病理にまつわる法律問題 - 岩手医科大学 医学部 病理診断学講座

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病理にまつわる法律問題
2015年4月17日
第47回
病理診断学講座
大阪A&M法律事務所
医師・弁護士
小島
崇宏
Copyright 2015 TAKAHIRO KOJIMA
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本日のアジェンダ
1.はじめに(医事紛争概観)
2.病理過誤に関する裁判例
3.病理にまつわる法律問題
4.まとめ
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医事紛争の動向
➀民事訴訟件数及び平均審理期間の推移
2002年
年11月
月 慈恵医大青戸病院事件
2006年
年2月
月 大野病院事件 逮捕
5月
月 「医療崩壊」:
医療崩壊」:小松秀樹
」:小松秀樹
2001年
月 東京女子医大事件
2001年3月
11月
月 「患者様」
患者様」
1999年
年
・横浜市立大学患者取り
横浜市立大学患者取り違え事件
・都立広尾病院注射器取り
都立広尾病院注射器取り違え事件
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医事紛争の動向
②診療科目別件数
医師1000人あたりの訴
訟件数(平成24年)
1位 形成外科
8.9件
2位 外科
5.3件
3位 整形外科
4.8件
4位 産婦人科
4.6件
5位 泌尿器科
2.7件
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医事紛争の動向
③医療訴訟の終わり方
認容率
24.7%
(通常訴訟83.6%)
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医事紛争の動向
➃刑事事件件数の推移
医療事故関係届出件数と
医療事故関係届出件数と立件送致数の
立件送致数の推移(
推移(警察庁)
警察庁)
300
250
2002年
年11月
月 慈恵医大青戸病院事件
1999年
年
・横浜市立大学事件
・都立広尾病院事件
・杏林大学事件
200
その他
医療関係者等の届出等
被害関係者等の届出等
150
100
50
2006年
年2月
月
大野病院事件(
大野病院事件(逮捕)
逮捕)
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医療事故における医療従事者の責任
①
刑事責任
←懲役、罰金
②
行政責任
←医師免許に関する処分
③
民事責任
←損害賠償
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刑事事件になると・・・
県立大野病院で・・・04年12月、出産の
際に帝王切開手術を受けた女性(当時29)が
医療ミスで大量出血して死亡した事故があり
、福島県警は18日、同病院の医師K容疑者(
38)・・・を業務上過失致死と医師法違反の
疑いで逮捕した。容疑を一部否認していると
いう。・・・手術前、子宮に癒着していた胎
盤をはがすと大量出血し、女性に命の危険が
生じる恐れがあると認識しながら、胎盤を無
理にはがすなどして死亡させた疑い。また、
変死にもかかわらず、24時間以内に警察署に
届け出る義務を怠った疑い。県は事故調査委
員会で調べた結果、医療ミスを認めていた。
朝日新聞
2006年2月18日夕刊
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医療事件で問題となる犯罪
・殺人罪(刑法199条)
・文書偽造罪
虚偽公文書作成罪(刑法156条)
虚偽診断書等作成罪(刑法160条)
・証拠隠滅罪(刑法104条)
・医師法違反
応招義務違反(19条)-罰則規定なし
無診察治療等(20条)-50万円以下の罰金
異常死届出義務違反(21条) -50万円以下の罰金
等
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刑事手続の流れ
事件の発覚(捜査の端緒)
・患者、遺族による告訴、告発
・医療機関からの届出(医師法21条)
・捜査機関による覚知
逮捕
勾留
48時間以内に送致
24時間以内に勾留請求
任意取調
書類送致
原則最長20日間
終局処分
起訴
不起訴
検察審査会
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刑事手続の流れ
公判請求15件
略式命令89件
起訴
H16.4~H22.12
計104件*
略式命令請求
公判請求
無罪4件*
裁判
略式命令
判決
行政処分??
* 飯田英男「刑事医療過誤Ⅲ」
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刑事事件への対応
被疑者の対応
・黙秘権(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)
・調書の訂正を求める(刑事訴訟法198条4項)
・署名・捺印の拒否(刑事訴訟法198条5項)
・弁護人選任権(憲法第34条)
裁判では、調書が非常に重要!!
