認知症と薬2

15/01/2015
認知症と薬2
Dementia and Drugs
Department of Geriatric Medicine
Faculty of Medicine University of Tokyo
Next Dr. Corporation Executive Direct
Soshi Okamoto
認知症各論
FTLD
認知症の割合
DLB+VaD
AD+VaD
VaD
DLB
AD
アルツハイマー型(AD)
レビー小体型(DLB)
脳血管性(VaD)
混合型(AD+VaD)
混合型(DLB+VaD)
前頭側頭型(FTLD)
その他
レビー小体型認知症の概念が定着して以降、
その割合が上昇傾向にある
アルツハイマー型認知症(AD)
〈概念〉
 認知機能障害を中核症状とする不可逆的な神経変性疾患
 脳へのアミロイドβ(Aβ)蛋白とタウ(tau)蛋白の蓄積に伴って、
緩徐進行性に障害される疾患
 レビー小体型認知症などと違い、局所神経兆候を認めない
• 診断が困難である要因
 物盗られ妄想・見当識障害・病識の欠如などが典型的な症状
〈疫学〉
 男女比は1:2で高齢女性に多い
 64歳以下(65歳未満)で発症の場合、「若年性」となる
 一部に家族性があるが、ほとんどが孤発例
Diagnosis(診断)
〈DSM-Ⅳ〉
診断基準上はほぼ除外診断!
特異度が高い所見に乏しい
→包括的に診断
〈National Institute on Aging
Alzheimer’s Association Workgroup〉
アルツハイマー型認知症
〈特徴・BPSD〉
 近時記憶の障害 遅延再生
 道に迷う事が多い:頭頂葉(視空間認知)の萎縮
 初期では、他者に「自分は正常であるよう」にふるまう:病識欠如
 物盗られ妄想、浮気妄想、被害妄想
→酷くなる「内弁慶」は典型的なADのpattern
〈心理検査〉
 遅延再生を最も苦手とする:海馬の萎縮
 時間・場所などの見当識の欠如も目立つ
 流暢性では、同じ単語を繰り返す:反復
 一部に家族性があるが、ほとんどが孤発例
 CDTが苦手
FAST分類
画像検査
 あくまで補助的役割
 画像からアルツハイマー病に特異的な根拠を求めることは基本的には
難しい
〈それを前提に実臨床で用いられる検査〉
 CT:treatmentable dementiaの除外目的も含む
 MRI
 SPECT
 VSRAD:最近、比較的多くの施設で行われる
• MRI 画像を利用し、海馬傍回の体積の萎縮度を正常脳と比較して、数値
で評価
• 感度・特異度ともに80-90%程度
 アミロイドイメージング(PIB-PET):
• アミロイドの脳への集積を画像化
• 限られた施設のみ、特異度は高くなくDLBでも陽性になりえるとも
CT
シルビウス裂の開大
↓
側頭葉の萎縮
海馬・海馬采の萎縮
↓
海馬傍回の開大
SPECT
AD pattern
後帯状回や
楔前部
(頭頂葉内側)
での血流低下
現病歴
5-6年前より人の名前などが出にくい等、物忘れ症状を認め始め
た。2008年に◯◯病院神経内科受診、MMSE 29/30であったが、
塩酸ドネペジル開始。その後通院を自己中止、内服も中止となっ
た。
2012年8月に広島のクリニックを受診時、MMSE 20/30程度までの
低下を認めた。MRIで海馬を含めた脳萎縮は軽度であったが易怒
性亢進等のBPSDあり、メマンチン開始となった。その後、内服を暫
くは継続していたが(自己管理)、薬を消失し次第に内服を中止。そ
の間にも徐々に認知機能低下を認め、また「お金を取られる」「浮
気相手がいる」等の物取られ妄想も強くなった。2013年4月頃か
ら、被害妄想強くなり、「お金が無くなった、どこの相手にどれだけ
使ったんだ」等の発言を繰り返し、手を出すようになった。認知症
精査、BPSDコントロール目的で5月8日当科入院。
髄液検査
〈前提〉
 脳脊髄液(CSF)中のAβ40・Aβ42とリン酸化タウ蛋白を検査
 アルツハイマー型患者のCSFは、正常者のそれと比較し、
•
Aβ42:減少(脳実質に蓄積するためと考えられる)
•
Aβ40:やや上昇
•
リン酸化タウ蛋白(p-tau):上昇
といった変化をもたらす
〈検査〉
 p-tau/Aβ42>0.096をカットオフとした場合、感度はほぼ100%
 DLBではどうなるかなど課題も多い
老年精神医学雑誌 19:82-6 2008
レビー小体型認知症(DLB)
〈概念〉
 進行性かつ変動性を伴う認知機能障害と共に、幻視や
パーキンソニズムなどの神経症状を伴う神経変性疾患
• アルツハイマー型認知症と違い、局所神経兆候あり
• 交感神経の活動が低下
• 初期、中期では兆候を認めない患者もいる
 大脳皮質や中枢神経系に神経細胞の脱落と、レビー小体の
出現を特徴とする
• パーキンソン病と共通
 SPECTで後頭葉血流低下、MIBGシンチで集積低下など
