幼稚園・保育所における 視覚面に気がかりがある乳幼児

Akita University
秋田大学教育文化学部研究紀要 教育科学部門 70 pp.113 〜 124 2015
幼稚園・保育所における
視覚面に気がかりがある乳幼児および視覚障害乳幼児の
支援に関する現状と課題
中 村 素 子*1・大 城 英 名*2
The Current Situation and Issues for Early Care and Support of Young
Visually Special Needs Children and Young Visually Impaired Children:
On the Basis of the Survey for Nursery School / Preschool in Akita Prefecture
Motoko NAKAMURA & Eimei OSHIRO
Abstract
The purpose of this study was to investigate the current situation and issues for early care and support of
young visually special needs children and young visually impaired children at nursery school / preschool in Akita
prefecture. The main findings were as follows: (1) The owner of the teacher's certificate of special support
education was 1.0% in the 3,017 staff of nursery school / preschool. (2) The special-support-education coordinator
was nominated 26.6% (among 177 nursery school / preschool). (3) Young visually special needs children in
nursery school/preschool were 0.2% (among 17,015 young children). (4) 38 young visually impaired children had
accepted at nursery school / preschool in the past three years. And 28 of 38 children were "strabismus", "low
vision" and "ametropia" which need medical care. (5) At the assist content of young visually special needs children
and young visually impaired children, there were much development support (29.4%) and childcare consultation
(29.3%). (6) It was shown clearly that the issues in early support were "cooperation closely with agencies
concerned", and "in-service stuff training on visual impairments", etc.
Key words : young visually impaired children, early young child care and support, nursery school / preschool
Ⅰ 問題と目的
具体的な取組として,教育委員会に対しては「特別支
援学校のセンター的機能等の十分な活用」,「体制整備や
特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議の審
専門性の向上」,「医療,福祉,保健等関係機関との連携
議経過報告(平成 22 年3月)では,特別支援教育の更
による情報共有化」等,幼稚園等に対しては,「基本的
なる充実を図るための検討の方向性及び課題を,「特別
な特別支援教育体制の整備」,「特別支援学校のセンター
支援学校」,
「早期からの教育支援,就学相談・指導」,
「小・
的機能の積極的な活用」等の提言がなされている。
中学校における特別支援教育」,「高等学校における特別
また,中央教育審議会初等中等教育分科会は,平成
支援教育」,「特別支援教育担当教員等の専門性」,「学校
24 年7月に発表した「共生社会の形成に向けたインク
外の人材や関係機関,民間団体等との連携協力」の6つ
ルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進
の論点で整理している。
(報告)」の中で,優先的に進めるべき事柄として,「就
このうち,
「早期からの教育支援,就学相談・指導」は,
学相談・就学先決定の在り方」の見直しを提言し,その
平成 21 年2月の審議の中間とりまとめの時点で,「特別
ためには,早期からの教育相談・支援の充実と早期支援
支援教育の理念の実現という観点から,早期からの教育
体制の整備が必要であると指摘している。特別支援学校
相談・支援,就学指導の充実を図ることが最も重要かつ
に対しては,インクルーシブ教育システムの中で,域内
優先的に取り組むべき課題である」と言及されている。
での教育資源の組合せ(スクールクラスター)のコーディ
秋田県立盲学校
* 2 秋田大学教育文化学部
*1
ネーター機能の発揮,障害のある児童生徒への指導・支
援機能の拡充等,センター的機能の一層の充実を提言し
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秋田大学教育文化学部研究紀要 教育科学部門 第 70 集
ている。
しかし,秋田県内の医療・保健・教育・保育等の関係
このような動向から,早期支援の充実と関係機関との
機関における視覚障害乳幼児に対する支援の実態は,こ
連携に基づく特別支援学校のセンター的機能の発揮は,
れまで十分には明らかにされてこなかった。この課題意
