼木を守る場合など、設置期間が数年しか予定されない場合に適しています。 3.電気さく (猪・鹿・熊ほか) 電気さくは価格、施工性に優れ、しっかりしたメンテナンスを条件に効果も十分なものが得られます。 問題はそのメンテナンスができるかどうか、の一点でしょう。 管理体制がしっかりしているのであれば、コストパフォーマンスでは断トツの防除柵。 実はその管理も、使う電牧器の能力によって大きな差が生じるのですが、詳細は18ページ以降の電 気さくのページに譲ります。 基本的には物理的に防除する機能はありませんので、防除柵を捕獲罠の一部として使う場合には、 適していません。 (逃げるのに命懸けの動物に対して、心理的効果だけでは対抗できませんので) 逆に、設置・移動が簡単で安価ですから、捕獲施設に動物を誘導するためには最適な柵といえます。 4.その他 (猿ほか) これらの他に、金網や樹脂ネットに電気さくを併用するタイプや、樹脂ネットや金網そのものに電気を 電気を流してしまうタイプ(電牧ネット/電牧ギャビオン)もあります。 サル対策は物理的な柵だけでは困難であり、かといってワイヤーだけの電気さくでは信頼性が乏しく、 併用タイプや電牧ネットが標準的です。 <電牧ネットのイメージ図> プラスとマイナスに触れることで感電! ステンレス編込(通電部+)⇒ ※緑色部分は絶縁部 プラス同士結束 ステンレス編込(‐)⇒ ステンレス編込(通電部+)⇒ ステンレス編込(‐)⇒ マイナス同士結束 11 物理柵のメイン資材、網と杭もそれぞれ特徴を持った豊富なバリエーションがあります。 ◆ 金網 (ロール式) <亀甲型> ①大型亀甲金網 60mm、80mmといった大型の亀甲金網は、網目のズレ強度が強く、また地面によく 馴染む構造ですので、フェンス下部を折り返す場合や、また溶接金網等折り返しの 無いフェンスの下部補強にも最適です。 網目が細かいので、サル柵の定番でもあります。 <格子型> ②マルチフェンス(ヒンジロック) 伝統的な格子型の金網です。 交差部のズレ強度はさほど強くありませんが、 鹿用のフェンスとしては十分に機能 します。お手頃な価格も魅力です。 ③ソリッドロック フェンス マルチフェンスの弱点を解決した格子金網です。 交差部のズレ強度は大幅に上がり、 鹿柵の世界スタンダードとも言えるフェンスで す。 北海道ではこのタイプの鹿柵が、3000km以上も設置されています。 ④エックスフェンス ③の進化版で交点強度はさらに上がり、またロック部分のワイヤーの量が③に比べ て格段に少なく、軽量化にも成功。 また一方の面は結束部にワイヤー切断面がな く、動物に優しい造りになっています。 ◆ 金網 (パネル式) ⑤ワイヤーメッシュ(簡易タイプ) 一般的なワイヤーメッシュ(溶接金網)。 ワイヤー太さはφ3.2mm∼φ6mm、網目・高さ・幅は様々なバリエーションが可能 です。 ⑥ワイヤーメッシュ(強化型) リブの入ったワイヤーメッシュの強化型。 このタイプであれば、頑丈な支柱と組み合わせれば、ロール式並み、あるいはそれ 以上の強固なフェンスとなります。 ◇環境の変化と防除機能◇ 防除機能というのは、物理的であれ心理的であれ、環境によって大きく異なります。 例えば畑の周りに紐を1段張っただけでも、まわりに魅力的で無防備な畑があれば、防除効果は生じ得ます。 まわりの畑がすべて3mのフェンスで囲われてしまえば、1段の紐などは、何の役にも立たないでしょう。 また、例えば囲い罠に入ってしまったイノシシは、命懸けで脱出しようとしますから、防除柵で十分に機能して いたフェンスも破壊して脱出してしまうこともあります。 動物の潜在能力を考慮しても破られない柵を目指せば、極めて高いコストを払うことになってしまいますので、 当面予想される環境変化を想定して、それに対応した設計をするというのが現実的なところでしょう。 