博 士 学 位 論 文 要 旨 - 武庫川女子大学リポジトリ

平成
26
年度
武庫川女子大学大学院
博 士 学 位 論 文 要 旨
心理教育相談の母親面接における相互交流に関する研究
臨床教育学研究科臨床教育学専攻
中村博之
目次
序章
第1節
心理教育相談における母親面接の課題と本論文の目的
第2節
本論文の視点に至る経緯
第3節
本論文の概要
第一部
母親面接における理論的研究
第1章
<相互交流>と母親面接の目標
第1節
<相互交流>の二側面
第2節
母子間の<相互交流>における母親の機能と母親面接の目標
第3節
<相互交流>の三様式
第2章
心理教育相談における見立ての視点
第1節
子どもの問題を見立てる視点(事例A)
第2節
母親の問題を見立てる視点(事例B)
第3節
母子関係の問題を見立てる視点(事例C)
第二部
母親面接の事例研究
第3章
セラピスト‐クライエント間における<相互交流>の活用
第1節
事例D『母親の主訴を尊重した事例』
第2節
事例E『母親の主体感覚の賦活化を重視した事例』
第3節
事例F『セラピストの体験感覚を活用した事例』
第4章
<相互交流>による母親の変化と子どもへの影響
第1節
事例G『主体的な母親の対応の変化によって子どもの変化が促進された事例』
第2節
事例H『抱え込まれる体験によって母親の機能が向上し子どもの変化が促進された事例』
第3節
事例I『母親の投影同一視の引き戻しによって子どもの変化が促進された事例』
第三部
総合考察
第5章
第1節
母親面接の課題と<相互交流>
第2節
<相互交流>の様式と母親面接の目標
第3節
<相互交流>における見立ての臨床的意義
第6章
母親面接における<相互交流>の臨床的意義
第1節
母親面接の安全性の維持と母親の機能の向上
第2節
母親の機能の向上によって促進される子どもの変化
おわりに
引用文献
謝辞
<相互交流>の視点と見立ての臨床的意義
1.本研究の背景と目的
本論文で取り上げる心理教育相談は公的な教育相談機関で実施されており,その特徴は
学校教育との関係が深いところにある。そのため,学校から勧められて母親が子どもの問
題について相談に来る事例が圧倒的に多く,来談動機も多様である。そして,母親自身の
問題や家族関係を含む母子関係の問題が子どもの問題に影響を与えている事例が少なくな
い。従って,子どもの問題にアプローチする際,母親面接を通して母親自身や母子関係の
問題を取り扱わなければならない事例がある。その際,学校で行われている教育相談とは
異なり,安定した面接構造の設定が可能なために,母親の心理療法の実施も可能である。
しかし,他機関で実施される個人の心理療法に比べ,母親が自分自身の問題と向き合って
自己洞察が広範囲に及ぶことは難しいという印象を,筆者は持っている。その理由は,母
親が子どもの問題について相談するという設定のため,心のどこかで母親としての役割を
意識しながら相談しており,自己洞察の領域が母親としての役割に限定されがちであるた
めではないかと,筆者は考える。
以上のような特徴を備えた心理教育相談における親面接の意義について,弘中(2003)は
次の4項目に亘って言及している。①客観的情報の場としての親面接,②治療の協力者と
しての親,③親自身の抱える問題,④子どもの治療を守るための親面接。そして,中でも
③の親自身の抱える問題を取り扱う意義について,“親の問題は何らかの意味で子どもの
問題と関連していることが多いので,親が自分の問題に気づくことを通して,子どもの問
題に対する理解を深めるといった相互作用も期待できる”,(以下,“
”は引用文献に
使用する)と説明している。しかし,他方で,弘中は,特に親子並行面接では,“親自身
の問題に深入りすることが親の抵抗や不安状態を招いて,結果的に子どもの治療全体が混
迷状態となる危険性”も指摘しており,結局,親の問題をどの程度取り扱うかについて,
“何よりも子どもの治療の進展にとっての必要性の観点から判断すべきである”としてい
る。このように,心理教育相談における母親面接では,子どもへの影響が大きいため,母
親の抵抗や不安状態に留意する必要がある。特に,セラピスト(本研究では,母親の心理
療法の実施も含んでいるため,セラピストを用いる。以下,Th と略記)とクライエント(本
研究では,原則として子どもの母親を意味する。以下,Cl と略記)の信頼関係が不十分な
まま自己洞察を促進しようとすると,母親の抵抗や不安状態を招くことが少なくない。従
って,面接の冒頭から子どもの問題について率直に話し合える事例ばかりではなく,信頼
関係ができるまで母親の訴えにじっくり耳を傾けながらも,抵抗や不安状態に留意しなが
1
ら自己洞察を促していく工夫が必要な事例も多い。そのためには,母親の問題や母子関係
の問題を正確に見立てた上で,
臨床実践の場で面接方法を適切に選択していく必要がある。
このような課題に関する数少ない研究の一つに,面接目標と方法について検討した
Chethik(1989/1999)の親面接がある。しかし,先に述べたように,多様な来談動機を抱え
た心理教育相談の母親面接においては,Chethik の親面接の方法をそのまま適用できない
事例があったり,面接経過の中で見立てと面接方法を柔軟に変化させる過程については,
