看護倫理における尊厳の意味、 その発展の経緯と

■ 日本看護倫理学会第7回年次大会
基調講演
看護倫理における尊厳の意味、
その発展の経緯と看護者に与える影響
The role of dignity in nursing ethics: what it means; how it has evolved;
and why it matters to nurse practitioners
Professor Ann Gallagher
◉University of Surrey, UK & Editor, Nursing Ethics
(監訳:太田勝正 名古屋大学大学院医学系研究科)
1 . はじめに
まず最初に、年次大会の講演の機会にお招きいただ
きましたことに対し、日本看護倫理学会の太田教授、
小西教授、会員の皆様にお礼を申し上げます。日本を
訪問し、日本の方々や日本のすばらしい文化、文学、
および哲学の伝統から学べることは常に大きな喜びで
す。
看護における尊厳をテーマにした会議というものは
極めて重要であり、患者、実践者および看護専門職の
尊厳をどのように理解すればよいのかを、ともに議論
する機会となります。また、患者、家族、同僚と接す
る仕事において、どのように尊厳を高めていくのか、
どうしたら、尊厳を損なうのではなく高められる医療
の実践や組織となれるのかを理解する必要もありま
す。
近年、医療における尊厳に大きな注目が集まってい
ます。悲しいことに、これはケアの現場において尊厳
が無視され、患者が放置、軽視、時には虐待されてい
たという報道がなされたことが主な理由です。
看 護 倫 理 の 国 際 ジ ャ ー ナ ル、Nursing Ethicsで、
尊厳に関する最初の論文が掲載されたのは、1998 年
のことでした。それ以来、20件以上の論文が掲載さ
れ、また2013 年にDagfin Naden により特別オンライ
ン版も編集されています。この尊厳というトピックに
ついてはさらに多くの論文が他の専門誌や書籍で掲載
されています。なかには、尊厳とは、「無駄」で「愚か
な」概念であると主張するものもあります。
私は、尊厳は無駄でもなければ愚かでもないと皆様
に訴えたいのです。それどころか、尊厳は看護倫理の
本質的な価値であり、それ以上のものであると主張し
たいと思います。尊厳とは、第一の価値であり、そこ
Introduction
I would like to begin by thanking Professor Ota,
Professor Konishi and colleagues in the Japanese
Nursing Ethics Association for the invitation speak
at this conference. It is always a great pleasure to
visit Japan and to learn from its people and very
fine cultural, literary and philosophical traditions.
A conference on the theme of dignity in care is very
important and gives us the opportunity to discuss together how we might understand the dignity of patients, of practitioners and of the nursing profession.
We also need to understand how we promote dignity
in our work with patients, families and colleagues
and how we can have healthcare practices and organizations that promote rather than diminish dignity.
There has been a great deal of attention to dignity in health care in recent years. Sadly, this seems
mostly due to reports of indignity in care contexts
where patients have been neglected, disrespected
and sometimes, abused.
The first article on dignity appeared in the journal Nursing Ethics in 1998. Since then we have had
over 20 articles in the journal Nursing Ethics with
a special online issue edited by Dagfin Nåden and
colleagues in 2013. There are also many more articles in other journals and books on this topic, including some that have argued that dignity is a
‘useless’or‘stupid’concept.
I hope to persuade you that dignity is neither
useless nor stupid. I will argue that dignity is, on
the contrary, a core value in nursing ethics. And it
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から他の価値が生まれてくるものであり、同胞、私た
ち自身、そして私たちの職業の価値を明確にするため
に必要な価値なのです。
この立場を明らかにするために、私は、まず尊厳に
関わる哲学的研究と実証的研究の文献を引用し、その
後、日本の作家や監督による文学や映画の例を挙げて
いきたいと思います。
2 . 今回の講演の内容は次の通りです
• 私の今までの尊厳に関する学問と研究との関わり
• 尊 厳 に 対 す る 批 判 の 紹 介(Macklinと Pinkerの 事
例)
• ケアにおける尊厳への関心が高まっている背景の考
察
• 尊厳についての歴史的な視点の概要
• 道徳哲学および実証的研究からの視点の紹介
• 文学や映画からの視点の引用。例として武士、家政
婦と博士、執事、納棺師
• 結論および看護者のための提言
3 . 尊厳の学問と研究との関わり
まず最初に、私の研究が尊厳とどのように関わって
きたかについてお話ししたいと思います。始まりは
1999 年、その年に、哲学者である David Seedhouse
教授の研究助手の職を得ました。Seedhouse教授は、
看護師に主要な看護の概念を教える効果について研究
したいと考えていました。私たちは、尊厳に的を絞る
ことで合意し、看護師に尊厳を教えることにより看護
の質は高まるだろうかという疑問に答えるため、疑似
実験、準実験、を考えました。この関わりから、私は
尊 厳 と い う 概 念 に 大 き な 関 心 を も つ よ う に な り、
2004 年の Nursing Ethics誌に、「尊厳と尊厳の尊重」
という概念論文を発表しました。
数年後、私はPaul Wainwright教授と共同し、尊
厳に関する論文をいくつか出しました。たとえば、
2008 年のNordenfeltの尊厳の類型論の批評や、尊厳
の文献レビューです。また、私たち二人に、もう一人
の同僚であるLesley Baillie 教授も加わり、英国看護
協会委託の尊厳に関する調査も行いました。これは、
私共の知るかぎり、看護師の尊厳調査としては最大の
もので、2000 以上の回答を得ました。私たちは尊厳
の定義を定め、尊厳は、個人、組織、およびより広範
な社会との関連のなかで考慮する必要があると主張し
ました。また、英国看護協会の尊厳プロジェクトの評
価を行い、教材開発にも貢献しました。
現在私は、太田教授のチームと協力し、患者尊厳測
定尺度国際版の検証を行っています。また、サリー大
学とオックスフォード大学のチームとともに
「ENACT」(Empowering Nurses to provide Ethical
leAdership in Care homes supported by a dignity
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is more than this. Dignity is the first value, the value that other values spring from, the value we need
to articulate the worth of fellow human beings, of
ourselves and of our profession.
To develop this position, I will draw on the philosophical and empirical research literature relating to
dignity and will engage with some examples of literature and film from Japanese authors and directors.
In this talk I will then
•Engage with dignity scholarship & research
•Introduce a critique of dignity̶from Macklin and
Pinker
•Discuss the background to increased attention to
dignity in care
•Outline a historical perspective on dignity
•Introduce perspectives from moral philosophy &
from empirical research
•Cite examples from literature and film, for example, the Warrior, the Housekeeper, the Professor,
the Butler and the Undertaker
•Draw conclusions and recommendations for nurse
practitioners
Engagement with dignity scholarship & research
I would like to begin by giving an account of my
research relationship with dignity. It began in
1999, when I accepted a position as research assistant with philosopher, David Seedhouse. Professor
Seedhouse wanted to research the effectiveness of
teaching nurses about a key nursing concept. We
agreed to focus on dignity and designed a quasiexperiment to respond to the question: Does teaching nurses about dignity improve care? As a result
of this, I became very interested in the concept of
dignity and published a conceptual paper̶Dignity
and Respect for Dignity̶in Nursing Ethics in
2004.
