認知症と薬3

15/01/2015
認知症と薬3
Dementia and Drugs
Department of Geriatric Medicine
Faculty of Medicine University of Tokyo
Next Dr. Corporation Executive Direct
Soshi Okamoto
薬
medication
認知症への投薬
認知症を治す
※認知症の進行を完全に食い止めることは無理
では何の目的で投薬するのか?
そもそも「薬が効く」とは?
① 進行を遅らせる。(中核症状)
② 症状を軽減する。(BPSD)
の2つの別々の意識をもつ
認知症に対しての薬物療法は、
認知機能の低下抑制(①)と同時に、
症状に対して選択していく(②)必要性がある。
認知症治療薬の進行抑制効果
アルツハイマー型認知症・アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
(点)
-6
毎年心理検査を受けないと効果がわかない
心理検査
投
与
開
始
時
と
の
得
点
の
差
改善
0
約6~12ヶ月進行を遅らせる
治療薬内服の場合
6
未
12
18
悪化
MMSEで年間
3点づつ低下
0
1
2
3
評価時期
治
療
4
の
場
合
5
6 (年)
施設入所を1年くらい遅らせる!
レミニール単剤
アリセプト(他)とメマリー併用による
介護施設入所までの期間延長効果(海外データ)
1.0
介
護
施
設
へ
の
非
入
所
率
0.8
0.6
0.4
コリンエステラーゼ阻害薬+メマンチン併用群
コリンエステラーゼ阻害薬単独群
0.2
Cox比例ハザードモデル HR=0.13 [95%CI 0.03~0.56]
0
0
対象
方法
1
2
3
4
追跡期間
5
6
(年)
1997年以降に治療を開始し、1年以上追跡が可能であったアルツハイマー型認知症患者429例
メマンチン又はコリンエステラーゼ阻害薬使用の有無による介護施設入所又は死亡までの期間をレトロスペクティブに解析した。
[Lopez OL, et al:J Neurol Neurosurg Psychiatry 2009;80(6):600-607]
中核症状に対する薬
中核症状薬の基本的戦略
神経伝達物質
不足による疾患・症状
薬物治療
アセチルコリン
記憶障害
アルツハイマー型認知症(AD)
レビ―小体型認知症(DLB)
AchE阻害薬
ドパミン
錐体外路症状
パーキンソン病(PD)
パーキンソン病に伴う認知症(PDD)
レビ―小体型認知症(DLB)
(※過剰⇒統合失調症)
L-DOPA
ドパミン作動薬
セロトニン
うつ病
SSRIなど(ジェイゾロフトⓇ)
4つの認知症治療薬:作用機序
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
+アセチル
コリン受容体
刺激作用
アリセプトⓇ
レミニールⓇ
+ブチリルコリン
エステラーゼ
阻害作用
NMDA
受容体
遮断薬
リバスタッチ
Ⓡ
メマリー
イクセロンⓇ
併用不可
併用可
4つの認知症治療薬:飲み方
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
+アセチル
コリン受容体
刺激作用
アリセプトⓇ
レミニールⓇ
錠剤
散剤
ゼリー
錠剤
液剤
+ブチリルコリン
エステラーゼ
阻害作用
NMDA
受容体
遮断薬
リバスタッチ
Ⓡ
メマリー
イクセロンⓇ
貼付剤
錠剤
アリセプトⓇ
アルツハイマー型認知症患者の脳内で、アセチルコリン不足が判明
↓
不足を補うため、アセチルコリン分解酵素を阻害する薬剤
アリセプトⓇ
<適応>
アルツハイマー型認知症・レビ―小体型認知症
<使用法>
•1日1回内服
•3mgから開始
•3mgを14日間服薬し、5mgに増量
•副作用が出た場合は3mgに戻すこともできる
•重症度には4週間おいたあと10mgまで増量可能
アリセプトⓇ
<副作用> ※特にDLB 患者には要注意
①消化器症状:嘔吐・下痢(2週間以内で出ることが多い)
軽度であれば、ブスコパンⓇ ・ナウゼリンⓇなどの併用
②興奮作用:易怒性亢進・徘徊 減量、他剤への変更(イクセロン
⇒BPSDの悪化
パッチⓇ ・レミニールⓇ ・メマリーⓇ)が基本
となる
軽度であれば、抑肝散Ⓡ ・セロクエルⓇ ・
グラマリールⓇなどの併用
③ドパミン阻害作用:頸部前屈、嚥下能力の低下
⇒パーキンソニズムの悪化
減量、他剤への変更(イクセロン
パッチⓇ ・レミニールⓇ )が基本となる
DLBであれば、メネシットⓇ ・マドパーⓇ
の追加投与を検討
アリセプトⓇ
<merit>
• 1日1回の内服⇒アドヒアランスの向上
• 賦活作用が強い(意欲低下を改善)
• レビー小体型認知症に著効(幻視が減る)
<demerit>
• 副作用:嘔気・下痢(消化器症状)
• 元気になり過ぎて興奮する人がいる
• パーキンソニズムの悪化
レミニールⓇ
AChE阻害効
果は、
アリセプトの
1/50程度?