12 物理柵施工例(イノシシ) イノシシによる農業被害は、獣害の中でも最も深刻なものの一つでしょう。 電気さくは十分に効果的ですが、被害が多いだけに状況に合わせた適切な資材(特に電牧器)と管理が 要求されます。 個人の畑なら電気さくという選択も考えるべきですが、地域を囲う場合には、誰が管理する かという問題があり、メンテナンスの容易な物理柵の方が適していると言えます。 エックスフェンス もっとも結束強度の強い格子金網であるエックスフェンスは、 イノシシ用フェンスの定番です。 キタハラの標準仕様は、1.2mの高さに、30cmの折り返し。 強く緊張して張れば、見栄えも良く頑丈なフェンスが出来上 がります。1.2mまで跳び越えるという実験結果がありますが、 特殊環境下であり、防除柵としては1.2mで間に合います。 大型亀甲金網 線量が多く重量と価格面で不利ですが、亀甲金網も根強い 人気です。エックスフェンスに比べワイヤーが柔らかいので、 地際の折り返し、 緊張したワイヤーとアンカーピンでの押さ えでイノシシの「潜り」に備えます。 ワイヤーメッシュ ワイヤーメッシュは、様々な網目、線径のものが各地で利用 されており、 施工性から軽量なものが好まれる傾向があるよ うです。しかしイノシシの柵に対する執拗な攻撃を考慮する と、ワイヤー径φ5mm、 杭の板厚1.6mm以上欲しいところ です。 リブ付きの強化型ならより安心です。 ◇シカ防除を兼ねる場合◇ 大型亀甲金網+マルチフェンス イノシシのいる場所にはシカもいることは珍しくありません。 シカ対策も兼ねるとなるとフェンス高さは2m前後となり、線 量の多い大型亀甲金網では重量・コストが嵩みます。 イノシシの攻撃は 、数10cmの高さまでに限られることを考 えれば 、上部に頑丈なフェンスを使用するのはもったいな い、ともいえます。 そこでシカ防除を兼ねる場合には、写真のように下部にイノ シシ用金網(写真は亀甲金網)、上部に安価なマルチフェ ンスの2段張りが最高のコストパフォーマンスを発揮します。 ◇金網折り返しについて◇ イノシシがフェンス下部から侵入しないように金網を折り返し、数10cm地面に垂らしてアンカーで固定する方法は 一般的に行われています。この冊子のVol2では折り返しを薦めながら、環境によっては折り返しなしという選択も ある、というような記述をしましたが、昨今のイノシシを取り巻く状況を見ると(どこの畑も防除柵がある)イノシシの 侵入要求度は高く、折り返しは必須といえる状況になっています。(Vol2の見解を改めます) なお、折り返しのないフェンスに後付けで地際を強化するには、亀甲金網が凹凸へのなじみが良く、最適です。 14 物理柵施工例(シカ) シカの防除もイノシシ同様電気さくも効果的ですが、地域を囲う場合には物理柵の方が適しています。 侵入の時にジャンプをすることは稀ですが、2mもの跳躍力がある以上、それに対処しておく必要はあり、 フェンスの高さも2m以上あったほうが良いでしょう。 ソリッドロックフェンス 北海道の事業では工事発注の場合、防腐木材を使うことが 多く、施工には重機を使います。 金網を強く緊張して張れますので、杭の間隔を7.5m程まで 広げることが可能で、資材数を節約できます。 樹脂ネット 樹脂ネットは設置の簡単さが売り、弱点は強度・耐用年数 です。特に積雪地では冬季間には撤収しなければならず、 設置が簡単といっても毎年2回の作業となると、結構な手間 になってしまいます。 キタハラは秋春の管理を容易にする設計も提案しています。 マルチフェンス 農家さんが自力で施工する場合には、鋼管の杭を人力で 打ち込む施工方法が主です。 金網は色々ありますが、イノシシと違って、フェンスに対する 攻撃が激しくありませんので、コストを優先して、ズレ強度で 他に劣るマルチフェンスを使うことも多いのです。 