Some years later I worked with Professor Paul
Wainwright on publications relating to dignity, for
example, a critique of Nordenfelt’
s typology of dignity
and a literature review of dignity(2008)
.Professor
Wainwright and I also worked with another colleague̶Professor Lesley Baillie̶on a dignity survey commissioned by the Royal College of Nursing
(RCN)
.This is the largest dignity survey of nurses
we know of with over 2000 responses. We constructed a definition of dignity and argued that dignity
needed to be considered in relation to individuals, organizations and the wider society. We also conducted
図1
Toolkit)のプロジェクトも進めています。これは、
行動研究プロジェクトで、看護師がケアホームにおけ
る尊厳に関してリーダーシップを発揮できる力をつけ
るための尊厳ツール一式を開発することを目的にして
います。
最後に、Nursing Ethicsの編集者として、私の手
元には定期的に尊厳に関する論文が届きます。これら
の多くが定性的研究です。ざっとお話ししましたがこ
のように、私はケアにおける尊厳について考え研究し
てきました。
このスライド(図1)は、尊厳を主観的にみたらど
うなるかということを私たちに思い起こさせてくれま
す。これは、私がロンドンの病院で高齢者の患者に、
「あなたとって尊厳とは何ですか」と尋ねたときの答
えです。「カップに受け皿がついていること」と答え
がかえってきました。
尊厳に対する研究の関心が高まってきたにもかかわ
らず、すべての学者が尊厳についてサポートしている
わ け で は な い こ と も 述 べ る 必 要 が あ る で し ょ う。
Ruth Macklinと Stephen Pinkerの二人が特に際立っ
ています。
4 . 尊厳の批判
2003 年、 ア メ リ カ の 生 命 倫 理 学 者 で あ る Ruth
Macklinの論文が、イギリス医学会会報で発表されま
した。論文のタイトルは「尊厳は役に立たない概念で
ある。これは、人または人の自主性への敬意以外の何
物でもない」というものでした。Macklin教授は、尊
厳は、生命倫理学や人権に関する文書で、ほとんどま
たは全く定義されずに使われており、「救いようのな
いほどあいまいなもの」であり、「医療倫理における
この概念は、いかなる実体も失うことなく排除でき
る」と主張しています(BMJ 2003, Volume 327, p.
1420)。
二 つ め の 批 評 は、 心 理 学 者 で あ り 作 家 で も あ る
Stephen Pinkerに よ る も の で、2008 年 の The New
an evaluation of the RCN dignity project and contributed to the development of educational materials.
I am currently collaborating with Professor Ota
& colleagues on the validation of an international
dignity measurement tool. I am also working with
colleagues at the Universities of Surrey and Oxford
on the ENACT project, that is, Empowering Nurses
to provide Ethical leAdership in Care homes supported by a dignity Toolkit(ENACT)
.This is an
action research project designed to develop a dignity toolkit that can empower nurses to provide leadership on dignity in care homes.
Finally, as Editor of Nursing Ethics̶I receive regular‘dignity’submissions. Many of these are qualitative studies. I have, therefore, been much engaged
in thinking about and researching dignity in care.
This slide reminds me of the subjective dimensions of dignity. It was the response of an older patient in a hospital in London when I asked her
‘what does dignity mean to you?’
. The patient said
‘It means having a saucer with my cup’
.
Despite the increased research attention to dignity, it needs to be said that not all academics are
supportive of dignity. Two are noteworthy: Ruth
Macklin and Stephen Pinker.
Critique of Dignity
In 2003 an article by American bioethicist, Ruth
Macklin, was published in the British Medical
Journal. The title of the article was‘Dignity is a
useless concept: It means no more than respect for
persons or their autonomy’
. Professor Macklin argued that dignity is used in bioethics and human
rights documents with little or no definition and it
is‘hopelessly vague’and the‘concept in medical
ethics can be eliminated without any loss of content’
(BMJ 2003, Volume 327, p.1420)
.
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Republicで発表されました。彼は、尊厳とは、「感傷
的で主観的な概念であり、それに課せられた重い道徳
的要求に耐えうるものではない」と主張しました。彼
は、アメリカのジョージ・ブッシュ大統領の指示で設
立された生命倫理に関する大統領審議会がまとめた
2001 年の「人間の尊厳と生命倫理」報告書を批判しま
した。彼の主張の大筋は、尊厳という概念が政治目的
に利用されたというものです。彼は、大統領の審議会
の尊厳報告書は紛らわしいとも非難し、次のように述
べています。
すべてのエッセイストが認めることだが、この尊
厳という概念は捉えどころがなくあいまいなもの
だ。実際、いたるところであからさまな矛盾を生み
出している。隷属させることや自尊心を傷つけるこ
とは道徳的に悪いことである。なぜならそれは人か
ら尊厳を奪いとるからであると書いてあるかと思え
ば、隷属させることや自尊心を傷つけることを含め
人にどのような害を与えたとしても、その人から尊
厳を奪い去ることはできないと書いてあるものもあ
る。また、尊厳は、優れた資質や努力や良心を反映
したもので、一部の人たちだけが努力と人格によっ
て達成できるものだと書いてあるものもあれば、ど
れほど怠け者でも不道徳でも、精神に問題があって
も、だれもが完全な尊厳を有していると書いてある
ものもあるという、尊厳に関する大統領審議会報告
は混乱を招いています(Pinker S, 2008)。
ここでわかるのは、このような批判に対応し医療行
為において倫理的に行動するためには、尊厳について
十分に理解することがどれほど重要かということで
す。看護者として必要なのは、どのように尊厳が進化
してきたのか、そして患者、家族、同僚およびその職
業の尊厳をどのように高めていくことができるのかを
理解することです。でもそれに移る前に、なぜ、現代
の医療で尊厳に焦点が当てられてきたのかについて述
べたいと思います。
5 . 尊厳―なぜ今?