ほとんど論じられていなかったりする。従って,現在に至るまで,母親面接の事例研究に
おいては,個別の実践的方法論の検討が中心で,本質的な理論的検討は十分に議論されて
きたとは言えない。その結果,母親の抵抗や不安状態によって面接の中断に至るという事
態を回避して,即ち,面接の安全性を保ちながら,自己洞察を促していくという課題の解
決は,不十分であったと考えられる。そこで,本論文では,この課題を解決するために,
母親面接の見立てと面接方法について議論するための筆者の視点,即ち,<相互交流>(以
下の<
>は,日常的な相互交流という用語と区別するために用いる)を提示し,事例研
究を通して検討した上で,その臨床的意義について考察する。
2.研究方法と本論文の構成
本研究では,まず,序章で,研究目的や,本論文の視点と構成を説明する。次に,第一
部の理論的研究によって,母親面接における<相互交流>の視点の特徴と方法について論
じ,母子間の対人的相互作用における子どもへの関わり方,即ち,母親の機能と母親面接
の目標を明らかにする(第1章)
。そして,事例を取り上げながら見立てについて論じる(第
2章)
。次に,第二部の事例研究によって,以下の2点について検討する。①面接の安全性
を保ちながら母親の機能を高めるための<相互交流>の活用方法を,体験過程と関係性に
焦点を当てて検討する(第3章)
。②<相互交流>の過程を分析し,母親の変化と子どもの
変化の関係について検討する(第4章)。そして,第三部の総合考察では,これらの事例研
究を踏まえて,まず,母親面接の課題を解決するための<相互交流>の視点の特徴につい
て,改めて論じる(第5章・第1節・第2節)
。次に,<相互交流>において安全性に配慮
しながら母親自身や母子関係の問題を取り扱う際に必要となる見立てについて考察した上
で(第5章・第3節),心理教育相談の母親面接における<相互交流>の臨床的意義につい
て,包括的に論じる(第6章)
。
2
3.各章の概要
【序章】
序章では,本研究の背景と目的について論じた上で(第1節),本論文の視点である<
相互交流>に至る経緯を説明し(第2節),研究方法と本論文の構成を概説している(第3
節)
。
筆者は,Gendlin(1973/1999)が創始した『体験過程療法』(Experiential Psychotherapy)
(以下,
『
』は用語を強調する時に用いる)の理論に基づいた『体験的応答』(experiential
response)(Gendlin ,1968)を,臨床技法として使用してきた。体験的応答とは,Cl が暗々
裡の体験を言語化できるように,Th が応答していくための臨床技法であり,体験過程療法
では,それによって体験過程の推進を伴った言語化が可能になって,Cl の自己洞察の質が
向上するとされている。そして,この体験的応答を臨床技法とする体験過程療法は,現在
も心理療法の一つとして実践される一方で,種々の心理療法を体験過程的に展開するため
の技法として,実践が積み重ねられてきている(Gendlin, 1996b/1999)
。即ち,フォーカ
シング指向心理療法として発展してきており,本研究もその延長上に位置づけられる。フ
ォーカシング指向心理療法では,体験的応答を使うことで,多様な臨床的アプローチを体
験過程的なやり方で実施することができるとしている。その中でも,Gendlin(1996/1999)
は,対人的相互作用はセラピィの必須要件であるとしている。そして,体験的応答も Th‐
Cl 間の対人的相互作用という文脈で使われることから,筆者は実践的な拠り所の一つとし
てきた Chethik(1989/1999)の親面接を,対人的相互作用という視点から理解し直して体験
過程を促進していくことで,自己洞察の質が高まると考えた。なお,Gendlin は,
『対人的
相互作用』という用語について明確に説明していないので,本論文では,次のように定義
し,Th‐Cl 間と母子間の両方で用いることにする。即ち,母親面接においては,Cl の自己
表現とそれに対する Th の応答を意味し,母子間においては,子どもの自己表現とそれに対
する母親の関わりを意味するものとする。そして,Th‐Cl 間の対人的相互作用において Cl
の体験過程の推進が生じれば,Cl の自己洞察の質が高まって Cl(母親)の子どもへの関わ
り方は変化することになる。その結果,
母子間の対人的相互作用も変化することになるが,
筆者の実施した母親面接の中には,Th‐Cl 間の対人的相互作用における Cl の体験過程の
促進だけでは,自己洞察の質的向上が図れない事例も存在した。そして,これらの面接で
は,転移体験が展開していく事例が多かったことから,Th‐Cl 関係にも注意を払う必要が
あると考えた。その結果,母親面接の過程を,対人的相互作用とそれに伴う Th‐Cl 関係の
3
二つの視点から捉え直すことが臨床実践上有効であることを実感し,対人的相互作用とは
区別して,<相互交流>と呼ぶことにした。即ち,<相互交流>とは,Cl の自己洞察の過
程において,Th‐Cl 間の対人的相互作用によって Th と Cl の体験過程が互いに影響を及ぼ
し合って変化していくという過程と,それに連動して Th と Cl の関係も変化していくとい