特別支援教育の推進,インクルーシブ教育システム構築
識に基づいて実施された調査研究(中村 ・ 大城,2014)
の観点から,非常に重要な課題として位置付けられてい
によると,県内の保健機関対象の実態調査では,母子保
ると言える。
健担当保健師が視覚面に気がかりがある乳幼児に接する
視覚障害教育の分野においても,早期支援の充実や関
機会は,主に3歳児健診であること,主な支援内容は,
係機関との連携強化は,従前からの課題である。視覚障
眼科精密健診受診のための受診勧奨及び眼科との連携で
害のある子どもは他の障害と比してその対象が少なく,
あることが明らかになった。また,視覚面に気がかりが
しかも広範な地域に点在することから,就学前,特に乳
ある乳幼児に対する早期支援の実施上の課題は,「健診
児に対するサービス及び情報提供の場が限られていると
の充実」,「知識・情報の普及」,「関係機関との連携強化」
いう現実がある(新井,2002)。そのため,視覚障害乳
であることが示された。これらの結果から,盲学校のセ
幼児への発達支援は,多くは幼稚部または小学部を設置
ンター的機能の一層の充実を図っていくために,必要な
する盲学校において,視覚障害教育の専門機関としての
支援内容は何かにつての重要な示唆が得られた。
見地から教育的対応の必要性に応える形で行われてきた
幼稚園・保育所は,障害児保育の場としての役割を従
前から担ってきた機関である(末次,2011)。近年,特
(丹羽・渡邉,2001)。
平成 19 年に「特別支援教育」が新たな制度としてス
別支援教育の充実,共生社会の実現という観点から,障
タートしてからは,視覚障害乳幼児に対する早期支援は,
害のある乳幼児の発達支援を担う機関として,一層期待
盲学校のセンター的機能の一つとして,より重視される
が寄せられている。また,全国の盲学校の4分の3が幼
ようになった。平成 19 年度に実施された,全国の盲学
稚園・保育所等への訪問を実施しているという報告(猪
校(視覚支援学校等)対象の調査では,1,304 名の視覚
平,2010)があることから,視覚障害乳幼児にとっても,
障害乳幼児が盲学校で早期支援を受けており,0∼2歳
幼稚園・保育所は重要な早期支援の場であると言えよう。
までの超早期に支援を開始したケースが6割を超えたこ
本研究の目的は,秋田県内の幼稚園・保育所(以下,園)
と,盲学校の紹介元としては保健師,眼科医が多く,医
を対象に,視覚面に気がかりがある乳幼児および視覚障
療機関における院内相談実施校も全国で 11 校に広がっ
害乳幼児の支援に関する実態調査を行い,その現状と課
たこと等,早期支援の拡大の実態が報告された。その一
題を明らかにすることである。また,盲学校の早期支援
方で,眼科医による診断と支援が直結しにくいという課
の方向性やセンター的機能の在り方についても検討する
題や未だ医療,福祉・教育の連携が十分にとれない地域
ことを意図している。
もあるという現状,また,盲学校における早期支援担当
Ⅱ 方法
者の専門性の向上と人材確保の課題も指摘されている
(猪平,2010,2012)。
秋田県立盲学校においても,他県の盲学校と同様に,
(1)対象
これまで視覚障害乳幼児に対する教育相談及び教育支援
秋田県内の幼稚園 90 園(内,国公立 20 園,私立 70 園)
に取り組んできた。特に,平成 22 年度の幼稚部設置以
と認可保育所 253 園(内,公立 104 園,私立 149 園),
降は,視覚障害乳幼児に対する教育支援に中心的・継続
合計 343 園を対象とした。
的にかかわる基盤ができ,早期支援のニーズと重要性を
(2)方法
再確認しながら教育的支援の実践を展開している。一方,
平成 24 年 10 月∼ 11 月の期間に,2種類の調査票を
「支援開始年齢が遅い」,「関係機関とのつながりが弱い」
郵便により送付し,回収を行った。調査内容は,以下の
等の現状もあり,早期支援の拡充に向けて取り組むべき
とおりである。
課題も指摘されている。
調査Ⅰ 「視覚面に気がかりがある乳幼児の支援に関する
早期からの教育相談とは,障害のある乳幼児に対する
実態調査」(すべての園が対象)
医療・保健・福祉のはざまを埋め,乳幼児期から教育的
a:園の概要(5項目)
なかかわりを行うための教育の参画であるとの指摘があ
b:視覚面に気がかりがある乳幼児に対する支援の現状
(9項目)
る(小林,2002).その「はざま」を埋めるには,関係
諸機関の連携・協力が必要である。その意味において,
c:今後の支援の在り方(3項目)
これら諸機関の早期支援の状況を把握しておくことは有
調査Ⅱ「視覚障害乳幼児の支援に関する実態調査」
(過
効な支援を実現していくために不可欠である。
去3年以内に視覚障害乳幼児を受け入れた園が対象)
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幼稚園・保育所における視覚面に気がかりがある乳幼児および視覚障害乳幼児の支援に関する現状と課題
a:視覚障害乳幼児に対する支援の現状(8項目)
その結果,本調査項目に回答した 181 園の職員数は,
b:今後の支援の在り方(3項目)
「幼
全体で 3,017 人であった。免許・資格の所有状況では,
なお本調査では,「視覚面に気がかりがある乳幼児」
稚園教員免許,保育士資格併有者数」が 2,437 人と全体
とは,医師による眼疾患の診断の有無にかかわらず,保
の8割を超えていた。「特別支援教育にかかわる免許所
護者や園の職員から見て,視覚面に関して何らかの気に
有者数」は 3,017 人中 29 人であり,全体の1%という
なる状態があることを指すこととした。また「視覚障害
状況であった。
がある乳幼児」とは,医師によって視覚障害に該当する
このことから,県内の幼稚園・保育所においては,8
眼疾患の診断を受けていることを指すこととし,身体障
割の職員が「幼稚園教員免許,保育士資格併有者」とし
害者手帳の取得の有無は問わないこととした。
て,両者の専門性を生かしながら乳幼児の教育・保育に
調査票への責任回答者は,主任教諭(保育士),特別
あたっていると考えられる。一方,特別支援教育に関し
支援教育コーディネーター,または主に支援を担当して
ては,「特別支援教育にかかわる免許所有者数」が全体
いる教諭(保育士)のうち,1名とした。
の1%という状況の中で,特別な支援を要する乳幼児の
教育・保育に努力していることが示された。
