特集 骨粗鬆症 かくれ 骨粗鬆症 5 (5) 監修 聖隷浜松病院骨・関節外科部長 森諭史氏 目次 第1章 なぜ骨粗鬆症に注目する? 第2章 骨粗鬆症患者はどこにかくれている ? 第3章 骨粗鬆症はどのように診断、 評価する ?① 第4章 骨粗鬆症はどのように診断、 評価する ?② 第5章 骨粗鬆症はどのように治療する ? 骨粗鬆症治療。その前に。 骨粗鬆症治療の大前提 骨粗鬆症の薬物治療は、 あくまでも、 骨強度の低下によ り骨折リスクが増大していることが明らかな例において、 そ のリスクをせいぜい3~5割低下させるにすぎない 骨粗鬆症の治療では、 栄養・運動などを含め、 骨強度を 維持・増加させる生活習慣を確立するとともに、 転倒など骨 強度低下に依存しない骨折危険因子を回避する生活習慣を すすめなければならない。 骨粗鬆症の予防と治療ガイ ドライン 2011年版. まずは、骨粗鬆症治療の効果について、 どのように評価すべきか? その評価法についてみていきましょう 治療効果の評価法 (骨量) •骨量測定は、治療効果の評価に広く用いられている。•骨量測定法は、 測定の部位と方法にいくつかの種類があり、治療効果の判定には各 測定法の特徴に留意して測定結果を評価することが必要。 測定上の注意 測定部位は、 腰椎正面、 または大腿骨近位部 (上記で測定不能時 : 橈骨、 または第二中手骨) 前回と同じ機種、 測定モード ・ 解析方法を使用し、測定部位 を一致させる 測定は、最低でも6ヵ月以上間隔を空ける 治療効果の評価法(骨代謝マーカー) 骨代謝マーカーでは、 MSC (最小有意変化) を超えた有意な変化 を認めて初めて 「効果あり」 と判定できる。 ①日間変動 ・ 測定誤差の少ない骨代謝マーカーでは、 M SC (最小有意変化) が小さくな るため、 軽度の変化でもM SCを超えやすい。 この種のマーカーとして、 血清BAP、 TRACP-5bがある。 NTX、 CTX、 特にそれらの尿中測定では変化率は大きいものの MSCが大きくなるため、 変化の程度のわりに特異性が低くなる。 変化率に加えて、 実 測値を基準値に当てはめて評価することも重要である。 変化率が有意でなくても実測値が基準範囲内に あれば、 骨代謝状態は正常範囲内であり、 骨密度の変化も併わせて薬物治療の効果の評価を行うことが 推奨される (グレードA) 。 ②骨吸収抑制薬の投与後は、骨吸収マーカーの変化に3ヵ月程度遅れて骨形成マーカー の低下が起こる。 このため、 投与後短期間での効果の評価には骨吸収マーカーが有用で、 投与後6ヵ月 を超えた時点での薬効評価では、 BAPなどの骨形成マーカーが有用と なる。 骨代謝マーカーの基準範囲の下限を下回る骨代謝回転の過剰抑制が長期間にわたってみられる場 合、休薬・中止を考慮する(グレードB) ③テリパラチドの薬効の判定には、P1NPの有用性が報告され、血清BAPでは過小評価に つながると報告されている。 骨粗鬆症の予防と治療ガイ ドライン 2011年版. もし、 骨代謝マーカーが有意な変化を 示さなかった場合、 次のことが考えられます。 骨代謝マーカーが有意な変化を示さないときの考えられる原因 1 測定の変動、 検体採取に関連した原因 ・ 治療開始時と測定時刻が異なっている ・長期にわたる測定のための誤差 (季節変動,患者の状態の変化など) ・測定間隔が短すぎた ・ 測定を依頼した検査センターが変更になった 2 不十分な服薬状況 ・食事とのタイミング(ビスホスホネート) ・服薬に対する不良なコンプライアンス 3 続発性骨粗鬆症を惹起する他の疾患の合併4 最近 発生した骨折が存在する 骨粗鬆症の予防と治療ガイ ドライン 2011年版. 評価法をおさえたところで、 治療法に入っていきましょう。 食事指導 (ビタミンD、 ビタミンK、 Ca)◎推奨 栄養素 摂取量 カルシウム 食品から700~800mg (サプリメント, カルシウム薬を使用する場合には 注意が必要である*) (グレードB) ビタミンD 400~800 IU (10~20μg) (グレードB) ビタミンK 250~300μg (グレードB) *カルシウム摂取と心血管疾患の関係が報告されている。これは、カルシウム薬やカルシウムサプリメントの使用により認 められたものであり、 食品として摂取した場合には、 そのようなリスク上昇は見られていない。 そのため、 サプリメント、 カルシウム薬として500mg以上摂取しないよう注意する。 ◎非推奨 とくに避けるべき食品はない しかし、リン、食塩、カフェイン、アルコールの過剰摂取は控えるよう心がける。 骨粗鬆症の予防と治療ガイ ドライン 2011年版. 運動指導 骨粗鬆症の予防、治療に運動指導は不可欠であり、運動介 入により、骨密度の上昇(グレードA) と骨折の抑制(グレード B)をもたらす。転倒予防を視野に入れた骨折予防に関する介 入試験が今後必要である。 骨粗鬆症の予防と治療ガイ ドライン 2011年版. 13 骨 骨粗鬆症の予防と治療ガイ ドライン 2011年版. 薬剤の種類は、 大きく分けて3種類 作用機序 骨代謝調整 骨形成促進 骨吸収抑制 薬効分類 カルシウム 活性型ビタミンD3 ビタミンK2 副甲状腺ホルモン(PTH) イプリフラボン 女性ホルモン ビスホスホネート SERM 平成25年の7月からさらにデノスマブが追加されます 骨 薬剤を投与したら その薬剤が効いているかを評価し、 薬剤の維持、変更、休薬などを検討 する必要があります。 臨床現場でよく目にする併用 療法について考えてみましょう。 骨粗鬆症の治療における併用療法 •臨床現場では、併用療法が行われているケースが多い • 作用機序の異なる薬剤を組み合わせることは理論的 • 現時点で、 併用療法に関するレベルの高いエビデンスは皆無 • 「費用対効果、副作用などを考えながら慎重に行うべき」 (2008年米国ガイ ドライン) • 「骨折予防のために複数の骨吸収抑制剤を併用しないように推奨」 (2010年カナダガイドライン) 併用療法の検証が望まれている 日本骨粗鬆症学会A-TOP*研究会より アレンドロネートと活性型ビタミンD3の 併用療法を検討した試験が発表された。 (A-TOP JOINT-02) *Adequate Treatment of Osteoporosis 骨 骨 骨 第5章 まとめ ・骨粗鬆症の治療は、食事、運動、薬物療法 などを総合的に行う必要がある ・薬剤は大きく3種類に分けられ、 患者の病態に よって使い分ける ・薬物療法は、 骨代謝マーカーを定期的に測定 し薬効を確認する ・併用療法は、 費用対効果などを鑑み慎重に 行う
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