イギリスでは、病院やケアホームにおける様々な不
祥事が多くありました。最近で最も注目を集めた不祥
事はイングランドの病院で起こりました。2013 年の
BBC は次のように報道しました。
「国民健康保険サービスのスタッフが正直に包み
隠さず答えないのであれば、告発されるべきである
と、スタフォード病院の問題に関する公的調査は結
論付けている。何年にもわたる病院での虐待や放置
によって、何百人もの患者に不要な死がもたらされ
たのだ。しかし、調査委員長である王室顧問弁護士
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A second critique is from psychologist and author, Stephen Pinker, and was published in The
New Republic in 2008. He argued that dignity‘is a
squishy, subjective notion, hardly up to the heavyweight moral demands assigned to it’
. He was critical of a 2001 report called Human Dignity and Bioethics put together by the President’
s Council on
Bioethics under the leadership of US President
George Bush. Pinker argues, roughly, that the concept of dignity has been manipulated for political
purposes. He argues too that the President’
s Council dignity report is confusing saying:
The President’
s Council dignity report is confusing: Almost every essayist concedes that the concept
remains slippery and ambiguous. In fact, it spawns
outright contradictions at every turn. We read that
slavery and degradation are morally wrong because
they take someone’
s dignity away. But we also read
that nothing you can do to a person, including enslaving or degrading him, can take his dignity away.
We read that dignity reflects excellence, striving and
conscience, do that only some people achieve it by
dint of effort and character. We also read that everyone, no matter how lazy, evil or mentally impaired,
has dignity in full measure’
(Pinker S, 2008)
.
We can see, then, how important it is to have a
good understanding of dignity so that we can respond to such critique and act ethically in our
healthcare practice. As nurse practitioners you need
to understand how dignity evolved and how you can
promote the dignity of patients, family, colleagues
and their profession. Before I move on to this, I will
say a few words about the rationale for the focus on
dignity in our health services at this time.
Dignity̶why now?
In the United Kingdom we have had many care
scandals where there have been care failings in
hospitals and care homes. The highest profile scandal in recent years was at a hospital in England. A
BBC report in 2013 said that:
‘NHS [National Health Service] staff should
face prosecution if they are not open and honest,
according to a public inquiry into failings at Stafford Hospital. Years of abuse and neglect at the
hospital led to the unnecessary deaths of hundreds of patients. But inquiry chairman, Robert
Francis QC, said the failings went right to the
図2
のロバート・フランシスは、この問題は、医療制度
の上層部にまで行きつくものであると述べている。
委員長は 290 項目の勧告をまとめ、国民の信頼を失
わないために抜本的改革が必要である。」
ケアの欠陥に関するフランシス委員長の報告書でも
またそれ以前の報告書でも大きく取り上げられている
のは、病院におけるコスト削減と目標達成のための体
質です。病院の経営陣は、財務目標の達成を優先する
一方で、根本的なケアを疎かにしてきました。報告書
では、鎮痛剤をもらえなかったり、食事や飲み物が手
の届かない場所におかれたりして、助けを求めて泣き
叫ぶままに放置されている患者について報告していま
す(Triggle, 2013)(図2)。
この問題は、一言でいえば、「目標を達成し、要点
をはずしている」となります。
ケアにおける尊厳の欠如は常に、こうした患者や家
族に対する怠慢の結果といわれ、大きな苦痛をもたら
し時に死を招いてきました。
この事例やその他のケアの不祥事に対してイギリス
では多くの対応策が講じられました。尊厳委員会の設
置、新しい規則の制定、病院で尊厳という課題につい
てリーダー役となる尊厳推進者の選定、憲章の発表な
どです。英国看護協会の憲章は次のように規定してい
ます。
「尊厳は、かねてから英国看護協会の中心テーマ
であった。会員およびスタッフは、尊厳と敬意、気
遣いと思いやりをもって互いを扱うべきであり、ま
た、一人ひとりが英国看護協会にもたらす豊かな多
様性を重んじるべきである。」
top of the health service. He made 290 recommendations, saying “fundamental change” was
needed to prevent the public losing confidence’
.
A strong theme of the Francis report and previous reports on care deficits was a focus on a‘cost
cutting and target-chasing culture’in the hospital.
Hospital management prioritized meeting financial
targets while fundamental care was neglected. The
report tells of‘patients left crying out for help because they did not get pain relief and food and
drinks being left out of reach’
(Triggle, 2013)
.
We can summarize this problem as‘meeting the
target and missing the point’
.
‘Indignity in care’was regularly referred to as a consequence of this neglect for patients and families resulting in great distress and, in some instances, death.
There have been many UK responses to this and
other care scandals. A dignity commission was set
up, new codes were created, dignity champions
were identified to lead the dignity agenda in hospital & charters were published. One Charter from
the Royal College of Nursing states that:
‘Dignity has been a core theme for the RCN for
some time. Members and staff should treat each
other with dignity and respect, care and consideration, as well as valuing the rich diversity that
everyone brings to the RCN.
This charter sets out the rights and responsibilities of all RCN members in relation to their interac日本看護倫理学会誌 VOL.7 NO.1 2015
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この憲章は、すべての英国看護協会の会員が、会員
同士で交わるときおよび英国看護協会のスタッフと交
わるときの権利と責任を定めたものです(Royal college
of Nursing, 2010)。
もう一つの最近の尊厳に関する取り組みの例は、英
国年金生活者会議(2012)の「尊厳規定」で、次のよ
うに規定しています。「この尊厳規定の目的は、しだ
いに自分の世話や自分の用事を適切に行うことができ
なくなるものの健康、安全および幸福を確保するとい
う背景において、高齢者の権利を擁護し、個人の尊厳
を維持することである」と述べています。
この規定は、ある種の行為や措置は高齢者にとって
容認できないものであることを認識し、次のことを要
求しています。
• 個人の意思決定、生前遺書に表明された個人の意
思、もはや自分の考えを明確に述べることができな
いときの実施の尊重
• 個人の習慣、価値観、言語やその他の特別な文化的
背景およびニーズの尊重
• 名前を呼ぶときは、他の呼称を使うように言われた
場合を除き、敬称を使うこと
• ケアのすべての面における、快適さ、思いやり、イ
ンクルージョン、参加、刺激および目的意識
• 個人のニーズにあったケア
• 個人が衛生と身だしなみを保つためのサポート
• 人の家庭と居住空間とプライバシーの尊重
• 懸念には十分対処してもらい、報復の恐れなく苦情
を述べる権利
• 妥当な場合の権利擁護サービスの提供
(NPC-www.npcuk.org)
皆様は、最も重要な国際宣言の一つをご存知のこと
と思います。世界人権宣言です。これは、尊厳を中心
に据えており、第一条は次のようになっています。
すべての人間は、生まれながらにして自由であ
り、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間
は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の
精神をもって行動しなければならない(国連1948)
。
人権に関する文書の中には、否定された尊厳に言及
しているものがあります。たとえば1998 年英国人権
法の第三条は次のように述べています。
拷問の禁止。すなわち、いかなるものも、拷問、
もしくは非人間的または品位を傷つけるような扱い
または刑罰に処されてはならない(英国政府1998)
。
また、看護団体の職業規定などの、憲章や規約があ
ります。また尊厳の重要さを強調した宣言もありま
す。しかしながら、こうしたものは、尊厳とは何かに
ついてはほとんど教えてくれません。尊厳についての
様々な見方を理解するには、尊厳についての歴史的評
100
日本看護倫理学会誌 VOL.7 NO.1 2015
tion with each other and with RCN staff(Royal
College of Nursing, 2010)
.
