の現状と問題点に関する考察

要旨
モザンピーク P
roSAVANAの現状と問題点に関する考察
一政府成立のプロセスと同家政策の背景を I~I 心に一
伊庭将也
本論は、政府レベルに偏重した開発アプローチの問題点を明示し、民民レベルの開発アプローチの重
要性を認識しつつ、その問題の解決を探ることである。その問題の事例としてモザンピーク共和国(以
下モザンピーク)で計画されている ProSAVANA (プロサバンナ)を取り上げ、その問題と現状につい
て言及し、本論の目的の達成を試みる口また本論の L
I的を達成する研究手法として、政治学的なアプロ
ーチ用い、主に政策立案・実施のプロセスを政府成立のプロセスにまで遡って議論を進めていくことと
した。
1章では、モザンピーク政府成立のプロセスを追うことで、農民と政府との社会関係性を明示するこ
とを目的としている。そうすることで、政府と農民の社会関係性の分断、つまり双方の意思の希離を理
解することができ、政府レベルに偏重した開発アプローチが農民レベルに到達しないといった問題の原
因を示すことができる。
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4年、第 1次世界大戦勃発と時を同じくして、農民はその流動的な性質から、ポルトガルによる植
民地支配に対して各々のコミュニテイによる散発的な抵抗を繰り返してきた。しかし、そうした各々の
コミュニティによる散発的な抵抗は、 1
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2年にポルトガルにおいて首相に就任したアントニオ・サラザ
ールの政治戦略によって変化を遂げた。
サラザールはモザンピークの農民に対して法的・制度的に手法を取り、農民の行動を制限し、その上
で徹底的な経済的搾取を行った口農民がこうしたサラザールの植民地に対する圧政に耐えられなくなっ
たとき、彼らは隣国へ逃亡し、その抵抗運動体 FRELIMOを結成した。 1
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4年に FRELIMOはモザンピ
ークの独立に向けて、ポルトガル軍との戦争を開始し、 1
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5年に独立を達成した。
しかし、戦いを繰り広げていった中で、 FRELIMOはその性質を従来の農民を起源とした運動体では
なく、「同化人」を中心とした運動体に変化させた口この変化は、 FRELIMOの政治思想を社会主義的な
ものに形成し、次第に FRELIMOに対する農民による支持を限定的なものにさせていったり
また、独立のわずか 2年後に始まった、反政府ゲリラである RENAMOとの内戦において、農民との
社会関係性をより一層分断することとなった。それは内戦後に行われた選挙の結果を見ても明示されて
いる。こうした経緯からモザンピークの政府と農民との意思の黍離が瑚解できる。
2章では、 1章で理解を深めた政府と農民の意思の:ife離を、 FRELIMO政府が行ってきた国家政策を分
析することで、より一層明確なものにしていく。
FRELIMOが具体的に行ってきた政策として、独立後に行われた「解放区」における「共同村落 j の
創設、そして国家農業開発プログラムである PROAG則の例を取り上げる。「解放区 Jにおける「共同村
落jの創設においては、当時の FRELIMOが社会主義的な政治思想を持っていた経緯から、その目的を「農
村部の構造再編 Jとしており「集団的生活と生産のスタイル Jを目指していた口しかし、これは農民の
流動的な性質を考慮しておらず、また強制的な一面を持っていた o ゆえに、「解放区」における「共同
村落 j の創設は農民の支持を得ることができなかった。またこれは PROAGRIについても同じことが言
龍谷大学大学院経済研究 N
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える o
内戦後に行われた国家農業開発プログラムである PROAGRIは、複数のドナーの協力を受けながら、
農業部門への公的部門の介入を推進していくことで、農村部の貧困削減や食糧安全保障を図ろうとする
ものであった。しかし、 PROAGRIはトップダウン的な性質をもっており、また農民のグループの多様
性やそのニーズを理解したものではなく不透明なものであり、住民の支持を得るものではなかった口こ
のように FRELIMOが行ってきた政策は、農民の意思を理解したものとは言えるものではなかったので
ある o この 2つの政策の事例から、政府と農民の意思の誰離はより顕著なものとなる o また、 PROAGRI
は PROAG
悶が直接的ではないが P
roSAVANAと政策的関係を有していることは見過ごしてはならない。
3章では、 1章及び 2章で理解した政府と農民の意思の葉離を踏まえたうえで、 ProSAVANAについて
の概要とその現状および問題点を指摘していく。 ProSAVANAは日本・ブラジル・モザンピーク 3か国
によって行われる大規模農業開発事業であり、モザンピーク北部を対象地として行われる。しかし
ProSAVANAは現地の市民社会組織および日本の市民社会組織より批判を受けている状態にある。その
批判点が、農民の生活を考慮しない政府レベルに偏重した開発アプローチであり、またそれが不透明で
あることである o 2章で見たように、モザンピーク政府の出す政策はトップダウン的で不透明であり農
民に受け入れられるものではなかった。しかし、 ProSAVANAはモザンピークの出す国家政策である
PEDSAとその目的を合致するように進められてきたのである。これにより、 ProSAVANAにおける開発
アプローチが政府レベルに偏重していることが理解できるだろう。 ProSAVANAに展開におけるそのア
roSAVANAの問題となっており、その争点となるのが「ア
プローチが政府レベル偏重していることは、 P
カウンタピリティの欠加 Jである。国際開発のアプローチにおいて、その「アカウンタピリティ Jを履
行しないことが、開発アプローチの不透明性を招いており、 ProSAVANAにおいてもそれは例外でない。
殊に、 ProSAVANAにおいて技術協力を担う日本政府は、「責任ある農業投資」を掲げる一方で、援助国
としての「アカウンタピリティ
Jを欠いているのである。こうした点から、
ProSAVANAにおける問題
の責任は、モザンピーク政府だけにかかるものではなく、日本政府にもかかっていることが理解できる。
4章では、モザンピークにおける政府成立のプロセス、及び国家政策を背景にして ProSAVANAの現
状と問題を分析してきた結果をもとに、国際開発における政府レベルに偏重したアプローチの問題点を
議論し、農民レベルに視点を移した開発アプローチの重要性を説き、その問題の解決策を提示する。政
府レベルに偏重した開発アプローチの問題は、その効果が農民レベルに到達しないことにある o その理
由は 1章及び 2章で理解した、政府と農民の意思の義離を見れば理解にたやすいだろう c 開発アプロー
チの効果が到達しないことの原因は、開発アプローチの不透明性やトップダウン的な性質にあり、農民
はそれらに対して難色を示す。ゆえに、農民レベルに視点を移した開発アプローチが必要になってくる
のである。また ProSAVANAにおいてもこうした政府レベルに偏重した開発アプローチの問題はある o
ProSAVANAにおいてその問題の争点は「アカウンタピリティ Jの欠如 l
であり、政府それがレベルに偏
重した開発アプローチの問題の解決策となろう口被援助国、援助国ともに農民へのアカウンタピリテイ
を履行することが開発アプローチの重要な課題となるのである。殊に被援助国における開発アプローチ
においては、安易に政府レベルに偏重した開発アプローチをとらないためにも、被援助国における政府
と農民の社会関係性を理解することが重要となる。以上をもって、政府レベルに偏重した開発アプロー
チの問題解決策のーっとして、筆者は「アカウンタピリティ
Jの履行を主張する o
また、開発アプローチにおける「アカウンタピリティ Jの履行を具体的にどう行うかについては、「ア
カウンタビリティ履行のプロセスの模索 j と「アカウンタピリティ履行の監視のメカニズムの導入 Jを
今後の課題として提示し、本論を締めくくる。
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