② 特別支援教育コーディネーターの指名の有無
Ⅲ 結果と考察
表 2 は,特別支援教育コーディネーターの指名の有無
回収率は 343 園中 197 園の 57.4%であった。そのうち,
を示したものである。
有効回答は,「幼保一体」12 園,「幼稚園」 34 園,「公立
その結果,本調査項目に回答した 177 園の内,
「指名無」
保育所」62 園,「私立保育所」 77 園の合計 185 園であっ
の園が 130 園と 7 割以上を占めた。園種別に見ると,
「指
た。園種の内,「幼保一体」 とは,認定こども園として
名無」が多いのは,「公立保育所」(74.6%)と「私立保
の回答,幼稚園・保育所を経営している法人等としての
「指名有」,
「指
育所」(87.7%)であった。「幼稚園」は,
回答をまとめたものである。
名無」の園数がほぼ同数であり,「幼保一体」での回答
以下に調査Ⅰ・Ⅱから得られた主な結果について述べ,
をした園では,「指名有」の園がやや多かった。
考察を行う。
このことから,県内の保育所においては,特別支援教
育コーディネーターの指名は,1∼2割とまだ少ない状
(1)特別支援教育に関する幼稚園・保育所の現状
況であることが示された。一方,幼稚園においては,約
① 職員数と免許・資格の所有状況
半数の園で指名がなされており,教育機関としての姿勢
表 1 は,園で教育及び保育に従事している職員の人数
が表れている。
と,職員の免許・資格の所有状況を示したものである。
表1 職員の数と免許・資格の所有状況
回答園数
教育及び保育に従事している職員の人数
全体
幼保一体
幼稚園
公立保育所
私立保育所
181
12
33
61
75
3,017
284
298
1,046
1,389
内,幼稚園教員免許所有者数(%)
2,513(83.3)
233(82.0)
265(88.9)
843(80.6) 1,172(84.4)
内,保育士資格所有者数(%)
2,652(87.9)
231(81.3)
209(70.1)
931(89.0) 1,281(92.2)
内,幼稚園教員免許,保育士資格併有者数(%)
2,437(80.8)
221(77.8)
213(71.5)
842(80.5) 1,161(83.6)
29( 1.0)
5( 1.8)
5( 1.7)
内,特別支援教育にかかわる免許所有者数(%)
表2 特別支援教育コーディネーターの指名の有無
全体
幼保一体
幼稚園
5( 0.5)
14( 1.0)
(N = 177 回答園数)
公立保育所
私立保育所
指名有の園数(%)
47( 26.6)
7( 58.3)
16( 48.5)
15( 25.4)
9( 12.3)
指名無の園数(%)
130( 73.4)
5( 41.7)
17( 51.5)
44( 74.6)
64( 87.7)
合計
177(100.0)
12(100.0)
33(100.0)
59(100.0)
73(100.0)
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(2)園に在籍している視覚面に気がかりがある乳幼児,
が最も多く 32 人中8人(31.3%),次いで「3歳児」が
視覚障害乳幼児の実態
8人(25.0%),「4歳児」が7人(21.9%),「0歳児」
① 視覚面に気がかりがある乳幼児の実態
∼「2歳児」は,全体の約2割であった。
表 3 は,園に在籍している,視覚面に気がかりがある
これらのことから,視覚面に気がかりがある乳幼児の
乳幼児の人数を示したものである。
7割は男子であり,約8割は3歳児以上の幼児であるこ
その結果,本調査で示された園への在籍乳幼児数の総
とが示された。
数 17,015 人の内,視覚面に気がかりがある乳幼児は 33
表 4 は,視覚面の気がかりの内容について示したもの
人(0.2%)であった。園種別に見ると,33 人の内,半
である。1人につき複数の気がかりがあるケースがある
数以上が私立保育所に在籍していた。
ため,回答は複数回答である。
表3 園に在籍している視覚面に気がかりがある乳幼児の人数
在籍乳幼児数
視覚面に気がかりがある
乳幼児の人数
17,015
33
(N= 33 回答件数)
内訳
幼保一体
幼稚園
5
(100.0%)
公立保育所
8
(15..2%)
(24.2%)
私立保育所
2
18
(6.1%)
(54.5%)
このことから,園への在籍乳幼児の 0.2%という少な
その結果,「目つきや目の動きがおかしい」が 47 件中
い人数ではあるが,保護者や園の職員から見て,視覚面
18 件(38.3%)と最も多く,次いで「視線が合わない」
に関して何らかの気になる状態がある乳幼児が存在する
が 17 件(36.2%)であった。
ことが明らかになった。
このことから,視覚面の気がかりの内容は,「目つき
以下,図 1 ~ 3 ,表 4・5 は,視覚面に気がかりがあ
や目の動きがおかしい」や「視線が合わない」等,本人
る乳幼児として挙げられた 33 人の内,有効回答であっ
からの訴えではなく,大人とのかかわりの場面で目立つ
た 32 人についての情報をまとめたものである。
事柄が多く挙げられていることが示された。
図 1 は,性別を示したものである。その結果,32 人中
表4 視覚面の気がかりの内容
(N= 47 回答件数)
「女」は 9 人(28.1%)であった。
23 人(71.9%)が「男」,
図 2 は,年齢を示したものである,その結果,
「5歳児」
(N=32 回答件数)
女9人
(28.1%)
男23人
(71.9%)
項目
目つきや目の動きがおかしい
極端にまぶしがる
絵本やテレビを見るとき,目を細めた
り,極端に近づけて見たりする
視線が合わない
その他
(N=32 回答件数)
0歳児
1人(3.1%)
5歳児
10人(31.3%)
1歳児
1人(3.1%)
2歳児
5人(15.6%)
3歳児
8人(25.0%)
4歳児
7人(21.9%)
(%)
18 (38.3)
1 ( 2.1)
7 (14.9)
17 (36.2)
4 ( 8.5)
合計
図1 視覚面に気がかりがある乳幼児の性別
件数
47 (100.0)
図 3 は,他障害の有無を示したものである。その結果,
32 人中 20 人(62.5%)は「他障害無」,12 人(37.5%)
は 「他障害有」 であった。
表 5 は,
「他障害有」の 12 人について,他障害の状況
を示したものである。1人につき複数の他障害がある