↓
副作用(特に
消化器症状)
の軽減
アリセプトに
ないAPL効果
↓
効果が薄れ
にくい
AChE阻害作用+APL作用
神経細胞
保護作用
<ガランタミンの2つの作用>
• APL(allosteric potentiating ligand)作用:ニコチン性アセチルコリン
受容体(nAchR)に対する作用(神経前シナプス・神経後シナプスに
対し作用)
→アセチルコリン、グルタミン酸、GABAなど多様な神経伝達物質
の放出を促進、効果を持続
• アミロイドβ神経毒からPI3キナーゼ経路を介しての神経細胞保護
効果?
<補足>
• smoking → α4β2ニコチン受容体に結合しドパミン放出 → 快感
• バレニクリン(チャンピックスⓇ)は受容体に作動し、ドパミン放出量
を半減にすることで禁煙効果をもたらす
→ 抑うつ症状に注意
• 定形型抗精神病薬内服の統合失調症の患者に喫煙率が高かっ
たのは、薬によってドパミン作用が抑制されているから?(仮説)
レミニールⓇ
<適応>
アルツハイマー型認知症(軽度~中等度)
<使用法>
•1日2回内服(半減期が短い)
•4mg2Tから開始(1日8mg)
•4週間ごとに増量していく(最大24mgまで可能)
•アリセプトからの切り替えの際には、アリセプトの量に関
わらず、レミニール8mgから再開する
→アリセプトの半減期が長いため数日おいてからでも良い
レミニールⓇ
<merit>
• 賦活作用はあるがあまり興奮させない
• 投与初年度の認知機能の改善作用あり
• 血管性認知症にも効果ありの報告あり
<demerit>
• 1日2回内服⇒アドヒアランスの問題
• 副作用:嘔気・下痢(特に嘔気)
• レビー小体型認知症への効果?
イクセロンⓇ
リバスタッチⓇ
AChE阻害作用+BuChE作用
イクセロンⓇ
リバスタッチⓇ
Yu Nakamura et al. Dement Geriatr Cogn Disord Extra 2011;1:163-179
イクセロンⓇ
リバスタッチⓇ
<適応>
アルツハイマー型認知症(軽度~中等度)
<使用法>
•1日1回貼付
•用量:4.5mg・9mg・13.5mg・18mg
•4週間ごとに増量していく(維持量18mg)
•アリセプトからの切り替えの際には、アリセプトの量に関
わらず、4.5mgから再開する
→アリセプトの半減期が長いため数日おいてからでも良い
イクセロンⓇ
リバスタッチⓇ
<merit>
• 生活機能でみると進行抑制効果がある
• レビー小体型認知症にも効く
• 副作用:嘔気・下痢が少ない
• 興奮も少ない
RCT(エビデンスレベルⅡ)で妄想・無表情・
幻覚・うつ状態(NPI-4)の優位な改善を認めて
いる。一方、MMSEや臨床全般評価には有意
な改善は認めていない
<demerit>
• 貼り薬のため貼ったところが赤くなる(皮膚症状)
• 増量がゆっくりのため初期効果がわからない
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の慎重投与
(アリセプトⓇ、レミニールⓇ、イクセロンⓇ)
•
•
•
•
•
•
心疾患(洞不全症候群、房室ブロック)
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
てんかん
気管支喘息・肺気腫・慢性気管支炎
パーキンソン病・パーキンソン症候群
尿閉・膀胱手術後(レミニールⓇ)
*他の薬との併用はあまり問題とならない.
