自由公募セッションⅡ「地方自治体におけるガバナンス」 「自治体 PRM Policy Relationship Management」による ポータブルガバナンス —栃木県塩谷町での実施事例より— 岩田崇 IWATA TAKASHI / 株式会社ハンマーバード 代表 抄録:自治体PRMは、古色蒼然とした公共経営分野に「コミュニケーション革命」をもたらす、特許 に基づく新しい自治、地域経営の手法である。広報公聴、ワークショップ、熟議や討論型世論調査を はじめとする既存の方法では難しい、共通の情報に基づく、大人数の継続的な政策意思形成への参加 を可能にする。最初のケースは栃木県塩谷町であり、人口減少に直面し、2015年4月現在、3.11由来 の指定廃棄物の最終処分場候補地となっている町である。 準備をほぼ終えた現段階で自治体PRMの2つのポテンシャルを確信できつつある 1-自治体PRMには、行政の広報・公聴、及び地方議会の機能不全を補うポテンシャルがある 2-自治体PRMには、既存のメディアとは異なる立ち位置から、国の政策の不備を明らかにし、不備を 改善するコミュニケーションを実現するポテンシャルがある。 この2つのポテンシャルは、ポータブルガバナンス(携帯可能な共治・協治)に不可欠なものであり、 自治体 PRM は、次世代の地方自治のコミュニケーションの要となると考えられる。 キーワード:公共コミュニケーション, 広報・公聴、合意形成、地方自治, 地域経営, 意思形成, 地方創生、ポータブルガバナンス、指定廃棄物、オープンデータ 1.はじめに 自治体 PRM は Policy Relationship Management の 頭文字である。自治体の政策課題についての情報を集 め、設問として編集し、住民及び議会議員に提示する ことで、住民同士、住民と議員のマッチングを行い、 事実に基づいた利用者個々人の見解を蓄積しつつ、見 解を可視化するコミュニケーションを継続的に行うこ とで、自治体単位で政策課題の対応について意思形成、 合意形成を行う民主主義の特許手法である。(特許番 号 5428691 号) 団体自治から住民自治への移行が社会環境の変化か ら各地に迫られる中、住民同士、住民と議員(政治 家)、住民と自治体が向き合うことができるコミュニ ケーション手段は旧態依然である。 この閉塞状況を解消するのが自治体 PRM である。 栃木県塩谷町の構造的な人口減少による諸問題の解 消を目的に『塩谷町民全員会議』として導入された自 治体PRMは、2014年7月末、町が環境省によって、放射 性物質を含む指定廃棄物の最終処分場候補地となった ことで、町の問題だけなく、国の政策と向き合うこと にもなった。 『塩谷町民全員会議』は、関係各位との非公式なも のも含む折衝の中で、4月中の稼働に向けて準備を進 めているが、これまでの取り組みから明らかになった こと、確信できつつあることを含め、自治体PRMの現 在進行形と展望を塩谷町の事例から報告する。 2.自治体PRMとは (1)日本各地で起きていること 地域活性化、地方創生という言葉が繰り返されて久 しいが、日本各地で起きていることは、次世代を担う 若者層への戦略的な投資、支援が行われないことであ る。大都市へ人口が流出することで、地方各地で人口 の社会減が起こり、地域の自律的な競争力の低下が加 速している状況である。 各地の自治体は、10 代-20 代への支援を行い、地域 から人口が流出しない、比喩としてのダムを構築する 施策を行うか、一時的に都市に流出しても地域に帰り やすくする繋がりを構築することが求められる。しか し、こうした議題が議論されることは極めて少ない。 端的な例として、地方によっては大学進学率が低く 地域の担い手の育成を地元でできない状況に陥ってい る。 (2)自分事から遠い地域経営 日本各地の地域の危機的な状況は、人口動態のデー タとしては、早期に把握されているが、それを問題と して考えるコミュニケーション機会がないために、放 置されている。たとえば、東北六県の18歳人口は減り 続けており、2019年には現状から1万人減って8万5000 人以下になると予想されているが、各県及び県下の自 治体が連携して対策を講じることができていない。 なぜ、このような事が起きるか?それは、予測され る危機的な状況がデータ止まりであり、解決すべき問 題としてニュース・トピックスなどの形で、パッケー ジにされないこと、また、パッケージ化されたとして も、地域の内外の住民に伝え、意思形成を行う方法 (メディア)がほとんどないためである。