産後の抑うつ予防を目的とした妊娠期からの介入の

KurumeUniversity
PsychologicalResearch2015,No.14,2号35
'原著
産後の抑うつ予防を目的とした妊娠期からの介入の検討
末継奏子')・岩元澄子2)
要 約
本研究の目的は,うつ病の既往などのない妊婦に対する産後の抑うつ予防に有効な介入方法につい
て示唆を得ることにあった。そこで,研究1として,夫や身近な家族からのサポートの要請と獲得に
焦点をあて,妊娠期から出産後まで継時的に実施する個別介入プログラムを作成した。プログラムは,
心理教育とサポート要請トレーニングから成るものである。本プログラムを11名の妊産婦に試行した
結果,サポート満足度の向上に効果があることが示唆された。次いで,研究2として,本プログラム
を実施した介入A群(11名),本プログラムのうち心理教育のみを実施した介入B群(9名),統制
群(11名)とで,妊娠期から出産後までの抑うつ得点の推移を統計的に分析した。その結果,介入
A群と介入B群で同様に,産後の抑うつの低減がみとめられた。このことから,妊婦に対して,妊
娠中にサポートの要請と独得の重要性や必要性についての心理教育をおこなうことは,産後の抑うつ
の予防に有効であることが示唆された。
キーワード:産後の抑うつ,予防的介入,ソーシャル・サポート
1984)。さらに,抑うつ的な母親に育てられた子どもは,
問題と目的
そうでない子どもに比べて,母親に対する愛着が不安
女性にとって,妊娠・出産は急激な生物学的変化や
定であることや(Murray,1992),認知や行動の問題
がみられること(Cogill,Caplan,Alexandra,Rob‐
sonandKumar,1986;Hay,Pawlby,Sharp,Asten,
MillsandKumar,2001;MorrellandMurray,
2003)が指摘されており,子どもの愛着形成や発達に
心理社会的変化をもたらすものであり,この時期は,
人生のうちで特に精神の障害をきたしやすい時期とい
われている。そのなかで、産後のうつ病は,発症率
が5∼15%と高く(島・北村・青木・菅原・坂倉,
1988;Yamashita,Yoshida,NakanoandTashiro,
影響を与える可能性のある産後のうつ病や抑うつを予
2000;中野・北村・木下・林・豊田・伊藤・工藤・多
防することは,母子保健における重要な課題のひとつ
田・金津・作久・佐藤,2001),出産後2週間以内の
早期に発症することが報告されている(Yamashita
となっている。
eta1.,2000)。また,Bowlby(1969/1991)は,乳児
は早期から社会的対象への接近の動機があり,生後1
年間にかけて母親に対する愛着を編成するとしている
が,抑うつ的な母親は,乳児に対する肯定的な感情表
出や言葉かけが少ないことが,一方,乳児もそのよう
な母親に対して,発声や肯定的な感情表出が少なく,
のうち,妊娠期ないし妊娠期から産後にかけて実施さ
産後のうつ病や抑うつの予防を目的とした介入研究
れているものを,介入の効果の有無別に表1に示す。
これによると,対象者の条件として,うつ病の発症リ
スク要因を有する女性の場合では,対人関係療法理論
に基づいたセッションの有効性が複数の研究によって
認められている(Gorman,1997;Zlotnick,Johnson,
視線をそらしやすいことが指摘されている(Field,
Miller,PearlsteinandHoward,2001)。また,これ
1)公立八女総合病院企業団
2)久留米大学文学部心理学科
−25−
産後の抑うつ予防を目的とした妊娠期からの介入の検討
欠如,妊娠・出産前後の夫の死や離婚または離別など
といったライフイベント,女性自身の愛着スタイルの
問題が挙げられる。これらのなかで,介入によって比
らの研究において,うつ病の発症リスク要因はそれぞ
れ複数にあげられているが,共通しているのはうつ病
の既往である。これらのことから,うつ病の既往のあ
る女性に対しては,産後のうつ病の予防に対人関係療
法が有効であることが示唆される。一方,対象者の条
件がない場合では,どのように予防的介入をおこなっ
