ダウンロード - 2015年度研究大会テーマ『未来社会の創出と公共政策学』

日本公共政策学会 2015 年研究大会
(京都府立大学)
自由公募パネルⅢ
地方自治体におけるガバナンス
福山市の活性化政策につなげる超小型衛星研究
Cube Satellite Research for Fukuyama City Revitalization Policy
福山大学
関田 隆一※1
1. はじめに
政府は,昨年12月2日に「まち・ひと・しごと創生法1)」を施行し,「長期ビジョン」と
「総合戦略」を定めて地方の人口減少解消及び地方活性化に力を入れている.これに対し
て世論は,「成長戦略としての地方」に片寄らず戦略を実現できるか,各府省が予算取り
合戦に走り従来型縦割り行政の政策に落ちないか,拠点都市や過疎地域など多様な地方の
特徴に応じた取組みに逆行する中央からの押しつけにならないかなど懸念の声も多い.
広島県福山市は人口減少傾向が続く拠点都市として創成法施行以前から活性化に取り組
んでおり,市民から縦割り行政ではできない前広な政策及び市街地,山間部,海岸部で特
徴に応じた柔軟な政策などの要望があり課題が多い.本報告はそれらを解決する策の一環
として福山の特徴である製造業に焦点をあてた活性化と人口減少に対する若年層を対象と
した教育の打ち手を同時に実現し持続的に発展可能な工学からのアプローチを提案する.
2.行政資料に見る福山市の現状と活性化に係る課題
福山市は,平成 28 年の市制 100 周年に向け第四次福山市総合計画の一環で「福山市都市
ブランド戦略2)」を平成 26 年 3 月に発行した.全国各地で特産品を地方ブランドとして発
信する政策が多い中,この戦略は様々な分野のまち作り活動を地方ブランドとして第三者
認定を経て世界へ発信する我が国で初めての政策として特徴がある.このブランド戦略説
明冊子を読むと,市が目指しているところ,市として解決すべき明らかな課題及び市とし
て明記してはいないものの潜在して市民が認識している課題がわかる.その主要な項目は
以下である.
目指しているところ:多くの人に「行ってみたい」「住んでみたい」「住み続けたい」と
思ってもらえる都市になる.
明らかな課題:全国的な人口減少と高齢化の傾向に同調していることの打開,及びその
状況下で多様な価値観のもとでも選ばれる都市の力を付けること.
歴史、文化、伝統産業、オンリーワン技術など特徴が多いものの、それぞれが個
別に情報発信しているだけでイメージが作りにくい状況を解決すること.
潜在している課題:現状では「行ってみたい」「住んでみたい」「住み続けたい」と多く
の方々に思ってもらえる都市とは遠い状態にあり,福山市内外の人々に「何もな
い」都市というイメージが定着している状況を解決すること.
※1 福山大学 工学部 スマートシステム学科
広島県福山市学園町1番地三蔵
准教授
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地方自治体におけるガバナンス
「福山市都市ブランド戦略」と名乗っているためと推定するが,
「都市」としての記載が
多く,福山の大切な資源である山間部,海岸部にも目を向けた記載がもっとあって良い.
一方,福山周辺地域の歴史を振り返ると江戸時代から職人が集まって備後絣,織物,家具
とそれに関わる機械といった多様な製造業が発展してきた地域であり,現状でも広島東部
地域は県内製造業売上額の 25%強を占めている.更にここ 40 年,福山は大手の鉄鋼メーカ
や半導体関連電気機械メーカを誘致したことで全国的に見ても製造業の存在割合が大きい.
すると「福山市都市ブランド戦略」には製造業活性化に重点を置いた記載があっても良い
が、
「ものづくり」として既にある産品と技術を生かすとの記載だけで製造業の活性化に関
連する情報は必ずしも十分ではない.そこで平成 21 年 3 月発行の最新版「福山市産業振興
ビジョン3)」から産業振興に係る課題等を探った.そこにある主要な項目は以下である.