中学校、高 校の段階から、地域の問題を知り、生徒達が意思形成 を行い、行政、議会に提言するようなプログラムが欧 州では運営されているが、日本では未だに実現してい ない。 このような環境整備の遅れもあり、地域の問題と個々 人は年代を問わず遠いものとなっている。 (3)問題解決メディアとしての自治体 PRM PRM は、Policy Relationship Management の頭文字 である。政治家と国民の「考え」と関連する情報を政 策ごとに統合管理し、政治と国民との長期的な関係性 を構築、継続的な利用を促すことで国民/住民主権の 社会運営、住民中心の都市、街の経営を図る、行政と 民主主義の新手法である。 多くの政策、施策は、一度決まるとその後の変更、 調整が難しく、問題の顕在化によってようやく対処が 検討される。意識調査や世論調査によって、政策の評 価が行われているが、まず世論は、その基本的な性質 として、感情的な反応が回答として集約されることが 少なくない。また継続性がないため問題の背景となっ ている事実に変化が生じることで調査の結果と事実が 異なることもあり得る。意識調査も同様であり回答結 果から解決策が見いだされることは殆ど無い。 世論調査、意識調査によって見えるとされている民 意は常に移り変わるものであり、雲のようなものであ る。 そこにコミットメントはない。 そのため、調査の結果に基づき政策、施策が変更さ れても国民、住民が支持するとは限らず、却って問題 を生じさせることさえある。世論調査、意識調査は、 自治体経営に必要な戦略的な意思決定を担うコミュニ ケーションとは成り得ていないのが実情である。 PRM は、こうした現代社会におけるコミュニケーシ ョンの不備を改善すべく研究開発され、『政治家と主 権者がオンラインによる設問回答を通じて、互いのマ ッチングを把握できる仕組み』(政治家評価システム 特許 4528691 号)として特許を取得している。 PRM が実現するのは、 「ひとりひとり」との、 「継続的」かつ、 「履歴を蓄積」し、 「一方通行ではないサイクル」を備えた、 「実効性」 を備えたコミュニケーションである。 「ひとりひとり」とは、国民、住民ひとりひとりが政 策形成に参加できることである。「継続的」とは、参 加が一回限りではなく、継続し、続くということであ る。「履歴を蓄積」とは継続的に参加した結果が履歴 として残されるということである。 「一方通行ではないサイクル」とは、パブリックコメ ントのように、意見を集めながら必ずしも反映されな い状況ではなく、回答がどのように政策形成に反映さ れたかを参加者に知らせたり、新たな設問によって回 答参加者を PDCA サイクルの参加者にすることである。 「実効性ある」とは、政治家の参加である。政治家が 参加することで、政策そのものに影響を与えることが できる。 政治家が自身の意見を発信し、自身がどのような年代 や性別から支持されているかを確認できれば、有益な 情報であり参加動機となり得る。 従来、政治と国民、住民を結ぶ役割はマスコミと呼 ばれる新聞社、テレビ局などが担うとされてきたが、 マスコミは、新しいこと(NEWS)を伝えることを追求 してきたため、前述した機能を持つことをほとんど検 討していない。 自治体 PRM は、PRM を地方自治に応用したものであ る。基本プロセスは以下の図のようになる。 図 1:自治体 PRM の実施フロー まず、①の首長、行政のビジョンがあり、それに②自 治体 PRM が客観分析を行う。次に③行政組織との情報 連携を行い、分析結果からビジョンを精査する。 ①から③をもとに、④自治体 PRM が設問と参考情報の 開発を行う。⑤自治体の広報によって参加促進を行う。 ⑥回答者の無作為抽出を行い、回答を受け付ける。⑦ 全市民と議員からの回答を受け付ける。(この時、無 作為抽出の回答を参考に回答することもできる。) ⑧回答は一定の期間を設け、回答状況の中間報告を行 う。(回答参加者は、この報告から回答を変更するこ ともできる。)⑨回答期間終了を以って、回答結果を まとめ、新たな施策の方向性を確立したり、これまで 認識されていなかった課題を見出すことができる。 一連のプロセスのは専用ページ(ウェブサイト)やフ ェイスブックなどを通じて、進捗状況や共有すべき情 報が公開される。回答結果からは、利用者は、以下の ことが把握できる。 