ワイヤーメッシュ シカ用のワイヤーメッシュは、線径が細ければ相当貧弱なもの になってしまい(例えば線径φ3.2mmで高さ2.0mのパネルは、 フニャフニャです)、線径を太くすれば相当重量が嵩んでしま い、施工性のメリットも薄くなってしまいます。 何を重視し何を犠牲にするか、という点についてコンセンサス の一致をみてから設計を決定しないと、「こんなはずでは・・・」 ということになりかねず、要注意です。 環境色(アースカラーフェンス) 寺社仏閣まわりや、自然公園内などでは景観に対する配慮 が求められます。 フェンス、杭ともに茶色く塗装されたフェンスは、写真の通り、 非常に目立ちにくく景観を壊しません。 15 物理柵施工例(サル) サルを物理柵で防ごうと思えば網ではなく壁になってしまい、とても大がかりなものになってしまいます。 そこで電気さくを併用、または網自体に電気を流す、という方法が標準的です。 <亀甲金網+電気さく> <ワイヤーメッシュ+電気さく> 上の二つは、サル柵の基本形ともいえる金網+電気さくという仕様です。 電気さくも、単純に網の上に配置してしまうと、運動能力の高いサルは一気に柵を登り切ってしまうことがあ ります。このため、写真のように、電気さく部分に角度を付けて忍び返し状に配置し、サルが電気に触れる 機会を少しでも高めます。 更に、電気さくのワイヤー間隔は広すぎるとサルの侵入を許しやす く、狭すぎると大漏電の原因にもなります。 そこで左写真のように、「電牧線カバーネット」 を併用することで、 多少ワイヤー間隔を広くとっても、サルの侵入を許さなくなりました。 なお、このネットはヘタな材質の網を使うと雨の日の漏電が激しく、 使い物になりません。 <電牧線カバーネット> <電牧ネット+電牧ネットパイプ> 左写真は樹脂ネットに部分的にステンレスを編み込み、そこに 電気を流してしまうものです。 草が絡むと管理が大変ですので、しっかりと防草シートを敷い ています。 樹脂ネットが金網より優れているのは、不安定で、「登りにくい」 という点で、滞在時間が長い分、電気ショックを受ける可能性が 高まります。この性質をより生かすためには、 ネットを杭からなる べく離すことが重要です(小さい写真参照)。 電牧ネットの弱点は、下草、特につる植物による漏電です。 上では防草シートを使いましたが、左写真は下部に金網を 使って漏電を減らしています。 <電牧ネット+亀甲金網+グラスポール> 16 また写真では網を杭から離すのではなく、柔らかいグラスポール を使って不安定さを演出しています。 やはり猿がもたつくため、猿にパルス電流のショックを与える 可能性を高めます。 カラスによる農作物被害は、鳥類の中では断トツの1位であり、鳥獣害全体でも、サルを上回り、イノシシ、 シカに次ぐ額となっています。 「頭のいいカラスに継続的な効果がある対策はない」 「カラスはしょうがない」 と諦めていないでしょうか? そんな方々にぜひ試していただきたいのが、キタハラの カラスハイレマ線 です。 見えない恐怖? カラス対策用品も色々ありますが、「これだ!」と言えるものはなかなか見当たりません(でした)。 防鳥糸を張って防ぐ方法を試した方も多いかと思います。 その際は、「なるべく目立つ」ことを重視されたのではないでしょうか? しかし頭の良いカラスは、見える防鳥糸に対してはその隙間から侵入する知恵があるようですし、隙 間を無くすほどに防鳥糸を張るのは費用・労力とも大変なことです。 そこで山梨県総合農業技術センターでは、「むしろ防鳥糸が見えない方が良いのでは?」と考え、 実験に実験を重ねた結果、「艶消し黒」「極細」のワイヤー(防鳥糸)がカラス防除に極めて有効である ことが、研究員の本田剛氏によって付きとめられました。 その成果を製品化したのが、 カラスハイレマ線 なのです。 