①
若年層の就学と就職による転出超過の傾向が続いており、一方 30 歳代からの働き盛
りについて大手企業の転勤による転入超過の傾向が続いている
② 製造業の出荷額、付加価値額共に大手の鉄鋼と半導体電気機械メーカの景気動向に
左右される
③ 大手製造業以外にとって優秀な人材確保と人材育成が厳しい状況にありその解決が
重要課題である
④ 大手製造業以外にとって研究開発、マーケット開拓などは経営の圧迫につながる問
題である
⑤ 伝統の地場産業は生活様式の洋式化などが主な要因となって経営状況が厳しく、企
業間交流や公的機関支援と連携した変革が課題であるものの具体化できていない
更に地場産業振興の視点を掘り下げるために平成 18 年度に財団法人備後地域地場産業振
興センターが行った委託調査研究「広島県東部地域(福山・府中)における地域資源調査4)」
の報告をレビューした.その結果,福山市産業振興ビジョンと呼応する以下の知見を得た.
①
地域を支える製造業は付加価値や雇用の受け皿として大きな存在感を誇っており、
競争力の高い製造業育成が地域の産業・経済活性化に不可欠である。
②
技術力に対する自信と企業風土に誇りを持つ企業が多いが、外部とのネットワーク
や社外・市場との関係を十分に構築できていない弱みがあることを各企業は認識し
ている。
③
これまで活用されなかった地域資源を活かす多くの事業展開が各企業で始まってい
るが、資金、人材などに課題が多いため新規事業として軌道に乗っていない。
④
地域産業の本格的事業展開を念頭に置いた大学や企業同士の連携は大手以外では組
めておらず、そのため事業のレベルアップが実現できない。
以上から、現状の福山は特徴のある中小の製造業をメインとして新たな強みを見出しな
がら持続的に発展する社会になっているとは言い難く、逆に図1に示すようなマイナスの
スパイラルにはまり込み始め、そこからの脱却が困難になりつつある状態と推察できる.
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我が国は技術立国であり福山と同じ製造業中心の地方都市は全国に数多い.更に製造業
中心であるがためにその発展が大手企業に左右されるもしくは鈍化傾向にある中規模都市
も全国にあり,福山はそのモデルと言って良い.すると福山でマイナススパイラルから成
長スパイラルへ転換させ持続的に成長する社会として活性化することの実証は意義が大き
い.またこれにより科学技術を中心に持続的に発展する地方都市に変貌すれば、福山市都
市ブランド戦略において前述した「何もない」都市から「科学技術の研究開発が活発な都
市」のイメージが定着し「住んでみたい」
「住み続けたい」都市のブランド確立に寄与する.
一般にマイナスのスパイラル状態から脱却するには単発の課題解決策を重ねるだけでは
不十分であり、多面的な課題解決策を同時進行させ相互作用まで発生させて、上昇傾向へ
転じる大きな起動力を得る必要がある.その視点で,中小の製造業各社に従来にはできな
かった連携を発生させ技術開発を活発にし,同時に地域の科学技術教育充実化も起こして
若年層を定着させることが有効と考えている.しかし製造業の技術開発活発化と科学技術
教育充実化を何もない現状のまま起こすことは困難であるため,両者を同時進行させて相
互作用を発生させる仕掛けとして本学で超小型衛星研究プロジェクトを開始する.大学の
超小型衛星研究を地方活性化政策につなげる研究はこれまでに前例がない.地方の産業活
性化で超小型衛星を活用した先行事例は東大阪宇宙開発共同組合の「まいど衛星」が知ら
れているが,これは単発で終わっており地方の活性化まで達成した研究ではない.
科学技術に関する研究開
発が大学、企業で活発化
しない
目前の課題解決以外に企
業や大学が連携して研究
開発を進めたり技術力を
向上しようとしない
企業で科学技術の事業化
に向けた人材を確保でき
ず、新たな一歩を踏み出
せない
若年層が福山で科学技術
を学び、仕事にしようとい
う夢を持たない
若年層が就学と就職時に
福山から転出し、その結
果,人口減少を助長する
図 1 福山市の活性化に係るマイナススパイラル
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繰り返すと,本提案では製造業各企業の技術開発活性化と若年層の科学技術教育充実に
横串を刺して同時に推進させるパイロットプロジェクトとして超小型衛星研究を位置付け
ている.更に衛星ミッションを福山に関連した様々な分野から掘り起こすことなどで超小
型衛星研究を次々に持続させる新しいタイプを目指している.この様な超小型衛星研究に
より福山は製造業各企業と研究機関が大手企業や行政頼みではなく連携して活発に科学技
術の研究開発を行う地域に変貌し、若年層は福山で科学技術に夢を持ち積極的に就学・就
職し定着する様に改善する.つまり従来型の縦割り行政では実行が困難であった産業と教
育の二面の政策を相関させながら同時進行する新たな政策につながる.この超小型衛星研
究を核に技術開発と教育により都市が成長するプラススパイラルを図2に示す.