Another example of a recent dignity initiative is the
National Pensioners’ Convention(2012)Dignity
Code. This states that‘The purpose of this Dignity
Code is to uphold the rights and maintain the personal dignity of older people, within the context of
ensuring the health, safety and well-being of those
who are increasingly less able to care for themselves or to properly conduct their affairs’
.
This Code recognizes that certain practices and actions are unacceptable to older people and calls for:
•Respect for individuals to make up their own
minds, and for their personal wishes as expressed
in‘living wills’
, for implementation when they can
no longer express themselves clearly
•Respect for an individual’
s habits, values, particular cultural background and any needs, linguistic
or otherwise
•The use of formal spoken terms of address, unless
invited to do otherwise
•Comfort, consideration, inclusion, participation, stimulation and a sense of purpose in all aspects of care
•Care to be adapted to the needs of the individual
•Support for the individual to maintain their hygiene and personal appearance
•Respect for people’
s homes, living space and privacy
•Concerns to be dealt with thoroughly and the
right to complain without fear of retribution
•The provision of advocacy services where appropriate
(See NPC-www.npcuk.org)
I am sure that readers will be familiar with one
of the most important international declarations̶
the Universal Declaration of Human Rights̶that
puts dignity at the centre. Article 1 states that:
‘All human beings are born free and equal in dignity and rights. They are endowed with reason and
conscience and should act towards one another in a
spirit of brotherhood’
(United Nations 1948)
.
Some human rights documents refer to dignity in
a negative sense, for example, the Article 3 of the
UK Human Rights Act 1998 refers to the:
‘Prohibition of torture: no one shall be subjected to torture or to inhuman or degrading treatment or punishment’
(UK Government 1998)
.
There are then charters, codes̶including professional codes from nursing organizations̶and declarations that highlight the importance of dignity.
However, they generally provide little guidance as to
図3
論を含む哲学の文献をみる必要があります。
6 . 道徳哲学からの視点(1)(図 3)
オ ラ ン ダ 人 学 者 の Rieke Van der Graaf お よ び
Johannes Van Delden(2008)は、「尊厳の意味の歴
史」をたどると、現在の尊厳を明らかにするのに役立
つと主張しています。そして尊厳について異なる意味
をもつ5 つの時代を特定しています。
(1)最初は、古代ローマです。尊厳または dignitas
は、ローマ共和国の貴族や高い役職者、すなわち執政
官や元老院議員に関連づけられています。Dignitas
には際立った特色があり、たとえば、軍事や政治にお
ける傑出した業績に関連します。道徳的品位を示すこ
ともその重要な部分を占めます。キケロは「人は、ど
のような行動をとるときも、自分の洗練された外見や
尊厳に影響を与えるようなすべてのものを慎重に調節
するべきである」と述べています。(p.154)つまり、
尊厳とは「目にみえる資質」であり、「程度」に差があ
るものとしています。そして、個人に尊厳を与える他
のものとの関係が重要であるので、これは関係的尊厳
であると主張されます。
(2)Van der Graaf とVan Delden が特定する2番目
が、キリスト紀元です。この時代では、人は、神の姿
(imago Dei)で造られ、神により与えられた尊厳を有
すると信じられました。この種の尊厳は失われる可能
性があると同時に無条件のものでもあります。
(3)次に、ルネッサンス期のイタリアの人文主義者
の著作では、尊厳を神の姿や魂の不滅性と関連づける
ばかりでなく、自分がなりたいと思うものを選択する
自由意思や能力という視点からみた人の非宗教的資質
と関連づけています。これは、「自覚的な尊厳」とし
て説明されるものであり、人はこれを最大限に利用す
る義務があるとされました。
what dignity means. To understand different perspectives on dignity we need to look to the philosophical literature, including a historical review of dignity.
Perspectives from moral philosophy(1)
Dutch academics Rieke Van der Graaf and Johannes Van Delden(2008)argued that‘historical
meanings of dignity’can help us clarify dignity in
the present time. They identify five different historical periods that offer different meanings of dignity:
(1)The first is from Roman Antiquity where dignity or dignitas was related to‘the nobility and men in
high offices(consuls and senators)in the Republic.
Dignitas has particular features, for example, it relates
to outstanding performance in the military or politics.
Demonstrating moral integrity is an important part of
this. Cicero writes that‘men should be careful to moderate all things that may affect their refined appearance and dignity when undertaking any action.’
(p.154)
.This identifies dignity as a‘visible quality’
and one that can‘come in degrees’
. It is argued that
this is relational dignity as it focuses on relationships
with others who bestow dignity on individuals.
(2)The Christian era is the second identified
by Van der Graaf and Van Delden̶In this period,
it was believed that persons are created in the image of God(imago Dei)possessing dignity, given to
them by God. This kind of dignity can be lost and
is, at the same time, described as‘unconditional’
.
(3) Italian humanists, writing during the
Renaissance, related dignity not only to the image
of God and the immortality of the soul but also to
non-religious qualities of the person in terms of
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(4)四番目の時代は、「理性の時代」として説明さ
れます。この時代では、哲学者イマヌエル・カントの
著作が、極めて重要でした。「カント的尊厳」には、
「道徳的行動ができる、つまり自己決定能力があるか
ぎり、理性的生き物は、尊厳を有する」という考えが
あります。この視点では、自律性が人間性とすべての
理性の基礎になります。したがって、能力を欠くもの
は尊厳から排除されます。
(5)人権の時代は、尊厳に関するより近代的な視点
をもたらし、これが先ほどの世界人権宣言になりま
す。この視点では、すべての人間は尊厳を有し、その
権利が尊重される資格があるとしています。この視点
は、特に残酷な第二次世界大戦のあと、極めて重要で
あると認識され、今では、人権との関連で尊厳が論議
されることが極めて一般的となりました。
こうした歴史的な洞察というのは興味深いものであ
り、このような尊厳についての見方は、今まで皆様が
お読みになってきた議論や論文にも同じものがあった
ことと思います。しかしながら、ケアの仕事に関連す
る尊厳について明確な意見をもつためには役に立たな
いかもしれません。そこで次に、皆様が役に立つと思
われるような、現代の見方を二つと尊厳の定義につい
て述べたいと思います。
7 . 道徳哲学からの視点(2)
最近のケアに関する尊厳についての著作物は様々な
視点を提示しています。たとえば、David Seedhouse
とLeila Shotten(現 姓Toiviainen)は、1998 年 の 出
版で、尊厳について次のように述べています。
尊厳は、状況と能力の間の相互作用に関係してい
る。自分が不適切な状況にあるとき、自分が愚か
で、無能で、不十分で、著しくもろい存在だと感じ
るとき、私たちは尊厳を失う。
この見方では、自分の状況と能力がみあっていると
きには尊厳をもち、そうでないと尊厳を欠くことにな
ります。
Lennart Nordenfelt(2004)はノルウェーの哲学者
ですが、尊厳の 4 つの型または種類について説明して
います。
最初はMenschenwürdeの尊厳です。Menschenwürde
とは、ドイツ語で、私たちが人間であるからという理
由のみで私たちすべてが同じ程度にもっている尊厳の
種類を意味するドイツ語です。
二つめは、功績としての尊厳です。人は一定の役割
または職務をもっていることを基に、または行動を通
して得た功績があるという理由で権利をもちます。功
績を基に権利をもつのであり、よって、特別な尊厳を
有しているとして扱われます。
三つめは、道徳的資質の尊厳です。この種類の尊厳
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their free will and ability to choose what he becomes This is described as‘subjective dignity’
which people have a duty to make the most of.
