第132回講演会(2015年 5月28日, 5月29日) 日本航海学会講演予稿集 3巻1号 2015年4月30日 岩手県沖合から放流した樽型漂流ブイ観測 正会員 ○嶋田 陽一(水産大学校) 非会員 児玉 琢哉(岩手県水産技術センター) 要旨 風圧流の影響を受けやすい漂流ブイを岩手県沖合から放流しその挙動特性を調べた。漂流ブイは南下し続 け、暖水渦の影響より 1 か月程度時計回りに回転し、黒潮及び黒潮続流によって東へ蛇行し、シャツキー海 台の西側にて 20 日程度概ね停滞する。その後、漂流ブイは東へ蛇行して天皇海山列の北緯 35 度辺りを通過 後に時計回りに移動し、海山の間を通るように南へ蛇行する。同海域においてプロパンガスボンベ等の漂流 物が確認されたことから漂流物の移動経路の一部の可能性が示唆される。 キーワード:航海・地球環境、漂流ブイ、風圧流、岩手県沖合、天皇海山列 1.緒言 の挙動特性を調べる。 東日本大震災によって多くの漂流物が流出し、一 2.実験概要 部はアメリカ・カナダ沿岸に漂着した。漁船、桟橋 及び小型コンテナ等のようにサイズの大きい漂流物 研究で用いた漂流ブイは、株式会社ノマドサイエ は、 船舶の安全航行に影響を及ぼす危険性があった。 ンスで製作された樽型漂流ブイ(ABU-1004G)である。 それゆえ、今後、津波及び海難事故等による沖合の (図 1) 。漂流ブイの大きさはコピー用紙箱(高さ約 漂流物対策のために、漂流物の挙動特性を把握する 31cm、幅約 22cm、奥行き約 23cm)程度である。風圧 ことは重要である。これまで沖合において多くの漂 流の影響を受けやすいように、漂流ブイ面積の半分 (1) 以上は海面に露出している(図 2) 。 流ブイ観測が行われてきたが(例えば、石井・道田 , (2) 松野他 )、これらは海流の流速観測が主な目的であ 岩手県所属岩手丸の協力により、2014 年 9 月 10 るので、漂流ブイは風圧流の影響を受けないように 日 23 時(UTC)頃に岩手県沖合(北緯 39 度、東経 丸型あるいは平面型であり、その海面露出面積が小 146 度)において漂流ブイを放流した。衛星を利用し さく設計されている。さらに海流の影響を受けやす て 1 日 1 回の位置データを取得し、測定された位置 いように漂流ブイの海面下に抵抗体が取り付けられ データから空間・時間内挿を行い毎日 0 時の位置デ ている。このような漂流ブイ観測は風圧流の影響を ータを作成した。解析期間は 2014 年 9 月 11 日から 受けるような現実的な漂流物挙動の知見として不向 2015 年 2 月 20 日までである。 きな場合があるので、より現実的な形状をした漂流 ブイ観測が望まれる。 最近、松村他(3)は漂流ゴミを模した漂流ブイ観測 による漂流ブイの位置を報告している。漂流ブイの 放流時期は 1 月(2012、2013 年)、6 月(2011 年)及び 10 月(2011 年)であった。10 月に放流した漂流ブイは ペットボトルを模した形状であった。この漂流ブイ 図1 漂流ブイ(左はコピー用紙箱) は岩手県沖合から放流され、北マリアナ諸島の北東 遠方の海域(東経 147 度から東経 162 度、北緯 22 度 から北緯 35 度)において 2 年程度漂流していた。こ のような背景から、秋季に岩手県沖合から風圧流の 影響を受ける漂流ブイを放流した漂流ブイ挙動観測 は行われておらず、その知見は今後の現実的な漂流 物挙動に関する研究に有益であると思われる。そこ で、本研究では松村他(3)より風圧流の影響を受けや すい樽型漂流ブイを 9 月に岩手県沖合から放流しそ 図 2 海上にある漂流ブイ 46 第132回講演会(2015年 5月28日, 5月29日) 日本航海学会講演予稿集 3巻1号 2015年4月30日 図3 漂流ブイの軌跡 ○印は 5 日毎の位置を示す。 