企業の人材改善と収益向上
及び地域内若年層の定着を
検証し技術開発と科学技術
教育の次の一手を企画
技術開発と教育による地
域の成長を外部へアピー
ルし改善を得て更に実行
超小型衛星研究を核に
産学で技術開発と科学
技術教育を活発化
活発な技術開発と科学技
術教育で若年層が定着した
くなる都市へ成長する計画
図2
技術開発と教育により地方都市が成長するプラススパイラル
以上は,報告者が福山市の課題を解決するために提案する理想モデルを説明したもので
あるため,福山市民がそれを望んでいることを検証する必要がある.最近の行政,研究機
関及び企業のあらゆる機関が実行する施策ではユーザ要望を確認して,それを品質目標に
設定する品質マネジメントの重要性が増している.更に前述のモデルを実際に具現化する
第一歩は福山市民がそれを要望することであり,従って市民の意識を現時点で確認するこ
とは品質マネジメント面のみならず政策立案・実施面でも意義が大きい.またモデルの核
となる超小型衛星研究は,これまで全国の各大学で様々なミッションを具体化しており,
後発となる本学の超小型衛星では福山と近郊地域に役立ち福山の製造業各企業が本学と共
に活動したくなる特徴を備えたミッションを選定することが最も重要である.
以上の必要性から科学や宇宙への興味の度合い,新たな衛星活用の要望及び福山市の今
後の活性化への期待などの福山市民の意識を知る目的で質問紙調査を行ってある.以降の
章では,この質問紙調査の概要,結果,データ分析及び考察を説明する.
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3. データ収集
10 歳代以上の男女を問わない福山市民を対象にして前述した目的の WEB による質問紙調
査をアンケート調査専門会社へのデータ収集委託に依り平成 26 年 12 月に行ってある.
3.1 質問紙設計
福山市民は以下 2 つの意識を持っているという仮説を検証する 6 問を設定してある.
(仮説 1)福山市民は科学の一分野として宇宙の活用と宇宙技術に興味がある.
(仮説 2)福山市民は福山が宇宙開発都市という新しい一面を持って活性化することが
良いと考えている.
更に今後の福山及び近郊地域における衛星活用方法の要望と超小型衛星研究でチャレン
ジを望む技術分野を知る 7 問も設定して,合計 13 問である.質問紙としての構成と内容は
基本統計を後述する表 6 でわかる.
質問紙調査方式は無記名選択式1種類で,定量的分析のために多段階カテゴリ化を採用
してある.認識調査としての多段階カテゴリ化は等間隔性の精度保証はないものの回答し
やすく,かつ「どちらでもない」を排除した以下の 4 段階リカート尺度である.
1 点:そうは思わない.
2 点:あまりそうだとは思わない.
3 点:ややそう思う.
4 点:そうだと思う.
3.2 アンケート調査の概要
合計 329 通を回収し,質問紙調査の統計的精度確保に必要な質問数 13 問の 10 倍=130 通
を上回っている.次ページに回答者の集団を示す.福山市民を代表する大きな片寄りのな
いサンプル集団による調査であると言える.
(1) 性別:表1,図3でわかるとおり,男性が若干多いものの有意な片寄りのない分
布である.
(2) 年齢:表2,図4によると 10 代から 60 代以上まで分布している.10 代、20 代が
少ないものの、40 代、50 代が多く,福山市民の一般的分布と適合していると言える.
(3) 職業:表3,図5によると「会社員」と「主婦」で過半数を占めており福山市民
の職業の分布を代表していると言える.ただし「教職員」及び「学生」が少なめで,
「無
職」は逆に多めであることが想定とは異なる.
(4) 未婚・既婚:表4,図6によると「既婚」が「未婚」の 1.5 倍占めているが,市
民の分布として有意な片寄りではない.