う過程の両方を,同時に見ていく視点である。そして,Th と Cl の関係の変化には,Th‐
Cl 間において内的対象による転移関係が展開することも含まれる。
【第1章
<相互交流>と母親面接の目標】
第1章では,最初に,母親面接における<相互交流>の視点の特徴について論じ(第1
節)
, 次に,母親の機能と母親面接の目標について検討している(第2節)
。そして,最後
に,<相互交流>の方法を明らかにしている(第3節)
。
[第1節
<相互交流>の二側面]
本節では,母親面接に<相互交流>の視点を導入するために,二つの側面,即ち,Th‐
Cl 間の対人的相互作用における Th と Cl の体験過程の変化と,
Th‐Cl 間の関係性の変化か
ら,<相互交流>について考察している。
母親面接における Th‐Cl 間の対人的相互作用とは,Cl の自己表現とそれに対する Th の
応答を意味するが,面接過程における対人的相互作用の変化には,Th と Cl の体験過程の
変化が伴い,Th と Cl 双方の『体験感覚』は刻々と変化していく。そして,ここで言う『体
験感覚』は,体験過程の推進に不可欠なフェルトセンス(Gendlin,1978/1982)の形成に必要
な“主体感覚” (吉良,2002)だけではなく,体験過程の推進には直接繋がらない“苦慮感”
(増井,1989)も含む,体験の全般に亘る感覚を意味する用語として使用している。筆者は,
体験過程の促進が可能かどうかを判断するためには,主体感覚の賦活化を確認すべきであ
ると考える。また,Th‐Cl 間の関係性の側面から考察した結果,Th‐Cl 関係は,退行と転
移を伴わない役割関係が基本となるが,母親自身の問題や母子関係の問題によって子ども
を抱え込む機能が不十分な事例では,役割関係から転移関係に移行して,Th が母親の苦慮
性を抱え込まなければならない場合がある(本研究では,『抱え込む』という用語は,
Winnicott(1965/1977)の“holding”と同義語とし,日常語の『抱える』とは区別して使
用している)。そして,Th が転移関係に気づかない場合には,面接が膠着状態となること
が少なくない。従って,体験的応答の質を高めて Cl の体験過程を促進するために,転移関
係の内容についてよく理解しておく必要がある。即ち,転移関係のもとになっている Cl
の内的対象についての理解が必要であると,筆者は考える。
4
本研究における母親面接では,以上のような<相互交流>の視点を導入し,母子関係や
Th‐Cl 関係についての対象関係論的理解に基づいて,Th と母親双方の体験感覚を臨床的指
標としてアプローチする。また,その際,Th の抱え込む機能を活用しながら,<相互交流
>を促進した上で,自己表現を促していくことになる。
[第2節
母子間の<相互交流>における母親の機能と母親面接の目標]
本節では,<相互交流>の視点から母親の機能について考察した上で,母親面接の目標
について論じている。
母親の機能の一つ目は,子どもの苦慮感の緩和を図って主体感覚を賦活化させる機能
(以後,
『主体感覚の賦活化促進機能』と呼ぶ)である。この機能は子どもからの投げ入れ
を受け入れて,子どもの自己の感覚に実在感を付与する体験を促すものである。Winnicott(1965/1977)は,母子間の対人的相互作用に焦点を当てて母親の機能について考察し,
“holding”という概念で説明している。holding とは,子どもから投げ入れられた要素を
受け入れる能力を意味しており,これを体験過程療法の立場から言い換えると,子どもの
苦慮性を受容して,問題と適度な心理的距離を保持できる能力ということになる。その結
果,子どもは自己の実在感を体験できるようになる。従って,母親の主体感覚の賦活化促
進機能とは,子どもにとって実在感を伴った自己の感覚を体験するために不可欠な,抱え
込まれる環境を用意するためのものである。二つ目の母親の機能は,子どもの体験過程の
推進を促す機能(以後,
『体験過程促進機能』と呼ぶ)である。そして,この機能は,<相
互交流>における意味の探求を促すものである。Bion (1977/1999)は,子どもの苦慮性を
母親が否定せずに受けとめる機能について,次のように説明している。苦慮感に満ちた体
験感覚の中で生活している子どもは,その体験を自分で取り扱うことができない。このよ
うな状態にある子どもの心理的要素を,Bion (1977/1999)は,ベータ要素(以下,β要素
と略記)と呼んだ。そして,母子間における母親の心理的機能は,子どものβ要素をコン
テインして夢想(reverie)し,アルファ要素(以下,α要素と略記)に転換して子どもに
戻すことであるとしている。即ち,α要素とは,子どもが自ら取り扱えるようになった要
素であり,このような母親の働きをα機能と呼んだのである。そして,母親のα機能には,
主体感覚の賦活化促進機能だけでなく,体験過程促進機能も含まれると考えられる。
筆者は,主体感覚の賦活化促進機能と体験過程促進機能のような母親の機能に基づいた
母子間の<相互交流>によって,子どもが実在感を伴った自己の感覚を得て,日常体験の
意味を実感できるようになると考えている。従って,母親面接の目標は次のようになる。