ケースがあるため,回答は複数回答である。
その結果,「発達障害」が 16 件中9件と最も多く,次
いで「知的障害」が4件であった。
これらのことから,視覚面に気がかりがある乳幼児の
4割弱に他障害があり,その状況としては,約半数が発
達障害であることが示された。
図2 視覚面に気がかりがある乳幼児の年齢
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幼稚園・保育所における視覚面に気がかりがある乳幼児および視覚障害乳幼児の支援に関する現状と課題
(N=32 回答件数)
無
20人
(N=36 回答件数)
女
16人(44.4%)
有
12人
図3 視覚面に気がかりがある乳幼児の他障害の有無
図4 視覚障害乳幼児の性別
表5 他障害の状況〔調査Ⅰ〕
(N= 16 回答件数)
(N=36 回答件数)
1歳児
2人(5.6%)
件数
項目
知的障害
4
肢体不自由
1
聴覚障害
1
病弱・虚弱
1
発達障害
9
合計
16
男
20人(55.6%)
2歳児
4人(11.1%)
5歳児
16人(44.4%)
3歳児
8人(22.2%)
4歳児
6人(16.7%)
図5 視覚障害乳幼児の年齢
② 視覚障害乳幼児の実態
これらのことから,園に在籍している視覚障害乳幼児
表 6 は,過去3年以内に幼稚園・保育所に在籍してい
は,男女の割合に大きな差がないこと,その8割は3歳
た視覚障害乳幼児の人数を示したものである。
児以上の幼児であることが示された。
その結果,全体で 36 人の視覚障害乳幼児が園に在籍
表 7 は,視覚障害乳幼児の眼疾患を示したものである。
していたことが示された。その内,半数以上は私立保育
1人につき複数の疾患名があるケースがあるため,回答
所への在籍であった。
は複数回答である。
このことから,3年間で 36 人という決して多くはな
その結果,
「斜視」,
「弱視」が共に 38 件中 10 件(26.3%)
い人数であるが,園において視覚障害乳幼児の受け入れ
と最も多く,次いで「屈折異常」が8件(21.2%),「未
があったことが明らかになった。
熟児網膜症」が4件(10.6%)であった。「屈折異常」
の内訳は,「遠視」6件,「乱視」2件であった。
表6 園に在籍した視覚障害乳幼児の人数〔過去3年間〕
(N= 36 回答件数)
項目
人数
(%)
幼保一体 幼稚園 公立保育所 私立保育所
0
6
11
19
計
36
(0) (16.7) (30.5) (52.8)(100.0)
このことから,「屈折異常」,「斜視」等,主に医療的
処遇の対象となると考えられる眼疾患が,全体の約半数
を占めていることが示された。「弱視」として挙げられ
た 10 件については,医療的処遇と教育的処遇のいずれ
にあたるケースであるか,今回の調査では明らかにでき
なかった。 以下,図 4 ~ 6 ,表 7 は,視覚障害乳幼児として挙
表 7 の「未熟児網膜症」以下,「眼瞼下垂」まで,教
げられた 36 人についての情報をまとめたものである。
育的処遇の対象となる可能性が高い疾患も,合計 10 件
図 4 は,性別を示したものである。
挙げられており,全体の4分の1に上ることが分かった。
その結果,36 人中 20 人(55.6%)が「男」,「女」は
図 6 は,他障害の有無を示したものである。
16 人(44.4%)であった。
その結果,回答のあった 34 人中 30 人(88.2%)は「他
図 5 は,年齢を示したものである。
障害無」,4人(11.8%)は 「他障害有」 であった。「他
その結果,
「5歳児」が最も多く 36 人中 16 人(44.4%),
障害有」と回答した4人について,その障害種は,知的
「4歳児」が6人(16.7%)
次いで「3歳児」が8人(22.2%),
障害1人,肢体不自由1人,聴覚障害1人,病弱・虚弱
であった。「0歳児」は0人,「1歳児」,「2歳児」は合
2人(1人につき複数の回答有)であった。
わせて6人と少なかった。
これらのことから,園に在籍している視覚障害乳幼児
− 117 −
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秋田大学教育文化学部研究紀要 教育科学部門 第 70 集
表7 視覚障害乳幼児の眼疾患
(N= 38 回答件数)
項目
屈折異常
件数
内訳
件数(%)
遠視
6(15.8)
乱視
2( 5.3)
(21.1)
斜視
10
(26.3)
弱視
10
(26.3)
未熟児網膜症 4
(10.6)
先天性白内障
2
( 5.3)
第一次硝子体過形成遺残 1
( 2.6)
錐体かん体ジストロフィー
1
( 2.6)
デュアン症候群 1
( 2.6)
眼瞼下垂 1
( 2.6)
調査Ⅰ
項目
(%)
8
合計
表8 園内の支援体制の内容
調査Ⅱ
件数 (%)件数 (%)
施設・設備面の整備 3 (7.1)
3 (6.1)
正規職員の増員 0
(0)
2 (4.1)
支援員(介助員)の配置
6 (14.3)
4 (8.2)
対象乳幼児の実態把握
6 (14.3) 12 (24.5)
職員の共通理解の促進
13 (31.0) 17 (34.7)
特別支援教育に関する研修機会の確保
8 (19.0)
4 (8.2)
個別の教育支援計画・指導計画の作 5 (11.9)
6 (12.2)
その他
1 (2.4)
1 (2.0)
合計
42(100.0) 49(100.0)
覚障害がある乳幼児の実態把握」という自助努力によっ
38 (100.0)
て,支援体制の整備に努めていることが示された。
の約9割は他障害がないことが示された。近年は,盲学
校小学部の在籍児童の内,重複障害の児童が5∼6割を
② 早期支援の内容
占めると報告されているが(香川ら,2010),本調査の
表 9 は,視覚面の気がかりがある乳幼児(調査Ⅰ)や
結果は,乳幼児段階では発達遅滞等の明確な診断に至る
視覚障害乳幼児(調査Ⅱ)に対する,園としての早期支
ケースは少なく,その診断は発達の経過と共になされて
援の内容を示したものである。回答は,複数回答である。
いることを示すものと考えられる。
その結果,調査Ⅰでは,「発達全般を促す支援」が最
も多く 34 件中 10 件(29.4%),次いで,「育児相談」8
(N=34 回答件数)
無
30人(88.2%)
「関係機関の紹介」7件(20.6%)であった。
件(23.5%),
「見え方支援(視覚活用)」は,34 件中3件(8.8%)と