ていくとよいのか,共通した知見が得られていない
(GordonandGordon,1960;HalonenandPassman,
1985;Oakley,RajanandGrant,1990;Hayes,
Muller,BenjaminandBradley,2001;北村・岡村・
竹田・藤田・上里・村山・日下・佐藤・福嶋・大場・
松井・金浬・岡野・吉田・山下・新井・中野,2006)。
産後のうつ病の発症リスク要因に関する研究
較的変化しやすいものは,ソーシャル・サポートであ
る。また,小林(2008)は,乳幼児をもつ母親につい
て,夫からのサポートが多いほど抑うつの程度は低く,
自らのサポート要請が多いほど多くのサポートを得る
ことを報告している。これらのことから,抑うつの低
減のためには,自身がサポートを求めることが重要で
あることが示唆される。
そこで,本研究では,うつ病の既往のない妊産婦を
対象に,研究1として,夫や身近な家族からのサポー
トの要請と独得に焦点をあてた妊娠期からの個別介入
プログラムを作成し,その効果をサポート満足度から
検討する。そのうえで,研究2として,このプログラ
(O'Hara,RehmandCampbell,1983;Kumarand
Robson,1984;O'HaraMW,1986;Marks,Wieck,
Seymour,CheckleyandKumar,1992;Bifulco,
Brown,Moran,BallandCampbell,1998)から概ね
支持されている因子として,うつ病の既往以外に,夫
ムの産後の抑うつの予防効果を検討する。
なお,実施にあたり,久留米大学御井学舎倫理委員
会と当該病院倫理委員会の審査を受け,承認を得た。
からのサポートの欠如,家族や友人からのサポートの
表1産後のうつ病・抑うつに対する妊娠期からの予防的介入研究
研 究
介入内容
…|影態│妊鮒曹後
【効果あり]
Gordonら(1960)
条件なし
築回
心理教育(母親になる過程‘産後の感情状態‘夫や家族,友
2
1
回
人に相談する,ベビーシッターの活用などといったソーシャ
個別
うつ病の既往,輔神疾患の
個別
ル・サポートの活用について,産後の過ごし方について)
巨厄
23
GoFmzm(1997)
条件なし
回回
22
Ha1onenら(1985)
リラクゼーション
対人関係療法(感情状態と対人関係の困難との関係に焦点を
家族歴.夫蝿問題‘重度の
当て.対処方法を臆し合う)
うつ病,ライフイペントの
ある妊産婦
夫蝿関係不満足,箱神疾患
其'罰
副回
うつ病の既往.軽∼中度の
抑うつ,ソーシャル・サ
ポートの欠如‘ライフイペ
ントのある妊婦
築厘
4回
条件なし
個別
集団
Oakleyら(1990)
/Oakley(1992)
条件なし
個別
StamPら(1995)
著者作成の産後うつ病スク
集団
Elliottら(2000)
団回
の既往,友人の欠如,高いう
心理教育(産後うつ病や育児について)
ビアカウンセリング
つ・不安状憩にある妊産蝿
Zlotnickら(2001)
1
1
画
廻廻
【効果なし】
廻恒
北村ら(2006)
心理教育(マタニティーブルーズおよび産後うつ病について)
対人関係療法(母親への役割移行,サポートを得るための主
張スキルの発遮‘産後のポジティブな出来事やネガティブな出
来事などについて)
支持的面接
対人関係療法(母親への役割移行,サポートを得るための主
張スキルの発遮‘産後のポジティブな出来率やネガティブな出
来事などについて)
助産師の,自宅訪問や電話連絡による支援
I
│
回
リーニングテストで産後の
心理教育(出産にまつわる問題や,ソーシャル・サポート
ネットワークを広げるための資源とその活用方法について,出
産の話や母性を感じたことについてのディスカッション)
うつ病の可能性有りと判断
された妊産婦
Brughaら(2000)
GeneralI1eaIth
Questionnaireのうつ6項目
集│動
団国
のうち1項目以上に該当の
妊産蝿
Hayesら(2001〕
1
1
画
心理教育(妊媛や母親役割.妊媛中の感情の問題,産後うつ
病,ソーシャル・サポートの重要性,ソーシャル・サポートの