(4)The fourth historical period is described as
̶The writing of philosopher,
‘the Age of Reason’
Immanuel Kant, was very important in this era.
‘Kantian dignity’includes the view that‘rational
beings have dignity insofar as they are capable of
moral action, that is, of self-determination’
. On this
view autonomy Is the ground of human nature and
of every rational nature’
. Those who lack capacity
are therefore excluded from dignity.
(5) The Human rights era brings us to the
more modern view of dignity and refers us back to
the Universal Declaration of Human Rights
(UDHR)
.On this view, all human beings have dignity and are entitled to have their rights respected.
This view was recognized as very important after
the atrocities of World War II in particular and it is
now very common to have dignity discussed in relation to human rights.
These historical insights are interesting and you
may be able to identify examples of these views of
dignity in discussions and articles you have read.
However, they may not help you to have a clear
view of dignity in relation to care work. I turn next
to two contemporary views and a definition of dignity that you may find helpful.
Perspectives from moral philosophy(2)
Recent writing on dignity in relation to care suggests different perspectives. The view of David Seedhouse & Leila Shotten(now Toiviainen)
,for example,
published in 1998 suggest that dignity relates to the:
‘Interplay between circumstances and capabilities̶We lack dignity when we find ourselves in
inappropriate circumstances, when we are in situations where we feel foolish, incompetent, inadequate or unusually vulnerable’
.
On this view, we have dignity when our circumstances and capabilities match and lack dignity
when they do not.
Lennart Nordenfelt(2004)is a Norwegian philosopher who describes four types or varieties of dignity:
First, the dignity of Menschenwürde̶Menschenwürde is a German word meaning a kind of dignity
‘we all have to the same degree just because we are
all humans’
.
Second, dignity as merit̶People have rights on
は、行為や不作為から、また自分がどういう人間であ
るかということから生じる道徳的資質に基づくもので
す。このような道徳的資質から生じる尊厳をもってい
た人としては故ネルソンマンデラ氏が考えられるで
しょう。この種類の尊厳は程度の差があり、人の行動
に左右され、生じたり失われたりします。
最後に、個人のアイデンティティの尊厳です。この
種類の尊厳は、人としてのアイデンティティに関する
ものであり、自尊心に関連しています。全人格、自律
性やインクルージョンといった概念に関係します。こ
の種類の尊厳は、たとえば、辱められたり、侮辱され
たり、物のように扱われたりするとき、その人から取
り去られる可能性のあるものです。
尊厳についてのこのような視点またそのほかの視点
は、私たちが、医療や教育を実践するうえで尊厳につ
いて考えるとき役に立ちます。しかし、私たちの日常
業務を導いてくれるほど明確なものでしょうか。
こ こ で、 私 た ち が 英 国 看 護 協 会 と 行 っ た 研 究
(Baillie, Gallagher & Wainwright, 2008)から生ま
れてきたより明確な定義を示したいと思います
(RCN定義)。
「尊厳とは、人が自分自身および他人の価値につ
いて、どのように感じ、考え、行動するかに関する
ことである。誰かを尊厳をもって扱うということ
は、価値ある個人として敬意を示す方法で、その人
を価値のあるものとして扱うことである。ケアの現
場で、尊厳を高めたり減じたりするものには、物理
的な環境、組織文化、(ケア)のチームやその他の
人たちの態度や行動、そしてケアの活動の実施方法
がある。
尊厳があると、自分に主導権があると感じ、自分
の価値を実感できる。自信をもてて、安らぎを感
じ、自己決定できると感じる。尊厳がないと、自分
の価値がなくなったと感じ、主導権もなく安らぎも
ないと感じる。自信をなくし、自分で決定すること
ができなくなるかもしれない。屈辱を感じたり、困
惑したり、恥ずかしいと感じるかもしれない。
尊厳は、能力のあるものにも能力のないものにも
等しく適用される。人はみな人間として同じ価値を
もっており、それぞれの価値との関わりのなかで、
感じ、考え行動しているものとして扱われなければ
ならない。したがって「ケア」のチームは、すべて
の人に対し、どのような健康状態であろうと、あら
ゆる状況において、尊厳をもって接しなければなら
ない。また、尊厳あるケアは、死後も続けられなけ
ればならない。」
この定義は、「尊厳を守る。看護のための課題と機
会」という研究レポートで発表されています(Baillie,
Gallagher & Wainwright, 2008)。
the basis of holding certain roles or office or because they have earned merit through their actions.
They have rights on the basis of merit and are,
therefore, treated as having a special dignity.
Third, the dignity of moral stature̶This kind of
dignity is based on the moral stature that emerges
from actions and omissions and from the kind of people they are. We might think of the late Nelson Mandela as someone who had this dignity of moral stature. There are degrees of this type of dignity and it is
dependent on a person’
s action so may come and go.
Finally, the dignity of personal identity̶This
kind of dignity is related to one’
s identity as a person and is related to self-respect. It is connected
with concepts such as integrity, autonomy and inclusion. This kind of dignity can be taken away
from people when, for example, they are humiliated, insulted or treated as objects.
These and other perspectives on dignity help us
to think about dignity in relation to our own healthcare and educational practices. But are they clear
enough to guide our everyday work?
I suggest that a clearer definition that emerged
from the research we undertook with the Royal College of Nursing(Baillie, Gallagher & Wainwright,
2008)is as follows:(RCN definition)
‘Dignity is concerned with how people feel,
think and behave in relation to the worth or value of themselves and others. To treat someone
with dignity is to treat them as being of worth, in
a way that is respectful of them as valued individuals. In care situations, dignity may be promoted or diminished by: the physical environment; organizational culture; by the attitudes
and behaviour of the[care]team and others and
by the way care activities are carried out.