有
4人(11.8%)
少なかった。調査Ⅱでは,「育児相談」が最も多く 41 件
中 12 件(29.3%),次いで,「発達全般を促す支援」10
件(24.4%)であった。「見え方支援(視覚活用)」は 41
件中5件(12.2%)であった。
表9 園における早期支援の内容
図6 視覚障害乳幼児の他障害の有無
項目
発達全般を促す支援
(3)園における支援の現状について
① 園内の支援体制
表 8 は,視覚面に気がかりがある乳幼児(調査Ⅰ),
視覚障害児(調査Ⅱ)の受け入れにあたって整えた,園
内の支援体制の内容を示したものである。回答は,複数
回答である。
調査Ⅰ
件数
調査Ⅱ
(%) 件数
10 (29.4)
(%)
10 (24.4)
見え方支援(視覚活用)
3
(8.8)
5 (12.2)
育児相談
8 (23.5)
12 (29.3)
就学相談
4 (11.8)
6 (14.6)
関係機関の紹介
7 (20.6)
5 (12.2)
2
その他
合計
その結果,「職員の共通理解の促進」が,調査Ⅰでは
(5.9)
34(100.0)
3
(7.3)
41(100.0)
42 件中 13 件(31.0%),調査Ⅱでは 49 件中 17 件(34.7%)
と,両調査に共通して最も多かった。次いで,調査Ⅰで
図 7 は,調査Ⅰで園が選択した支援内容の数を示した
は「特別支援教育に関する研修機会の確保」が多く,8
ものである。
件(19.0%),調査Ⅱでは「視覚障害がある乳幼児の実
その結果,
「1種類」が最も多く 20 件中 12 園(60.0%),
態把握」が多く,12 件(24.5%)であった。
「2種類」∼「4種類」の園が8園(40.0%)であった。
これらのことから,園においては,人的配置や物的環
支援内容が「1種類」であった 12 園中5園は「発達全
境整備の実現が困難な状況の中で,「職員の共通理解の
般を促す支援」を選択していた。
促進」や「特別支援教育に関する研修機会の確保」,「視
図 8 は,調査Ⅱで園が選択した支援内容の数を示した
− 118 −
Akita University
幼稚園・保育所における視覚面に気がかりがある乳幼児および視覚障害乳幼児の支援に関する現状と課題
ものである。
③ 活動場面における具体的な支援の内容
その結果,
「1種類」が最も多く 19 園中8園,
「2種類」
視覚面に気がかりがある乳幼児(調査Ⅰ),視覚障害
∼「4種類」の園が 11 園であった。支援内容が「1種類」
乳幼児(調査Ⅱ)に対して,園生活において具体的な支
であった8園中5園は 「育児相談」 か「発達全般を促す
援を行っている活動場面を複数回答で選択してもらい,
支援」を選択していた。
さらに,その支援内容について自由記述で回答しても
これらのことから,園では,園に備わっている基本的
らった。表 10 は,それらをまとめて示したものである。
な教育・保育機能を生かして,保護者に対する「育児相
その結果,活動場面ごとの支援件数は,調査Ⅰでは,
「課
談」の実施と,当該の乳幼児に対する「発達全般を促す
題遊び」が最も多く 77 件中 14 件(18.1%),次いで「自
支援」を支援の柱としていることが明らかになった。一
由遊び」13 件(16.9%)であった。調査Ⅱでは,「課題
方,「見え方支援(視覚活用)」 の実施は,両調査とも1
遊び」と「園外保育」が最も多く 60 件中 12 件(20.0%)
割程度にとどまっており,盲学校のセンター的機能の発
ずつ,次いで「自由遊び」9件(15.0%)であった。
揮の在り方について,課題が示されたと言える。
自由記述の内容を分析したところ,具体的な支援内容
は,「活動参加のための働きかけ」,「安全確保のための
配慮」,「教材・教具等の工夫」 の3項目に整理・分類さ
(N=20 回答件数)
れた。このうち,「活動参加のための働きかけ」が,調
4種類
2園
査Ⅰでは 53 件(68.8%),調査Ⅱでは 60 件中 37 件(61.7%)
3種類
2園
と,両調査に共通して最も多く,すべての活動場面にお
1種類
12園
ける支援内容として挙げられていた。「安全確保のため
の配慮」は,「自由遊び」や「課題遊び(造形,運動等)
2種類 4園
」,
「園外保育」で挙げられていた。「教材・教具等の工夫」
は,件数は多くはなかったものの,
「朝の会・帰りの会(先
生の話を聞く場)」,「集団活動(行事)」の他,「課題遊
図7 支援内容の選択数(調査Ⅰ)
び」,「食事・おやつ」の場面でも挙げられていた。
これらのことから,視覚面に気がかりがある乳幼児や
(N=19 回答件数)
視覚障害乳幼児に対する,園の具体的な支援内容は,ス
ムーズな活動参加のための場に応じた働きかけが主であ
4種類
4園
ることが明らかになった。さらに,「自由遊び」や「園
1種類
8園
3種類
1園
外保育」等,大きな動きや日常とは異なる動きが予想さ
れる場面では,
「安全確保のための配慮」がなされていた。
また,「朝の会・帰りの会」 や 「集団活動」 等,決まっ
2種類
6園
た活動がある場面では,件数としては多くはないものの,
「教材・教具等の工夫」も行われていることが示された。
図8 支援内容の選択数(調査Ⅱ)
表 10 具体的な支援を行っている活動場面と支援内容
調査Ⅰ
項 目
朝の会・帰りの会(先生の話を聞く場)
自由遊び
課題遊び(造形,運動等)
集団活動(行事)
食事・おやつ
身辺処理
園外保育
その他
合 計
調査Ⅱ
具体的な支援内容と件数(%)
活動参加のため 安全確保のため 教 材・ 教 具 等 の
の配慮
工夫
件数 (%) 件数 (%) の働きかけ
調査Ⅰ 調査Ⅱ 調査Ⅰ 調査Ⅱ 調査Ⅰ 調査Ⅱ
10 (13.0)
8 (13.3)
13 (16.9)
9 (15.0)
14 (18.1) 12 (20.0)
11 (14.3) 8 (13.3)
8 (10.4) 4 (6.7)
9 (11.7) 4 (6.7)
11 (14.3) 12 (20.0)
1 (1.3) 3 (5.0)
8
8
9
8
5
9
6
0
5
4
7
6
4
4
7
0
0
5
2
0
0
0
5
1
0
5
5
1
0
0
5
2
2
0
3
3
3
0
0
0
3
0
0
1
0
0
0
1
77(100.0) 60(100.0)53(68.8)37(61.7)13(16.9)18(30.0)11(14.3) 5(8.3)
− 119 −
Akita University
