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(様式11)
論文審査の要旨(課程博士)
生物システム応用科学府長 殿
審査委員
学位申請者
論 文 題 目
安 藤
哲
㊞
副査
佐 藤
令 一
㊞
副査
豊 田
剛 己
㊞
副査
夏 目
雅 裕
㊞
副査
岩 淵
喜久男
㊞
循環生産システム学専修 平成24年度入学
氏名
申 請 学 位
主査
閻
学籍番号 50012701303
祺
博士( 農 学 )
Study on the Sex Pheromones Produced by Female Moths in the Subfamily
Pyraustinae
ノメイガ亜科雌蛾性フェロモンに関する研究
論文審査要旨(2,000 字程度 or 500words)
多くの昆虫は、雌雄間のコミュニケーションにフェロモンを利用している。特に蛾類昆虫
は多数の農林業上の害虫を含むことから、性フェロモンの構造決定は活発に追究されてきた。
しかしながら、種の多様性を鑑みるとその知見まだ限られたものである。本研究では鱗翅目
(Lepidoptera)ツトガ科(Crambidae)ノメイガ亜科(Pyraustinae)昆虫に焦点を絞り、日本な
ど東南アジアに生息する9種の昆虫を材料に、種々の機器分析を利用した雌性フェロモンの
構造決定、推定化合物の有機合成、および合成化合物の野外での誘引試験行い、蛾類性フェ
ロモンに関して新たな知見を得ることを目的としている。本論文は第1章でこの目的を明確
に述べた後に、実験により得られた結果を第2章から第4章で記載し、総合的な考察を第5
章として行っている。
通常、ノメイガ類の雌成虫は末端官能基を有するタイプⅠのフェロモンを分泌し、サツマ
イモノメイガ(Omphisa anastomosalis)からは 10,14-ジエンアルデヒドが、ナスノメイガ
(Leucinodes orbonalis)からは 11-モノエンアセテートが性フェロモン成分として同定されて
いるが、いずれも処女雌と比較すると雄蛾の誘引は著しく劣ることが報告された。そこでこ
れら2種の昆虫を新たにベトナムの圃場で採集し、GC-MS を用いてフェロモン腺抽出物を再
分析したところ、両種から 3,6,9-トリエン構造を有するタイプⅡの不飽和炭化水素が見いださ
れ、野外での誘引試験でそのトリエンに強い共力効果を認めることができ、発生予察に利用
可能な誘引源を開発することに成功している。(第2章)
我が国においては18種のノメイガ亜科Herpetogramma属昆虫が分布し、その殆どの種が沖縄
県からも記録されている。それぞれ異なった植物を寄主としているが、そのような近縁種が
限られた地域で同所的に生息していることから、交雑を防ぐためにどのような生殖隔離の機
構が機能しているのかに興味が持たれてきた。そこで本研究では、まずヘリグロキイロノメ
イガ(H. submarginale)とクロホシノメイガ(H. basale)のフェロモン腺抽出物をGC-EADと
GC-MSを用いて分析している。その結果、フェロモン成分とそれらのDMDSあるいはMTAD
誘導体のマススペクトルから、H. submarginaleは13-モノエンアセテートを、H. basaleは11,13ジエンアセテートを分泌していることを明らかにした。前者のフェロモン成分は新規物質で
あり、雄蛾を特異的に誘引する結果を得ている(第3章)。
さらに、鳥取県で採取したマエアカスカシノメイガ(Palpita nigopunctalis)、ミナミウコン
ノメイガ(Pleuroptya sabinusalis)、コヨツメノメイガ(P. inferior)、シロオビノメイガ(Spoladea
recurvalis)、アヤナミノメイガ(Eurrhyparodes accessalis)の5種に関して性フェロモンの同
定を行っている。通常のGC-EADおよびGC-MS分析に加え、前2種においてはGC-FT/IR分析
も活用し、IRスペクトルは二重結合の幾何異性ならびに末端官能基の種類の確認に有効であ
ることを示している。合成フェロモンを用いた誘引試験では残念ながら十分な雄蛾の誘引を
認めるに至っていないが、ノメイガ亜科昆虫の性フェロモンの化学構造上の多様性を示す興
味深い結果を得ている(第4章)。
本研究は最新の分析技術を駆使して、限られた数の処女雌から得られる超微量な活性物質
の構造決定を行ったもので、高い分析技術によることがうかがわれる。また誘引試験に用い
る合成フェロモンの多くは自ら有機合成したもので、それを基盤とした研究として注目され
る。多くのフェロモン研究が特定な種のみによる断片的なものであるのに対して、本研究で
は多くの近縁種を材料にしていることは高く評価される。
第2章の結果は、すでに化学生態学に関する国際誌(Journal of Chemical Ecology)において
公表されている。また第3章の内容を含む論文は投稿の準備が終了しており、他の実験結果
もいくつかの論文に分け公表することが予定されている。本研究は天然物化学と応用昆虫学
の双方へ大きく貢献しており、博士論文としてとりまとめるにふさわしい内容であることか
ら、審査を合格したものと判断した。