畑に降りようとするカラスが見えないワイヤーにぶつかることで、カラスは恐怖を覚えるのでしょうか、畑 に降り立つことが出来ても、餌を探すこともせず、ほぼタッチ・アンド・ゴーで飛び去ってしまうのです! そして、カラスの体の一部に触れさえすればこの恐怖心は喚起できますので、縦横2.5m間隔の格子 状に設置すれば十分な効果が得られることがわかりました。 カラスハイレマ線には心理柵的な効果が生じていると考えられます。 カラスは大変賢い動物ですが、心理柵というのはむしろ賢い動物ほど 効果があるものです(賢くない蛇などは、何回も感電しながら、果敢に 電気さくを乗り越えようとします)。 発売後1年半を経過しても、今のところ「慣れて入るようになった」という 声を聞くことはなく、心理的効果は継続しているようです。 カラスハイレマ線 「目立たない」が売りですので、パンフレット用に適した現場写真がない(載せても見えない)のが残念で すが、設置のポイントは以下の通りです。 1 横からの侵入を防ぐものではなく、側面は防鳥ネット等で塞ぐ必要があります。 2 ワイヤーを支える支柱は、段ポール等の柔らかいものを使用してください。 (ポールが硬いとワイヤーが切れたり、カラスを傷つけてしまいます。) 3 実験では2.5m格子、高さ1.7mに設置することで高い防除効果が確認されています。 4 なお、小鳥やハトには効きません。 「この手の新しい手法は、字面だけ読んでいても本当なのか嘘なのかさっぱりわからない、それなのに 価格もそれなりにする商品を買うのはどうも・・・」という声にお応えしまして、従来の1巻1000mだけでは なく、200m巻、500m巻も発売することになりました。 是非お試しください! 17 ◆基本のき 電気さくは獣害防除、または放牧等で広く使用されていますが、まず簡単にその仕組みを見てみましょう。 電気さくは、100Vやバッテリーを電源とする電牧器が発生させるパルス電流を電牧線に流し、これに触 れた動物にショックを与えて、田畑などへの侵入を防ぐものです。 電圧は1万Vにも達しますが、法律で定められた「電気さく」を使用する限り、危険なものではありません。 電源 電牧器 電気ショック ‐端子 電牧線 +端子 アース 漏電 図のように電牧器のプラス端子は電牧線に接続されており、発生したパルス電流は電牧線に伝わります。 一方マイナス端子はしっかりとアースします。(十分なアースは電気さくを効果的に使う最重要ポイント!) 。 そして、電牧線と地面(アース)が伝導体でつながると、この伝導体をスイッチとして「電牧器⇒電牧線⇒ 伝導体⇒地面⇒アース⇒電牧器」という回路がつながりますが、この時に伝導体が動物であれば、動物は 強いショックを受け、以後電気さくに近寄らなくなるわけです。 伝導体が草などであれば、これが電気さくで言う「漏電」という状況になり 、漏電が多ければ多いほど(草 がつけばつくほど)電牧線と地面の電位差が小さくなり、電気さくの効果は薄れてしまいます。 。 漏電は電気さく最大の敵ですから、システム自体に漏電の原因を作らないことが重要です。 そのためには、電牧線を支えるポールに絶縁性の高い物を使うか、碍子(ガイシ)を使って電牧線を流れ る電流がポールに伝わらないようにしなければなりません。 時々、木柱に直に電牧線を巻きつけているのを見かけますが、ごく特殊な木材を除いて漏電の原因になり ます。 ◆電気さくの効果 「電気さくは心理柵」と言われることがあります。 これは、電気さくは物理的には動物が超えることができる物であっても一度電気ショックを経験した動物に とっては「近寄りたくない」という心理的バリアを生じさせて侵入を防ぐことに本質があることを意味するもの です。心理柵のメリットは、必ずしも物理的に侵入を許さない構造でなくてもよい、端的にいえば物理柵に 比べ資材費を大幅に軽減できることにあります。 ただその代償として、心理的効果を持続させるための保守管理が要求されるのです。 