経皮投薬用剣山形マイクロ針 およびその製造法と金型 香川大学 工学部 准教授 教授 知能機械システム工学科 吉村 英德 三原 豊 1 研究分野 主に金属加工等の塑性加工技術の開発 材料を削ってモノを作るのではなく,粘土のように材料を変形させてモノを作る 加工方法の検討(実験およびコンピュータシミュレーション(有限要素法)) 塑性加工の特徴: ・比較的高精度なネットシェイプ(製品と同形状)加工 ・優れた大量生産性 鍛造型 素材 用いる技術 マイクロ鍛造(プレス加工) 鍛造型にて素材を押し潰して、 複雑な形状のモノを製造 2 研究背景:ワクチン等の低侵襲マイクロ無痛針の開発 ¾ 新興・再興感染症などの脅威の増大 1国・1地域の問題ではない 新興感染症:HIV(1983), SARS、鳥インフルエンザなど 再興感染症:Ebora, Dengueなど Bioterrorism ¾ ワクチン研究対象の拡大・活発化 小児対象から成人市場・新しい治療用ワクチンの開発へ 例:乳癌、前立腺癌、ピロリ菌など ⇒10年後には世界で数兆円のワクチン市場に拡大が予想 我国におけるワクチン産業振興策 ワクチン産業ビジョン(案) 平成18年6月 厚生労働省 研究・臨床開発・生産・流通・薬事制度などの戦略的取り組み策提案 と予想される 3 表皮の役割(バリア性、抗体反応) • • • 抗体反応を示すランゲルハンス細胞の約半分は表皮にあり、それが全 体に散らばっているため、表皮にさえ抗原(ワクチン)を打てば、免疫誘 導(抗体産生)が生じる。 痛点(痛みを感じる細胞)は真皮にある。 表皮は外部からの進入を防ぐバリアであり、表皮を破れば、皮膚病薬や 麻酔薬の局部注入も可能。 4 経皮投薬マイクロ微小針のコンセプト 従来の注射による 投薬方法 課題 ・患者への痛みや恐怖感 ・針の損傷や感染症の危険性 ・注射針によるケガ ・投与手技に熟練を要する (医師による投与が必要) ・液薬では保存が利かない マイクロニードル による新投薬法 特徴 ・低侵襲での投薬 ・生体に優しい材料での 投薬 ・安全かつ簡単な投薬 ・高温地域での長期保存 針表面にワクチンを塗布した 剣山形マイクロ微少針の開発 5 経皮投薬マイクロ微小針の仕様 要求 •経皮投薬(筋肉注射でない) •低侵襲(痛みが少ない) •安全かつ簡便な投薬 (折れない、熟練者いらず) 長期保存・高温地域への輸出 •十分な投薬量 •良好な穿刺性 剣山デバイスの目標 •針の高さ 0.3μm∼1mm •針径 0.1mm以下(先端0.03mm以下) •生体分解性材料 強い、高温でも強い 融点約60℃∼約250℃ •剣山形(約100本)の貼付剤 •テーパー付き針形状 角質層 0.1∼0.2mm程度 表皮 0.06∼0.2mm程度 表皮+真皮の厚さ0.4∼1.4mm 6 新技術の基となる研究成果・技術 針形状の高精度加工 9 半密閉型を用いた転写加工 9 樹脂(針素材)の熱収縮の抑制のための遮断壁 z 針の安全性、穿刺性、痛み軽減 9 生体分解性高強度エンジニアリングプラスチックの使用 折れても生体内で分解、曲がり・折れにくい 9 テーパー形状の針 根元で太く、先端で細いため折れにくい 9 針先端丸みが直径30μm以下となる貫通孔径、平均100μmの胴体太さ z 大量生産性 ・低コスト化 9 空気溜まりを防ぐ貫通孔型を用いた低圧力転写による型の長寿命化 9 金属型の使用による長寿命化・加熱&強制冷却サイクル 9 高温強度&抗菌性のあるステンレス金型の使用(300℃の加工に耐える) z 7 従来技術とその問題点 Si ①母型製作 フォトリソ等の技術および めっきによるSi型,Ni型 Si ②型製作 Ni PDMS型 PDMS型, 機械加工による金型,テフロン型 ③転写鍛造による針成型 ポリ乳酸(生分解性有機材料) 8 従来技術とその問題点 何が問題だったか? 1. Si母型は折れやすく、PDMS型を大量には作れない。半導体 プロセスでは高コストになる。 2. Ni型は発がん性物質であり、使用に適さない。 3. PDMS型は高温下で数回使えば破れてしまって使えない 4. PDMSは60℃くらいならいいが、高温(約250℃)の融点を持 つ樹脂には使えない。 5. ポリ乳酸などでは、高温強度が低く、夏に溶けてしまって長期 保存できない。熱帯地域への輸出が不可能。 マイクロニードルの初期特許は切れており、その加工法で10数年 経っても実用化できなかったのは、高強度樹脂の加工ができ ないことと低コストの大量生産技術がないのでは? 