3.結果 東において漂流ブイ速度は概ね 0.2m/s から 1m/s ま 図 3 に漂流ブイの軌跡を示す。岩手沖合に放流さ での範囲で変動する。講演時には詳細な解析につい れた漂流ブイは 10 月 1 日まで南下し続け、 暖水渦の て報告する。 影響より 1 か月程度時計回りに回転し、黒潮及び黒 潮続流によって東へ蛇行する。11 月 30 日、漂流ブ イはシャツキー海台の西側にて 20 日程度概ね停滞 し、その後、東へ蛇行して天皇海山列の北緯 35 度辺 りを通過後に時計回りに移動し、天皇海山列の海山 の間を通るように南へ蛇行する。2011 年水産大学校 所属耕洋丸第 28 次航海(天皇海山海底環境調査(水産 庁委託))の概要報告(4)によると、7 月下旬に天皇海山 列の北緯 35 度周辺において漂流しているプロパン ガスボンベ、家屋の木材らしき物及び漁具が確認さ れたことから、この周辺海域は漂流物の移動経路の 一部の可能性が示唆される。 図 4 漂流ブイ速度の時系列 図 4 に漂流ブイ速度の時系列を示す。漂流ブイ速 度は 10 月 15 日に観測期間中最大速度である約 1.5m/s に達し、10 月末から 11 月初旬まで 1 m/s 以上 に及ぶ。図 3 より漂流ブイがほとんど停滞したため に、11 月中旬から 12 月中旬までの漂流ブイ速度が 他の期間よりも遅い傾向であることが確認できる。 12 月中旬以降の漂流ブイ速度は、概ね 0.2m/s から 1m/s までの範囲で 10 日程度の周期的な変動を示す。 図 4 は空間的に変化した漂流ブイ速度の時間変化 なので、 漂流ブイ速度と地理的関係は不明確である。 そこで、図 3 より漂流ブイが東へ移動する傾向を示 すことから、図 5 に経度方向における漂流ブイ速度 分布を示す。漂流ブイは放流後に東経 145 度辺りに 位置する暖水渦に捕捉され、黒潮・黒潮続流によっ 図 5 経度方向における漂流ブイ速度分布 て約 1.4m/s で東へ移動し、東経 155 度辺り(シャツ キー海台の西側)で停滞する。また、東経約 157 度以 47 第132回講演会(2015年 5月28日, 5月29日) 日本航海学会講演予稿集 3巻1号 2015年4月30日 謝辞 漂流ブイの放流に関して岩手県水産技術センターの 後藤友明博士、岩手県水産技術センター関係者様及 び岩手丸乗組員様、漂流ブイに関して株式会社ノマ ドサイエンス関係者様、漂流ブイ位置データ取得に 関して株式会社キュービック・アイ関係者様のご支 援を頂き感謝の意を深く表する。また、本研究は平 成 26 年度神戸大学震災復興支援・災害科学研究推進 活動サポート経費の助成を受けて行ったものである。 参考文献 (1) 石井春雄・道田豊: 漂流ブイによる対馬暖流第 一分枝のトラッキング, 水路部研究報告, No.32, pp.37-47, 1996. (2) 松野健・Joon-Soo Lee・Ig-Chan Pang・Sang-Hyun Kim: 漂流ブイを用いた東中国海の海況モニタ リング―長江希釈水の挙動―, 沿岸海洋研究, Vo.44, No.1, pp.33-38, 2006. (3) 松村治夫・田中勝・小林朋道・荒田鉄二・佐藤 伸・金相烈・西澤弘毅: 東日本大震災による漂 流ごみの移動経路把握による二次災害防止に関 する研究, 平成 25 年度環境研究総合推進費補助 金研究事業総合研究報告書, 環境省, p.99, 2014. (4) 水産大学校所属耕洋丸, 耕洋丸第 28 次航海(天 皇海山調査)における放射線測定について, http://www.fish-u.ac.jp/housyasen_sokutei.pdf, 2011. 48
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