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有機反応化学
教養学部
統合自然科学科
1
第2章 有機分子の構造
自然現象を主に有機分子で理解し、また新たな有機分子を創成する
H
N H
N
N
N
O
CH3
N
N
N
O
N
Mg
H N
N
O
O
N
COOCH3
O
O
O
O
O C20H39
O
DNA
O
P
リン脂質(細胞膜の主成分)
クロロフィル(葉緑体の活性部位)
生命体を構成する分子の骨格として、炭素は重要な役割を担っている。
N
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2.1 共有結合の古典論
2
古典論
原子の周囲で8個の電子が集まることで安定化
○オクテット則
○電子は2個で1対となり、それらが最も離れるように
原子の配置が決まる
(Valence Shell Electron Pair Repulsion: VSEPR)
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3
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反発する原子核どうしが互いに近くで
存在するには電子をペアで共有する
4
紙面から奥側
紙面から手前側
N
H
H
H
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電子の数が原子核の陽子の数と
合致しない場合
5
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6
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CH3+
CH3-
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7
例:ニトロメタン
~ 109˚
~ 120˚
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8
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共有結合半径とファンデルワールス半径
古典論では、これらの値は原子どうしのペアに固有の値であるとする
ファンデルワールス半径と共有結合半径
ファンデル
単結合の
原子
ワールス
共有結合
半径(nm)
半径(nm)
H
0.10
0.030
O
0.14
0.074
F
0.14
0.071
N
0.15
0.073
C
0.17
0.077
S
0.18
0.103
Cl
0.18
0.099
Br
0.20
0.114
I
0.22
0.133
ファンデルワールス半径
共有結合半径
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結合の安定性
9
結合をバネとして考える(分子力学法・分子力場計算)
cf. 単純なバネ(調和振動子)
エネルギー
1 kx2
2
k:バネ定数
x
バネの自然長
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10
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結合の安定性:エンタルピー変化量
反応熱による結合の安定性の評価
第1回
ΔH=-104 kcal/mol
Hの原子核はある平均の
距離を保ちつつ、
常にふらついている
α:反応進行度
(0≦α≦1)
反応進行度
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2.2 分子の量子論的描像
ボーアの原子モデル
1) 原子中の電子は、特定のエネルギーしかとることが出来ない(量子仮説)
2) エネルギーのやり取りは、特定のエネルギー間のみで起こる(振動数条件)
3) 原子中の電子は、定常状態では古典的に振舞う。
ド・ブロイのモデル
Niels H. D. Bohrs
(1885-1962)
ノーベル物理学賞, 1922
波長 l
2r n: 整数(1, 2, 3,・・・)
l
n
hc hcn
のみ許容
E

l 2r
半径 r
原子核
存在できる
存在できない
Louis de Broglie
(1892-1987)
原子核の周りで
ノーベル物理学賞, 1929
定常波
電子の動きは、原子核まわりにはりついた定常波(3次元!)として考える
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1次元の定常波(ギターの弦)
12
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補助資料
許容振動
禁止振動
n=1
n=2
腹
l  1l 2
n = 2.4
l  2l 2
n = 1.4
l  1.4l 2
節
l  2.4l 2
n=3
l  3l 2
ex) ド ブロイ波の場合
l
l
  A sin
2
l
r
x
原子核
存在できる
存在できない
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2次元の定常波(ドラム)
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n = 1(最もエネルギーが低い)
正面図
1
半径: r
側面図
+
動径節線(なし),方位節線(なし)
節を数える
n = 2 (二番目にエネルギーが低い)
-
+
-
+
-
-
動径接線(0本)
方位節線(1本)
動径節線(1本)
方位節線(なし)
動径方向
(r変化)
n = 3 (三番目にエネルギーが低い)
+
+ - +
- + + - +
+
動径節線(2本)
方位接線(なし)
-
+
動径接線(0本)
方位節線(2本)
方位方向
(q 変化)
13
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3次元の定常波(原子中の電子の軌道)
z
n=1
n=2
(最もエネルギーが低い)
(二番目にエネルギーが低い)
動径節:0
方位節:0
x
+e
動径節:1
方位節:0
動径節:0
方位節:1
y
p波
s波
s波
電子の確率密度
 ( x, y, z )
2
波動関数
節球面
節
 1s
腹
 2s
 ( x, y, z )
節平面
 2p
腹
節
1s
2s
2p
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原子の中の電子(原子軌道)の表し方
15
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3次元の定常波を、2次元の絵に描くことは出来ないので、様々な表記法によって表現される。
軌道の y 軸方向だけに注目した波動関数の形