早急に弁護士に相談を
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民事上の責任
債務履行責任(民法415条以下)
要件:診療契約、侵害行為、故意・過失、損害、因
果関係
不法行為責任(民法709条以下)
要件:侵害行為、故意・過失、損害、因果関係
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民事医療紛争の
民事医療紛争の具体的流れ
具体的流れ
弁護士へ相談
カルテ、レントゲン等証拠保全
病院及び医師
検討開始
資料検討(有責性判断等)
病院及び医師への通知
資料検討(有責性判断)
保険会社との協議
示談交渉
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訴訟提起
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民事医療裁判の具体的流れ
訴訟提起
証人尋問
第一回口頭弁論
口頭弁論終結
争点整理手続
(弁論準備手続)
判
決
(鑑定)
和 解
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民事訴訟では何が問題となるのか
債務履行責任(民法415条以下)
要件:診療契約、侵害行為、故意・過失、損害、因
果関係
不法行為責任(民法709条以下)
要件:侵害行為、故意・過失、損害、因果関係
証拠
ex.カルテ、同意書、レントゲン、メモ、録音テープ・・・
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カルテの作成は
医師法24条は、・・・と規定し、医師に対し診療録の作成
義務を課している。・・・診療録は、その他の補助記録とと
もに、医師にとって患者の症状の把握と適切な診療上の基礎
資料として必要欠くべからざるものであり、また、医師の診
療行為の適正を確保するために、法的に診療の都度医師本人
による作成が義務づけられているものと解すべきである。従
って、診療録の記載内容は、それが後日改変されたと認めら
れる特段の事情がない限り、医師にとっての診療上の必要性
と右のような法的義務との両面によって、その真実性が担保
されているというべきである。
東京高判昭和56年9月24日判タ452号152頁
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同意書の取得は?
Q 印刷された説明書(同意
書)に署名をもらうだけで良
いのか?
「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印
があるときは、真正に成立したものと推定す
る。」(民事訴訟法228条4項)
十分意味がある
もっとも、きちっとした口頭での説明が必要
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録音は?
Q 患者対応等をする際に録音して良いのか?
秘密録音も原則、証拠能力あり
(東京高判昭52年7月15日)
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本日のアジェンダ
1.はじめに(医事紛争概観)
2.病理過誤に関する裁判例
3.病理にまつわる法律問題
4.まとめ
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病理に関する裁判例①
福岡地方裁判所小倉支部平成14年4月23日判決
【事案の概要】
・胃内視鏡検査
大きく深い胃角部潰瘍とその周囲に周堤
胃上部の2箇所に胃上部潰瘍
→生検
・同日のエコー
胃体部前壁漿膜側に直径1~1.3cmの腫大したリンパ節2個
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病理に関する裁判例①
福岡地方裁判所小倉支部平成14年4月23日判決
【事案の概要】
・病理検査
→胃角部潰瘍の組織が活性潰瘍であり、胃上部潰瘍3箇所の組織のうち2
箇所のごく一部にグループⅤと認められる印環細胞癌が認められ再生検
が必要とした。
胃内視鏡再検査
→胃角部潰瘍8箇所から組織採取が行われたが、活性潰瘍の所見は認めら
れたもののグループⅡであった。
腫瘍マーカーは正常範囲内
CT:胃体部前壁の肥厚など胃癌と思われる所見と共にリンパ節腫大
手術が決定
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病理に関する裁判例①
福岡地方裁判所小倉支部平成14年4月23日判決
【事案の概要】
胃全摘術実施:胃上部漿膜側に白い小結節が散在
胃は横隔膜に密着
胃、脾臓、胆嚢及び周辺リンパ節が摘出
→空腸を用いたパウチ作成
腹腔内洗浄水の細胞診検査:良・悪性のいずれとも判定しがたい異型
(パパニコロウ クラスⅢ)
病理検査:胃は長期間にわたる強い炎症を示す所見 Ⅳ度の胃潰瘍
病理学教室教授が、術前生検の見直し:癌と非常に似ているが癌ではない
患者が約6157万円の損害賠償を求めて訴訟提起
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病理に関する裁判例①