秋田大学教育文化学部研究紀要 教育科学部門 第 70 集
(4)関係機関との連携の現状について
② 連携先と連携の内容
① 関係機関との連携の有無
視覚面に気がかりがある乳幼児(調査Ⅰ),視覚障害
表 11 は,視覚面に気がかりがある乳幼児(調査Ⅰ),
乳幼児(調査Ⅱ)の支援にあたって,園が連携している
視覚障害乳幼児の(調査Ⅱ)の支援にあたっての,園と
関係機関を複数回答で選択してもらい,さらに,その連
関係機関との連携の有無を示したものである。
携内容を自由記述で回答してもらった。表 12 は,それ
その結果,調査Ⅰでは,19 園中 10 園(52.6%)は連
らをまとめて示したものである。
携があったが,調査Ⅱでは,連携がある園は 23 園中6
その結果,連携先としては,調査Ⅰでは「小学校」が
園(26.1%)であった。
最も多く 26 件中 6 件(23.1%),次いで「保健センター」
このことから,視覚障害乳幼児の在籍園は,視覚面の
が5件(19.2%),教育委員会が4件(15.4%)であった。
気がかりがある乳幼児の在籍園に比べて,関係機関と連
「盲学校」は0件であった。調査Ⅱでは「盲学校」が 15
携をとっている割合が低いことが明らかになった。視覚
件中5件と最も多く,次いで「教育委員会」が3件であっ
障害乳幼児は関係機関とのつながりが既にできているた
た。
め,園は関係機関と直接の連携をとらない傾向があると
自由記述の内容を分析したところ,連携内容は,「相
考えられる。
談」,「情報提供」,「情報交換」,「情報提供依頼」 の4項
しかし,視覚障害児の場合,1次的要因(生理・解剖
目に整理・分類された。両調査共に,
「相談」が最も多く,
的要因)と2次的要因(環境・学習的要因)の関数とし
調査Ⅰでは 26 件中 12 件(46.2%),調査Ⅱでは 15 件中
て,高い比率で発達遅滞が発生すること,環境・援助・
6件であった。次いで,「情報提供」,「情報交換」,「情
指導等の適切性がその後の発達を規定していることが指
報提供依頼」の順であった。
摘されている(五十嵐,2010)。よって,家庭や園生活
これらのことから,連携内容としては「相談」や 「情
における大人のかかわり方が視覚障害児の発達に影響を
報提供」,「情報交換」 であること,就学にかかわる「小
及ぼすという認識を,保護者を含めた関係者が共有する
学校」や「教育委員会」が主たる連携先であることは,
ことは,非常に重要だと言える。そのための,センター
両調査に共通していることが示された。一方,「盲学校」
的機能の発揮の仕方の検討も重要課題である。
が連携先であるか否かは,調査によって異なっており,
視覚障害乳幼児の在籍園では,連携先として,「盲学校」
表 11 連携の有無
項目
が最も多く,「視覚面の気がかりがある乳幼児」の在籍
調査Ⅰ
件数
調査Ⅱ
(%)
件数
園では,「盲学校」との連携は挙げられなかった。「気が
(%)
連携有
10 (52.6)
6 (26.1)
連携無
9 (47.4)
17 (73.9)
合計
(%)
19 (100.0)
23 (100.0)
かり」の段階では,盲学校は園の直接の連携先とはなり
にくいことが,明らかになった。 表 12 連携している関係機関と連携内容
調査Ⅰ
項 目
件数
調査Ⅱ
(%) 件数
連携内容と件数
相談
情報提供
情報交換
情報提供依頼
調査Ⅰ 調査Ⅱ 調査Ⅰ 調査Ⅱ 調査Ⅰ 調査Ⅱ 調査Ⅰ 調査Ⅱ
眼科
1
(3.9)
0
1
0
0
0
0
0
0
0
保健センター
5 (19.2)
1
1
0
0
0
2
1
2
0
医療療育センター
2
(7.7)
1
2
0
0
1
0
0
0
0
福祉施設
3 (11.5)
1
2
0
0
0
1
1
0
0
盲学校
0
(0)
5
0
3
0
0
0
2
0
0
地域の特別支援学校
3 (11.5)
1
2
1
1
0
0
0
0
0
小学校
6 (23.1)
2
2
0
3
2
1
0
0
0
教育委員会
4 (15.4)
3
1
1
3
2
0
0
0
0
1
1
1
0
0
0
0
0
その他
合計(%)
(7.7)
1
26 (100.0)
2
15
12(46.2)
6
− 120 −
8(30.7)
5
4(15.4)
4
2(7.7)
0
Akita University
幼稚園・保育所における視覚面に気がかりがある乳幼児および視覚障害乳幼児の支援に関する現状と課題
(5)今後の支援の在り方について
Ⅱでは 46 件中 10 件(21.7%)であった。調査Ⅰでは,
① 早期支援の充実のために必要な事柄
次いで,「保健センター」が 55 件(18,9%),「地域の
視覚面に気がかりがある乳幼児(調査Ⅰ),視覚障害
特別支援学校」が 35 件(12.0%)であった。調査Ⅱでは,
乳幼児(調査Ⅱ)に対する早期支援を充実させるために,
「保健センター」7件(15.2%)
「眼科」が8件(17.47%),
今後必要と考える取組について,自由記述で回答しても
であった。「盲学校」を選択した園は,調査Ⅰでは 26 件
らった。それを 6 つの項目に整理・分類し,頻度をまと
(8.9%),調査Ⅱでは6件(13.1%)と少数であった。
めものが表 13 である。
その結果,両調査に共通して,「関係機関同士の連携」
③ 今後,園において実施したい支援内容
が第一に挙げられ,調査Ⅰでは 66 件中 24 件(36.4%),
表 15 は,視覚面に気がかりがある乳幼児(調査Ⅰ),
調査Ⅱでは 16 件中 7 件であった。次いで,「園の教職員
視覚障害乳幼児(調査Ⅱ)に対して,今後,園が実施し
の視覚障害に関する研修」 が多く,調査Ⅰでは 17 件
たいと考えている支援内容を示したものである。回答は,
(25.8%),調査Ⅱでは6件挙げられた。
複数回答である。
表 13 早期支援を充実させるために必要と考える取組
調査Ⅰ
項 目
調査Ⅱ
件数 (%)
件数
関係機関同士の連携
24 (36.4)
7
園の教職員の視覚障害に関する研修
17 (25.8)
6
乳幼児健診の充実
13 (19.7)
1
保護者の理解啓発
5 (7.4)
0
園への職員の配置
3 (4.6)
2
財政による支援
3 (4.6)
0
その他
1 (1.5)
0
66(100.0)
16
合 計
その結果,両調査に共通して,「発達全般を促す支援」
が最も多く,調査Ⅰでは 229 件中 60 件(26.2%),調査
Ⅱでは 36 件中 11 件(30.6%)であった。次いで多かっ