y
一次元の波を表現するには
座標と位相の二次元が必要
xyまたはyz座標上の波動関数の形
x or z (Å)

 の値
 = 0.08の曲面
0.16
y (Å)
x
y
xy, yz座標上で、同じ値の を繋いだ等高線表示
紙面垂直方向に振幅の情報を表示
三つの軸を、x, y, zの座標軸で使って
いるので、振幅を書くための軸がない。
三次元座標上で、
特定の値の を繋いでできる曲面で表す
有機反応化学
Ψ:波動関数
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16
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原子核に捕捉された電子の振る舞いは、飛び飛びのエネルギーを
もった定常波として表される。定常波は波動関数で表される。
 は電子の位置を示すものだろうか?
電子の位置は定められないので、この解釈は成立しない。
(Heisenbergの不確定性原理)
ボルンは||2 を、ある座標に電子を見出す確率(確率密度)であると考えた。
x に電子を見出す確率を与える関数
1

x
| | 2
x
1
 : しいて言えば「確率振幅」
x
Px  
x  Δx
x
| |2dx
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原子中の電子の軌道
17
http://www.chemcomp.com/Journal_of_CCG/Articles/molorbs.htm
p 軌道には
三つの方向
の異なる軌
道、d 軌道に
は五つの方
向の異なる
軌道が存在
する。
それらのエネ
ルギーはす
べて同じであ
る。
多電子原子の軌道エネルギーの順番
E1s < E2s < E2p < E3s < E3p < E4s ~ E3d ・・・
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軌道に電子を配置するときの規則(1/2)
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18
エネルギーの低い軌道から順に
同じ軌道に電子は二個まで
(構成原理)
(パウリの排他律)