5
即ち,母親自身が,苦慮感の緩和による主体感覚の賦活化(吉良,2002)と,体験過程の推進
による意味の探求を積み重ねることによって,母親の機能を向上させ子どもに関わってい
けるようになることである。
[第3節
<相互交流>の三様式]
本節では,<相互交流>の三つの様式を Chethik の親面接と対比しながら説明し,筆者
の母親面接の方法を明らかにしている。
心理教育相談において,筆者が実施してきた母親面接の目標や面接方針は,当初は,
Chethik(1989/1999)のものを拠り所としていた。Chethik は,親面接を,
“①親ガイダンス,
②転移性親機能,③親子関係の治療,④親を介した治療”,の四項目に分類しており,筆者
は面接の中で,この分類を意識しながら実践してきたが,面接の安全性を保ちながら母親
の機能を高める必要性を実感し,<相互交流>という視点から Chethik の親面接を再考す
るようになった。その結果,<相互交流>には三つの様式(<相互交流Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ>とす
る)があると考えるに至った。
まず,一つ目の<相互交流Ⅰ>は,面接目標において,Chethik(1989/1999)の“親ガイ
ダンス”を前提としている。Chethik は,
“親ガイダンス”を,支持的ワークの1つである
とし,適用条件として,親に比較的良好な自我機能があることと,Th と親の治療目標が一
致していることを挙げている。そして,親ガイダンスの内容を詳しく説明しているが,そ
の中でも,母親の変化が直接子どもの変化に結びつくワークは,
“親子間の,問題のある相
互作用について,親に明確化すること”である。筆者は,このワークについて,<相互交
流>の視点からその様式について再考してみた。まず,Th‐Cl 間の対人的相互作用におけ
る関係性は,退行と転移を伴わない役割関係となるが,その役割に注目すると,双方の役
割関係は,
『相談を受ける者‐相談する者』と呼ぶことができる。また,この Th‐Cl 関係
に対応する Th と Cl の主体感覚は,双方とも賦活化された状態にある。そして,面接では,
母子間の対人的相互作用について取り上げ,問題点が明確化されて助言が行われる。
二つ目の<相互交流Ⅱ>は,面接目標において,Chethik(1989/1999)の“転移性親機能”
を前提としている。Chethik は,
“転移性親機能”の内容を,次のように説明している。
“親
のなかには,自分自身に幼少期からの問題があったり,現在,急性のストレス状態にある
ために,子どもの治療者とのワークにおいて,親ガイダンスの枠を超えて,さらに支持す
る必要がある人もたくさんいます。場合によっては,悩める大人にとって治療者が養育的
な親の機能を果たすこともあります”
。この Chethik の“転移性親機能”について,<相互
6
交流>の視点からその様式について再考してみると,Th‐Cl 間の対人的相互作用における
関係性は,抱え込まれる体験を伴った転移関係となるが,双方の関係性を明確に表すと,
この Th‐Cl 関係は,
『抱え込む者‐抱え込まれる者』と呼ぶことができる。また,この Th
‐Cl 関係に対応する Th の主体感覚は,一貫して賦活化している。一方,Cl の主体感覚は
概ね賦活化しているが,
<相互交流>の中で苦慮性が顕在化してくる時期がある。
そして,
<相互交流Ⅰ>と同様に,
母子間の対人的相互作用を取り上げるが,
ワークの質は異なり,
Cl から投げ込まれた苦慮性を,Th が抱え込んでいく。
三つ目の<相互交流Ⅲ>は,面接目標において,Chethik(1989/1999)の“親子関係の治
療”を前提としている。Chethik は,
“親子関係の治療”の内容を,次のように説明してい
る。
“これは,両親にとって子どもがもつ無意識的な意味をあきらかにしていく,自我の明
確化と準洞察療法のプロセスです。実際にさまざまな解釈や解明的介入がなされるのです
が,このプロセスには重要な境界線が設けられており,その線にそって転移を制限し,転
移性の退行をコントロールしていくのです”と説明している。そして,筆者は,この“親
子関係の治療”について,<相互交流>の視点からその様式について再考してみた。<相
互交流Ⅲ>でも,
<Ⅰ>や<Ⅱ>と同様に,
母子間の対人的相互作用が取り上げられるが,
その質は異なり,母親自身の内的対象の問題が顕在化してくる。その際,Th‐Cl 間の対人
的相互作用における関係性は,母親の退行が伴ったものとなる。そして,Th‐Cl 関係は,
母子関係と母親自身の親子関係が繋がるような転移関係となるが,<相互交流Ⅲ>では,
以後,この Th‐Cl 関係を,
『重層的転移関係』と呼ぶことにする。また,この Th‐Cl 関係
に対応する Th と Cl の主体感覚は,次のように変化していく。まず,Th に対して Cl の苦
慮性が投げ込まれ,Th も苦慮性を体験するようになる。そして,Th の主体感覚の賦活化と
体験過程の推進によって,Cl の苦慮性の緩和と主体感覚の賦活化が促され,体験過程の推
進が可能となる。その結果,Cl は重層的転移関係に基づいた<相互交流>の意味を探求し