また電気さくを使用するにあたり絶対に知っておいていただきたいのは、防除効果は100%とはいえない、 ということです。心理的な効果は絶対的ではありませんし、物理的機能が弱いだけにハプニング的な侵入 もあり得ます。 また管理が悪く心理的効果を発揮できないことも考えられます。 とは言え、正しく設置された適切な電気さくを適正に管理すれば、そう簡単に動物の侵入を許すものでは ありません。物理的なフェンスよりもかなり安価な資材で、100パーセントに近い効果を上げることは十分に 可能なのです。要はコストパフォーマンスの面で非常に優れた獣害対策と言えます。 とすると、「正しく設置された適切な電気さくとは何か?」「適正な管理とは?」が問題になってきます。 (⇒次頁へ) 18 ◆適切な電気さく・正しい設置 チェックポイントは沢山ありますが、概ね以下の条件を満たしていればよいでしょう。 ①距離にあった電牧器を使用すること。 適正な距離はメーカーの言うことを鵜呑みにできません。(次々ページ「誤解その4」をお読みください) 目立った漏電のない状態で少なくとも4000V以上の電圧が計測される必要があります。 漏電して4000Vまで下がったら草を刈らなければいけない時期ですから、実際には7000∼8000Vくらい 欲しいところです。 ②対象動物に合った設計であること 次ページに施工例を載せていますが、対象となる動物によって、適切なワイヤー高さが異なります。 環境によって設計を変えることもありますので、ご相談ください。 ③地形に合った設置をすること 動物に合った高さや段数で設計しても、地面の凹凸によって大きな隙間ができたり、電気さくの外側が高く、 相対的に電気さくが低くなってしまっては動物に対して隙を見せることになります。 地なりに高さを修正したり、部分的に柵の高さを増やすべき場合もあります。 ④アースが十分なこと 厳密にいえば接地抵抗を測るべきなのでしょうが、メーカーが電牧器毎に用意しているアースを、説明書 に従って設置すればほとんど問題ないと思われます。 3本打つべきところを1本にしたり、指定の打込み 長さを無視して30cm程度打込んだだけだったり・・・・とアースを甘く見ている人は意外に多いようですが 、 アースは電気さくで大変重要な意味を持ちますので、しっかりと設置してください。 ⑤絶縁すべきところはしっかりと絶縁すること 設置後の漏電管理が重要なのは当然ですが、システム自体に漏電の原因があるのでは論外です。 例えば、木柱にポリワイヤーを巻きつけているのを見ることがありますが、碍子が必要です。 ◆適正な管理 適正な管理とは、簡単にいえば前項の①∼⑤など適切な電気さくの正しい設置を維持することです。 その中心はなんといっても漏電管理です。 機械の能力によって漏電時の電圧の下がり方は大きく異なりますので、どの程度の草の接触が許されるか は一概に言えません 理想を言えば、定期的に電圧をチェックして、4000Vに近づいたら草刈りをすべきです。 草の伸びる速度は季節によって、また植物の種類によって異なります。 昨日は漏電していなかったのに、今日は電圧が大幅に下がった等ということもあり得ますので、電圧チェッ クは毎日の日課にしてしまった方が良いかもしれません。 (彼岸花などはあっという間に伸び、水分たっぷりなので要注意です) 強力な電牧器を使用することで、草刈りの頻度は大きく減らすことが出来ます。 また、一定電圧以下になると警告してくれる資材や漏電場所の方向を示してくれるテスターなど、便利な 製品もいろいろありますので、これらを利用すれば、多少なりとも労力を軽減できるでしょう。 あわせて、次ページ「誤解その2」もお読みください。 19 電気さく施工例 電気さくは、18ページのイラストのように、①電牧器②アース③ワイヤー④杭が主な資材となります。 このほかに、杭には碍子やクリップがついて、ワイヤーを支えます。また電源が必要なのも当然です。 