肝切除術とドレーン管理 胆汁漏(−) 本編は P.32 胆汁漏(+) 肝切術後ドレーンの性状 膵切除術と吻合部ドレーン・膵管チューブ ❶ 術直後の膵空腸吻合部ドレーンの排液 本編は P.37 ❷ ドレーンの性状 ワインレッド 正常(漿液性) 膿性 膵液漏 ❸ 正常な膵管チューブ,RTBD排液の性状 膵管チューブ: 無色透明 胆管チューブ: 黄褐色 特集1 内科治療・手術後に! 消化器領域のドレーン・チューブ管理 膵切除術と吻合部ドレーン・ 大阪市立 総合医療センター 膵管チューブ 中西えり子 肝胆膵外科・肝臓内科病棟 膵液漏は重篤な合併症を引き起こすため, 注意深いドレーンの観察が必要である。 異常の早期発見と迅速な処置が大出血の 予防につながる。 複数のドレーンによる患者の身体的・精神的 苦痛を軽減できるよう,適切なドレーン管理と 患者への説明が大切である。 部位別のドレーン管理 ● 吻合部ドレーン(膵空腸吻合部ドレーン・ 胆管空腸吻合部ドレーン) 膵頭十二指腸切除術では,膵空腸・胆管 空腸・十二指腸(あるいは胃)空腸の吻合 が必要となります。吻合部ドレーンは膵液 膵切除術の主な術式で 挿入されるドレーン 漏や胆汁漏などの縫合不全の早期発見,ま た縫合不全が生じた時のドレナージを目的 として留置されます。 膵切除術は主に,膵頭部領域の腫瘍に対 ◆ドレーン排液の観察と対応 する手術と尾側膵腫瘍に対する手術に分け 正常な経過では術直後は淡血性排液(写 られます。膵頭部領域の腫瘍に対する手術 真1−②)であり,その後淡々血性〜淡黄 には,膵頭十二指腸切除術(胃を約半分切 色(写真2−①)へと移行します。 除) ,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,幽 ①膵液漏 門輪温存膵頭十二指腸切除術があり,尾側 膵頭十二指腸切除術後にはさまざまな合 膵腫瘍に対する手術では,膵体尾部切除術 併症がありますが,その中でも特に重要な が主な術式となります。 合併症に膵液漏があります。膵液漏とは主 膵頭部に対する手術と膵体尾部に対する に,膵空腸吻合部の縫合不全により吻合部 手術では,術後に留置されるドレーンも大 から膵液が漏出することで起こります。膵 きく異なります。膵頭十二指腸切除術では 液漏の早期発見のためには術後のドレーン 吻合部ドレーン(膵空腸吻合部前面・胆管 の観察と管理が重要です。 空腸吻合部後面)・胆管チューブ(RTBD: 膵液漏を発症すると術後早期に吻合部ド retrograde transhepatic biliary drainage) ・ レーンからの排液が暗血性(ワインレッド) 膵管チューブ・時には経腸栄養チューブも となり,その後,乳白色の粘稠な排液へと 留置されます(図,写真1−①)。それに 移行します(写真2−②)。また,ドレー 対し膵体尾部切除術では,膵断端ドレーン ン排液中のアミラーゼ値を測定し,正常値 の留置のみとなることがほとんどです。 上限の3倍以上であれば膵液漏と判断しま す。 消化器最新看護 Vol.20 No.1 37 図 膵頭十二指腸切除術再建後の ドレーン留置部位 2 写真2 ドレーンの性状 P. に カラー写真 掲載 胆管空腸吻合部ドレーン 胆管 チューブ ワインレッド ①正常(漿液性) ● 膵管 チューブ 膿性 ②膵液漏 ● かを検討し,効果的にドレナージできるよ う透視下でドレーンの入れ替えを行ったり, 膵空腸吻合部ドレーン 時にはドレーンを新たに挿入したりします。 写真1 膵頭十二指腸切除後 腹腔内留置ドレーン 特に,膵液漏により仮性動脈瘤が形成され, ①再建後のドレーン留置部位 ● わる病態となります。 胆管チューブ 破裂すると大出血を引き起こし,命にかか 仮性動脈瘤からの出血の前にはドレーン からの少量の出血を認めることがあり,予 膵管チューブ 兆出血(おしるし)と言います。出血が微 量であっても予兆出血と考えられた場合に 胆管空腸吻合部ドレーン は,速やかに医師に報告することが必要で す。迅速に検査を行い処置をすることによ り,腹腔内出血を未然に防ぐことができる 可能性があるため,膵液漏発症時には特に ②術直後の ● 膵空腸吻合部 ドレーンの排液 2 P. に カラー写真 掲載 ドレーン排液の性状や量の観察は重要とな ります。 ②胆汁漏 胆管空腸吻合部の縫合不全や胆管の損傷 により胆汁漏を起こします。胆汁漏では, ドレーン排液中に胆汁が混入し,薄い胆汁 色になります。胆汁が腹腔内に貯留すると 38 膵液には強い消化作用があり,腹腔内に 胆汁性腹膜炎を来すため,胆汁漏が疑われ 漏出すると,腹腔内膿瘍や腹腔内出血など た時も膵液漏と同様に腹部CT検査で腹腔 重篤な合併症に進展することがあります。 内に液体貯留がないかを確認し,効果的に そのため膵液漏が疑われた場合は,腹部 ドレナージができるよう透視下でのドレー CT検査を行い,ドレナージ不良部位がない ン入れ替えを行ったり,時にはドレーンを 消化器最新看護 Vol.20 No.1 膵管チューブ 新たに挿入したりします。 ● ◆ドレーン周囲の皮膚の観察・ケア 膵管チューブは膵頭十二指腸切除術後の 膵液漏を発症した時には,ドレーン排液 膵空腸吻合部の減圧をして縫合不全を防 中に刺激性の強い膵液が混じり,排液が皮 ぎ,縫合不全を起こした場合は,膵液をで 膚に接触すると,発赤やびらんなどの皮膚 きるだけ腹腔内に漏らさないようにするこ 障害を起こしやすくなります。