て投影同一視の引き戻しが可能となり,母親の機能は向上していくと考えられる。
【第2章
心理教育相談における見立ての視点】
本章では,事例を提示して,母親自身や母子関係の問題を取り扱う際に必要となる見立
ての視点について論じている。取り上げた事例は,次頁の表1のとおりである。
本研究では,母親面接の方針を決める際に,『子どもの問題』,『母親の問題』,『母子関
係の問題』の三つを中心に見立てている。そして,第1節で,子どもの問題を見立てる視
点について,第2節で,母親の問題を見立てる視点について,第3節で,母子関係の問題
7
を見立てる視点について考察している。
子どもの問題を見立てる目的は,母親面接が,子どもの心理療法を促すためのものか,
或いは,
子どもの変化に不可欠な母親の変化を促すためのものかを区別するところにある。
そして,本研究では,見立てる際に,①対人的相互作用における体験感覚と,②内的対象
の2点を特に重視している。①については既に第1章で言及したが, 子どもの現状を理解
するためには,対人的相互作用における子どもの体験感覚を検討し,自己の実在感が揺ら
いでいないかどうか確認する必要があると筆者は考える。また,②についての見立ては,
子どもの内的対象の問題を心理療法で取り扱うべきかどうか判断するために必要であると
筆者は考える。事例A(中村,2014)の Cl は,抑うつ状態にある不登校男子高校生(高1)
であり,内的対象の問題を心理療法で取り扱う必要があった。
次に,母親の問題を見立てる目的は,母親の対応の変化の可能性を見極めるところにあ
る。
子どもの問題が母子間の対人的相互作用や子どもの苦慮性に起因する場合には,
まず,
母親の対応の変化を促さなければならない事例が存在する。しかし,その際,母親自身が
抱える問題のために,子どもへの対応について助言するだけでは変化しない場合がある。
このような事例の場合,母親の対応の変化の可能性を見極めるためには,母親の訴えの質
や,母親が子どもに対して抱いている内的幻想について見立てることが重要となる。
母親の訴えの質について,本研究では,体験感覚という視点を中心に見立てている。吉
良(2002)の言う“主体感覚の損なわれた体験”においては,母親の訴えは苦慮感に満ちて
おり体験過程の推進は困難である。従って,子どもに対する母親の機能,即ち,主体感覚
の賦活化促進機能が十分には働かないため,子どもの苦慮感は緩和されず,自己の感覚が
揺らいでいることが少なくない。そして,二つ目の『内的対象』は,母親が子どもに及ぼ
す影響,即ち,次節で言及する母子関係に直接関わってくるものである。子どもへの影響
が母親自身の内的対象の問題によるところが大きいのであれば,可能な範囲でそれを取り
扱う必要がある。事例Bの Cl は,登校しぶりのある小3女子の母親であり,主体感覚の賦
8
活化促進機能の向上を促す必要があった。
最後に,母子関係の問題を見立てる目的は,母子関係の問題が投影同一視に基づくもの
かどうかを判断するところにある。母子関係の問題の背景には母親自身の内的対象に根ざ
した,子どもへの投影同一視が存在する事例があり,母親の投影同一視の引き戻しによっ
て,
子どもに変化が起こる場合がある。
事例Cの Cl は,
パニックの小3男子の母親であり,
投影同一視の引き戻しによって子どもの変化を促す必要があった。
【第3章
セラピスト‐クライエント間における<相互交流>の活用】
本章では,事例を提示して,面接の安全性を保ちながら母親の機能を高めるための<相
互交流>の活用方法を,体験過程と関係性に焦点を当てて検討している。取り上げた事例
は,以下の表2のとおりである。
【第4章
<相互交流>による母親の変化と子どもへの影響】
本章では,事例を提示して,<相互交流>の過程を分析し,母親の変化と子どもの変化
の関係について検討している。取り上げた事例は,以下の表3のとおりである。
【第5章
母親面接における<相互交流>の視点】
本章では,第二部の事例研究を踏まえて,母親面接の課題を解決するための<相互交流
>の視点の特徴について改めて論じた(第1節・第2節)
。次に,第2章の内容と,第二部
の事例研究を踏まえて,<相互交流>において安全性に配慮しながら母親自身や母子関係
9
の問題を取り扱う際に必要となる見立ての臨床的意義について考察した(第3節)
。
[第1節
母親面接の課題と<相互交流>]
1.Chethik(1989/1999)の母親面接の課題と<相互交流>の視点
Chethik(1989/1999) は,比較的自我機能の高い親に対しては,親ガイダンスという面接
方法で,子どもに対する親の対応の変化を促している。しかし,筆者が実施した母親面接
では,親ガイダンスだけで終始した事例は少なかった。このような場合,Chethik は,親
ガイダンスの枠を超えて転移性親機能に移行する必要があると主張している。しかし,移
行の際の臨床的な指標については具体的な説明がほとんどないことから,筆者は,母親の
機能についての実践的な視点を明らかにすることに意義があると考えた。また,Chethik
の親子関係の治療では,投影同一視の引き戻しのために精神分析的な解釈が実施されてい