1-住民の考え (年代別、性別の回答分布状況、事務局の設定により 地域別の集計も可能) 2-議員の考え (年代別、性別の回答分布状況、事務局の設定により 政党別、会派別の集計も可能) 3-住民と議員の考えの一致状況 (議員の回答状況及び自分と同じ考えの議員、異なる 議員) また、未回答の議員に対して利用者は、「回答リクエ スト」を送ることができ、その集計データに基づき、 「回答リクエストランキング」を確認することができ る。 住民も議員も回答を何度でもやり直すことことができ るため、最終的に集計される回答は、熟考を重ねたも のとなる。 最初の回答時に、メールアドレスの登録を基本とする ため、事務局から回答を促すメールを配信することも 可能である。 これは、たとえるならば、地方議会の拡大オープン版 と言える。通信技術の世界には、非同期通信という技 術がある。電話は同期通信であり相手がリアルタイム で居ることが必要だが、メールやチャットのような通 信は、片方からの通信が後から読まれ返信されること で成立する。非同期型は、同期型よりも相手を拘束す る必要がないため柔軟な運用が可能である。つまり、 自治体 PRM は非同期型の拡大オープン型地方議会とし て位置づけることもできる。 3.塩谷町での自治体PRM 居住意向については、年代が上がるごと上がっている ことが明らかになっていた。(図 3)これには栃木県 下でも特に高い持ち家率約 90%が影響していると考え られた。また時系列のデータから全年代で、居住意向 の低下傾向も見られた。 (図 3) 図 3:塩谷町のコーホート分析 更に、町の住民へのヒアリングから長年にわたって下 図のようなコミュニケーションが行わえてきたことが 浮かび上がってきた。(図 4) (1)導入の経緯 2014 年 12 月現在の人口は 1 万 2279 人。高齢化率は 同年 11 月時点で 31.4%であり、人口動態としては、 2030 年近未来の日本の姿である。 高齢化と人口減少は、住民にも体感できる程であり、 問題視されて来ていたが、具体的な対策はほとんど行 われてこなかった。このような状況に町長は、町民か ら意見を集め解決策を探る取り組みをシンクタンク構 想として打ち出し、2013 年度に町内の約 50 の集落で 集会を開いた。しかし、参加者は高齢者が多く、人口 減少を問題として捉えつつも、感覚的な問題認識にと どまるため、具体策はほとんど見出されず、意見の多 くは、行政への要求、不満であり、シンクタンクとし て行き詰まりを見せていた。そうした状況に、塩谷町 でかつて行政評価を行ったコンサルタントによって自 治体 PRM が紹介され、「塩谷町民全員会議」が立ち上 げられる事となった。 各種統計による定量データ、ヒアリングなどによる 定性データから、塩谷町の町政が高齢者による高齢者 のための町政となっており、次世代を育成し、町が未 来に向けて存続するための取り組みがほぼ行われてい ない状況が見えてきた。 (2)塩谷町の状況 立ち上げの前段階で、町の状況を調査したところ、 人口減少とは、中学校卒業後の若年層の流出であるこ とが明らかになった。(図 2) 4.塩谷町民全員会議のデザイン 図 2:塩谷町のコーホート分析 図4:繰り返される無難な選択 塩谷町での自治体 PRM は『塩谷町民全員会議』と名 付け、スマートフォン、タブレット、PC での利用しや すさを考慮し、アプリではなく、ブラウザベースで利 用できるようにした。 画面設計は、シンプルであるが、いわゆるお役所のサ イトとは色使いやアイコン、書体などで一線を画すこ とを意識した。(図 5) 図 5:スマホ、タブレットでの画面イメージ また、紙での回答を受け付けることも想定している。 スタート時には、町内の各戸に書面で参加案内の配布 を行う。 配布にあたっては、専用の封筒を用意し中には参加案 内書、回答用紙を封入する。 ③回答に応じて設問が変化。参考情報を表示。 ④回答から、テーマに対するタイプを判定。 タイプ解説文を読み、自分の見解と異なると 思った場合は、回答をやり直すことができる。 ⑤回答動向をグラフでリアルタイム表示。 グラフは性別、世代別、無作為抽出回答者、 議会別に表示する。 加えて、議員情報を表示。 回答者と同じ回答の議員、異なる回答の議員、 未回答の議員を表示。回答した議員のコメン トも確認することができる。さらに、未回答 の議員には、(リクエスト)ボタンを設け、 回答者は議員に回答要請を送ることができる。 この結果を受けて、リクエストランキングが 表示される。 ⑥テーマに関連する情報を随時表示 回答後は、全体の回答の中で、自分のタイプ が何%くらいかを確認しつつ、追加された参 加情報や、議員の回答情報を確認できる。 運用面では、塩谷町在住の中学生に限定した回答を大 人に先行して行うことを検討している。 次世代を担う若年層が、町の問題をどう捉えるかを示 す機会はほとんどなかったため、この意義は大きい。 加えて保護者層をはじめ大人への口コミ効果を期待で きる。 図 7:『塩谷町民全員会議』スマホ版画面の遷移 (拡大図は付録に収録) 図 6:専用封筒と参加案内書 参加案内書には、ひとりひとりの ID と仮パスワード が印字してあり、参加登録画面への入力方法を説明し ている。 各画面には、下記のような機能を持たせている。(図 6) ①参加登録を行う。(対象は町の住民、職員、議員) ②回答テーマを選択 また、回答画面と連携する専用ページとして『塩谷町 民全員会議ニュース』と名付けたブログを開発した。 この『塩谷町民全員会議ニュース』では、町役場のペ ージにリンクを設けながら、塩谷町に関わるニュース や統計データ、他の自治体での事例などについてわか りやすく紹介してゆくことで、町の将来像について考 える材料を提供する。 車が必要不可欠であり、保護者にとって負担になって いること、競争相手が少なくいわゆる偏差値競争の面 からぬるま湯であること、そして栃木県北部一帯の傾 向として教育環境の選択肢が限られていること、これ らの情報から教育に対する潜在的な需要に行政、学校 が充分に応えられていない状況があり、また事実とし て、次世代を担う若年層に町のリソースを投入する施 策が行われていないことが明らかになった。 そこで、《次世代と塩谷町》と題して、町からの若 年層の人口流出に対して対策を講じるべきか?、講じ るならどのような施策が有効と考えるか?という設問 を用意した。設問の参考情報と合わせて形式や規模感 まで問いかけることで、二者択一式の設問で生じがち なミスリード、総論賛成各論反対をある程度予防する ことができる。(図9) 図9:次世代と塩谷町設問構造(案) 町議会議員、役場の職員、住民にも若年層が直面し ている状況は認識されていたが、情報をパッケージと してまとめ、町として住民に諮るという行動までには 到っていなかった。それは、一般的な議会の機能は、 上程される事案のチェックが主であり、事案そのもの を設定することは極めて稀であり、行政にとっても規 定業務の外にあることが背景にある。 しかし、自治体 PRM は、行政の既存業務の枠外にあ り、地方議会にとってもどちらかと言えば不得意な課 題解決につながる事案の検討を容易にする。 政治の本来の役割は、ルーティン・ワークで対応で きない発想の飛躍をリードすることであるが、自治体 PRM は、この飛躍を情報編集と住民と議員を繋ぐコミ ュニケーション面から強くサポートすることができる。 図8:塩谷町民全員会議ニュース画面 (上図は PC 版、下図はスマホ版) 5.設問のデザイン-1 町の戦略的意思形成 各種データ、ヒアリングから、塩谷町には図書館が ないこと、家と学校以外に自習するスペースがないこ と、夜の帰宅、塾の送り迎えに家族が運転する自家用 6.設問のデザイン-2 最終処分場問題に対して 2014 年 7 月末に環境省によって、塩谷町は、指定廃 棄物最終処分場候補地となった。町は町議会による反 対決議の他、候補地を含む一帯の保護条例を可決。住 民は反対運動を展開している。新聞、テレビなどのメ ディアでは、栃木県内に 1 万 4 千トンの指定廃棄物が 存在し、それを 1 箇所に集約することを推進する環境 省と、反対する塩谷町という単純な構造で報じられて いるが、実態はより複雑であり異なる。 環境省は、施設そのものの建築物としての安全性を 強調するのみであり、100 年以上に渡る運営管理につ いては白紙、何かあった場合の責任の所在も不明瞭で あ る 。 ( 100 年 前 は 、 現 在 の 政 府 は 存 在 し て い な い。)また、その機能から山地に作る必要のない施設 であるが、住民不安という理由、言い換えれば説明放 棄を前提に、塩谷町のアイデンティティとなっている 湧水地の近接地を候補地としている。つまり計画には 町の継続性が全く考慮されていない杜撰さ、乱暴さが ある。(図8) 図8:環境省による処分場イメージ 本来、こうした状況に必要なのは、経済的、科学的 根拠をもとに、丁寧に最善策を検討することであるが、 現在の日本にはそうしたコミュニケーション回路は存 在していない。 