利用の仕方について,また.ソーシャル・サポートを発展させ
るためのロールブレイ)
条件なし
個別
1
1
回
ソーシャル・サポートの欠
如.緬神疾患の既往および
個別
1回
心理教育(産後うつ病の女性の経過を肥録したビデオと.育
児期の女性の精神障害や,支援先についての梢報を記したテキ
ストを使って鱗砿)
WebBterら(2003】
心理教育(産後うつ病について)
家族腰のある妊蝿
−26−
久留米大学心理学研究第14.号2015
i)記録のふりかえり自己評価,ii)サポートを求
研究1
めたかった場面で,サポートを求めなかった,あるい
I目的
は求めたが満足が得られなかった理由についての理
夫や身近な家族からのサポートの要請と獲得に焦点
解,iii)今後サポートを求めたい場面でのサポート源
をあてた妊娠期から出産後まで継時的に実施する個別
介入プログラムを作成し,うつ病の既往のない妊産婦
の検討,iv)今後サポートを求めたい場面でサポート
を得られる見通しのもてる方法の検討,v)その方法
に対する介入効果を,サポート満足度の観点から検討
でのロールプレイ
する。
3.手続き
Ⅱ方法
妊娠30∼32週に心理教育をおこない,妊娠32∼34週,
36∼38週および産後入院中の3回,サポート要請ト
1.対象
20XX年7月∼20XX年11月にA病院産婦人科を
レーニングをおこなった。いずれのセッションも,所
受診した妊産婦のうち,産科的問題およびうつ病をは
じめとした精神疾患の既往のあるものを除外し,主治
医の許可を得たうえで,研究の趣旨について説明して
同意の得られた11名を対象とした。
要時間はおおよそ30分であった。さらに,妊娠30∼32
週に以下に記す質問紙①∼⑤,妊娠36∼38週および産
後1カ月に⑤による調査を実施した。
2.プログラム内容
①フェイスシート
4.質問紙
本介入は,心理教育とサポート要請トレーニングか
ら成る個別プログラムである。
年齢,出産経験,家族形態,里帰りの有無母親学
級への参加の有無,産後うつ病に関する知識の有無を
まず,心理教育として,i)産後の抑うつ,ii)産
後の抑うつの予防に対するソーシャル・サポートの重
②ライフイベント
要性,iii)サポートを求める必要性,について独自に
作成したパンフレットを資料として講義をおこなう。
ト項目の有無を,出産予定日からさかのぼって過去1
そして,毎日の生活におけるサポートを求めたい場面
年間について尋ねる。
でのサポートの求め方や態度について聴取し確認する。
③愛着スタイル尺度
尋ねる。
Kumarら(1984)により作成されたライフイベン
BartholomewandHorowitz(1991)により作成さ
次に,サポート要請トレーニングをおこなう。その
れ,加藤(1998,1999)が翻訳した,一般他者に対す
る愛着スタイルを評価する自己記入式の質問票であ
る。4分類からの選択で評定する。
手順は以下のとおりである。
(1)独自に作成した記録ノートに,以下の内容を毎日
記録してもらう。
④夫婦関係満足尺度
i)サポートを求めたかった場面,ii)その場面で
サポートを求めたか,iii)サポートを求めた場合,サ
ポートが得られたか,iv)そのサポートに満足したか
(2)記録ノートをもとに,以下の目的で面接をおこな
Norton(1983)により作成され,諸井(1996)が
翻訳した,夫婦の関係の良さを評価する自己記入式の
質問票である。6項目について,4段階(ほとんどあ
う
。
てはまらない∼かなりあてはまる)で評定する。
表2対象者の概要
愛ヲ管
スタイル
夫婦限1係
ラ茜足座
ととと
姉
率麺
62
02
41
72
02
11
82
42
42
41
ク
ー
ライフ
ィペント
︾︾︾一一︾︾︾︾︾︾
藤母
鈎嬢
−27−
nIE後うつ病に
似Iする知:腿
有無有無無無有無有有有
の参加
有無無無無無無諦読読無
母親学級
有読無需有無無有霊謡需
,
6
蟻母較
,
,,蝉孔
α父父⑮
一一︾︾郁夫
夫識
夫夫
夫子
夫夫
子
義
43
52
83
53
72
92
02
82
63
33
3
3
123456789m耐
対 象 者 主 要 齢 同 居 家 族
無無無有有有無有有有有
産後の
里帰り予定
対欽者
実強
FQF−もロ.