福岡地方裁判所小倉支部平成14年4月23日判決
【判決】
生検による術前の病理診断は、臨床的に疑われた癌を確定するための根拠
となるものであるが、その診断には、悪性を見落とす危険性や良・悪性の
鑑別が困難な場合があり、手術材料に対比すると不確実なものとならざる
を得ず、時に病理医による診断の格差も存在することが認められる。術前
の病理診断が、癌を確定するための根拠となるものであり、胃癌取扱規約
分類が、良性か悪性かの鑑別が困難なものをグループⅢ、癌が強く疑われ
るが、その確定診断を下し得ないものをグループlV、癌と確実に診断でき
るものをグループVと分類していることからすると、病理医は、良・悪性
の鑑別が困難な場合等は、グループⅢないしlVと診断し、再検査や他の病
理医との協議等によって、慎重にその鑑別を行い、あくまでその鑑別が困
難な場合は、それを前提として患者の同意のもとにその医療行為を選択さ
せるべきである。病理医が、ある生検組織をグループVと診断する場合は
、それがグループⅢないしlVのような不確定なものではなく、癌であると
診断し得る確実な根拠を示すべきであるから、グループVと診断しながら
生検組織が結果的にグループVに該当しなかった場合は、診断当時に病理
医が確実な根拠を有していたことを主張立証しない限り病理診断に注意義
務違反があったものと推定される。
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病理に関する裁判例②
東京地方裁判所平成23年5月19日判決
【事案の概要】
上部消化管内視鏡検査にて胃体中部小彎に台状挙上を呈する腫瘍性
病変あり生検
→病理医「壊死物に接して、比較的小型の核を有する接着性の乏しい
異型細胞のシート上の増生を認める低分化腺癌」の所見であり、グ
ループⅤと診断
1ヶ月後
オペ目的で入院し、術前に再度内視鏡検査したところ、病変部の台
状挙上は消失、同部位に発赤した不正な粗造粘膜病変が確認
→腹腔鏡下胃亜全摘手術+リンパ節郭清
→切除標本:癌(-)
最終的にNKあるいはT細胞の増殖病変
患者が約2670万円の損害賠償を求めて訴訟提起
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病理に関する裁判例②
東京地方裁判所平成23年5月19日判決
【主な争点】
① 低分化癌と病理診断を誤った過失の有無
② 症例を再検討する注意義務違反の有無
③ ①、②の過失とX亜全摘との間の因果関係
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病理に関する裁判例②
東京地方裁判所平成23年5月19日判決
【判決】
① 低分化癌と病理診断を誤った過失の有無
→異型細胞が見られた等悪性腫瘍と判断するに足る根拠あ
り、2型胃癌との内視鏡所見と矛盾しているとはいえな
いから、低分化癌・グループⅤと診断したことには合理
的根拠がある。
病理学的診断はいくつかの各論的な悪性基準から総合的
に判定され、具体的、明確な基準はなく、医師の経験に
基づく総合的判断が行われるものであるから、事後的に
結果と齟齬したからといって、その診断に確実な根拠が
なかったと推認することはできない。
病理医の過失を否認
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病理に関する裁判例②
東京地方裁判所平成23年5月19日判決
【判決】
② 症例を再検討する注意義務違反の有無
→病変が、内視鏡検査においてわずか1か月程度の間に通
常の胃癌では見られないような形態変化を来していたの
であるから、病理診断の結果を絶対視することなく、外
科的手術の実施に先立ち、病理医と相談するなどして、
症例について再検討すべき注意義務があり、臨床担当医
は、病理医に対して、病変の肉眼的所見が変化したこと
を連絡し、生検材料について胃癌と確定診断するに足り
る所見があるか否かについて、確認、再検討すべきで
あった。
臨床担当医の過失を肯定
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病理に関する裁判例②
東京地方裁判所平成23年5月19日判決
【判決】
③ 因果関係
→大学等の血液腫瘍の専門科のある医療機関に紹介される
などして、リンパ腫様胃症との結論に達し、外科的手術
が回避される可能性十分にあり、リンパ腫様胃症との診
断に達しなくとも、少なくとも厳重な経過観察が選択さ
れたと推認される。
②との因果関係を肯定
約1264万円の認容判決
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病理に関する裁判例③
東京地方裁判所平成18年6月23日判決
【判決】
・乳癌と誤診した過失の有無
細胞診の判定として、パパニコロウ分類においては、クラスVとの診断は
、疑いを超えて確診に至ったものであるから、クラスVというためには、診
断時の所見に照らし、悪性と診断できる確実な根拠があることが必要であ
るというべきである。
本件では,術前の細胞診の結果。クラスVと診断されているにもかかわら
ず、術後の組織検査においては、被告病院を含む三つの医療機関において