そこで、『塩谷町民全員会議』においては、《最終 処分場問題について》と題した設問を開発した。 設問は、選択肢の回答によって変化する。 回答の流れを一例として挙げる。 Q1 あなたは、環境省による栃木県内の指定廃棄物の最終 処分場の計画に問題があるとお考えですか? 1:あると考える 2:ないと考える (1を選択) ↓ Q2 指定廃棄物の最終処分場計画についてのどのような点 が、最も問題であるとあなたは考えますか? 1:これまでの進め方(選定過程) 市町村長会議 2:県や町の経済面の影響を考慮して いない情報提示、計画内容 3:閣議決定による特措法の方針決定 (各県内での処分の決定) 4:処分場の安全性 5:上記以外 (2を選択) ↓ Q3 県や町の経済面の影響を考慮していない 情報提示、計画内容の 問題点を解消するのは、どうすれば よいと、あなたは考えますか? 1:国、県、県下の市や町が共同で、経済面に関わる 情報収集、分析を行う。 2:環境省が、経済面も考慮した計画を再提示する。 (1を選択) ↓ Q4 経済面の影響に関わる情報は、どのように 検討されるべきと考えますか? 1:国、県、県下の市や町にとっての最善策づくりを 行う場を新たなに設ける 2:環境省が、あらためて市町村会議で議論を尽くす (1を選択) ↓ 考え方のタイプ判定 《 地 域 経 営 も 重 視 し て 国 、 県 と 共 同 で 最 善 策 を 考えたい!》 《あなたの最終処分場問題についての考え方》 ①国、県、町とともに、いままで俎上に上がっていな い地域経営面も含めて解決策をつくることで、問題解 決を図りたい。 上記のような流れで、ただ「反対」ではなく、これま での過程の何が問題で、どのようなアプローチで、事 態を問題解決に向けて前進させるという意思表示がで きる。 また、回答結果に納得ができない場合は、何度でも 回答をやり直すことができる。 各設問の全体像は、次に示す図のようになる。 回答によって、設問が遷移し、考え方をタイプ分けす る構造を概観いただけると思う。 図9:最終処分場問題について設問構造(案) 町が処分場候補地となった 2014 年 7 月からの約 10 ヶ 月を振り返り、国、県、町それぞれの立場から発信さ れた情報を総括し設問として編集している。 この設問に回答することで、10 パターンのアプローチ に判定され、その回答割合は、年代、性別などで、リ アルタイムにグラフとなり見える化される。 (判定パターンの解説は付録を参照) 既存のマスメディアによる報道では、二項対立に単 純化された情報提示にとどまり、問題解決に繋がるコ ミュニケーションを提供することはできない。自治体 PRM には、既存のメディアとは異なる立ち位置から、 施策の過程の不備を明らかにし、これを改善するコミ ュニケーションを実現できる。 また、多くの報道は、一過性であるが、『塩谷町民全 員会議』は、ひとつのテーマを 1 ヶ月はオープン状態 にし、地域ごとでの説明会や、従来からの広報誌の活 用によって、継続的に回答できる期間を提供する。そ のため、よく考えて意思表示を行う熟考を行うことが できる。さらにその回答結果をデータベーすに蓄積で きるので、自分の考えを継続的に把握することができ る。 この設問への回答結果が出ることで、何が起こるの か?一言でいえば、住民が納得した形で、二項対立の 閉塞状況を打開する種を見つけられる。 町役場にとっては、住民の考えを受けて、単純な反 対以外の選択肢を得られる可能性が高まり、説明を尽 くしたいと姿勢を示している環境省にとっては、住民 がどこに疑問点、不信感を持っているかを高い精度で 把握できるため、説明の要点を認識することができる。 町の住民にとっては、反対以外の声を上げにくい中 で、実はこう考えていたという声を示すことができ、 住民同士の相互の意見交流が進むと考えられる。 栃木県塩谷町に限らず、指定廃棄物最終処分場候補 地問題の根幹は、先に場所ありきであり、候補地の地 域経営の継続性、建設費、メンテナンスのコスト、指 定廃棄物をどのように処理することが最も安全性、経 済性なども鑑みて有効であるかという、通常の施設建 設であってしかるべき情報が一切示されないまま、安 全性のみを強調するコミュニケーションデザインの不 備にある。 本来ならば、候補地選定を行った環境省の責任にお いてコミュニケーションの不備は補い、指定廃棄物の 処理に万全を期すべきであるが、現実問題はメディア による報道を通じて、大臣、副大臣の町への訪問、町 の反対運動、県知事の発言などがパーツとして広く報 じられ、本来行われるべき検討、議論がないがしろに されている。 