l唾、I
4 5
4 5
4 4
実母に来てほしいと伝え来てもらった。頼まなくて
44夫には食事の片づけなどきつい時に頼んでやって 実家は犬がいて子どもを連れて帰るのは気になる
ことを確認し‘ロールブレイ。
→帰りたいと思えば,帰ろうと思うと実母に伝える
えている
く頼むことを心がけている。産後しばらくは実母が
自宅に来てくれるが,その後,実家に帰ることも考
も色々やってくれ助かっている。必要な時はなるぺ
いる義母には頼みにくい
やってくれるので無理をせずに頼むように心がけ
無理せずなんでも頼んでいる。満足している
5 5
5 5
刷 陶
3 門
副 5
→この調子でいくことを確認。
義母義母
実母実母
全体全休
夫 夫
サポート満足度
55→この鯛子でいくことを確麗。
55きつい時は頼むようにしており,やってもらって満
55足している
→産休前は義母が朝のうちに準備していた。頼ん ている
−この調子でいくことを確認。
だらやってくれると思う
→体がきついからと義母に頼むことを確認し,口一
ルプレイ。
夫がゆっくりしているのを見ると頼みにくいが,な
4 4
5 5
55もらい満足だが,義父の昼食の準備を仕事をして ため里帰りはしない。(同居の)義母が頼んだら
るべく頼むように心がけている
→きつい時は無理せず頼むことを確潔し,ロール
プレイ。
はせずにきつい時は頼むことを確認。
→これからお腹も大きくなってくると思うので,無理
で満足
が,無理なことは夫に頼んでやってもらっているの
仕事が産休に入ったので無理のないことは自分で
やっている。サポートが必要なことはほとんどない
ロールブレイ。
45夫に相談したところ,ポランティアを早めに切り上
55げて長女を保育園へ送ってくれるようになり,とて
4 5 も楽になった。実家は自営で忙しいため里帰りは
予定していない。実母が産後は自宅に来てくれる
3 3
と言っているが,来てほしい半面気が引けて「どっ
ちでもいいよ」と言っている
→来てほしいのであればそう伝えることを確認し,
り,長女の相手や家事の手伝いを頼んで満足して
いるが,仕事でいない時は求められない。夫がボ
ランティアで朝出ていくが,長女を自転車で保育園
へ送るのがきつくなってきたのでやってほしい。今
は頼んでいない
→きついことを伝え対応ができないか相談するこ
とを確認し,ロールプレイ。
産後1カ月
愉緒的遊具的
5555
4 4
5 門
5 階
め,実母にも蕊母にも今の調子でサポートを求め
→薮母に不安な気持ちを伝え協力を求めることを ることを確麗。
確認し,ロールブレイ。
にくい
やってもらい満足している
→退院後しばらく実母が側にいるとのことだったた
ができずに不満を感じている
→義母は気にしてくれているが,忙しいので頼み
夫は協力的で家にいる時は相談を聴いてもらった
5 4
54もらい満足。実父が病気で実母は大変だから里帰 かけて色々とやってくれるようになった。甘えるよう
りをしない。そのため,自分たちの食事の準備など になって関係も前よりよくなった気がする。出産
産後の生活に不安を感じており義母に相談したい 後,実母がかけつけ,身の回りのことを頼んで
3 5
産後の生活について薮母に相談したところ,気に
やってもらって満足している。夫の実家へ食事の
準備の手伝いに行っているが,体がきつい時に
義母に手伝ってほしくても頼んだことはなく不満
→溌母が仕事(自営)をしている最中は頼みにく
い。休憩中なら頼めるかもしれない
一休憩中に頼むことを確認し,ロールブレイ。
義母義母
夫 夫 二 ト
ン要
実 母 実 母 グ 胴
全 体 全 休 1 1
産後入院中
5555
4
夫母母
5 5
レポ
妊娯36∼38週
サポート満足度トサ
情緒的道具的
55食事の準備を義母の休憩中に頼んだら手伝って
心理教育
夫に愚痴を聴いてもらい,長女の世話を頼んで
サポート要疏
トレーニング
ヨ 5
義母
実母
夫
全体全体
サポート満足度
妊嬬32∼34週
サポート要疏
トレーニング
2
妊婦30∼32個
Wi緒的道具的
表3介入の経過
隠漆s善JU黙一等離皿雪庁で汗顔憲三菅me等ンS鄭翌
5
7
r負0
00
︲卜
︲函①I
5
もしてくれるので満足している
確認。
33長男長女を風呂に入れるのがきついが,夫の帰り 退院後は里帰りをするため実母に色々頼もうと