貼り薬の裏話
1. 24時間貼りかえであるが、48時間継続していけないこ
とはない
2. 皮膚症状で脱落する患者が多い
3. 保湿剤(ヒルドイドソフトⓇ)⇒ステロイド外用剤の順で
使用
4. 皮膚炎を起こしにくい上腕部に貼ることが多い
メマリーⓇ
アルツハイマー型認知症患者の脳内で、NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体の
数が減少し、残った受容体が異常な活性化を生じている
↓
細胞外Ca2+が過剰流入し、神経細胞の傷害につながる
↓
NMDA受容体を不活化する
メマリーⓇ
<適応>
アルツハイマー型認知症(中等度~高度)
<使用法>
•1日1回内服
•用量:5mg・10mg・15mg・20mg
•5mg→10mg→15mg→20mg で1週間ごとに増量
•眠気・めまい(陰性作用)の副作用があり就寝前がベスト
•15mgまで増量すれば約半数で副作用が出現
メマリーⓇ
ドネペジル・メマンチンの単独及び併用による
海馬へのアセチルコリン濃度への影響(ラット)
(%)
600
P<0.01
P<0.05
P<0.01
mean±SE
各n=11
t-test(t=2.6)
400
200
0
ドネペジル
0.5mg/kg
メマンチン
5mg/kg
ドネペジル+
メマンチン
両剤の合計
Iharainen et al. Neuropharmacology 2011 : 61(5-6) : 891-899
メマリーⓇ
Tairot PN et al. JAMA 2004 Jan 21 ; 291(3) : 317-24
中等度~高度ADにおいてドネペジルにメマンチンの併用で認知機能
(SIB)の進行において優位差をもって改善を認めた
コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの併用療法が
中等度~重度ADでは標準治療
メマリーⓇ
Howard R et al. N Engl Med 2012 366(10) : 893-903
DOMINO試験
ドネペジル単独に対し、ドネペジルとメマンチンの併用に有意なメリットは
認めなかった
メマリーⓇ
<副作用>
①ドパミン阻害作用(陰性症状)
1週間程度休薬
その後、半量で再開
症状が残る、転倒を繰り返す場合に
は中止も検討
傾眠・めまい・食欲低下 → 夕食後・就寝前内服が基本
②ドパミン過剰作用(陽性症状)
減量、中止が基本となる
軽度であれば、セロクエルⓇ ・グラマ
リールⓇなどの併用
BPSDの悪化・徘徊・易怒性亢進
③それ以外
緩下剤(アミティーザⓇ ・マグラックスⓇ)
の増強
※AchEIは下痢傾向の作用を持つことを考慮
便秘(サブイレウスになることも!→要注意)
メマリーⓇ
<merit>
• 鎮静効果があり、抗精神病薬の投与が減る可能性
• 副作用・慎重投与が少ない
• 他の薬(アリセプトⓇ、レミニールⓇ、イクセロンⓇ)と併用できる.
• 進行抑制の上乗せ効果がある
<demerit>
• 眠気やめまいが出やすい → 高齢者では要注意
• 便秘になりやすい
認知症の薬が症状を軽減
アリセプトⓇ・レミニールⓇ・イクセロンⓇ
・・・うつ状態・意欲低下に有効
・・・幻視に有効
*アリセプトⓇは逆に興奮することあり
メマリーⓇ
・・・妄想・易怒・焦燥・不眠に有効
*逆に眠気が強い場合があり
認知症と診断されたら
• アルツハイマー型認知症(AD)
– イクセロンⓇ:皮膚乾燥がない場合にお勧め
– レミニールⓇ:興奮がある場合にお勧め
– アリセプトⓇ:意欲低下がある場合にお勧め
• レビー小体型認知症(DLB)
– イクセロンⓇ:第1選択
– アリセプトⓇ:第2選択
※レミニールⓇの可能性(個人的には可能性あると思う)
副作用が出たら(変更の一例)
• 嘔気・下痢
アリセプトⓇ・レミニールⓇ → イクセロンⓇに変更
• 興奮
アリセプトⓇ → レミニールⓇ・イクセロンⓇに変更
レミニールⓇ → イクセロンⓇに変更
イクセロンⓇ → レミニールⓇに変更
• 皮膚のかゆみ
イクセロンⓇ → アリセプトⓇ ・レミニールⓇに変更
進行抑制効果が乏しければ(一例)
• 投与1年目の心理検査で3点以上低下・・・
– アリセプトⓇ → レミニールⓇ・イクセロンⓇに変更
– レミニールⓇ → イクセロンⓇに変更
– イクセロンⓇ → レミニールⓇに変更
• 中等度以上に進行の場合のオプション
– first choiceメマリーⓇを追加投与
– second choice アリセプトⓇ5㎎ → 10㎎に増量
いつまで飲むか?
高度の認知症での効果が証明
• 高度認知症患者でも塩酸ドネペジルの投薬の継続
の意義あり
Howard R et al. N Engl Med 2012 366(10) : 893-903
投与意義を考える
• 自宅介護から施設介護になった時期
※そもそも施設入所を遅らせるために内服
• BPSDの問題
パーキンソン症状への処方
レビー小体型認知症のパーキンソニズム
振戦・固縮が少なく、無動、姿勢反射障害が目立つ
・・・見落としやすい!
無動・・・指タップ
姿勢反射障害・・・立たして押す(突進現象)
レビー小体型認知症はL-Dopaを投与.
マドパーⓇ 、ECドパールⓇ 、メネシットⓇ
ドーパミン受容体刺激薬などその他の薬は
せん妄を惹起するリスク高く原則使用せず