そのため, とを目的として留置されます。 ドレーン挿入部から排液の漏れがある時に ◆ドレーン排液の観察と対応 は,ドレーン挿入部周囲に皮膚保護剤を貼 最近では膵管チューブを留置しない方法 付し,皮膚を保護する必要があります。 (ノーステント法)や,短いチューブを吻合 特に,膵液漏を発症し透視下でドレーン 部に留置し体外にチューブを出さない方法 を入れ替える場合は注意が必要で,ドレー (ロストステント法)がとられることも多 ン入れ替え後には術中に挿入するドレーン くなっています。ロストステントは術後自 より細いものが留置されます。そのため, 然に腸へ脱落し,排便と共に排出されます。 細くなったドレーンの周囲からの排液漏れ 膵管チューブを挿入した場合は,膵液の量, が多くなり,皮膚の観察と保護がより重要 性状,膵管チューブ挿入部の皮膚の変化を となります。 中心に観察します。 ◆ドレーン抜去時期 膵管チューブが屈曲や閉塞してしまうと, 膵液漏や胆汁漏などの合併症がなく経過 膵液漏や膵炎の原因になります。屈曲やね すれば,術後3〜5日でドレーン抜去とな じれに注意して固定し,排液バッグはでき ります。しかし,遅発性の膵液漏を起こす るだけ低い位置で管理することでドレナー こともあるため,ドレーン抜去後も発熱や ジをよくします。 腹痛の有無を観察し,血液検査で白血球や ◆ドレーン周囲の皮膚の観察・ケア CRP値の上昇が見られないかを確認しま 膵管チューブの多くは4Fr 〜6Frの細い す。これらの症状があれば腹部CT検査や チューブを使用します。挿入部は固定糸で 超音波検査を行い,腹腔内に液体の貯留を 固定し,ループを作ってから挿入部の観察 認めた時には経皮的ドレナージが必要とな ができるようにフィルムドレッシングで固 ります。 定します。チューブとドレーンバッグの接 ● 膵断端ドレーン 続部が直接皮膚に当たらないように,接続 膵体尾部切除では,膵断端または左横隔 部と皮膚の間にガーゼを置いてから,テー 膜下にドレーンを留置します。吻合部ド プでしっかりと固定します。 レーンと同様に,膵断端からの膵液漏の早 挿入部からの排液漏れがある時には,皮 期発見と膵液漏発生時のドレナージが目的 膚保護剤を使用し,皮膚トラブルを予防し です。排液の観察点や管理方法は吻合部ド ます。 レーンと同様です。 消化器最新看護 Vol.20 No.1 39 ①膵管チューブ: ● 無色透明 ②胆管チューブ: ● 黄褐色 膵管チューブが腸管内に逸脱してい る可能性も考えられます。腹痛や発 熱などの症状がなければ緊急に処置 を要することはありません。 ● 胆管チューブ(RTBD) 胆管チューブは胆汁を体外に誘導 して胆道内を減圧し,胆汁漏を予防 する目的で留置されます。正常胆汁 写真3 正常な膵管チューブ, RTBD排液の性状 2 P. に カラー写真 掲載 は茶褐色または黄褐色(写真3− ②)であり,緑色を呈していれば感 染が疑われます。また,胆汁が流出 ◆膵管チューブ抜去時期 しなくなった時には閉塞または腸管内への 膵管チューブは,膵液漏がないことを確 チューブの逸脱が考えられます。 認し術後約2〜3週間で抜去となります。 チューブの屈曲などの異常がないことを ◆膵管チューブの管理~こんな時どうする? 確認した後,ミルキングを行っても流出が ①排液の量が急に減少した 見られない時には,医師に報告し,生理食 膵管チューブの閉塞が考えられます。 塩水での洗浄やX線検査でのチューブ位置 チューブの屈曲やねじれなどがないかを確 の確認が必要になります。 認した上で医師に報告します。チューブ洗 胆管チューブは術後,胆汁漏がなければ 浄やミルキングを行う際には,膵管に過度 2〜3週間で抜去となります。 な圧がかからないよう十分に注意して行う ● 必要があります。 腸瘻チューブは,術後早期に経腸栄養を ②膵管チューブの排液が黄色くなった 行うことを目的に留置されます。当施設で 正常な膵液は無色透明(写真3−①)で は全例に留置せず,特に術後合併症のリス すが,術後10日程度で吻合部の浮腫が軽減 クが高いと判断された症例にのみ留置して し,腸液が膵管へ逆流すると膵管チューブ います。術後合併症により経口摂取開始が の排液が黄色くなることがあります。また, 遅れる場合や経口摂取が不十分な場合に, 腸瘻チューブ 腸瘻チューブから成分栄養剤(エレンター 膵機能不全 膵切除後,膵酵素が不足すると消化吸収障 害により,栄養状態不良となります。栄養状 態が不良になると,下痢や栄養障害による全 身浮腫,胸水や腹水などの症状が見られます。 このような時にはパンクレリパーゼなどの消 化酵素製剤を内服し,膵酵素を補充します。 40 消化器最新看護 Vol.20 No.1 ル)の注入を開始します。 膵頭十二指腸切除術後の チューブ・排液バッグの管理 膵頭十二指腸切除術後は複数のドレーン が挿入され,膀胱留置カテーテルや点滴な ➡続きは本誌をご覧ください
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