画像所見が特異的
 アルツハイマー型認知症と合併するケースも少なくない
レビー小体型認知症
レビー小体
大脳皮質など広汎
脳幹に限局
レビー小体型認知症
パーキンソン病
DLB患者では、
パーキンソニズムを伴いやすい
認知機能低下を伴いやすい
Parkinson disease with dementia(PDD)
DLB vs. PD
Dopamine
〈パーキンソン病〉
黒質が優位に傷害
↓
Ach
PD
Dopamine < Ach
Dopamine
Ach
PDD
〈レビー小体型認知症〉
大脳皮質広汎に傷害
↓
Dopamine ≒ Ach
DLB
※PDが進行すると、
Achも低下し(認知機能低下)、
DLBとほぼ同じ病態となる
Diagnosis(診断)
特徴的な身体所見・精神所見・
神経学的所見がある
(補助的項目であるが)
画像所見が威力を発揮する
DLBで覚えておくべき特徴
認知機能の変動性
•
日によって認知機能がいい日と悪い日/日内変動
生々しい幻視
• 小動物、小人など様々
パーキンソニズム
• 筋固縮、歩行障害、巧緻機能障害、仮面様顔貌
起立性低血圧、便秘
薬剤過敏性
• 市販の風邪薬ですぐ寝てしまうなど
レム期睡眠行動異常症
レビー小体型認知症
〈特徴・BPSD〉
 認知機能変動性・生々しい幻視・パーキンソニズム・薬剤過敏性
 病識はあることが多い⇔AD
 仮面様表情、抑うつ傾向のことが多く、表情に乏しい、
声も小さい
〈心理検査〉
 遅延再生は比較的得意なことが多い⇔AD
 CDTや五角形模写・立方体模写(MMSE)で障害が明らかになる場
合もある:後頭葉障害(視空間認知・構成能力の障害)
脳血管性認知症(VaD)
〈概念〉
 DM、HT、脂質代謝異常、smoking、Afなどが高risk群となる
 脳血管障害(脳梗塞・SAH・脳出血など)によって生じる認知機能障害
 白質に病変があることから、以前は皮質下痴呆とよばれていた
⇔AD:皮質痴呆(大脳皮質に病変がある)
 ⑴ 「認知症があり」、⑵ 「CVD(脳血管障害)があり」、
⑶ 「その両者が因果関係がある」ことが重要となる
•
⑵に関しては、画像所見や、運動/感覚麻痺・偽性球麻痺・
脳血管性パーキンソニズムなどの局所神経症状から判断する
 認知機能が、新しい梗塞が加わることにより低下する、段階的悪化を示す
 抑うつ、アパシー(意欲低下)、情動失禁などの症状を呈する
 VaDだけであれば、遅延再生は得意なことが多く、病識もしっかりある
 認知機能改善と同時に、血圧やDMコントロール・抗血小板療法・など、再発
予防が重要になる
Diagnosis(診断)
〈ICD-10〉
〈DSM-Ⅳ〉
狭義の神経変性疾患ではなく、病理学的診断は基本的にはない
臨床の場では、
1. 認知症がある
2. 画像・神経診察所見から、CVD(脳血管障害)の存在がある
→CR, MRI, SPECTなどの画像診断に加え、神経所見が大切
3. 1.と2.が時間的(発症時期)や空間的(場所)に関連性がある
この3点が確認でき、病識の有無、精神状態が近似していれば、VaDと診断
※treatable dementiaや他の神経変性疾患を除外できることが大切
混合することも多いが・・・
脳血管性認知症
〈特徴・BPSD〉
 抑うつ・アパシー(意欲低下)・情動失禁などの感情の変化を伴う
•
情動失禁:わずかな刺激で泣き出したり、怒ったり、コントールができない
 認知機能は段階的悪化のpatternを示す
•
新しいattackがある度に低下
 脳血管性パーキンソニズム(小刻み歩行など)を示すことがある
•
MIBGシンチでは H/M比は低下しない
•
マドパーなどの抗パーキンソン病薬も多くの場合は功を奏しない
〈心理検査〉
 遅延再生は比較的得意なことが多い
 点数の分布はcase by caseである
 病識はしっかりとある
症例
〈主訴〉
めまい・物忘れ
〈現病歴〉
2007年に脳出血の診断で◯◯病院に入院加療歴あり。退院後、
特に起立時や方向転換時に足がうまくでなくなり、
腰の浮動感などのふらつき(非回転性)の症状が出現。難聴・耳鳴
りなど蝸牛症状はなかった。2011年、2012年に◯◯病院受診時、
ラクナ梗塞の診断、点滴、リハビリ加療で軽快している。
しかしその後も、歩行のふらつき、めまい感は悪化傾向であり、
転倒の不安からADLが低下し、日常生活に支障をきたすようになっ
た。また、徐々に物忘れを自覚し、めまい・物忘れの精査目的に
4月5日入院となった。
症例
〈服薬歴〉
ユリーフ8mg,
シロドシン:抗α1A作用 → ふらつき・起立性低血圧
ディオバン80mg,
抗血小板凝集作用→二次予防対策
プラビックス75mg,
メネシット100mg ,
抗パーキンソン病薬
ガスター40mg, オパルモン10μg
〈精神状態〉※一部のみ抽出
意識レベル:alert, JCS 0