る。その際,母親の訴えと Th の理解の乖離が大きいと,面接自体が侵襲的な体験となり,
母子並行面接の中断に至ることがある。従って,この事態を避けて母親面接の安全性を維
持するためには,どの時点でどのように Th の理解を伝えるのか判断しなければならない。
筆者は,以上のような課題を解決するためは,Chethik の親面接にはなかった<相互交
流>という視点を母親面接に導入し,体験感覚の質について見立てることが有効であると
考えたのである。即ち,Th‐Cl 間の対人的相互作用の文脈で生起している体験感覚の質を
見極めることによって,Cl への安全な関わり方を選択できるようになるのである。
2.体験過程療法による母親面接の課題と<相互交流>の視点
体験過程療法は,Cl の体験過程の推進を原則としているが,場合によっては推進が困難
な事例がある。その中には,内的対象の影響によって硬直化した体験過程が継続している
事例が少なくない。このような事例では,Cl から投げ入れられた苦慮性によって,Th の主
体感覚が希薄化し,心理療法が行き詰まることがある。例えば,すぐに体験過程の推進を
促すと,事例Fでは加害不安を増幅するおそれが,事例Iでは抑うつ的心性を深めてしま
い,かえって苦慮性が増す危険があった。このような課題を解決するためには,体験過程
療法にはなかった<相互交流>という視点を母親面接に導入し,面接の場で展開している
関係性について見立てる必要がある。即ち,Cl の過去の体験が Th‐Cl 関係にどう影響し
ているのかを理解することによって,体験過程の促進を判断できるようになるのである。
[第2節
<相互交流>の様式と母親面接の目標]
次頁の表4は,<相互交流>の三様式と母親面接の目標を対応させながら,各事例を分
類したものである。
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各<相互交流>の中で生じる母親自身の面接体験の本質は,表4のように,<相互交流Ⅰ
>は,『母子間の対人的相互作用のワーク』,<相互交流Ⅱ>は,『抱え込まれる転移体
験』,<相互交流Ⅲ>は,『重層的転移体験』と呼ぶことが適当であると,筆者は考える。
そして,以上のような各<相互交流>に対応する母親面接の目標は,三種類が考えられる。
表全体を概観してみると,本研究の母親面接の特徴は,特に体験過程の推進が困難な事
例に用いる<相互交流Ⅲ>にあると考える。即ち,体験過程の推進が困難な事例の場合,
転移という概念を導入して面接状況を読み解き,Th の体験感覚を見立ての中に組み込む必
要がある。<相互交流>の視点は,このような事例で特に有効である。
[第3節
<相互交流>における見立ての臨床的意義]
1.子どもの問題についての見立ての臨床的意義
次頁の図1は,子どもの問題についての見立てによって,母親面接の位置づけが明確に
なることを示している。子どもの問題について見立てる場合,図のように,三つに分けて
考える。即ち,①母子間の対人的相互作用の問題,②子どもの体験感覚の問題,③子ども
の内的対象の問題のどれに相当するかを見分ける。そして,①と②の場合であれば,母親
の変化を促すことが優先される。そして,本研究で取り上げた9事例を分類すると,図の
ようになり,各事例の母親面接の位置づけが明確になる。従って,子どもの問題について
の見立ての臨床的意義は,心理教育相談における母親面接の位置づけを明確にすることに
よって,母親面接の目標を事例に即して設定できるようにするところにある。
11
2.母親の問題についての見立ての臨床的意義
次の図2は,母親の問題と母子関係の問題についての見立てを示している。
図で明らかなように,子どもの場合と同じように,①母子間の対人的相互作用の問題,
②母親の体験感覚の問題,③母親の内的対象の問題の三つに分類している。そして,それ
に対応して母親面接の目標が明確になり,<相互交流>の様式も定まる。そして,Th が,
<相互交流>の様式を把握しているために,面接の安全性が維持しやすくなるところに臨
床的意義がある。
3.母子関係の問題についての見立て
図2の右端の部分は,母子関係の問題についての見立てを示しているが,投影同一視が
母親の側で生じているのか,母子双方で生じているのか見分ける必要のあることを示唆し
ている。もし後者であれば,母子双方の心理療法で投影同一視の引き戻しのワークが必要
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となる。母子関係の問題についての見立ての臨床的意義は,母子間の投影同一視を理解す
ることにより,Th の主体感覚を賦活化させて,面接の安全性を維持するところにある。
【第6章
母親面接における<相互交流>の臨床的意義】
本章では,事例研究を踏まえて,心理教育相談の母親面接における<相互交流>の臨床
的意義について論じている。第1節で,母親面接の安全性の維持と母親の機能の向上にお
ける<相互交流Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ>の臨床的意義を,第2節で,母親の機能の向上によって促進
される子どもの変化における<相互交流Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ>の臨床的意義について考察した。