た回答が 「育児相談」,「関係機関の紹介」であることも
両調査に共通していた。また,最も回答数が少なかった
のは,「見え方支援(視覚活用)」で,調査Ⅰでは 229 件
中 28 件(12.2%),調査Ⅱでは 36 件中2件(5.5%)であっ
た。
表 15 今後行っていきたい支援内容
調査Ⅰ
項 目
② 今後の連携先
表 14 は,視覚面に気がかりがある乳幼児(調査Ⅰ),
視覚障害乳幼児(調査Ⅱ)に対する早期支援を充実させ
るために,園が今後連携先として重視したいと考えてい
る関係機関を示したものである。回答は,複数回答であ
調査Ⅱ
件数 (%)
件数 (%)
発達全般を促す支援
60 (26.2)
見え方支援(視覚活用)
28 (12.2)
2
育児相談
51 (22.3)
9 (25.0)
就学相談
39 (17.0)
6 (16.7)
関係機関の紹介
49 (21.4)
8 (22.2)
2
その他
(0.9)
229 (100.0)
合 計
る。
11 (30.6)
0
(5.5)
(0)
36 (100.0)
その結果,両調査に共通して,「医療療育センター」
が最も多く,調査Ⅰでは 291 件中 26 件(21.3%),調査
図 9 は,調査Ⅰで園が選択した支援内容の数をまとめ
たものである。
その結果,「2∼3種類」が最も多く,79 園中 43 園
表 14 今後の連携先として重視する関係機関
項 目
調査Ⅰ
件数 (%)
(54.4%),次いで「4∼5種類」が 23 園(29.1%)であっ
調査Ⅱ
件数 (%)
眼科
34 (11.7)
8 (17.4)
保健センター
55 (18.9)
7 (15.2)
医療療育センター
62 (21.3)
10 (21.7)
福祉施設
23
(7.9)
4
盲学校
26
(8.9)
6 (13.1)
地域の特別支援学校
35 (12.0)
2
小学校
31 (10.7)
6 (13.1)
教育委員会
22
(7.6)
3
(6.5)
3
(1.0)
0
(0)
その他
合 計
291 (100.0)
た。「1種類」は最も少なく,13 園(16.5%)であった。
(N=79 回答件数)
(8.7)
4∼5種類
29%
1種類
17%
(4.3)
46 (100.0)
2∼3種類
54%
図9 今後行っていきたい支援内容の選択数(調査Ⅰ)
− 121 −
Akita University
秋田大学教育文化学部研究紀要 教育科学部門 第 70 集
図 10 は,調査Ⅱで園が選択した支援内容の数をまと
との連携」,「職員間の連携」,「施設・設備面の整備」の
めたものである。
6つの項目に整理・分類された。頻度を見ると,両調査
その結果,「2種類」が最も多く,14 園中5園,「3
に共通して 「専門的知識の獲得」 が最も多く挙げられて
種類」∼ 「5種類」 の支援内容を選択した園も合計6園
おり,調査Ⅰでは 74 件中 24 件(32.4%),調査Ⅱでは
あった。一方,「1種類」の園は3園のみであった。
13 件中5件であった。「保護者との連携」 が2番目の課
題であることも共通しており,調査Ⅰでは 74 件中 17 件
(23.0%),調査Ⅱでは 13 件中3件であった。
(N=14 回答件数)
5種類
1園
⑤ 盲学校に期待する役割
1種類
3園
表 17 は,早期支援の拡充のために,園が盲学校に期
4種類
3園
待する役割を示したものである。回答は複数回答で3つ
まで選択できることとした。
その結果,調査Ⅰでは,「保護者に対する育児相談・
2種類
5園
3種類
2園
就学相談の実施」が最も多く,221 件中 55 件(24.9%)
図 10 今後実施したい支援内容の選択数(調査Ⅱ)
であった。次いで,「視覚障害乳幼児に対する定期的な
個別指導」 が 43 件(19.5%),「幼稚園・保育所等への
支援」 が 41 件(18.6%)であった。調査Ⅱでは,「視覚
④ 支援を円滑に実施していく上での課題
障害乳幼児に対する定期的な個別指導」 が 39 件中 10 件
今後の支援を円滑に実施していく上で,園において課
(25.6%)と最も多く,次いで,「視覚面に気がかりがあ
題となることについて,自由記述で回答してもらった結
る乳幼児に対するアセスメント」 9件(23.1%),「保護
果をまとめたものが,表 16 である。
者に対する育児・就学相談の実施」が8件(20.5%)であっ
自由記述の回答を分析したところ,「専門的知識の獲
た。
得」,「保護者との連携」,「担当職員の配置」,「関係機関
①∼⑤から,早期支援の拡充にあたって,園では,視
覚面に気がかりがある乳幼児,視覚障害乳幼児に共通す
表 16 早期支援を円滑に実施していく上での課題
調査Ⅰ
項 目
件数 (%)
件数
専門的知識の獲得
24 (32.4)
5
保護者との連携 17 (23.0)
3
担当職員の配置
15 (20.3)
0
関係機関との連携
11 (14.9)
2
職員間の連携
0
(0)
2
施設・設備面の整備
7 (9.4)
1
74(100.0)
13
合 計
る,次の3つの課題意識をもっていることが明らかに
調査Ⅱ
なった。
ア 関係機関同士の連携
園は,県内の早期支援を充実させるために,「関係機
関同士の連携」が必要だと考えており,具体的な連携先
としては,医療,療育,母子保健,就学に関する幅広い
関係機関を重視していた。現状では,視覚障害乳幼児の
支援にあたって,「保護者を通じた連携」が中心となっ
ていたが,早期支援の充実のためには,関係機関同士の
連携が重要だと考えている園が多いことが示唆された。
表 17 盲学校に期待する役割
調査Ⅰ
項 目
件数
調査Ⅱ
(%)
件数
(%)
視覚面に気がかりがある乳幼児に対するアセスメント
29
(13.1)
9
(23.1)
視覚障害乳幼児に対する定期的な個別指導
43
(19.5)
10
(25.6)
訪問支援の実施 27
(12.2)
6
(15.4)
保護者に対する育児相談・就学相談の実施
55
(24.9)
8
(20.5)
幼稚園・保育所等への支援
41
(18.6)
5
(12.8)
視覚障害・教育に関する情報提供
24
(10.8)
1
(2.6)
0
(0)
その他
合 計
− 122 −
2
(0.9)
221
(100.0)
39 (100.0)
Akita University
幼稚園・保育所における視覚面に気がかりがある乳幼児および視覚障害乳幼児の支援に関する現状と課題