9 我々の製造法(引下げ方式:特許公開中) 長所 大量生産可能 短所 自由表面のため精度に難あり(樹脂の粘度、樹脂プレートの精度、加工温 度(雰囲気含む)、引下げ速度のコントロールが極めて大変) PLAやPGA板 金型 80℃ヒーター板 先端がD30μm以下で穿刺性良好 引き下げ法で作製した樹脂剣山針 10 解決技術(マイクロ塑性加工の適用) 実用化のための製造技術課題 ¾剣山デバイス製造法の確立 ¾高品質,高精度かつ高強度、高温強度を持つ針の製造 ¾大量生産性の確保 鍛造加工の適用 高強度型を用いた半密閉型内でのプレス加工 ¾高精度なデバイスを製造することが可能 ¾高強度型で数万回以上の加工を行えば安価に ¾型をたくさん並べれば更なる大量生産 ¾強制加熱・冷却装置を使えば、加工時間の短縮化可能 11 プレス加工による加工法 樹脂の上面のみ融解し、 型により転写 上型加熱 下型冷却 プレス 生体分解性樹脂プレート 半密閉鍛造 10x10の直径100μmの 平行貫通孔 上型冷却後離型 無貫通孔 空気溜り 貫通孔 上型 •位置決め精度 ±0.0001mm •下降精度 0.00005∼10mm/s •面精度 Rmax0.01mm •傾き精度 左右で0.01mm/cm •加熱・強制冷却(現在は空冷のため、数十秒) 12 貫通孔の金属型の問題点 根元が外周に近いほど曲がっている 剣山針製品の横から見た図 2 貫通孔 3 マイクロニードル金型 冷却時に水平方向に収縮 4 PGA樹脂プレート 屈曲 樹脂は熱膨張・収縮以外にも、結 晶化により大きな収縮 (約8∼15%で金属の約10倍) 13 コンピュータシミュレーションによる検討 微小針ⅲ 微小針ⅱ 0.02 0 Displacement r [mm] 微小針ⅰ -0.02 -0.04 -0.06 -0.08 微小針ⅰ 微小針ⅱ 微小針ⅲ -0.1 -0.12 -0.14 0 200 400 Time [sec] 600 800 14 外周に縮むのを防ぐ遮断壁をつける Displacement r [mm] 0.02 0 -0.02 -0.04 -0.06 -0.08 -0.1 微小針ⅰ 微小針ⅱ 微小針ⅲ -0.12 -0.14 0 200 400 Time [sec] 600 800 15 実験による検証 ⇒ 後はテーパ形状!! 16 テーパー貫通孔の金型と完成した針 ¾ 融点240℃に耐える型 金属型、抗菌金型 ⇒ステンレス金型 ¾ 穿刺時に折れない形状&貫通孔で裏に漏れる テーパ形状(テーパドリルによる機械加工) ⇒円錐状孔形状, 根元0.2mm, 先端0.03mm, 長さ0.6mm 17 Anti-OVA IgG OD (%) マウスへの投与実験 120 (OVA 50 μg + CT 2 μg / 50 μL)溶液 を皮内注 100 OVA 無塗布MNを穿刺後、 CT (20 μg / 50 μL)溶液を塗布し、OVA (50 μg) 塗 布MN穿刺 OVA (50 μg / 50 μL)を皮内注 80 60 OVA (50 μg) 塗布MN 40 20 OVA 無塗布MNを穿刺後、 (OVA 50 μg +CT 20 μg / 50 μL)溶液を塗布 0 OVA (50 μg) +CT (2 μg)溶液 (50 μL)を 皮膚に塗布 ek we rd t3 ek os we Bo nd t2 ek os Bo we st t1 ek os we Bo d 3r e ek im we Pr d 2n e im Pr e im pr ePr OVA 無塗布MN 針の表面にワクチンを塗り、乾燥させ、それをマウスの皮膚に数時間穿刺・貼り付 けたところ、抗体反応が現れる ⇒ 成功(一回当たり15μgで薬効あり) 18 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来は困難であった高強度生体分解性樹脂 の経皮投薬用マイクロ剣山針の製造法を確 立した。 • テーパー貫通孔を有する金型により、低コスト 化および大量生産のための基礎技術を開発 した。 • 先端直径30μm以下&テーパ針という穿刺性 がよく、折れにくい形状を特定した。 19 想定される用途 • • • • • ワクチン投与 局所麻酔薬 皮膚疾患など、対象患者は極めて多い 化粧品 植物センサーの基盤 20 想定される業界 • 利用者・対象 経費投薬の製剤メーカーおよび研究所等 • 市場規模 国内市場:数百億円∼千億円 世界市場:数千億円∼ 21 実用化に向けた課題 • • • • • • 臨床試験の実施 剣山針の滅菌技術等 皮膚病等疾患に合わせた針の寸法の特定 金型の低コスト・大量生産性を満足する製造法 針素材(生体適合性樹脂)の入手 製造設備開発 22 産学連携の経歴と知的財産 • 経済産業省H19年度プロジェクト地域産業新生コン ソーシアム(香川大、徳島文理大薬学部、 (株)メド レックスとの共同プロジェクト) • 知的財産 9 マイクロニードルとその冶具(引き下げ法) WO2010/016218公開 9 剣山型マイクロニードルの製造方法と金型(プレス法) 特開2010-247535早期審査請求済み、WO2010/110397公開 23 お問い合わせ先 香川大学 知的財産コーディネーター 渡辺 利光 TEL 087−864 − 2541 FAX 087−864 − 2357 e-mail [email protected] 24
© Copyright 2025