(5)
同居子供年齢:表5,図7でわかるが,
「子供なし」が過半数を越え,その子供の
年齢は「小中高生」が少なめであることが想定とは若干異なる.
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表1 性別分類集計表
有効
性別
男性
女性
合計
欠損値
合計
度数
パーセント
198
60.18
131
39.82
329
100.00
0
0.00
329
100.00
女性, 131
男性, 198
図3 性別分類
表2 年齢分類集計表
有効
職位
10代
20代
30代
40代
50代
60代以上
合計
度数
4
17
67
109
83
49
329
0
329
欠損値
合計
パーセント
1.22
5.17
20.36
33.13
25.23
14.89
100.00
0.00
100.00
20代, 17
10代, 4
60代以上, 49
30代, 67
50代, 83
40代, 109
図4 年齢分類
表3 職業分類集計表
有効
担当業務
会社員(技術)
会社員(事務)
公務員
教職員
会社経営,自営
学生
主婦
その他の正規職
パート,アルバイト
無職
合計
欠損値
合計
度数
80
63
10
6
33
7
66
10
17
37
329
0
329
パーセント
24.32
19.15
3.04
1.82
10.03
2.13
20.06
3.04
5.17
11.25
100.00
0.00
100.00
パート,アル
バイト, 17
無職, 37
会社員(技
術), 80
その他の正規職,
10
主婦, 66
会社員(事務),
63
学生, 7
会社経営,自営,
33
公務員, 10
教職員, 6
図5 職業分類
表4 未婚,既婚分類集計表
有効
性別
未婚
既婚
合計
欠損値
合計
度数
パーセント
129
39.21
200
60.79
329
100.00
0
0.00
329
100.00
未婚, 129
既婚, 200
図6 未婚,既婚分類
表5 同居子供年齢分類集計表
有効
欠損値
合計
職位
未就学児
小学生
中学生
高校生
高校卒業以上
子供なし
合計
度数
48
27
20
12
44
178
329
0
329
パーセント
14.59
8.21
6.08
3.65
13.37
54.10
100.00
0.00
100.00
未就学児, 48
小学生, 27
子供なし,
178
中学生, 20
高校生, 12
高校卒業以上,
44
図7 同居子供年齢分類
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4. 統計解析及び考察
4.1 平均
表6は基本統計表として,13 問を順に平均値,標準偏差および分散を列挙したものであ
る.3 点付近に平均が固まっており,標準偏差も 0.8 点付近であることから,きれいな分布
形状をうかがわせる.また平均 2 点代は,設問に対して市民が反対意見を表明したことを
意味するが,2 問あった.それによると福山市民は宇宙を身近で役に立っているとは思って
おらず,更に福山大学の衛星開発に直接関与したいとは思っていないことがわかる.
表6
基本統計量
No 質問
日常の暮らしで宇宙をどうとらえているか
1 宇宙を身近に感じ,役立っている
2 宇宙のものまたは,宇宙開発技術に興味がある
人工衛星をこれからどの様に利用したら良いか
3 災害被害を防ぐ新しい使い方
4 日常生活で防犯,介護,健康増進に役立てる
5 子供たちが興味を持ち,教育で活用
これからの福山における宇宙開発とのかかわり方
6 宇宙開発都市としての新しい一面で活性化したら良い
7 航空宇宙関連の教育を受けられ,研究していると良い
8 福山大学の超小型衛星開発を応援する
9 福山大学の超小型衛星開発に直接関与したい
福山大学超小型衛星でチャレンジしてほしい技術
10 災害対応のセンサや災害時の通信確保
11 PM2.5等健康に関する大気計測
12 衛星を動かして確認できる科学技術教育
13 スペースデブリ除去等宇宙開発先端技術
度数 平均値 最頻値 標準偏差
分散
329
329
2.16
2.55
2
3
0.843
0.910
0.711
0.828
329
329
329
3.21
2.83
2.98
3
3
3
0.773
0.783
0.784
0.597
0.613
0.615
329
329
329
329
2.66
2.75
2.69
2.35
3
3
3
2
0.852
0.864
0.863
0.864
0.725
0.747
0.745
0.746
329
329
329
329
3.17
3.09
2.89
2.94
3
3
3
3
0.791
0.764
0.800
0.811
0.625
0.584
0.640
0.658
4.2 度数分布
表7,図8に度数分布表とヒストグラムの例として平均値が最も高い質問 3 を示す.