このような思いをもちながら,日々の教育・保育にあ
ての支援内容の充実」 といった課題意識をもっているこ
たっている園に対して,できるだけ気軽に連携を実現で
とも明らかになった。これらは盲学校のセンター的機能
きるような体制作りが求められる。また,「気がかり」
に対する期待の表れとして捉えることができる。
段階では,盲学校は園の連携先になりにくいことも示さ
これらの現状と課題を踏まえて,盲学校は,どのよう
れた。明確な診断等がない状況では当然なことと言える
な姿勢で幼稚園・保育所に対してセンター的機能を提供
が,中には,教育的対応の対象となる乳幼児が存在して
し,連携していくべきであろうか。乳幼児が1日の大半
いる可能性もある。そのようなケースに対しては,盲学
を過ごす園に対しては,今後,
「見え方支援(視覚活用)」
校としても必要な支援を提供できるよう,園が連携先と
の重要性を,視覚面の発達に加えて全体発達の観点から
して重視している機関(「医療療育センター」,「保健セ
伝えていくことが最大の役割と考える。
ンター」等)との横の連携を強化する必要があるだろう。
その際に重要なことは,「見え方」に配慮した環境や
イ 園としての支援内容の充実
教材・教具は,他の乳幼児にとっても分かりやすいもの
園は,視覚障害乳幼児,視覚面に気がかりがある乳幼
であり,教育・保育内容の全体的な向上につながるもの
児に対する支援内容を,現状よりも増やしたいと考えて
であるという認識を,盲学校の職員自身がもっておく必
いた。具体的には,園にもともと備わっている「発達全
要がある。特別な一人の子どものためではなく,すべて
般を促す支援」や 「育児相談」 の機能に,「関係機関の
の子どものためにという「ユニバーサル・デザイン」の
紹介」を加えた複数の支援を実施したいという考えが主
視点で,視覚面に配慮した教育・保育の提案ができるよ
流であった。
う,意識を変えていく必要がある(高知県教育委員会,
一方,今後の支援内容としての「見え方支援(視覚活
2013)。
用)」の回答数は少なかった。視覚面に気がかりがある
乳幼児,視覚障害乳幼児にとって,「見え方支援(視覚
引用及び参考文献
活用)」は,視覚面の発達や全体的な発達を促す重要な
新井千賀子(2002):医療機関との連携による早期教育相談と
個に応じた支援.平成 14 年度視覚障害教育研究部一般研
支援内容である。日々の園生活においても,何らかの「見
究 研究成果報告書,独立行政法人国立特殊教育総合研究所
え方支援(視覚活用)」がなされるよう,盲学校のセンター
的機能の在り方を検討する必要がある。
視覚障害教育研究部,67-77.
五十嵐信敬(2010)
:視覚障害幼児の発達と指導 5版.コレー
ウ 盲学校の役割に対する期待
ル社.
園における早期支援を円滑実施する上での主な課題と
猪平眞理(2010):視覚障害乳幼児の盲学校(視覚特別支援学
して,教職員の「専門的知識の獲得」 と「保護者との連
校等)における早期支援の現状と課題 - 医療とのかかわり
携」が挙げられていた。一方,盲学校の支援内容(役割)
としては,当該の乳幼児に対する「定期的な個別指導」
を中心に -.眼科臨床紀要,3(2),182-187. 猪平眞理 (2012):視覚障害乳幼児の超早期支援 - 全国視覚特別
支援学校等(盲学校)における0∼2歳児の支援の現状 -.
や「アセスメント」,保護者に対する「育児・就学相談」,
園に対する 「幼稚園・保育所等への支援」 への期待度が
高かった。これは,前述の園における課題を解決するた
発達障害研究,34(4),328-333.
香川邦生・猪平眞理・大内進・牟田口辰巳(2010):四訂版 視覚障害教育に携わる方のために.慶應義塾大学出版会株
めの一つの手段として,盲学校の支援内容に期待を寄せ
ていることの表れだと考えられる。センター的機能に対
して,園の潜在的なニーズがあることを確認することが
式会社,35-36.
厚生労働省(2008):保育所保育指針解説書.フレーベル館.
高知県教育委員会(2013):すべての子どもが「分かる」「でき
る」授業づくりガイドブック∼ユニバーサルデザインに基
できた。
づく,発達障害の子どもだけでなく,すべての子どもにあ
る と 有 効 な 支 援 ∼.http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/
Ⅳ 総合的考察
311001/guide.html 本調査から,秋田県内の幼稚園・保育所には,数は多
小林倫代(2002):通級指導教室における早期からの教育相談.
平成 11 年度∼平成 13 年度科学研究費補助金研究成果報告
書,独立行政法人国立特殊教育総合研究所聴覚・言語障害
くないものの,視覚面に気がかりがある乳幼児および視
覚障害乳幼児が在籍していることが明らかになった。そ
れに対して,園では,特別支援教育に関する基盤が十分
に整っているとは言えない状況の中で,園のもつ基本的
教育研究部,1-7.
文部科学省(2008):幼稚園教育要領解説.フレーベル館.
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2013):平成 24 年
度特別支援教育体制整備状況調査結果.http://www.mext.
な教育・保育機能を支援の柱として,日々の教育・保育
go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1334953.htm
に努めていることが示された。また,早期支援拡充にあ
中村素子・大城英名(2014):視覚障害乳幼児の早期支援にお
たって,園としては,「関係機関同士の連携」,「園とし
ける現状と課題∼秋田県内の保健機関を対象にした実態調
− 123 −
Akita University
秋田大学教育文化学部研究紀要 教育科学部門 第 70 集
査から∼.秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要,36,
特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議(2009):特
69-80.
別支援教育の更なる充実に向けて∼早期からの教育支援の
丹羽弘子・渡邉健治(2001):視覚障害乳幼児の早期教育相談
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