多くはバッテリーを電源として、ソーラーパネルで充電するタイプになっていますが、100V電源からとることも 可能です。(この場合は漏電遮断機を介することが必須の条件となります) 電牧器は前項で示した通り、必要な能力を満たす電牧器を使い、その機種に見合った電源、アースを使うこ とになりますが、ポールやワイヤーは、色々なバリエーションがあります。 <イノシシ用電気さく> イノシシは1.2mを跳ぶ能力がありますが、 心理柵である電気さく では20cm・40cmの高さにワイヤーを張るのが標準的です。 跳ぶことよりも潜ることを想定して、最下段のワイヤー高さを低くす ることが重要です。 電気さくは目立ってなんぼ ⇒イノシシは青色を認識する ⇒青く て幅広はイノシシに存在感をアピール、という三段論法で、イノシ シ用に開発されたブルーリボンワイヤーを使っています。 <シカ用電気さく> ちょっとワイヤーが目立ちませんが、シカ用4段張です。 シカは2mの柵を跳び越える能力がありますが、電気さくの場合、 1.5mの高さがあれば十分。 段数は、周りの環境によっては2段でも機能しますが、3段∼5段 張りが一般的です。 <ハクビシン用電気さく> ハクビシンは電気さく潜り抜けの名人です。 ワイヤーだけでは侵入を許してしまうことが多いのです。 右の写真は、電気さくに樹脂のネット(手前の白い亀甲状のネット) を併用したものです。 単純ですが、これだけで防除機能は大幅にアップします。 ワイヤー最下段10cm、10∼15cm間隔の3段、4段張りが標準で、 漏電管理はイノシシ以上にシビアですから、防草シートも積極的 に利用したいところです。 <耕作放棄地用電気さく> 耕作放棄地放牧は、単に牛などを飼うという以外に、動物の潜む 森林と、侵入したい田畑の間に緩衝帯を設ける意味もあり、また その森と放牧地の間には電気さくもあるので、2重の意味で獣害 対策になります。 牛などが下草を食べてくれるので、漏電管理も楽になるというメリッ トもあります。 この場合、脱柵も防ぐ必要から、ポリワイヤーではなく、高張力線 を緊張して張るタイプを使います。 高張力線の電気さくは、牧場でよく使われるもので、ポリワイヤー に比べて、物理柵的機能が期待できるのです。 20 電気さくに関しては、実際に電気さくを使っている人たちの中でさえも、多くの誤解が存在します。 大きく分けると、電牧器の適正距離、「慣れたら効かない」「電圧が高い電牧器は良い電牧器」などの性能に 関する誤解と、安全性に関する誤解、また「猪は夜行性だから夜だけONにすればよい」といった利用方法の 誤解があります。 誤解その1 電気さくは慣れたら効かない? 野生動物が電気柵に慣れることはありません。 慣れるのではなく、使っているうちに管理が甘くなり、適切な設置状態ではなくなってしまうから侵入を許し てしまう のです。電圧の低い電気さくでは、動物に「近寄りたくない」という心理的効果を与えることができ ないばかりか、舐められてしまいます。 こうなってしまっては、再び心理的効果を与えるためには、適切な管理状態に戻すだけではなく、以前より 段数を増やしたり、より強力な電牧器に変える等して柵そのもののバージョンアップも必要になります。 誤解その2 漏電管理が大変? 漏電管理を怠ることで適切な状態を保てなくなるのは確かですが、実際の状況に応じた強い電牧器を使え ば、下草刈りの頻度は大幅に少なくなります。 そのためには、500Ωの抵抗で5000V以上の電圧を出せる電牧器を使用すべきで、距離が長ければ更に 強い電牧器を使うべきです。 500Ωという抵抗値は、かなりの漏電量ではありますが、管理の甘い方であれ ば出現しがちな漏電状態です。 この程度の漏電で3000V 以下に電圧が落ちてしまう電牧器を使うのであ れば「漏電管理は大変」というのは正しいことになります。 しかし、それは強い電牧器(次項参照)を使うことで、劇的に軽減される問題なのです。 