他の全ヒストグラムもきれいな正規分布状であり統計データとしての信憑性が高い.
表7
度数分布の例
図8 ヒストグラムの例
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地方自治体におけるガバナンス
4.3 因子分析
本調査では,3.1 項で述べた仮説があり,それを検証して市民の意識のモデル化まで行う
が,事前にモデルを確立していたわけではない.従って探索的因子分析が必要である.そ
の結果を表8に示す.
2 個の因子で 65%を越える情報を説明可能であり,データはばらつき少なく集約されて
いる.第 1 因子を x 軸,第 2 因子を y 軸に採ったサンプルの成分得点散布図を図9に示す.
第1因子が 0,第 2 因子が-3.8 を起点に V 字に広がる分布形状を確認できる.
なお,本調査では質的変数(カテゴリ)として「男女」,「年齢」,「職業」「未婚・既婚」
及び「子供の有無と子の年齢」を識別して行ったが,どのカテゴリも層別に固まって分布
するなどの特異性はなく均等にばらついて分布していることも散布図で確認してある.
表8には 2 個の因子各々について主成分を成すものをグレーで識別してある.これらを
基にして各因子を代表する指標を次の様に名付けた.
第 1 因子: 超小型衛星研究への期待
第 2 因子:科学 宇宙と生活への興味
表8
因子分析結果
固有値
分散の説明率
宇宙を身近に感じ役立っている
宇宙そのものまたは宇宙開発技術に興味がある
衛星はこれから災害被害を防ぐ新しい使い方
衛星は日常の防犯,介護,健康増進に役立てる
衛星に子供たちが興味を持ち教育で活用
福山は宇宙開発都市の一面を持って活性化
福山で航空宇宙の教育を受け,研究も実施すると良い
福山大学の超小型衛星を応援する
福山大学の超小型衛星開発に直接関与したい
超小型衛星で災害対応センサや通信確保
超小型衛星でPM2.5等の健康に関する大気観測
超小型衛星を動かし確認できる科学技術教育ミッション
超小型衛星で宇宙開発の先端技術
主成分
1
2
6.763
1.711
52.0
13.2
0.425
0.488
0.592
0.371
0.719
-0.468
0.645
-0.316
0.748
-0.215
0.780
0.341
0.790
0.327
0.785
0.380
0.592
0.524
0.793
-0.390
0.790
-0.329
0.806
-0.221
0.799
-0.140
※表中の統計量は,主成分解によるパリマックス回転後の因子負荷量
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科学
宇宙と生活への興味
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超小型衛星研究への期待
図9
サンプルの成分得点散布図(カテゴリデータ付き)
4.4 相関分析
各質問間の相関関係を知ることはモデル化にあたって有効な情報を得る意味がある.相関
分析の結果詳細をここでは示さないが,すべての質問間で 15%を超える正の相関を示して
いる.70%を超える強い相関関係を示したものから以下がわかる.

質問 6-質問 7 の間 82%:
福山で航空宇宙の教育と研究を実施するこ
とと福山市が宇宙開発都市として活性化することは関連する.

質問 10-質問 11 の間 78%:超小型衛星で災害対応の技術にチャレンジ
することと健康に関する大気観測にチャレンジすることに関連がある.

質問 3-質問 10 の間 76%:これからの衛星での災害被害を防ぐ新しい使
い方と超小型衛星で災害対応の技術にチャレンジすることは関連する.

質問 6-質問 8 の間 75%,質問 7-質問 8 の間 74%:福山での航空宇宙
の教育と研究実施と福山大学の超小型衛星への応援及び福山が宇宙開発
都市として活性化することと福山大学の超小型衛星への応援は関連する.
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4.5 共分散構造分析
因子分析結果で得た 2 つの因子を基本として相関分析結果を参照にしつつ試行錯誤しな
がらモデルを作成し,共分散構造分析を実行した.結果は,行列式よりも見てわかりやす
いグラフィカルモデリング方式で示す.その主な結果を図10-1,2に示す.
モデルの中で使用している記号を説明する.