[第1節
母親面接の安全性の維持と母親の機能の向上]
1.母子間の対人的相互作用のワーク(<相互交流Ⅰ>)を中心にした母親面接
<相互交流Ⅰ>の母親の機能の向上における臨床的意義は,母親の訴えを尊重し母親の
機能を支持していくことで,主体的な変化を促していくところにある。また,母親面接の
安全性の維持における<相互交流Ⅰ>の臨床的意義は,母親の問題を敢えて直接取り扱わ
ず,母子間の対人的相互作用に限定して取り扱うことによって,母親の主体性を尊重しな
がら苦慮性を間接的に緩和できるところにある。
2.抱え込まれる転移体験(<相互交流Ⅱ>)を中心にした母親面接
<相互交流Ⅱ>の母親の機能の向上における臨床的意義は,Th の体験過程の推進によっ
て,母親が抱え込まれる体験を積み重ね,子どもに対する主体感覚の賦活化促進機能を高
めるところにある。また,母親面接の安全性の維持における<相互交流Ⅱ>の臨床的意義
は,抱え込まれる体験を伴った転移関係によって支持されながら,母親の主体感覚が自か
ら賦活化していくために,母親自身が主体的に自分自身の問題と向き合えるようになり,
面接が侵襲的体験となるリスクが少ないところにある。
3.重層的転移体験(<相互交流Ⅲ>)を中心にした母親面接
母親の機能の向上における<相互交流Ⅲ>の臨床的意義は,母親が一連の投影同一視の
引き戻しのワークの過程を通して,自ら体験過程の推進を伴った自己洞察を体験すること
によって,体験過程促進機能を向上させるところにある。また,母親面接の安全性の維持
における<相互交流Ⅲ>の臨床的意義は,Th の体験過程の推進を伴った<相互交流>につ
いての理解に基づいて,Cl を抱え込みながら体験過程を促進していけるところにある。
[第2節
母親の機能の向上によって促進される子どもの変化]
1.<相互交流Ⅰ>による子どもへの対応の変化によって促進される子どもの変化
事例Gは,母親の変化によって,母子間の対人的相互作用の変化と,子どもの実在感を
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伴った自己の感覚の回復と,主体感覚の賦活化が促されたケースであった。本事例では,
Th‐Cl 間の対人的相互作用における関係性の変化によって,母親の体験過程が変化したの
である。その結果,母親の過緊張が緩み,母親に向けられたGの鬱積した感情を母親が受
けとめられるようになった。そして,プレイセラピィの進展と連動してGの主体感覚が賦
活化し,強迫的構えが緩んで吃音が緩和していったのである。即ち,<相互交流Ⅰ>の臨
床的意義は,子どもへの対応の変化を促すことによって,子どもの自己表現を促進し,母
子間の対人的相互作用の変化を図るところにある。
2.<相互交流Ⅱ>による主体感覚の賦活化促進機能の向上によって促進される子どもの
変化
事例Hは,母親の変化によって子どもの心理療法が促進され,子どもの実在感を伴った
自己の感覚の回復と,主体感覚の賦活化が促されたケースであった。本事例における子ど
もの変化(主体感覚の賦活化による分離不安の克服)は,母親の主体感覚の賦活化促進機
能の向上による母子関係の変化が契機となっている。そして,母親の変化は,<相互交流
Ⅱ>によって可能になったと,筆者は考える。即ち,<相互交流Ⅱ>の臨床的意義は,母
親の主体感覚の賦活化促進機能の向上を促進することによって,子どもの苦慮感の緩和を
図って自己の感覚の回復を促し,主体感覚を賦活化させていくところにある。
3.<相互交流Ⅲ>による母親の変化によって促進される子どもの変化
事例Iは,母親の変化によって,子どもの実在感を伴った自己の感覚の回復と主体感覚
の賦活化が促されたケースであった。本事例では,母親の投影同一視の引き戻しの結果,
母子関係が変化し,Iの変化(自己の感覚の回復と主体感覚の賦活化)を促進していった
と考えられる。即ち,<相互交流Ⅲ>の臨床的意義は,母親の体験過程促進機能の向上を
図ることによって,子どもの体験過程を促進し,母子関係の変化を促すところにある。
4.今後の課題
本研究では,母親の変化が子どもの変化に影響を与えた事例を取り上げ,母親面接にお
ける<相互交流>の活用方法について検討し,心理教育相談における臨床実践上の意義を
考察した。従って,本研究の限界は,母親の変化が子どもの変化に影響を与えた事例の範
囲内にある。また,『母親の変化が子どもの変化に影響を与える』ということは,子ども
の問題の原因が母親にあるということを意味しているものではないことを明記しておきた
い。心理教育相談では,主に母親が来談して子どもの問題を相談するという事例が多いこ
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とから,母親面接を通していかに子どもの変化を促していくかという問題意識から,本研
究は出発している。なお,今後の課題として,筆者は,本研究の限界を超える事例も含め
て母親面接の研究が必要であると考えている。
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雄(訳)(1982).フォーカシング.福村出版,p29.
