2015/6/10 特集――NIKKEIASIANREVIEW、アジアの鼓動、英文で読む。 2015/06/08 日本経済新聞 朝刊 25ページ 2010文字 日本経済新聞社の英文媒体「Nikkei Asian Review」は、日本を含むアジア地域に関する最新 情報を伝えます。マガジン(アプリとプリント)で特集や分析、寄稿などを毎週提供するほか、ウェブでも 政治・経済、マーケット、科学技術などに関するニュースや解説を随時配信しています。「Business」セ クションでは、アジアの企業情報や消費トレンド、トップインタビューなどをまとめています。 読んでいます 日米教育交流振興財団(フルブライト記念財団)理事長 飯野正子さん 留学が築く人とのつながり 戦後の日米関係構築に大きな足跡を残したのが、フルブライト・プログラムです。1952年以降、奨学 金を支えに米国の大学で学んだ日本の若者は6000人を超えています。日本の学生が内向き志向を 強めるなか、フルブライト留学の経験者が設立した日米教育交流振興財団(フルブライト記念財団)の 飯野正子理事長(津田塾大学前学長)に、留学の効用を尋ねました。(聞き手はNAR編集部シニア・ エディター 三科清一郎) ――専門は日系アメリカ人を中心とした米国の移民史ですね。 「研究テーマが決まるきっかけは、アメリカへの留学でした。アメリカ人は留学生には親切ですが、定着 しようとする人は競争相手とみなします。母国を捨てた移民は、このような厳しい環境をどう感じている のかと思い、修士論文のテーマにしたいと考えました。指導教授は『あなたの長所は日本語ができるこ と。日系アメリカ人を研究したらどうか』と提案してくれました」 ――アメリカ留学ではフルブライト交流事業の支援を受けたそうですね。 「津田塾大の学生時代、アメリカから来ていたケチャム先生に応募を勧められました。先日、先生の初 来日から50年を機に日本にお招きしました。87歳になった先生は、福沢諭吉の考え方に触れ、自分 の政治哲学研究が豊かさを増したと回顧していました」 「フルブライト留学の経験者が海外で培った人的ネットワークは、仕事に役立つだけでなく発想を豊か にしてくれます。貴重な留学経験を社会に還元しようとする感謝の気持ちが、社会的地位の向上に役 立つのだとも思います」 ハードル下げないで ――大学生の留学意欲低下が指摘されています。津田塾大ではどうですか。 「留学者数は減ってはいないのですが、高い英語力を要求される大学は敬遠し、自分の現在の能力 の範囲内で合格できる大学を選ぶ傾向にあるようです。一時期、アメリカ東部にある有力女子大のブリ ンマー大への志望者が集まりませんでした。TOEFL(英語検定試験)の点数が要求水準に届かない ためです。留学はしたいが、厳しい英語の勉強は避けようという姿勢を嘆かわしく感じました。留学には 時事英語の知識も必要になります。実は英文学に比べて、時事英語のハードルは高くないので、まず は触れてほしい。私は移民研究のために、アメリカの週刊誌や新聞を欠かさず読んでいます」 ――海外の情報をネットで手軽に入手できる時代になりましたが、留学という実体験には及ばないでし ょう。 「その通りです。若い人はスマートフォン経由以上の情報が、自分が現地に赴いたときに得られるという 点に気づかないようです。comfort zone(居心地のいい領域)にとどまっていれば安泰だと考えるよう では成長できません」 「留学は自分自身が学ぶためだけのものではありません。留学先の交流相手も異なる価値観を学ぶこ とになるのです。津田塾大創立者の津田梅子を受け入れたコミュニティーは梅子から多くを学んだは ずだという声も、現地で聞きました。私が留学を通じて痛感したのは、自分がいかに日本を知らないか ということ。相手に伝えたいことを持っているかどうかが、留学を有意義にするための分かれ目ですね」 ――津田塾大は昨年、ブリンマー大の学生の震災復興研究を支援しました。 「福島を訪れた中国系アメリカ人のアンジーは、また日本に来たくて(若手語学指導者を招く)JETプロ http://t21.nikkei.co.jp/g3/CMN0F12.do;jsessionid=3D0C38B3E29D3EBC0788934F2B5354FB 1/2 2015/6/10 グラムに応募するそうです。教育現場では英語を上手に話す人は金髪で肌の色が白いという先入観 があります。アンジーが上手に英語を教えれば、アメリカの多様性への理解につながります」 人的交流に焦点、関心 ――日米間のパイプが細ってきたといわれています。 「それは実感します。学術面では日本研究が衰える一方で、中国研究が盛んになっています。これは 日本にとって厳しい環境です。人と人との交流こそが世界を平和へと導くのです。Nikkei Asian Re viewに載った『戦後70年 深化する日米関係』特集(5月11―17日号)のような記事は重要で、周囲 にも一読を勧めています」 いいの・まさこ 1966年津田塾大英文学科卒、同年フルブライト奨学生として留学し、68年米シラキュ ース大大学院修士課程修了。2004~12年津田塾大学長。97年「日系カナダ人の歴史」でカナダ首 相出版賞を受賞。 本サービスで提供される記事、写真、図表、見出しその他の情報(以下「情報」)の著作権その他の知的財産 権は、その情報提供者に帰属します。 本サービスで提供される情報の無断転載を禁止します。 本サービスは、方法の如何、有償無償を問わず、契約者以外の第三者に利用させることはできません。 Copyrights © 日本経済新聞デジタルメディア Nikkei Digital Media, Inc. All Rights Reserved. http://t21.nikkei.co.jp/g3/CMN0F12.do;jsessionid=3D0C38B3E29D3EBC0788934F2B5354FB 2/2
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