は,観測変数を表しており質問で実測した項目である.
は,実測できない背後にある要因などを示す潜在変数である,ここでは,先述
の因子分析で得た主成分を参考にしてある.
→
は,パスと呼ばれる関係を示すもので,原因から結果に向かって矢がささる.パ
スの上の数値はパス係数といい,その影響度を示している.
○
は,単方向のパスを受けている変数(内生変数)に付随する誤差変数を示す.パ
スを出すだけで受け取らない(外生変数)にはこの誤差変数はない.
モデルは,いわば調査結果について描く分析者の仮想世界であり我田引水におちいりや
すい.そこでこの仮想と現実の乖離度を客観的に検証する適合度関数(指標)が統計学研
究で数多く提案されている.本報告では次の 4 つを適合度関数として採用している.
χ2 乗値(かいじじょうち)
:統計学で広く乖離度として知られている指標である.現実
に測定したデータと完全に一致しているモデル(飽和モデルという)は値が 0 になり,
データと全くあてはまっていないモデル(独立モデルという)では無限に大きくなる.
p 値:有意確率の値である.本分析では通常使う有意水準 5%を採用していることから,
p 値が 0.05 以上であればモデルはデータと一致していると判断する.χ2 乗値とペアで
判断することが多いが,ケース数が 3 桁以上で 0 になりやすく注意が必要になる.
比較適合度指標:0 から 1 の範囲の数値を取り,飽和モデルでは 1,独立モデルでは 0
を取る.ケース数の影響を受けない指標である.
平均二乗誤差平方根:母集団とモデルの乖離度を表す値で,推定するパラメータの数の
影響を受けない指標として知られている.この値が 0.05 未満の場合,モデルのあてはま
りが良いと判断し,0.1 以上ではあてはまりが悪いため採用できないと判断する.0.05
と 0.1 の間はグレーゾーンとして判断に注意を要する.
全観測変数(質問)と 2 個の主成分に更に仮説検討時に考えていた 2 個の項目を加えた 4
個の潜在変数で共分散構造モデルを作成してあるが,これはχ2 乗値が 3 桁と大きく p 値も
0 で現実と一致していないため結果を示さない.そこで潜在変数を1個削除し,更に因子分
析と相関分析の結果から総合的に考えて必ずしも必要のない質問を削除した共分散構造モ
デルを図10-1に示す.図に示してあるとおり,χ乗値が 20 程度と低く,p値も低い値
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地方自治体におけるガバナンス
ではあるが 5%出ている.比較適合度指標は 0.993,平均二乗誤差平方根は 0.049 と現実と
良く一致したモデルと言える.なお,潜在変数を主成分分析で得た 2 個でも様々なモデル
を作り解析してあるが,上述より良い適合度のモデルを見出せていない.
図10-1のモデルにより福山市民の意識構造は全体的にわかるが,各質問がパラメー
タとしてどの様に影響して,市民が衛星と福山の活性化の考えとどうつながっていくのか
という因果関係はわかりにくい.
図10-2は,この欠点を補うべく各パラメータの因果関係を示せる多重指標モデルに
より記述したものである.適合度関数は,図10-1より更に改善して,p 値は 70%を越え
ており,較適合度指標は飽和モデルである 1,平均事情誤差平方根は 0 になっている.つま
り図10-2は福山市民の意識とほぼ完全に一致した最適モデルである.
図10-2から福山市民が望んでいる「福山市が超小型衛星研究を核として活性化して
いく因果関係」を以下のとおりに得ることができる.
I.
福山大学の超小型衛星研究では,災害防止に関連する新し
いセンサ技術を検証するミッションにチャレンジする.
II.
超小型衛星研究が福山で初の宇宙プロジェクトとなるこ
とで,それを市民が応援し,更に福山大学で航空宇宙に関
連する教育が行われる様になり,福山市が宇宙開発都市へ
変わっていく.
III. 福山市民に科学,宇宙と生活への関わりに興味がわく様に
なり,宇宙を身近に感じると共に,宇宙への興味がわいて
更に福山での航空宇宙教育が活発になる.
IV.
福山が宇宙開発都市としての一面を確立して更に活性化
する.
V.
将来は自然災害の被害を防ぐ新しい衛星の活用を福山市
で行うようになる.