When dignity is present, people feel in control,
valued, confident, comfortable and able to make
decisions for themselves. When dignity is absent
people feel devalued, lacking control and comfort.
They may lack confidence and be unable to make
decisions for themselves. They may feel humiliated, embarrassed or ashamed.
Dignity applies equally to those who have capacity and to those who lack it. Everyone has
equal worth as human beings and must be treated as if they are able to feel, think and behave in
relation to their own worth and value. The[care]
team should, therefore, treat all people in all set日本看護倫理学会誌 VOL.7 NO.1 2015
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ここでお伺いしたいのは、看護師、学生、教育者お
よび研究者としてこれは、皆様の実践に適切にあては
まるものでしょうか。
また、ケアにおける尊厳に関する重要な洞察は、
Nursing Ethicsやその他で出版された実証研究から
も得られます。では次にいきます(Naden et al., 2013)
。
今は、ケアにおける尊厳に関する多くの実証研究が
あり、患者、家族および看護師の経験が詳しく述べら
れています。ここに、スカンジナビアとイギリスの 3
つの例を示しました。Lohneのチーム(2010)の研究
を読むと、多発性硬化症の患者の経験とそうした患者
の「孤独な戦い」についてよく理解できます。
先ほど述べた英国看護協会の研究(Baillie, Gallagher
& Wainwright, 2008)は、異なるレベルの尊厳につ
いて私たちの注意をむけさせています。個人に関わる
ミクロレベル、組織に関わる中レベル、社会や政治環
境に関わるマクロレベルです。この研究はまた、考慮
する必要があるとして、英国看護協会の尊厳の定義に
取り込まれた三つの分野を特定しています。すなわ
ち、人(態度と行動)、場所(組織文化と物理的環境)
そしてプロセス(最も人の尊厳を貶めやすい介入につ
いての考慮)です。
三つめの研究は、ケア提供者の視点を報告していま
す。特に、認知症の人との仕事に関するものです。こ
うした日常の倫理的課題には、高齢者によるケアや治
療の拒絶に関わるものがあります。たとえば一人の介
護者は次のように述べています。
患者が体を洗わせてくれないときです。患者がし
てほしくないことをするのは、大変でつらくなりま
す。患者の今までの人生に敬意を払うようにと教育
を受けてきましたが、どうしてもしなければならな
いこともあるのです。私が担当する一人の患者は、
絶対に体を洗おうとも身だしなみをととのえようと
もしません。日によって、仕事にいくのが恐ろしく
なります(Jacobsen & Sørlie, 2010)。
日常のケアは、医療従事者がよかれと思うことを患
者が欲しないとき特に難しいものになります。私たち
は、どうしたらその方の尊厳を最大限に尊重できるの
か、そして看護師、教育者や研究者として私たちの職
業の尊厳を示すことができるのか、注意深く考える必
要があります。
私たちは芸術や文学から専門職の尊厳について多く
のことを学ぶことができます。
8 . 日本の文学および映画からの視点―武士、家政
婦、教授、執事、納棺士
日本の文学や映画では、尊厳に関するものが多くあ
ります。たとえば、武士道について述べた『葉隠』は、
尊厳について明確に言及しています。たとえば、第二
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tings and of any health status with dignity, and
dignified care should continue after death.’
The definition is published in the research report: Defending Dignity: Challenges and Opportunities for Nursing(Baillie, Gallagher & Wainwright, 2008)
.
I would ask. Is this a good fit for your practice as
nurse practitioners, students, educators and researchers?
Important insights regarding dignity in care can
also be gained from empirical research published in
Nursing Ethics and elsewhere. I turn to this next
(see, Naden et al., 2013)
.
There have now been a good number of empirical
studies relating to dignity in care detailing the experiences of patients, family members and nurses. Here
there are 3 examples from Scandinavia and the UK.
The study by Lohne and colleagues(2010)helps us
to understand the experience of patients with multiple sclerosis and the‘lonely battle’they are fighting.
The Royal College of Nursing study(Baillie,
Gallagher & Wainwright, 2008)mentioned earlier
draws our attention to different levels of dignity̶at
the micro-level relating to individuals, at the meso-level relating to organizations and at the macro-level relating to societal and political contexts.
This work also identified three areas that need to be
considered and were incorporated into the RCN definition of dignity: people(attitudes and behaviour)
;
place(organizational culture and the physical environment)
; and processes(considering interventions
that make people most vulnerable to indignity)
.
The third study reports the perspectives of care
providers, particularly in relation to their work
with people experiencing dementia. Some of these
everyday ethical challenges relate to the refusal of
care and treatment by older people. One worker, for
example, said:
‘When a patient won’
t get washed. It’
s difficult
and hurtful to do what the patient doesn’
t want.
We’
ve been trained to respect the patient’
s history̶but some things have to be done . . . I have a
patient who will never wash and look after herself. Some days I dread going to work’
.
It is clear that everyday care can be challenging
particularly when patients do not want what professionals think is good for them. We need to consider
carefully how we best respect the dignity of the per-
巻に尊厳の項目があります。
「一見しただけでも、その人の長所が威厳となっ
て出てきている。謙虚な姿のなかにそのような威厳
があり、もの静かに行動するところにまたそのよう
な威厳がある。言葉数の少ないところにも、礼儀の
正しいところにも、行いの荘重なところにも、ぐっ
と口を結んで眼光の鋭いところにも、それぞれの姿
のなかに威厳というものが現われている。これはみ
な、表に現れたところである。つまるところは、気
をゆるめないで、いつも真剣に考えているところが
根本である。」(p.152)
日本の名著17 葉隠、責任編集奈良本辰也,中
央公論社(1969年)より。
現代の日本の小説で、家政婦と優れた数学の博士の
関係における尊厳について極めて繊細に扱っているの
が小川洋子の小説『博士の愛した数式』です。博士は
頭にけがを負ったことから短期の記憶を著しく欠くよ
うになり、80 分しか記憶を保持できません。小説の
一場面で、床屋に行って大きなストレスを感じた博士
が、公園で、慣れ親しんだ数字を地面に描くことで落
ち着きを取り戻します。家政婦はその場面を次のよう
に描写しています。
「博士はベンチの下に落ちていた小枝を拾い、地
面に何かを書きつけて行った。何かという以外、表
現のしようがないものだった。数字があり、アル
ファベットがあり、秘密めいた記号があり、それら
がまた連なり合って一続きの形を成していた。発せ
られる言葉の意味は一つとして理解できなかった
が、そこには確固たる筋道があり、その真ん中を博
士が突き進んでいるのは分かった。堂々として尊厳
があった。散髪屋で見せた緊張は消え失せていた。」
(pp.68‒69)
小川洋子「博士の愛した数式」,新潮文庫,新潮
社(2005年)より。
日本人作家によるもう一つのよく知られた小説は、
石黒和夫の『日の名残り』です。この小説は執事の
Stevens を描いており、小説の中心が仕事における尊
厳です。石黒による「優れた」執事の描写はまた、優
れた看護師にもあてはまるものです。
「最も決定的な条件は、入会申請者がみずからの
地位にふさわしい品格の持ち主であることである。
…偉大な執事…と単なる有能な執事との違いは…
「品格」という言葉で最もよく表現されるように思
われるのです(p.48)。
品格の有無を決定するものは、みずからの職業的
あり方を貫き、それに堪える能力…並みの執事は、
ほんの少し挑発されただけで職業的あり方を投げ捨
て、個人的なあり方に逃げ込みます。…偉大な執事
が偉大であるゆえんは、みずからの職業的あり方に
常住し、最後の最後までそこに踏みとどまれること
son and demonstrate the dignity of our profession as
nurse practitioners, educators and researchers.