気分:不安症状、声も小さい、同じ訴え(体のふらつき)を繰り返す
病識:あり、幻視・幻聴なし
思考障害:心気症状の気配あり
症例
〈神経所見〉※一部のみ抽出
(脳神経)聴力:右で低下、
脳血管性パーキンソニズムでは
歩行障害が前面に出る事が多い
(運動)
パーキンソン症候:固縮・無動なし、brachybasia
運動失調:指鼻試験正常・膝踵試験正常、不随意運動:なし
(反射)DTR Biceps++/+、Triceps+/+、Brachioradial++/+、PTR++/+、
ATR+/+、病的反射Babiski-/-、Hoffman-/-
(感覚)触覚・痛覚:右半身で低下
(自律神経系)
起立性低血圧:なし(schellong’ test:122/77→119/87)、
便秘:なし、排尿障害:頻尿あり(前立腺肥大症)
(その他)Romberg徴候:陰性、開眼片足立ち10sec/15sec
前頭側頭葉変性症(FTLD)
〈概念〉
 特徴的な人格変化・行動異常を認め、進行すると前頭葉・側頭葉に
限局した萎縮性変化を認める症候群
 FTLDは、臨床症状的に、
1. 前頭側頭型認知症:Frontotemporal dementia(FTD)
2. 進行性非流暢性失語:progressive nonfluent aphasia(PNFA)
3. 意味性認知症:semantic dementia(SD)
に分類される 1996. Manchesterグループによる
 FTLDの下位にあるFTDのうちニューロン内に嗜銀性封入体(Pick小体)
を認めるものをPick病と定義するが、「FTD ≒ Pick病」と考えてよい
 病識は基本的に欠如している
 中核症状に対する確立した治療はないが、行動障害を改善する目的で
SSRIが有効であったという報告もある
Diagnosis(FTLD)
〈Nearyらによる臨床診断基準〉
感度85%・特異度95%
FTLDやFTDの病理学的背景は多彩であり、
神経病理学的診断と対応した臨床診断が必要になってく
る
前頭側頭葉変性症(FTLD)
〈特徴・BPSD〉※FTDの典型例
初期
中期
後期
 自発性の低下
 常同行動
 無限・無動
 感情鈍麻
 言語の反復
 寝たきり
 脱抑制などの人格変化  落ち着きのなさ
• 反社会的行動
 暴力行動
• 物を盗む
• 道徳観の低下
〈心理検査〉
 進行性非流暢性失語では、復唱ができなかったりする
 意味性認知症では点数は低いが、日常のADLは比較的保たれていることも
→ ADLと心理検査の点数の乖離
正常圧水頭症(NPH)
〈概念〉
 脳室内の過剰な脳脊髄液貯留により、認知機能低下など様々な
症状を呈する
 「小刻み歩行」「尿失禁」「認知症」のtriasが有名
• 3つそろうことは少ない
• 病状はPDに類似しているが、進行が速い
 treatable dementiaに挙げられるが、ADと合併していることも多く、
進行後は過剰な期待はできない印象がある
 試験的に髄液を抜き(タップテスト)、up & go test・尿失禁の回数
などで改善を認める場合に、VP shunt/LP shunt の適応となる
• 無症候性の場合でも、画像上NPHが明らかな場合には本人・家族とも
相談のうえ手術することもある
進行性核上性麻痺(PSP)
〈概念〉
 大脳基底核から脳幹にかけてタウ蛋白が沈着しパーキンソン症状を
きたす
 発症年齢は65歳前後
 タウ蛋白loadの量と分布から、3種の亜型に分類
•
リチャードソン地症候群(PS)
•
progressive supranuclear palsy-parkinsonism(PSP-S)
•
純粋無動症(PA)
 繰り返す転倒、上下の眼球運動障害、項部ジストニア(後屈)など
• 歩行障害に加え、後屈により前を向けないため転倒を繰り返す
 抗パーキンソン病薬の反応は悪く、治療法は確立していない
 パーキンソニズムを呈するが、MIBGシンチでは集積の低下ははっきり
せずcontroversialである
進行性核上性麻痺
 中脳被蓋の萎縮
↓
humming bird sign
(ハチドリサイン)
 前頭葉の萎縮など
 房状星細胞はPSPに
特異的であり
病理学診断的に有用
↓
tuft-shaped astrocyte
treatable dementia
〈甲状腺機能低下症〉
 女性に多く、原因の多くは橋本病
 女性でT-CHO高値(≧270)、CK高値の患者では積極的に疑う
 過剰なチラーヂンⓇは狭心症などを誘発するリスクがあるため漸増していく
〈ビタミンB1欠乏症 Wernicke-Korsakoff syndrome〉
 Wernicke脳症:眼球運動麻痺・運動失調
 中脳水道、第三脳室周囲が、T2WIで高信号
 慢性化すると、Korsakoff症に移行:
作話、見当識障害、記銘力低下など
 禁酒、シアナマイドⓇ