日本公共政策学会 2015 年研究大会
(京都府立大学)
図10-1
自由公募パネルⅢ
地方自治体におけるガバナンス
超小型衛星と福山市活性化に関する共分散構造モデル
図 10-2 超小型衛星と福山市活性化の市民意識構造
日本公共政策学会 2015 年研究大会
(京都府立大学)
自由公募パネルⅢ
地方自治体におけるガバナンス
5. まとめ
地方創成,これは地域活性化など様々に呼ばれるが,この政策は,国から県,市そして現場に
ある各組織へ詳細化・具体化が進み実行に移される.本報告は,地域の組織である福山大学で
の超小型衛星研究を核に地域の製造業各企業の技術開発活性化と若年層の科学技術教育充
実に横串を刺す活性化策を提案すると同時に具体的な実行開始を宣言するものでもある.
この活性化策を本学が実行へ移行するにあたって,ユーザである市民に受け入れられて
かつ実効性があることは,本報告で定量的に検証してあるとおりで,今後の活発化策実行
における重要品質は以下である.
①
衛星の新しい活用方法として市民が強く望む災害対応を実現すること
②
災害対応関連の超小型衛星研究により市が宇宙開発都市として活性化すること
ここからは政策構造の上位にさかのぼって本報告の活性化策の適合性をまとめる.
福山市の政策との適合性は,2 章で行政資料から課題を探ってあることから担保されてい
ると考えるが,「まち・ひと・しごと創生法」からの要求フローダウンの中に入っている
ことは確認すべきである.福山市では岡山県内を含む周辺自治体と連携し,備後圏域とし
ての活性化・発展に係る戦略を「まち・ひと・しごと創生法」施行前から備後圏域連携協
議会を設置して討議してきている.この協議会は本年 2 月に「びんご圏域ビジョン5)」を
発表しており,これが「まち・ひと・しごと創生法」に対応する政策を説明した資料であ
る.びんご圏域ビジョンの第 4 章に具体的取組の記載があり,本報告の活性化策との関連
は以下とまとめることができる.

1(1)項の「圏域全体の産業振興の仕組みづくり」は,製造業含む全産業を対象に
しているが,支援やマネジメントの仕組みの記載であり,本報告の提案に包括的にか
ぶさるものである.

1(2)項の「中小企業事業者等への支援」に「地域の産業集積による競争力向上」
として,ものづくり技術活用の記載があり本報告の提案は該当する.ただし具体的な
事業として「ご長寿産業等の新たな分野への参入や新たな製品開発」との記載があり,
新たな分野として宇宙分野を含む科学技術が含まれることまでは読み取れない.

上記の他に製造業に関連する記載はない.

2(3)項の「高等教育の充実や強化」で大学間,産学金官連携等の多様な連携で地
域社会や企業のニーズに対応できる人材育成に取り組むとある.これは地方にとって
は一般化された表現で,本学の建学理念そのものであり本報告の提案も該当する.

3(3)項の「地域活性化の推進」で「大学を活用した地域活性化」の記載があり,
地域課題の解決や活性化につながる取組を支援するとあり,本報告の提案が該当する.
更に上位の広島県の政策との適合性も確認する.広島県のホームページ検索及び担当者
日本公共政策学会 2015 年研究大会
(京都府立大学)
自由公募パネルⅢ
地方自治体におけるガバナンス
への電話での聴取によると,本年 4 月現在では「地域版総合戦略」の策定に向けて議会,
各委員会で骨子の討議を行っているとの情報である.ただし唯一の情報として県のホーム
ページで商工労働局から「地域版総合戦略」に向けた討議資料として「「まち・ひと・し
ごと創生総合戦略」の政策パッケージと広島県における対応(主として産業面について)6)」
を見ることができる.これには既存政策に追加を検討する項目案が記載してあり,「地域
を担う中核企業支援」の項目にあるグローバル・ニッチ・トップ企業育成及び地域ブラン
ド形成と本報告の提案が関連する.また「新事業・新産業と雇用を生み出す地域イノベー
ションの推進」の項目に産学連携拠点の活用及び産学連携基金を挙げ,更に「時代にあっ
た地域をつくり,安全なくらしを守るために,地域と地域を連携する」新たな施策を加え
るとなっており,これらに本報告の提案が該当する可能性がある.