We can also learn a great deal about the dignity of
professional practice from the arts and literature.
Perspectives from Japanese literature and
film̶the Warrior, the Housekeeper, the Professor, the Butler and the Undertaker
There are many examples in Japanese literature
and film relating to dignity. Historical texts such as
Bushido: The Way of the Samurai, for example,
makes explicit reference to dignity. In Book 2, for
example, there is a section on‘Dignity’
. It states:
‘The way you look is literally the expression of
your own dignity. Your dignity can find expression
in many ways: in your efforts; in your graceful,
mild manners, in the calm and silence of your bearing; in your grave conduct; and in the piercing
stare effected with clenched teeth. These are all expressions of your inner dignity. After all, the fundamental lies in your being seriously aware with total
concentration of mind’
(Yamamoto T, 2002, p.51)
.
A contemporary Japanese novel which deals very
sensitively with the topic of dignity in the relationship between a housekeeper and a brilliant Professor
of mathematics is by Yoko Ogawa(2010)
. The Professor has a serious short-term memory deficit as a
result of a head injury and he can only remember for
80 minutes. In one section of the novel, the Professor
had found a visit to the barbershop very stressful and
had regained his composure in the park as he traced
the numbers he was so comfortable with on the
ground. The Housekeeper described the situation:
‘the Professor picked up a branch and began to
scratch something in the dirt. There were numbers, and letters, and some mysterious symbols,
all arranged in neat lines. I couldn’
t understand a
word he has said, but there seemed to be a great
clarity in his reasoning, as if he were pushing
through to a profound truth. The nervous old man
I’
d watched in the barbershop had disappeared,
and his manner was now dignified’
(p.44)
.
Another well-known novel by a Japanese author
is The Remains of the Day by Kazuo Ishiguro. This
novel is about a butler, Stevens, and much of the focus of the novel is on professional dignity. Ishiguro’
s description of the‘great’butler could also apply to the great nurse practitioner. He says:
‘the most crucial criterion is that the applicant
be possessed of a dignity in keeping with his posi日本看護倫理学会誌 VOL.7 NO.1 2015
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でしょう。外部の出来事には―それがどれほど意外
でも、恐ろしくても、腹立たしくても―動じません
(p.61)。
Ishiguro(1989),The Remains of the Day. 訳
文は、カズオ・イシグロ『日の名残り』土屋政雄訳,
ハヤカワepi文庫,早川書房より。
4 番目の例は、映画「おくりびと」です。皆様方の
中にもみられた方がいらっしゃると思います。これ
は、納棺士になる小林大悟という若者の話です。繊細
さと敬意の念が大いに必要とされるこの仕事で大吾が
新人から一人前になる過程を描いたこの話は、仕事の
技と尊厳について多くのことを教えてくれます。ま
た、悲しむ遺族にどのように対応すればよいのかも教
えてくれます。
こうした話から学べることは、仕事の関係において
繊細であることの重要性です。また、人の命と人間性
を大切にすることの重要性や、自分が信じる価値観を
考えることの重要性です。小説の中の家政婦は、博士
の天才的数学の才能に大きな敬意を持ち、また、自分
と教授との関係についても考えることができて、教授
の尊厳に敬意を示します。執事Stevens は、雇い主に
仕えるにあたり職業的尊厳を示しますが、彼の行動を
みると、医療の実践において私たちが重要と考えるよ
うな価値、たとえば、忠誠や正義感や勇気についての
批判的内省をしてはいないかもしれません。おくりび
との大悟の仕事は、専門性を高めることから生まれる
仕事の技と落ち着きをみごとに示しています。
9 . 結論および看護者のための提言
ではまとめに移りたいとおもいます。私たちは、哲
学的倫理から、尊厳に関する洞察が得られることを知
りました。様々な歴史的視点を紹介し、尊厳に関する
古代の視点、宗教上の視点、カントの視点、人権の視
点を識別しました。人の感じ方、考え方、行動の仕方
に存在する価値を強調する英国看護協会の定義を示し
ました。実証研究、特に定性的研究からの結果も考
え、医療の実践における尊厳の複雑さについて光をあ
てるかもしれない文学や映画にみられる視点について
も考察しました。
尊厳は、倫理教育によって促進することができます。
たとえば、こうした会議への出席や、または役割モデ
ル、倫理指導、交渉術向上などの戦略によってです。
重要なのは、私たちの実践がどれほど尊厳を尊重して
いるといっても、常に改善の余地があるということを
忘れないことです。したがって高みをめざす倫理を考
えるべきでしょう。つまり、どのようにしたら、自分
も個人として充実し、また自分がケアを提供する人も
自分とともに働く人も充実できる方法について批判的
に内省することを可能にしてくれる倫理です(図4)
。
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tion . .‘great’
.
butlers . . . it does seem to be that
the factor which distinguishes them from those
butlers who are merely competent is most closely
captured by this word‘dignity’
[. . .]
‘dignity’has
to do crucially with a butler’
s ability not to abandon the professional being he inhabits. Lesser
butlers will abandon their professional being for
the private one at the least provocation[. . .]The
great butlers are great by virtue of their ability to
inhabit their professional role and inhabit it to
the utmost; they will not be shaken by external
events, however surprising, alarming or vexing’
.
The fourth example relates to a Japanese movie
‘Departures’that some of you may have seen. It
tells the story of a young man, Daigo Kobayashi,
who becomes a‘Nokanshi’or funeral professional
(undertaker in the UK)
.Daigo’
s journey from novice to expert in this area of practice that requires
great sensitivity and respect teaches us a good deal
about the art and dignity of practice. It teaches us
also how to respond to families who are grieving.
What we can learn from these accounts is the importance of sensitivity in professional relationships.