なお、上記基準よりも弱い電牧器も、ごく小さい家庭菜園や、常時管理可能な状況であれば有用です。 誤解その3 電圧が高いほど強い電牧器 電牧器の性能(強さ)と、電牧器の最大電圧は何の関係もありません。 最大12000Vの電牧器が、最大8000Vの電牧器よりも遥かに弱いということは、何ら不思議はありません。 電牧器の強さは、漏電や距離延長などの不利な条件下でどれだけ性能を発揮できるか、ということです。 無負荷で12000V出ていても500Ωの漏電で2000Vになってしまう電牧器より、無負荷8000Vしか出なくて も500Ωでは6000V出る電牧器の方が遥かに優秀だといえます。 どの程度の漏電まで許容できるかは、電牧器の最大出力エネルギーと概ねパラレルになります。 最大出力エネルギーが大きいほど、漏電に強いと考えても良いでしょう。 ただ、最大出力エネルギーは必ずしも公表されているわけではありません。 そこで、電牧器の強さを比較するのであれば、 1000Ω、500Ω、200Ω等の抵抗毎に電圧を測定し、電圧 の落ち具合を比較することになります。 誤解その4 電牧器の適正距離 電気柵の適正距離、実用距離、推奨距離等の言葉が各社のカタログ上記載されています。 これはその会社の製品の中での性能の優劣を表しているに過ぎず、他社製品との比較においては意味 を持つ数字ではありません。 何を以て適正・実用とするかの共通の基準がなく、主観が大幅に入るうえ、想定する条件(漏電量や使用す るワイヤー等)が異なるので、比較のしようがないのです。 全く同じ能力の電牧器について、実用距離500m用とする会社と、2000m用とする会社があっても不思議は ありませんし、実際にそのような現象が起こっているのです。 なお適正距離についても、電牧器の最大出力エネルギーと概ねパラレルになります。 より長い距離で使用可能な電牧器であれば、漏電管理も楽になる、ということになります。 21 誤解その5 電気さくは危険? 平成21年に淡路島で、電気柵に感電した男性が死亡する、という痛ましい事故がありました。 これは一部で「電気柵による死亡事故」とショッキングな見出しで報道されましたのでご記憶の方も多いで しょう。 しかしこの事故をよくよく検証してみると、 電牧器を使わないで100V電源から直接ワイヤーに電気を流す という危険な「電気柵」によって起こったものだとわかりました。 この冊子ではこれまで、「電気さく」という表現をあえて使ってきました。 これは、法律上電気さくは様々な要件を満たしたものに限って使用可能というスタンスであり、法律上の表 現が「電気さく」となっているため、要件を満たした電気柵という意味で、「電気さく」という言葉を使っている からです。 そして、適法な電牧器を使用することは、電気さくの重要な要件となります。 これを使用せずに、100Vの 電気を流すなどしたら、大変危険なものになります。 淡路島の事故は端的には電牧器を使わなかっために起こった悲劇だったのです。 この悲劇の背景には、おそらく「1万ボルトの電気さくが安全なのだから100Vは危険でない」 という誤解が あったと思われます。 しかし微弱な電流を、きわめて短い時間にパルス電流として流す電牧器と比較するべきではないのです。 そもそも生命にかかわるのは、電圧よりも電流の方が比較にならないほど大きな要素なのです。 ちなみに冬によく静電気でバチッ!となることがありますが、あの静電気は2万ボルトにもなるそうです。 あれで死んだという話は聞いたことがありません。 一方、体内を流れる電流の場合は、0.05Aでもかなり危険な電流量となり、0.1A もあれば死に至ります。 適切な電牧器を使用していれば、高電圧ですが非常に微弱な電流が瞬間的に流れるだけですので、そ のような心配は全くないのです。 