→この調子でいくことを確認。
32は遅いため頼めない
思っている。自宅に帰ってからが不安なので,少し
3 3 →具体的にどういうところがきついのかを尋ね,改 長めに里帰りすることを実母と話している
善できるところを一緒に考えた。
→長めの里帰りで実母にサポートを求めることを
3 3
→この調子でいくことを確麗。
きつい時に夫が家にいれば家駆の手伝いを頼ん
5 5
5 5
55体がきつい時に弁当作りを義母に頼んでやっても 実母が色々相談にのってくれるし,なんでもして〈
55らい満足だった。里帰りをしてからは実母がなんで れるので安心で満足している
でやってもらうこともあるが,ほとんど家にいること
がないため自分でやることが多い。夫がいても自
分でやるのが当たり前になっていて頼まないことも
多い
→夫は頼めばやってくれるとのことだったため‘き
つい時に夫が家にいれば頼むことを確認し,口一
ルプレイ。
−きついと感じたら無理せず頼むことを確認。
でみたらやってくれてうれしかった
5 5
515
あまり体がきつかったので夫に洗濯物干しを頼ん
5 3
5 階
<つもり
−この調子でいくことを確認。
3 k
4 4
4 2
4 2
55555555
1
1
1
0
5ほうからやってくれるようになった
→この調子でいくことを確認。
5→この調子でいくことを確認。
5ている。頼むとやってくれ,いつも頼むことは夫の
3 5
55夫に家事の手伝いなどなるべく頼むことを意識し
夫に患痴を聴いてもらったり,夫が夜勤の時に実
家に帰って母に家事をしてもらって満足している
ヨ 4
なんでも頼むようにしている。産後もこの調子でい
615
→満足できなかったら伝えてみることを確認。
いる
があった。それ以上は言わなかったが満足はして
5 4
引 附
5 陶
5 5
→これまで通り溌母に頼むことを確潔。
55里帰りした。実母は仕事をしていないため,いつで なるべく無理せず頼むことを心がけている
→この調子でいくことを確認。
5 5 やってほしいと思った通りにやってもらえないこと
例 4
→この調子でいくことを確認。
過ってくれた
→この調子でいくことを確認。
なるべく来てほしいと頼むと休みに来て色々気
55も頼みやすい。なんでも頼めばやってくれるが,
5 5
5 5
555
を受けて,夫が疲れている時は,しばらく休んだ後
に頼むなど,なるべく無理しないように工夫するよ
うにした。そうするとやってくれるので満足
夫に頼んでやってもらって満足している。心理教育
も仕事で出ることが多くほとんど家にいない
→今の調子で義母に頼むことを確認。
5 5
5 門
5 4
5 5
5 4
5 5
5 5
5 門
555
9
実母が入院したため,産後は夫の実家(同居中)
55実家へ帰省。実母に話を聴いてもらったり実父に
55食事の準備などしてもらって満足している。夫にも へ帰る。これまで通り義母に頼もうと思っている
→この調子でいくことを確認。
→この調子でいくことを確認。
義母になんでも相談するし,頼んだらなんでもやっ
5 5
むようにしている
実母,義母とも仕事をしばらく休んでくれている。
なんでも頼んでいる
→この調子でいくことを確認。
声をかけるように心がけている‘実母がなんでも
やってくれる
てくれるから満足。夫は帰りが遅く朝も早い。休み
→この調子でいくことを確認。
5 5
55お腹が大きくなって家事がきつい時がある。義母
54に悪いと思いつつも,甘えていいんだと思って頼
仕事を辞めて何でもぼちぽちやっているのでサ
5 5
5 5
ポートが必要な状況があまりない。心理教育を受
けて,必要な時は甘えていいと思うようになった。
義母に頼むとやってくれるので満足
→この調子でいくことを確認。
なった気がする
になってから,夫が前より気にかけてくれるように
55前回どおり,なるぺく声をかけるように心がけた
55→この調子でいくことを確認
心理教育後,やってほしいと思ったら気持ちを伝
えることが大事と思って実践している。伝えるよう
声明朱汁椛ウ鱈樵車器識這叩呂岳
産後の抑うつ予防を目的とした妊娠期からの介入の検討
グラムは,特に「恐れ型」「とらわれ型」の愛着スタ
イルの女性に有効であることが示唆された。併せて,
⑤ソーシャル・サポート満足度