2
s
1
s
2p 2p 2p
x
y
水素
z
+e-
2
s
1
s
2p 2p 2p
x
y
z
H- イオン
+e-
2
s
1
s

2p 2p 2p
x
z
y
3個目は入らない
H2- イオン
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電子は自転している
19
古典的イメージにおける、電子の自転をスピンと呼ぶ。
スピンの向きは電子の公転方向対し右ねじの方向で表し、
公転と同じ向きに自転する電子をαスピン、逆をβスピンと呼ぶ。
核
核
電子
-
a b
e
e
-
電子
a スピン
軌道のエネルギーを横線で表す。
スピンの向きの異なる電子が軌道を
占めている様子を上下の矢印で表す。
b スピン
me
参考:電流と磁場との関係
磁気モーメント
e
-
電子は、小さな磁石として振舞う。
I
電子スピン
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軌道に電子を配置するときの規則(2/2)
20
フントの規則
エネルギーの等しい軌道に二個の電子が入る場合、
電子はスピンを平行に、それぞれ一個ずつ占有する。
px
py
pz
このような配置の時、電子間の反発がもっとも小さくなる
不安定な配置
,
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主な原子の電子配置は、下図のようになる
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21
E
2p
2s
1s
H
He
Li
Be
1s1
1s2
1s22s1
1s22s2
縦軸(エネルギーを表す)は任意
B
1s22s22p1
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ホウ素からネオンまでの2p 軌道への電子の配置
22
2p
B
C
N
1s22s22p1
1s22s22p2
1s22s22p3
O
F
Ne
2p
1s22s22p4
1s22s22p5
1s22s22p6
Neで2p 軌道がいっぱいになり、一つの周期が終わる。
Na以下は、3s 、3p 軌道に電子が配置される(同族の原子)
3d 軌道が関与すると、振る舞いが異なる
遷移金属
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定常波どうしが重なると
どうなるか?
補助資料
同じタイミング
タイミングがπだけずれている
23
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水素原子どうしを近づける
同位相の定常波どうし
逆位相の定常波どうし
中央部でゼロ(不連続)となる
24
有機反応化学
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25
統合自然科学科
同位相の定常波どうし
電子の
波動関数
電子の
存在確率| |2
電子が原子核の間をつなぎとめる
平衡位置(中央)に存在できる
エネルギー的に安定な波(Ψ+)
逆位相の定常波どうし
電子の
波動関数
電子の
存在確率| |2
電子は原子核の間をつなぎとめる
平衡位置(中央)に存在しにくい
エネルギー的に不安定な波(Ψ-)
26
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重ね合わせた後にできる安定な波
重ね合わせた後にできる不安定な波
(節)
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電子配置:いくつの波を共存させるのか
27
分子軌道の決定
電子を配置する
1.構成原理
2.パウリの排他律
3.フントの規則
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共有結合ができる条件:
電子を配置した際の合計のエネルギーが減少
28
共有結合が形成される
例:H2+
パターン1
パターン2
パターン3
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共有結合ができる条件:
電子を配置した際の合計のエネルギーが減少
共有結合が形成されないパターン
例:HeとHe
29
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量子論的描像での共有結合の考え方
30
①原子の電子軌道のエネルギー準位を書く ②分子軌道のエネルギー準位を書く
エネルギー
③分子軌道にあらためて電子を配置する
エネルギー
④結合をつくる前後で、全電子のエネルギーの
合計の増減を見定める
エネルギー
エネルギー
*電子は別にしておく
全電子のエネルギーが
小さくなる(安定化)
→結合形成
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宇宙空間に存在するH3+イオン
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木星からの発光線に水素分子では説明できないピークが存在 → H3+イオン
H3+イオンの生成モデル
Energy
H2
H2+
宇宙線
+ H2
(Nature 1989)
H2+ + e-
+ H
H3+
1s
2H
H
H
H
H
180
H
H
H
H
H
H
H
H -100
H
H3+イオンは直線構造ではなく正三角形構造!
H H
60
31
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本日の講義のまとめ
32
補助資料
定常波の性質
波は、空間や物体内のある部分での振動や変化が次々に隣りの部分に有限の速度で伝わり,
遠くまで及んでいく現象であり、波源が単純な振動をしている場合、波は三角関数で表され、
進行波となる。
t = 0 のときの波の変位は、振幅 A, 波長をとすると、
x
 ( x)  A sin 2

t 秒後の波の変位を考えると、t = 0 の波の座標 xvt における変位に等しいので、
 ( x, t )  A sin 2
x  vt

x 
 A sin 2   t 
v 
このとき、振動数

v

である。
定常波とは、時間的な変動が空間的に伝播していない波であり、
 (x, t )  A sin 2 (x / v  t )   (x, t )   (x) sin 2t
というように変位 x と時間 t とが分離できる。これは逆に進行する2つの進行波
の重ね合わせで導くことができる。
以下の図のように
プラス方向に進行する波
マイナス方向に進行する波
  ( x, t )  A sin 2 x   t 
  ( x, t )  A sin 2 x   t 
と各々あらわされ、Ψ+とΨ-とを重ね合わせると定常波Ψが得られる。
    ( x, t )   ( x, t )  2 A sin2 x  cos2 t 
 ( x, t )    ( x, t )    ( x, t )  ( xの関数)  (tの関数)
同位相の2つの定常波が重なる場合、波の振幅が増強する。
 total   ( x, t )   ( x, t )  2 A sin 2 x   cos2 t   2 A sin 2 x   cos2 t 
 4 A sin 2 x   cos2 t 
逆位相(位相がπだけずれた)の定常波が重なる場合、波は打ち消し合う。
 total   ( x, t )   ' ( x, t )  2 A sin 2 x   cos2 t   2 A sin 2 x   cos2 t   
 2 A sin 2 x   cos2 t   2 A sin 2 x   cos2 t 
0