中小企業論第6回 平成 27 年 5 月15日 下請けシステムとものづくり中小企業 1「下請」の発展 ▶マイナスイメージだった「下請」 「下請」は分業構造のなかで発注企業から受注を請け負って仕事を行うという分業構造 上の位置と、そうした位置にあることによって生じる関係上の特徴(従属的な位置による 不利)の 2 つの側面が特にマイナスイメージであった。 ▶「下請問題」からの離脱―下請評価の変化 80 年代に入ると、 「下請」に替わって「サプライヤ」という用語が用いられるようにな る。 2.日本的下請システム ▶日本的下請システム ①発注側の外製率は高いが利用する外注先率は高い外製率に比べて多くない。 ②発注側と受注側との関係は長期的・安定的な関係になっていることが多い。 ③発注側と受注側の仕事にかかわる関係が、こうした長期的・安定的な取引を規範とし て形成されている。 ④品質、コスト、納期は厳しく管理されている。 ⑤情報が密にスピーディーに流れ、発注側の要請に下請けが機敏に応え、高品質で低価 格な製品が供給できる体制が作り上げられている。 ▶ピラミッド型分業構造と山脈型社会的分業構造 下請分業構造は最終製品をつくりあげるアセンブルメーカーを頂点とし、そのもとに 1 次下請、2 次下請と裾野が広がるピラミッド型の構造として図示されることが多い。 ▶提案型下請中小企業の役割 下請中小企業は、発注企業から送られてくる注文を受け、注文に基づいて生産を行うだ けではない。多くの下請中小企業は、VA/VE 提案と呼ばれる提案を発注す企業に行って いる。 3.日本的下請システムの変化 ▶下請システムを支える条件の変化 日本的下請システムを支えてきた条件が以下のように変化していった。 ①1985 年プラザ合意後の円高、バブル経済崩壊後の国内市場縮小などを背景に、多くの 産業分野で海外での現地生産が拡大していった。 ②従来の国内完結型の生産スタイルが、部品・材料の海外調達の拡大など、グローバルな 生産に移っていった。 ▶変化した日本的下請システム 1980 年代と対比すると以下のような特徴がある。 ①発注企業側の外製率の高さには大きな変化はないが、 「系列」を超えた新たな取引が行わ れるなど、分業構造の流動化が見られるようになった。 ②国内生産量の右上がり成長から国内生産が上下に変動する状態に移行したものの、長期 的・安定的な関係の下で形成された取引関係の規範は基本的に維持されていった。 ③発注側の調達範囲が海外にも広がったことから、QCD をめぐる競争構造はより激しくな り、結果として QCD 管理のレベルも強化された。 ④発注側と下請側の情報のやり取りの重要性には変化はないが、従来の長期・安定的な関 係をベースにしたものから情報技術(IT)をベースにしたものに変化していった。 ▶下請中小企業の対応 ビジネス環境の変化は次のような影響をもたらした。 ①国内市場の縮小、発注側の国内生産の縮小、海外調達の拡大などによる外注量の減少が 進み、ものづくり中小企業数も減り続けた。 ②ものづくり産業をめぐる世界的な変化のなかで、既存の取引関係の継続に対する不安か ら、下請中小企業は取引先企業を増やしたり、取引先の業種を転換させることが増えてい った。 ③発注企業の海外展開や新興国市場の成長などから、下請中小企業の海外展開が進んでい った。 ④下請受注の仕事から別の仕事に重心を移し、「脱下請」をはかるようになった。 ▶ものづくり中小企業の課題 ①海外での現地生産を進めようとする中小企業は増えているが、現地で仕事が保証されて いるわけではない。 ②ものづくり中小企業にとって海外展開は今後の 1 つの方向として看過できないが、国内 での事業をメインにしながら発展しなければならないという課題がある。 ③「脱下請」で自社製品開発、自社ブランド製品の開発を進めていくためには、中小企業 が従来保有していなかった資源や能力が求められている。
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