、いずれも良性である乳管内乳頭腫との診断がされており、術前の細胞診
のプレパラートについても、他院において、クラスⅡとの判定がされてい
る。
細胞診の診断を誤った過失を肯定
約1645万円の認容判決
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本日のアジェンダ
1.はじめに(医事紛争概観)
2.病理過誤に関する裁判例
3.病理にまつわる法律問題
4.まとめ
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医師法21条の届出義務
「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して
異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警
察署に届け出なければならない。」(医師法24条)
←違反した場合は、50万円以下の罰金(法33条の2)
医療行為により患者が死亡した場合の届出義務?
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死体解剖保存法11条の届出義務
「死体を解剖した者は、その死体について犯罪と関
係のある異状があると認めたときは、二十四時間以
内に、解剖をした地の警察署長に届け出なければな
らない。 」
罰則規定なし
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医師法21条の届出義務
都立広尾病院事件
(東京高等裁判所判決2003年5月19日)
「医師法21条にいう死体の「検案」とは、医師が、死亡した者
が診療中の患者であったか否かを問わず、死因を判定するため
にその死体の外表を検査することをいい、医師が、死亡した者
が診療中の患者であったことから、死亡診断書を交付すべき場
合であると判断した場合であっても、死体を検案して異状があ
ると認めたときは、医師法21条に定める届出義務が生じるもの
と解すべきである。」
(最高裁判所判決2004年4月13日)
「医師法21条にいう死体の「検案」とは、医師が死因等を判定
するために死体の外表を検査することをいい、当該死体が事故
の診療していた患者のものであるか否かを問わないと解するの
が相当であり、これと同旨の現判断は正当」
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医師法21条の届出義務
田原厚労省医政局医事課長
(平成24年10月26日「第8回医療事故にかかる調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」)
「検案をして、死体の外表を見て、異状があると言う場合に警察
署のほうに届け出るということ」
「検案と言うこと自体が外表を検査するということ・・・その時
点で異状とその検案した医師が判断できるかどうか」
「もしそういう判断ができないということであれば届出の必要は
ない」
大坪寛子厚労省医政極総務課医療安全推進室長
(平成26年4月3日「第114回日本外科学会定期学術集会」)
「医師法第21条というものは、すべての診療関連死を届け出ろと
言っているものではありません。最高裁の判例を踏まえて、外
表異状説というものを、医師法の担当の医事課長から今一度お
話させて頂きました。」
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医師法21条の届出義務
田村厚生労働大臣
(平成26年6月10日「参議院厚生労働委員会」)
異状死体の届け出を定めた医師法21条の解釈について、「
医療事故等を想定しているわけではない。これは法律制定
時より変わっていない」と答弁した。その上で、2004年の
都立広尾病院事件の最高裁判決は「外表を検案して、異状
を認めた場合」、いわゆる外表異状説で判断していること
、2012年の厚生労働省検討会で、当時の田原克志医事課長
も外表異状説を基に説明していることを挙げ、外表異状説
が厚労省の解釈であるとした。
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医師法21条の届出義務
福島県立大野病院事件(福島地裁2008年8月20日判決)
医師法21条「にいう異状とは、同条が、警察官が犯罪捜
査の端緒を得ることを容易にするほか、警察官が緊急に被
害の拡大措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能
にしようとした趣旨の規定であることに照らすと、法医学
的にみて、普通と異なる状態で死亡していると認められる
状態であることを意味すると解されるから、診療中の患者
が、診療を受けている当該疾病によって死亡したような場
合は、そもそも同条にいう異状の要件を欠くと言うべきで
ある」
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死体解剖保存法11条
「死体を解剖した者は、その死体について犯罪と関
係のある異状があると認めたときは、二十四時間以
内に、解剖をした地の警察署長に届け出なければな
らない。 」
医療行為により患者が死亡した場合の届出義務?