We learn also about the importance of valuing the
life and personhood of others and of reflection on
the values we profess. The Housekeeper had great
respect for the mathematical genius of the Professor and also was able to reflect on her relationship
with him so that it demonstrated respect for his
dignity. The butler, Stevens, demonstrated professional dignity in the service of his employer but his
behaviour suggested that he may not have engaged
in critical reflection on values that we would consider important for healthcare practice. Values, for
example, such as loyalty, justice and courage. The
practice of Daigo in‘Departures’illustrates beautifully the art of practice and the comfort that can
come from the development of expertise.
Conclusions and recommendations for nurse
practitioners
To summarize then, we can see that insights regarding dignity can be gained from philosophical
ethics. Different historical perspectives have been
introduced identifying ancient, religious, Kantian
and human rights perspectives on dignity. A definition from the Royal College of Nursing was suggested that emphasized worth and value in the way people feel, think and behave. We considered also some
図4
最後に、尊厳とはそこから他の価値が流れ出す泉で
あると主張したいと思います。これが、すべての人の
価値を表し、また患者、家族および地域社会の生活を
大きく向上させる最大の可能性をもつ私たち職業の重
要な価値を表す、最も大切な最初の価値なのです。し
かしながら、尊厳が唯一の価値ではなく、尊厳が正
義、勇気、親切、高潔さ、知恵の基礎になる必要があ
ります。
尊厳を理解すれば、看護者は患者や家族の価値、自
分たちの職業のアイデンティティ、そして看護という
専門職に対し、意味ある形で関わることができるよう
になります。看護者は、すべてのレベルで尊厳につい
て考える必要があります。つまり、一人ひとりの患
者、家族、学生や同僚との関係におけるミクロレベ
ル、次に医療組織との関わりで、組織の価値観が適切
なものなのか、または目標は達成するが要点をはずし
ているものなのかを問う必要がある中レベル、そして
一般社会との関わりにおけるマクロレベルです(図
5)。
尊厳が、看護者にとって大切なのは、それによって
職業人にケアの目的を思い起こさせてくれるからで
す。また、看護職以外の人にも思い起こしてもらわな
ければならないのは、看護職の尊厳です。看護師が自
分の仕事を過小評価し「私はただの看護師です」とい
うことがあまりにも多すぎます。
私は、このプレゼンテーションを締めくくるにあた
り、アメリカ人ジャーナリストのSusanne Gordonの
ことばを引用したいと思います。このことばは、私た
ちの職業の尊厳について、また私たちの職業が日本お
よび世界中の人々の人生を大きく変えられることを思
い起こさせてくれます。
「私は単なる看護師です」。私はただ、生きていくこ
とと死んでいくことの違いをつくりだしているだけで
す。
「私は単なる看護師です」。私はただ、医療過誤や障
findings from empirical research, particularly qualitative studies and reflected on perspectives we find
in literature and the movies that may throw light on
the complexity of dignity in healthcare practice.
We know that dignity can be promoted by ethics
education such as attending this conference and by
strategies such as role modelling, ethical leadership
and refining skills in negotiation. Crucially we all
need to remember that, however respectful of dignity
our practice is, there is always room for improvement.
Hence, it is appropriate to think of an ethics of aspiration. An ethics that enables us to reflect critically on
how we flourish as individuals and enable those we
provide care to and work with also to flourish.
Finally, I want to argue that dignity is the spring
from which other values flow. It is the first and
most fundamental value expressing the worth and
value of all people and the worth of our most important profession that has the most potential to
make the most profound difference to the lives of
patients, families and communities. Dignity is not,
however, the only value and needs to underpin values such as justice, courage, kindness, integrity
and wisdom.
Understanding dignity enables nurse practitioners
to engage meaningfully with the value and worth of
patients and families, with their professional identity and with the nursing profession. Nurse practitioners need to consider dignity at all levels: in your
relationships with individual patients, family members, students and colleagues(micro-level)
; in your
relationship with healthcare organizations asking if
their values are the right ones or those that‘meet
the targets and miss the point’
(meso-level)
; and in
society more generally(macro-level)
.
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図5
害、その他の大きな惨事を防ぐための判断力を教育さ
れただけです。
「私は単なる看護師です」。私はただ、治癒、闘病、
絶望の違いをつくりだしているだけです。
「私は単なるがん専門のナースプラクティショナー
です」。私はただ、激痛のある患者と比較的痛みなく
闘病する患者の違いをつくりだしているだけです。
「私は単なる看護師です」。私は、単なる看護研究者
で、看護師と医師がより質の良い安全で効果的なケア
を提供できるように支援するだけです。
「私は単なる看護師です」。私は看護学の教授で、将
来の看護師を教育しています。
「私は単なる看護師です」。私はただ、最先端の実験
医学研究に参加する患者を管理モニターしている大学
病院で働いているだけです。
「私は単なる看護師です」。私はただ、患者とその家
族に健康を維持する方法について教育しているだけで
す。
「私は単なる看護師です」。私は単なる老年看護の看
護師です。自宅にとどまるか介護施設に行くか、その
違いをつくりだしているだけです。
「私は単なる緩和ケア看護師です」。私はただ、苦し
みの中で亡くなるのか、尊厳をもって安らかに亡くな
るのか、その違いをつくりだしているだけです。
決して、「私は単なる看護師です」と言わないでく
ださい。
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Dignity matters to nurse practitioners because it
reminds professionals of the purpose of care practices. What people outside nursing also need to be
reminded of is the dignity of the profession of nursing. Too often, nurses devalue their work and say
‘I’
m just a nurse’
.
I would like to finish this presentation with the
words of Susanne Gordon, an American journalist,
which reminds us of the dignity of our profession
and the outstanding difference that our profession
makes to the lives of people in Japan and around
the world. Gordon states:
I’
m just a nurse.”I just make the difference between life and death.
I’
m just a nurse.”I just have the educated eyes that
prevent medical errors, injuries and other catastrophes.
I’
m just a nurse.”I just make the difference between healing, coping and despair.
I’
m just an oncology Np.”I just make the difference between a patient experiencing excruciating
pain or fighting their disease relatively pain free.
I’
m just a nurse.”I’
m just a nurse researcher
who helps nurses and doctors give better, safer and
more effective care.
I’
m just a nurse.”I’
m a professor of nursing who
educates future generations of nurses.
I’
m just a nurse.”I just work in a major teaching
hospital managing and monitoring patients who
are involved in cutting edge experimental medical
research.
I’
m just a nurse.”I just educate patients and
families about how to maintain their health.
I’
m just a nurse.”I’
m just a geriatric nurse practitioner. I make the difference between staying in
one’
s own home and going to a nursing home.
I’
m just a palliative care nurse.”I just make the
difference between dying in agony and dying in
comfort and with dignity’
Never say‘I am just a nurse’
.
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