夫,実母,義母,全体をサポート源とし,受けてい
る情緒的サポートと道具的サポートに対する満足感を
それぞれ5段階(満足している∼不満である)で評定
実施に際しての留意点として,サポート提供者となる
夫や家族との元々の関係性についてのアセスメントが
する。
肝要であると考えられた。
Ⅲ結果と考察
研究2
夫や身近な家族からのサポートの要請と狸得に焦点
をあてた,心理教育とサポート要請トレーニングから
成る妊娠30∼32週から産後入院中までの全4回の個別
プログラムを作成し,うつ病の既往のない妊産婦に対
する介入効果を,情緒的,実質的なサポートの満足度
から検討した。対象者11名の概要と介入の経過を,
I目的
研究1においてサポート満足度の向上に効果のある
ことが示唆されたプログラムの,うつ病の既往のない
妊産婦に対する産後の抑うつの予防効果を検討する。
Ⅱ方法
表2と表3に示す。
1.対象
本プログラムの介入の結果,ほぼ半数の5名(対象
1,2,4,7,10)では介入開始以前の妊娠30∼32週
よりも産後1カ月のほうがサポート満足度が高かっ
20XX年7月∼20XX年11月にA病院産婦人科を
受診した妊産婦で,産科的問題およびうつ病をはじめ
とした精神疾患の既往のあるものを除外し,主治医の
た。6名(対象3,5,6,8,9,11)は変化がなかっ
たが,そのうち5名は介入開始以前からすでにサポー
ト満足度が高かった。これらのことから,本プログラ
ムは,サポート満足度に否定的な影響はもたらさず,
サポート満足度の向上に有効であることが示唆され
許可を得たうえで,研究の趣旨について説明して同意
た。さらに,妊娠30∼32週よりも産後1カ月のほうが
サポート満足度が高かった5名は,妊娠36∼38週のサ
ポート要請トレーニング1回目実施後にサポート満足
2.手続き
の得られた34名を,無作為に3群に分け実施した。こ
のうち,出産が予定より早くなり,全プログラムが実
施できなかった3名を除いた,介入A群11名,介入
B群9名,統制群11名を分析対象とした。
介入A群には研究1に記した心理教育とサポート
要請トレーニングを,介入B群にはそのうちの心理
教育のみをおこなった。心理教育は,介入A群,介
度が上がるという早期効果のみられたもの(対象4,7,
入B群ともに妊娠30∼32週に1回,サポート要請ト
レーニングは,妊娠32∼34週,36∼38週および産後入
院中の3回であった。さらに,各群とも,妊娠30∼32
週に以下に記す質問紙①∼④,妊娠36∼38週および産
10)と,介入開始以前にくらべ,全4回のプログラム
を経た後の産後1カ月にサポート満足度が上がるとい
う漸次効果のみられたもの(対象1,2)がいた。
このような介入効果の生じる時期の違いについて,
対象者の属性の違いから検討した結果,産後の里帰り
後1カ月に④による調査を実施した。
予定,母親学級への参加経験,産後うつ病に関する知
識,過去1年間のライフイベントの有無による差異は
①フェイスシート
3.質問紙
研究1と同じ。
なかった。しかし,愛着スタイルによって違いがあっ
②愛着スタイル尺度
た。すなわち,「安定型」は,6名中5名(対象3,5,6,
研究1と同じ。
8,9)が介入開始以前からサポート満足度が高く,産
後1カ月でもその得点は維持されていた。また,「恐
れ型」では,2名(対象1,2)とも,介入開始以前に
くらべ,産後1カ月にサポート満足度が上がった。さ
③夫婦関係満足尺度
研究1と同じ。
④エジンバラ産後うつ病質問票(以下,EPDS)
Cox,HoldenandSagovsky(1987)により作成さ
らに,「とらわれ型」では,3名中2名(対象4,10)
がサポート要請トレーニング1回目実施後の妊娠36∼
38週においてサポート満足度が上がったが,他の1名
れた産後うつ病をスクリーニングするための自己記入
式の質問票である。10項目について4件法で評定する。
岡野・村田・増地・玉木・野村・宮岡・北村(1996)
が邦訳し,日本人のスクリーニング区分点を9点とし
(対象11)は夫婦関係満足得点が対象者のうちでもっ
とも低く,サポート満足度も産後1カ月までを通して
低いまま変化がなかった。これらのことから,本プロ
ている。
−30−
久留米大学心理学研究第14号2015
Ⅲ 結 果