以上のとおり,国の政策を具体化している福山市,広島県の政策と本報告の提案は,大
きな齟齬がなく適合していることを確認できる.ただし本報告の提案で肝となる製造業の
技術開発活発化と若年層の科学技術教育充実化を大学研究を核に同時推進させるといった
発想及び福山市及び周辺地域で従来にはできなかった企業連携を発生させるという不可能
を可能にする発想は,自治体の政策に直接的関連付けを見出すことは困難である.逆に言
うと,この種の地域活性化は行政に拠り所を見つけるまで待つことができない,つまり行
政に頼らない方が良いとの示唆と理解する.その意味で大学は行政,企業とは独立の機関
として中立であり全体を見渡せる立場であることから,この種の政策を提案し実行するこ
とが可能であると言える.
行政に頼らない自発的な企業連携で地域活性化を行った先行事例が京都府南部地域で
2001 年に結成された「京都試作ネット7)」である.京都試作ネットの事例分析を行った上
野敏寛(2013)8)によると京都市の製造業の特徴は非系列系,独立系が多く,独自の技術を持
っているとのことで福山市の製造業の特徴と良く似ている.また京都市の製造業は,伝統
ある木工,竹工及び繊維産業が 1970 年代に凋落し,大手電気機械産業の下請け産業へとシ
フトしていたが,それもバブル景気崩壊により崩れ,製造業各企業の自立化が大きな課題
となり,その解決として京都試作ネットが結成されている.京都試作ネットは「大手企業
にはできないもしくは手を出さない試作を引き受けることで大手に頼らない構造を確立し,
それが企業連携によるノウハウ取得と技術力向上につながった特徴がある 8)」と上野が分析
している. 更に「地域活性化の意識を連携として共有することで地域内に似たような活動
が起きてもそれを容認して行政の協力まで得ることができ,現在では下請け業者の位置づ
けから製品開発の一翼としての研究開発事業者の一大プラットフォームへ転身して,世界
に「shisaku」ブランドを発信している 8)」との分析である.本報告の提案も同様の構造を
実現できる地域活性化政策につながる.具体的には宇宙を活用する様々な災害対応技術を
実行する中小の製造業企業連携を自発的に発生させて地域活性化を伴って成長させ,それ
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地方自治体におけるガバナンス
を「福山ブランド」として世界へ発信するということである.
以上のことから本報告の提案では今回検証した市民の要望を満たしていることと共に製
造業の連携ができることがキーポイントとなる.すると「福山地域の製造業各企業は,従
来にはできなかった連携による技術開発活性化が必要でかつ将来にわたって有効であると
認識している」という仮説を立てられるが,本提案の実行にあたってこの仮説を検証する
必要がある.この目的の質問紙調査は 4 月現在でデータ収集を終えた段階にあり,別途,
分析結果を報告したい.
本報告では,地域活性化,製造業の活性化及び超小型衛星研究について計画を立案した
当初から福山市役所及び広島県立総合技術研究所東部工業技術センターへ説明してご意見
を伺っており,市民対象の質問紙調査も事前に福山市役所から実施のご了解をいただいて
実現したものである.ここに感謝の意を表したい.
参考文献
1) 内閣官房まち・ひと・しごと創成本部 「まち・ひと・しごと創成総合戦略」 平成 26
年 12 月
2) 福山市役所「福山市都市ブランド戦略」平成 26 年 3 月
3) 福山市役所「福山市産業振興ビジョン(改訂)」平成 21 年 3 月
4) 社団法人 中国地方総合研究センター 「広島県東部地域(福山・府中)における地域
資源調査」リサーチちゅうごく調査研究報告 07-04-007 平成 18 年 3 月
5) 備後圏域連携協議会「びんご圏域ビジョン-成長戦略2015-」 平成 27 年 2 月
6) 広島県商工労働局 「
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の政策パッケージと広島県に
おける対応(主として産業面について)
」 平成 27 年 2 月
7) 京都試作ネット「京都試作ネットとは」http://www.kyoto-shisaku.com/about/
8) 上野俊寛「地域産業の発展に向けた共同事業グループの成功要因の考察」龍谷大学大学
院政策学研究 2 巻 59-79/2013