このような状態は、塩谷町だけなく、栃木県にとっ ても、環境省にとっても、また、日本全体にとっても 憂慮すべき状況と言える。 このような状況を改善する切っ掛けとして、『塩谷 町民全員会議』に参加する塩谷町町民約 1 万人による 回答参加と意思表示は有用である。 7.自治体PRMの可能性 (1)ポータブルガバナンスの要となる PRM 自治体 PRM は、行政の業務、議員の活動、マスメデ ィアそれぞれが持つ機能の隙間を、従来手法では不可 能であった、住民-住民、住民-政治家間のコミュニケ ーションで繋ぎ埋めることができる。 『塩谷町民全員会議』の今後の回答結果が、自治体 PRM のポテンシャルを証明していくが、オープンデー タの活用、マイナンバーとも連携することで自治体 PRM は、手元からの日常的な政策参加、すなわちポー タブルガバナンスを実現する要となると考えられる。 選挙での投票率の低下が近年懸念されているが、その 原因は、投票しても自分が政策形成に関わる実感をほ とんど持てない無力感にあると私は考える。 しかし、自治体 PRM を利用することで、、選挙期間で はない日常から、地域の課題を知り、意思表示を行い、 政治家を知ることできるようになれば、住民同士、住 民と政治家との間に心地よい緊張間が生じ、投票行動 をより実りあるものにできる。 また、自治体によっては、自治体 PRM の参加によっ て、図書館の新刊予約の優先権や、道の駅でのクーポ ン提供、施設利用の優待、公共交通の利用優待などの 参加インセンティブを提供することで、地域経営に関 心を持つ住民を形成することも考えられる。 地方創生が主要な政策課題として掲げられるなか、 各地方の課題は従来のコミュニケーションでは解消が 困難であることは見過ごされている、地域経営を担う 各自治体は、広報・公聴などの伝統的な道具も大切に つかいながら、新しい道具(メディア)も積極に使う ことが求められている。 既存の手法と自治体 PRM の比較は下図で確認できる。 自治体 PRM の優位性は高いが、万能ではない。 さまざまな手法を組み合わせることで、相乗効果を期 待することができる。(図 10) (2)自治体 PRM が効果を発揮する政策課題 自治体 PRM は、中心市街地活性化、インフラ更新、 老朽化施設の統廃合、教育制度、子育て環境など、正 確な情報に基づく住民と議員の意思表示とコミットメ ントが求めらる地域の諸課題に応えることができる。 また、全住民を対象とせずに、高校生、若年層、子育 て世帯、単身者といった形で回答対象者を限定するこ とで、特化した層の声を集め、それを全住民に示し事 もできる。 図 10:自治体 PRM と既存手法の比較 たとえば、前述したように、東北 6 県では、18 歳人口 の減少が続き、2019 年には現状より約 1 万人減少し 8 万 5 千人になることが人口動態予測から明らかだが、 若年層の減少が地域経営に及ぼす影響はほとんど政策 課題となっておらず、政策課題となっても県単位で政 策形成を継続的に行う仕組みがないためほとんど手を 打つことができていない。 もしも、東北 6 県のいづれかの県ひとつでも、自治 体 PRM を『県民全員会議』として稼働させ、中高生か が、地域課題を考え、近未来の地域の進む方向を県会 議員や上の世代に示せれば、中高生の進路意識だけで なく、県民全体が次世代を中心に地域経営を考える環 境ができるのではないかと考える。 自治体 PRM が各地で並行して稼働することで、中央 政府の政策と各地域の現場を繋ぐメディア/シンクタ ンクとして発展させることが展望できる。 《参考文献》 上山信一,2002『行政の経営改革-管理から経営へ』 (第一法規出版) 佐藤卓己,2008『輿論と世論―日本的民意の系譜学』 (新潮社) J・S・フィシュキン,2011(岩木貴子訳 曽根泰教監 修)『人々の声が響き合う時』(早川書房) 國分功一郎, 2013『来るべき民主主義 小平市都道 328 号線と近代政治哲学の諸問題 』(幻冬舎) <付録> 各画面のインターフェースの基本形は、 以下のようになる。 最終処分場問題の 10 アプローチ判定は下記のように 分けられる。 ①− ⑨のいづれにも当てはまらない場合は、⑩となり、 町民全員会議の事務局に意見を送ることができる。 キャラクターは町のゆるキャラ、ユリピーである。
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