得点差が有意に高かった。また,群の主効果が有意傾
1.対象者の概要
向だった(F(2.28)=3.00,p<、10)。TukeyのHSD法
対象者の概要を表4に示す。
による多重比較の結果,統制群が介入A群,介入B
群よりもEPDS得点差が有意に高かった(MSe=3.33,
p<、05)。すなわち,介入A群,介入B群のEPDS
得点は,統制群よりも下がっていることが示された。
次に,効果量を求めたところ,交互作用に大程度の効
果錘がみられ(772=、15),介入A群,介入B群の
2.各群のEPDS得点の比較
各群のEPDS平均得点の推移を図lに示す。また,
各群における各時期のEPDS得点の平均と標準偏差
および分散分析の結果を表5に示す。二要因混合分
散分析をおこなった結果,時期に主効果がみられた
(F(2,56)=7.38,p<、01)。TukeyのHSD法による多重
比較の結果,妊娠30∼32週が,妊娠36∼38週および産
後1カ月よりもEPDS得点が有意に高いことが示さ
EPDS得点は,統制群よりも下がっていることが示さ
れた。
れたが(MSe=2.98,p<、05),群の主効果はみられ
なかった。次に,効果量を求めたところ,交互作用に
7
.
C
EPDS得点
妊娠36∼38週と産後1カ月において,介入A群,介
入B群のEPDS得点は,統制群より低いことが示さ
れた。
3.各群のEPDS得点の推移の比較
04
03
0z
0l
0
5
60
中程度の効果量がみられた(772=、08)。すなわち,
一一介入A群
各群における各時期間のEPDS得点差の平均と標
準偏差および分散分析の結果を表6に示す。二要因混
一一介入B群
一画一統制群
1
0
質
0
合分散分析をおこなった結果,時期に有意差がみられ
妊娠30∼32週妊娠36∼38週産後1カ月
(F(1,28)=6.25,p<、05),妊娠36∼38週から産後1カ月
図1各群のEPDS平均得点の推移
のほうが妊娠30∼32週から妊娠36∼38週よりもEPDS
表4対象者の概要
年齢(歳)初産核家族響警繍,駕禦I認
5
(
5
5
.
6
) 4
(
4
4
.
4
) 7
(
7
7
.
8
)
4
(
4
4
.
4
)
1
(
1
1
.
1
)
4
(
3
6
.
4
) 9
(
8
1
.
8
) 8
(
7
2
.
7
)
5
(
4
5
.
5
)
2
(
1
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.
2
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0
042
7
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士十一十一
07
31
3
0
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9
.
1
)
212
〔
、
=
1
1
)
3
(
2
7
.
3
)
32[6
統制群
5
(
4
5
.
5
) 7
(
6
3
.
6
) 7
(
6
3
.
6
)
︻飼凹F偽﹄︹院凹
(
n
=
1
1
)
介入B群
(
n
=
9
)
安定型拒絶型とらわれ型恐れ型(点)
215
5
4
5
土,一一
7十 一7
9
8
0
9
3
22
介入A群
夫婦関係
満足度
愛着スタイル
0
年齢‘夫婦関係満足度を除く単位は名,()は%
表5各群のEPDS得点と分散分析の結果
F値
2.71
5.78
2.39
5.18
2.59
群
0
.
6
1
時期
7
.
3
8
群×時期
206
S*.負
、
*、
介
入
A
群
(
N
二
m
息
皇
介
入
B
群
(
N
=
,
)
患
皇
統制群(N二m患皇
12
76
79
44
52
7
9
●2
。3
●1
●5
凸2
−
3
6.09
23
74
40
60
98
8
8
●2
●3
。2
■5
●1
・
3
妊娠30∼32週妊娠36∼38週産後1カ月
多重比較妊娠30∼32週>妊娠36∼38週,産後1カ月
*
*
p
<
、
0
1
−31−
産後の抑うつ予防を目的とした妊娠期からの介入の検討
表6各群のEPDS得点の変化と分散分析の結果
群
時期
3.00
6
.