実際に電牧器を使った電気さくではそのような事故は起きていませんし、今後も起こらないでしょう。 法律に従って、正しい「電気さく」を使う限り、電気さくは安全なものだと断言できます。 次ページの「電気さくの安全基準について」をご一読ください。 誤解その6 イノシシは夜行性だから、昼間は電気を切る これは広く行われている使い方です。 多くは、明るくなると自動的にスイッチが切れるセンサーによるものです。 キタハラでも、センサー付きで夜間に、あるいは昼間にスイッチが切れるというシステムを採用している機 種もあります。 機械は、「○○ルクスの照度になったらスイッチが入る」といったように、まさに機械的に作動します。 しかし相手は動物です。イノシシには何ルクスになったかどうかはわかりませんし、そもそもイノシシは、本 来的に夜行性ではないのです! 夜行性ではないにもかかわらず、人の目を避けて人の活動時間とずらして行動している結果として、畑に 侵入するのは暗くなってからが多いというだけなのです。 つまり、人の気配がない環境では、昼間でも畑を荒らすことはあるのです。 実際に電牧器のセンサーが働き、明け方スイッチオフになった後にイノシシが畑に侵入してしまうことがあ ります。 収穫直前にこのようなパターンで田畑を荒らされては、泣くに泣けません。 電気さくは可能な限り、24時間通電すべきなのです。 また、田畑に作物がない間に電気さくを撤収する場合はよいのですが、撤収せずに張りっぱなしで電気は 流さない、というのもありがちな光景です。 これは「誤解その1」 で述べたとおり、電気さくが動物に舐められるきっかけとなってしまいますので、 設置 している限り通電すべきです。 22 北原電牧の加盟する日本電気さく協議会では、法律に準じ、自主的に安全基準を設け、 「電気さくの安全使用」を呼び掛けています。 ◆設備基準の部 商用電源(AC100Vまたは200V)をそのまま直 接「さく線」に通電することは、多量の電気が 流れ、感電死のおそれがあり非常に危険です。 また、電気安全法上の法律違反ですので、絶 対になさらないでください。 雷発生時は、電気さく用電源装置や電気さく 線に近づかないでください。落雷がなくても、 高電圧がさく線に溜まっていることがあります。 人が容易に立ち入れる場所では、必ず「危険 表示板」を設置してください。法律上の義務で す。 電気さくのアースは、近くに柱上高圧トランス (変圧器)もしくは他の電気機器のアースがあ る場合、10m以上離してください。 ペースメーカーや除細動器を装着している方 は、電気さく線に直接触れないようにしてくだ さい。同機器に影響を与え、人体に重大な影 響を及ぼす可能性があります。 水道管やガス管をアースとして使用しないでく ださい。同管にショック電流が流れたり、管が 電気さくのパルス電気で錆を帯び、穴をあけ ることがあります。 有刺鉄線等「とげ」のあるものを電気さくの「さ く線」または「アース線」として使用することは 厳禁です。とげ部分が血管などに刺さり、 ショック電流が流れると、通常より大きなショッ クとなります。また。電気安全法上の法律違 反ですので、絶対に使用しないでください。 本器が異なる、隣接する電気さくを同時に触 れないよう、絶縁された遮へい物を置いてくだ さい。また、その遮へい物沿いの距離が2m 以上となるようにしてください。 ◆用品の部 商用電源(AC100Vまたは200V )より電源を獲る場合、元電源に一番近いコンセントに「PSEマーク 付漏電遮断器(高速型)」を使用してください。 法律上の義務です。 商用電源(AC100V )より電源をとる「電気さく用電源装置」には、PSEマーク付きのものを使用してく ださい。 23 本社 / 065-0019 札幌市東区北19条東4丁目2-10 TEL 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