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シング指向心理療法(下).金剛出版,pp293-294.
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学術出版社,pp47-49.
15
A Study of Mutual Exchange in Psychotherapy for Mothers at Public Counseling Centers
In psychotherapy at public counseling centers, most of clients seem to be mothers, and the
main issues they complain are about their children or mother-child relationships. Therefore,
therapists often focus on solving issues in mothers themselves and mother-child relationships by
carefully assessing not to invade mothers. Based on the point, this study inducts an idea of
‘mutual exchange’ in psychotherapy for mothers and examines effectiveness of it. ‘Mutual
exchange’ refers as studying both experiencing and relationships between clients and therapists.
The purpose of this study is to assess usefulness and clinical significance of ‘mutual exchange’
in psychotherapy for mothers. First, in this study, uniqueness of ‘mutual exchange’ as well as
‘functions of mothers’ and goals of psychotherapy, is stated. Assessment is discussed and methods
of ‘mutual exchange’ are explained. Second, some case studies show how therapists effectively use
skills of ‘mutual exchange’ that shows positive changes of mothers and children through
psychotherapy. Third, this study is concluded with important assessment of issues in mothers
themselves and mother-child relationships by carefully assessing not to invade mothers, and
clinical significance of ‘mutual exchange’ in psychotherapy for mothers.
Main focus on this study is to assess sense of experience and relationships of experiencing in
‘mutual exchange’. It is divided into three categories. ‘Mutual exchangeⅠ’ : ≪Work of personal
interaction between mothers and children≫, ‘Mutual exchangeⅡ’:≪Experience of transference
during being held≫, ‘Mutual exchangeⅢ’:≪Overlapping experience of transference≫. And,
‘functions of mothers’ in ‘mutual exchange’ between mothers and children are facilitating
functions of activating sense of subjectivity and experiencing. Based on those points upon, goals in
psychotherapy for mothers are to let mothers activate sense of subjectivity by reducing emotional
distress and actually facilitate ‘functions of mothers’ for children by self-insight they face during
carrying forward experiencing.
As a result, to assess sense of experience and relationships in a setting of psychotherapy bring
positive result for therapist to secure quality of psychotherapy. Also, to enhance ‘functions of
mothers’ leads significant meaning in ‘mutual exchange’ listed below. 1)‘Mutual exchangeⅠ’:To
support ‘functions of mothers’ by paying attention to mother’s complaint lets mothers positively
reflect and change their role as mothers. 2)‘Mutual exchangeⅡ’ :By letting mothers realize that
they are held, they promote the facilitating function of activating sense of subjectivity. 3)‘Mutual
exchangeⅢ’:By self-insight mothers face during carrying forward experiencing, they promote the
facilitating function of experiencing. As for clinical significance of securing quality in
psychotherapy for mothers, this study clears results below. 1)‘Mutual exchangeⅠ’: To focus on
interactive issues between mothers and children not to focus only on mother’s issues itself reduces
emotional distress of mothers. 2)‘Mutual exchangeⅡ’:Mother’s issues are focused under an
supported experience of transference during being held so that psychotherapy does not cause
emotional distress. 3)‘Mutual exchange Ⅲ ’:Therapists see clients during carrying forward
experiencing and stimulate them to facilitate experiencing so it smoothen psychotherapy overall.
Lastly, the change of mothers affects children in those ways below. 1)‘Mutual exchange
Ⅰ’:Facilitating to change personal interaction between mothers and children. 2)‘Mutual exchange
Ⅱ’:Facilitating to activate children’s sense of subjectivity. 3)‘Mutual exchange Ⅲ’:Facilitating to
change mother-child relationships.