2
5
群×時期
0.09
3.00
0.22
1.13
0.36
十*雁
F値
−
介
入
A
群
(
N
=
洲
)
患
塁
介
入
B
群
(
N
二
9
)
皐
皇
統制群(N=、曇皇
78
13
33
60
98
9
2
●1
●2
●2
■0
●1
−
2
妊娠36∼38週産後-1カ月
一妊娠30∼32週一妊娠36∼38週
271
0
.
8
7
統制群>介入A群,介入B群
多重比較
妊娠36∼38週一妊娠30∼32週
く産後1カ月一妊娠36∼38週
+p<,10*p<、05
するか否かといった選別をおこなわずに心理教育の効
Ⅳ 考 察
サポート満足度の向上が検証されたプログラム,す
果を検討した先行研究では,結果の一致をみていない。
なわち妊娠30∼32週に心理教育,妊娠32∼34週,妊娠
36∼38週および産後入院中にサポート要請トレーニン
グをおこなう介入A群と,妊娠30∼32週に心理教育の
みをおこなう介入B群を設定し,EPDSによって抑う
つの程度を継時的に測定した。分散分析では,どちら
の群とも統制群とのあいだに有意な差はみられなかっ
たが,10名程度を対象とした対象数の少なさの問題を
考慮した効果量の検定によって,交互作用に中程度の
効果量がみとめられた。このことから,妊娠36∼38週
と産後1カ月において,介入A群,介入B群のEPDS
得点は,統制群より低いことが示された。また,妊娠
Gordonら(1960)とHayesら(2001)の心理教育
には,どちらもソーシャル・サポートについての内容
が含まれているが,効果のみとめられたGordonら
(1960)では夫や家族,友人といった身近な人からの
サポートについてふれているのに対し,効果のみとめ
られなかったHayesら(2001)では支援機関を紹介
する内容となっている。産後のうつ病について,出産
後2週間程度の早期発症(Yamashitaeta1.,2000)
の場合,この時期に支援機関に相談に行くことは,身
体回復の状態を考えれば容易なことではなく,夫や身
近な家族からのサポートが特に重要になってくると考
える。本プログラムの心理教育の内容は,夫や身近な
家族からの情緒的,実質的サポートを要請し独得する
ことの重要性や必要性を啓発することを目的としたも
のであったが,本結果から,そのような内容の心理教
30∼32週と産後1カ月のEPDS得点の推移について
は,分散分析の結果,介入A群,介入B群とも,統制
群より有意に低下し,交互作用に大程度の効果量がみ
とめられた。以上のことから,本プログラムは産後の
抑うつの低減に効果があることが示された。すなわち,
産後の抑うつの予防に有効であることが示唆された。
しかし,介入A群と介入B群のEPDS得点の推移
育が,産後の抑うつの予防に有効な作用をもたらすこ
に違いはみられなかった。本対象者は,うつ病をはじ
めとした精神疾患の既往のあるものを除外しており,
また,介入開始以前の妊娠30∼32週におけるEPDS
得点は,いずれの群においても産後うつ病の区分点で
ある9点より低かった。このような妊婦に対しては,
ソーシャル・サポートの重要性や必要性に関する内容
を含む心理教育のみで産後の抑うつが低減することが
とが示唆された。
本研究の限界として,対象数が少なかったことから,
サポート満足度とEPDS得点の変化の関連について
は検討していない。また,愛着スタイルや夫婦関係満
足度の違いによるサポート満足度に対する効果の違い
が示唆されたが,同様の理由から,これらによる抑う
つ低減の効果の違いも検討していない。今後は,これ
らについて検討することにより,心理教育のみの実施
や,心理教育に加えサポート要請トレーニングの実施,
あるいは別の支援方法の考案も含めて,支援の指針が
提供されるような介入研究の集職が課題と考える。
示された。
対象者の条件として,うつ病の発症リスク要因を有
−32−
久留米大学心理学研究第14号2015
postpartumdistress.cノbumaZq/℃o7zsuZtZ7zga刀d
文 献
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(groupB),andllwomenofthecontroledgroup、Weanalyzedhowthescoreofeachgroupinperinatal
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groupAandBItsuggeststheimportanceandnecessityofpshychoeducationfocusedonsocialsupportin
preventionforpostpartumdepression‘
Keywords:postpartumdepression,preventiveintervention,socialsupport
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