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病理解剖標本の保存に関する裁判例
東京高等裁判所平成15年1月30日判決
【事案の概要】
Xの母A は、 Y大学(被告)の附属病院に入院し、強皮症腎クリーゼと
診断され、肺出血による呼吸不全により死亡した。Aの死亡後, Aの夫で
あるB およびXは、 Aの主治医であるC医師らから死体解剖保存法に基づく
遺体の解剖と内臓および脳の保存についての承諾を求められ、これに応じ
た。
C医師らはYの病理学教室に遺体の解剖を依頼し、遺体の解剖が行われ
た。
その際、 BおよびXはC医師らに対しAの背骨の採取については明確に拒
否の意思を伝えていたが、実際には胸骨、椎体骨も採取された。解剖の際
に摘出された臓器はホルマリン溶液に保存された。同日、遺体は縫合、清
拭され、 Xらに引き渡された。その後、主な臓器から顕微鏡標本(パラフ
ィンプロックおよびプレパラート)が作製された。残りの臓器は引き続き
ホルマリン溶液に保存された。
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病理解剖標本の保存に関する裁判例
東京高等裁判所平成15年1月30日判決
【事案の概要】
Xは、その後、Y病院を訪れ、保存されていたAの内臓や脳などの返還を
受けた。
その後, XはYに対し、所有権に基づき、未返還であった病理解剖楳本
(肉眼標本及び顕微鏡標本)等の返還を求めて提訴した。
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病理解剖標本の保存に関する裁判例
東京高等裁判所平成15年1月30日判決
【判決】
Xの所有権に基づく標本(皮膚,腎臓,肺,心臓,食道, 胃,腸,肝臓, 胆
嚢等のパラフィンブロックおよびプレパラートならびに下垂体のパラフ
インプロック合計160点以上)の返還請求を認めた。
「本件承諾は、保存法に基づく解剖を行うための要件である遺族の承諾(
保存法7条)としての性質とともに、……解剖後のAの脳及び内臓について
、……保存法の目的(保存法l条)に従った保存の権限を与える承諾(保存
法17条)としての性質をも有するものと認められる。もっとも、右承諾は
、死体の全部又は一部の保存との関係では、 Y病院の機関である長による
保存を保存法や他の公法的規制との関係で正当化するものにすぎず、死体
の所有者との関係では、法人格を有するYと承諾者との間の寄付(贈与)
、使用貸借等の私法上の契約に基づいてされるものと解すべきである。」
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病理解剖標本の保存に関する裁判例
東京高等裁判所平成15年1月30日判決
【判決】
「遺体の解剖・保存に対する遺族の承諾は、公衆衛生の向上、医学教育・
研究という解剖・保存の目的の公共性、重要性に鑑み、これを遺体に対
する自らの尊崇の念に優先させて、経済的な対価や見返りなくされるも
のであるから、右承諾の基礎には、解剖・保存を実施する側と遺族との
間に、互いの目的と感情を尊重し合うという高度の信頼関係が存在する
ことが不可欠である。」
「しかし、本件においては、 .... Xらの意思に反して椎体骨が採取された
という事実があり、しかも、右事実は、Y側の責めに帰すべき事情に起因
するものであることは明らかである。」 「したがって、本件においては
、本件承諾の基礎にある高度の信頼関係が剖検時におけるY側の事情によ
り破壊されたものと認められるから、Xは、本件承諾と同時にされた寄付
(贈与)又は使用貸借契約を将来に向かつて取り消すことができるという
べきである。」
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